第73話:恋する私たちは愛を確かめたい。
「えーっと、真っ直ぐ行って……」
手元に地図を表示しながら歩いていると、まるで歩きスマホみたいであまり良くないと私は気づきました。
そんなわけで私たちは宝の地図を手に入れたので、その足で宝箱を探すこととなった。これでレアも喜んでくれるかなー。
「そこ、左じゃないかしら?」
「ホントだな。ビターと同じく、おまえも地図読めないのか?」
「そんな事ないし! ただ、ちょっと気になってることがあってさ」
アレク、優しいから心配になって聞いてくる。実はただ私が気になっているだけというか、そろそろ聞いておきたいけど、別に聞くべきことではないかなと思ったり。
そんな思考をぐるぐる回転させていると、当然道も間違えるわけだよ。
「お前も変な思考してるな」
「お前も、ってなにさ。誰と似てるって思ってるの」
「レアネラ」
「……そっかー! えへへ」
私がレアに似てるかー、そっかー。
アレクはこの時、この子ちょろいなと思ったらしいけど、口が裂けても言わなかったみたいだ。
「で、気になっていることって何なのかしら?」
「え、ティアが聞いてくるの」
「ダメだったかしら?」
右手をほっぺたに添えて、あらあらまーと、まるで近所のお姉さんみたいなことをしてくる。いるなぁ、近所にこういうタイプ。決まって何考えてるかわからないけど、大人の魅力っていうの、そういうのを感じるからずるいと思ってしまう。
それにしたって、ティア本人が聞いてくるのは反則だった。だって、私が気になっていることって、ティアと熊野の関係性なんだもん。そんなちょっかいかけるみたいで、言いづらいじゃん。
「んー、当ててあげようか?」
「バレない自信ならあるよ!」
両手を腰に当てて、小さな胸を張る。どうだわかるまい。私の考えていることなど。
「あたしとくまちゃんのことよね?」
「……なんで分かったの」
嘘でしょ、私ポーカーフェイスとか自信あるつもりだったんだけど……。
顔をペタペタ触っても大して動いてなかったと思うし、い、いったいどんな魔術を……。
「みーんな聞いてくるのよね、あたしとくまちゃんのか・ん・け・い」
「まぁそんなことだろうと思ったよ」
「経験則かー」
私は白目になった。だってそんなの漠然と言っておけば、気にならないなんて言えるわけないし。
そもそも女の子二人旅って結構珍しいと思う。創作の世界では、他に人間がいないとか、たまたまであった2人と、ってパターンが多いだろう。でもそんなのリアルで聞いたことないし。あるとすれば、失恋旅行、とか? 傍から見てもティアってモテそうな見た目してるし、ありそう。
「別に隠してることじゃないから、聞いてあげるわよ」
「本当?」
「ホントよ。さ、何が聞きたい?」
聞きたいことは山ほどあるけど、結局この質問にたどり着くわけで。
ちょっと失礼だったら嫌なので、ちょっと口に手を添え、小声でティアの耳につぶやく。
「ティアって、熊野と付き合ってるの?」
聞き終わった後に、私の方を向いて、ニッコリ笑う。なにか失礼だったかな。
「付き合ってないわ。くまちゃんは私が一方的に好きなだけよ」
「好き?!」「ほー」
好きって、あの恋愛的な好きだよね。いやそれしかないってか、私もレアのこと好きなんだけど、まさか他にもそういう人が身近にいるとは。
実は今はじめて女の子が同性を好きって言っているところを見て、動揺している。
「ふふ、顔赤いわよ」
「そ、そんなこと……」
「はい鏡」
渡された手鏡を見る。私顔真っ赤じゃん。
「子供には刺激が強すぎたかしら」
「こ、子供じゃないし! ただ、その……」
ここから先は私の思いも口にしてしまいそうで、言葉を選んだ。だって今アレクがいるし。平気で口出す人じゃないってのは分かるけど、あんまり外に口外してもって、考えてもいるので、どうすればいいか分からない。とりあえず誤魔化すことにしよう。
「女の子同士って、恋愛難しくない?」
それは自分をも否定するような言葉。分かってる。こうでも言わなきゃ自分の思いがバレてしまうんだから。
ティアは質問の主である私を真っ直ぐに見つめて、なにかに気づいたように言葉を紡いだ。
「まぁ、そうね。……あたしもこんな思いするの初めてだから戸惑ってるのよ」
「そうなの?」
ティアはその言葉を肯定すると、自身の過去について答えてくれた。
元々ティアは1人の男性をそれはもう熱心に愛していたらしい。振り向いてもらえるようにいろんな事をした。過激になりすぎない程度にちょっと露出の高めの服で誘惑したり、下手だった料理を勉強して、ボロボロの手を隠してお弁当を作ってあげたり。
恋は人を変えるというが、ティアは最も典型的だったのかもしれない。彼に尽くして、彼のものになりたくて努力した。
でも結果は惨敗だった。
その人は既に付き合っている人がいて、結婚も考えているレベルらしい。
ティアは膝を落とした。あんなに尽くしたのに、こっぴどく振られて、もうどうでも良くなったと、その時は考えていたらしい。
傷心旅行、なんて大それたものではないけど、ティアはVRMMOに手を出した。周りの情景を見るだけで、心が癒やされていったという。それでも1人は寂しかったらしい。だから出会いを求めて大きな街にやってきたらしい。
探しているうちに、1人の少女を見かけた。灰色の瞳に茶色い髪色をしたセミロングの子。ティアはその子をひと目見た瞬間、何故か心が落ち着いたらしい。自分のあるべき場所はここなんだと、直感が告げているみたいだったと言っていた。
「あとはナンパして、つきまとって、一緒に行動しているだけよ」
「ティアの恋愛観ちょっと怖いんだけど」
「そう? あたしはこう思うの。縮こまっていちゃ、恋愛はできないって」
「うん、まぁ。確かにそうだけど」
私にも覚えがある。実際縮こまってたら、距離は近づかないし。だからって私のやり方は褒められたものじゃなかったけど。でも相手を好きだって思ったら、居ても立っても居られないとはこのことなんだろう。
「ツツジちゃんもそうなのでしょう?」
「うん……。え? いや、ちが」
「誤魔化さないで。好きなんでしょ、レアネラちゃんのこと」
「…………」
手鏡を渡された。やめてください、恥ずかしさで死んでしまいます。
「どうして分かったの?」
「分かるわよ。あたしもあなたも同じだと思ったのよ」
「……大人ってずるい」
「そういうものよ」
なんか、恥ずかしい。こうやって人から言われることなんてなかったけど、はっきり口に出されただけで、顔が赤くなってしまう。
「恋って迷惑よね、自分が自分じゃなくなっちゃうもの」
「うん、分かるかも。どこまでが自分か分からなくなっちゃう」
ゴエモン騒ぎだって、言い換えれば普段の私じゃそんな事やるなんて思ってもみなかった。でもあの時、レアとアザレアの間に、私が入り込めない何かが見えた時、狂ったように嫉妬した。表には出さなかったけど、とても、自分じゃなかったと思う。
「お前ら、2人で盛り上がってるが、俺もいるんだからな」
「アレクくん……いたの?」
「いたよ、まったく忘れられるなんて寂しいな」
「どうせアレクはこんな事経験したことないでしょ」
アレクのことだ。どうせ誰かを好きになったりとか、そういうことしてこなかったタイプなんだろう。
「言うつもりはなかったが、俺には妻がいるんだ」
「ふーん……は?!」
「結婚しているのにゲームしてるの?」
「悪かったな。あれでも嫁は放任主義らしくてな。浮気だけは絶対殺すとも言ってたが」
怖い嫁さんだこと。いや、他人事のように言ってるけど、私もアザレア以外に浮気されたら、襲いかかりかねない。
「だから2人の話を聞いてたら、昔のことを思い出してな」
「ふーん、どんなこと?」
「好きという気持ちに堂々としていろってな」
堂々としているって、そんな事言われても好きな思いは隠すものであって、そんなひけらかすようなことをしたら相手に迷惑なんじゃ。
「そんな事ないぞ。好きって言われて悪い気分にはならないだろ?」
「まぁ、人によるけど」
「そういうことだ。そしたら惚れられた方も伝わるだろうからな」
「そんなもん?」
「そういうもんだよ」
アレク、なんか遠い目をしちゃって。本当にいろんな事あったみたいな顔してるな。好きという気持ちに堂々としてろか、なんか男らしくて、ちょっと私にはできないかもしれない。でもいい言葉だ。
「これを気に2人で連絡しあったらどうだ? お互いの恋の成就のために」
「いいかも」
「そうね。よろしくね、ツツジちゃん」
「うん!」
好きという気持ちは難しい。それが同性だったらもっと怖いとも思ってる。でもそれが私を変えてくれるなら、心の底から好きだって思える相手がいるなら、私はもう少しこの気持ちに堂々とすることにしよう。
恋語りもおしまいです。次回はボス戦!
ノイヤー編は、ないです




