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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第4章 私とあの子で宝物を見つけるまで
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第72話:恋する私たちは白い粉を運びたくない。

 私は懐に隠した白い粉が入った袋をちらりと横目で見る。

 うん、今も穴が空いたり、なくしたりしている気配はない。


 街中を歩いているだけなのに、私の中で緊迫感がものすごい。腕が思うように動かないし、足もぎこちなく動いている。

 さっきから心臓の音がうるさい。この音が外に漏れて、憲兵にバレたら、と思うほどうるさい。鎮まれ。鎮まれと、心臓をノックするように胸を叩く。それでも身体のどこかではこの状況にワクワクしているのか、高鳴る感情が止まらない。


「楽しいね、アレク」

「お前、本気で言ってるのか?」

「だって楽しくない? 好きなんだよねー、ステルスアクションってやつ」

「俺はそれよりバカスカ倒したいけどな」


 ほら、アサシンを操作して巨悪を打ち砕くゲームとか。あれ好きなんだよね。アサシンブレードっていう小手から相手を突き刺すように出てくる剣とか、ロマンを駆り立てられる。今度アレクに作ってもらおうかな、話したらノッてくれそう。

 そういえばあれもVRゲームみたいな設定だったっけ。向こうはもうちょっとシリアスだけど、横になって専用の装置で歴史の世界にダイブするんだから大体変わらないでしょう。

 映画もあったけど、アクションすごかったなぁ。もう一度見たい……。


「しっ。憲兵よ」


 と、そんな事を考えていたら憲兵が前から歩いてくる。

 巡回とかそういうのだろうか。相方と話しながら歩いている姿は妙に間抜けに見えるが、相手は憲兵だ。できるだけ荒事だけは避けたい。


「ど、どうする?」

「えーっと……」


 こんな時にアサシンで培った隠れるすべを探すんだ。えーっと隠れ蓑はないし、そのまま通りすがれば最悪戦闘に。クエスト限定で手配レベルなんてのもあるみたいだし、ここでの戦闘は避けたい。とすれば……。


「あの人だかりに混ざろう。聞いているフリだけしよう」

「なるほどな。木を隠すなら林ってやつか」


 ティアも理解したようで、すぐに行動に移す。憲兵にバレないようこっそり接近し、魚屋さんで話を聞いている主婦たちに混ざる。私たちが奇抜な恰好なのは一旦置いておいてだ。


「それでどうなんすか、最近の治安」

「なんでもスクロースが庶民の間で出回ってるんだと。ったくあれを使いたいだなんて……」


 一歩一歩、私たちの後ろで憲兵たちが通り過ぎていく。正直話している内容なんて私の耳には入ってきてない。

 ただひたすら音を立てないように、つばを飲み込むことでさえ今は拒んでいる。それでも心臓の音だけは止まらない。もしこの音が周りの人に聞こえていたら。もしこの音で憲兵に怪しまれたら。しどろもどろになって誤魔化せる気がしない。

 そもそも私の心臓の音はレアのものなんだから、ふざけるな、と言いたいところでもある。今レアがいないからそれは置いておくとして。


 ちらりと後ろを見る。憲兵たちは私たちがいた方向に歩いていき、一安心。

 安堵の心が緊張をほぐしてくれる。針金みたいに固かった身体が、今は粘土のように柔らかい、気がしている。


「助かったわね」

「行こ。早くしないとまた来ちゃう」


 私たちは速歩きでその場を後にして、目的地である老婆の家へ歩みを進めていく。

 急がなければ。その逸る気持ちが注意力を散漫とさせる。気づかぬうちに目の前に歩行者の軍勢が道を阻んでいた。

 どうしよう、このまま通りたいのにこの連中が邪魔をしている。相手はNPCみたいだし、何も言われることはないだろう。接近し、手で失礼と言いながら縦に割いて、進行を試みる。

 が、それがイケなかった。


「んだてめぇ。どういう了見で俺様の前歩こうとしてるの?」

「ウケる~」


 後から知る話だが、このクエストには2つの妨害が存在する。1つは憲兵。捕まればクエスト失敗になる代物。そしてもう1つ。この目の前のヤンキーたちだ。

 ヤンキーたちはプレイヤーたちに目をつけると、喧嘩を仕掛けてくる。要するにPVPのようなもの。倒すのは簡単だが、そこに現れる憲兵が厄介で、プレイヤーたちが逃げ出しても、街中で喧嘩をしたということで追いかけてくるらしい。


 やばい。そう私の全身の神経が警告を鳴らしている。周囲を見ると、街中の人々がこそこそと噂話をしている。これじゃあ憲兵がやってくるのも時間の問題だ。

 どうする。ここで手を出せば間違いなくクエストの難易度は跳ね上がる。だからってこのヤンキーたちを振り切れるほど、私たち素早いわけじゃない。私だけならいい。だけどティアの能力値を私は知らない。だからやるとしてもそれを知ってから。でも間に合わない。


 目の前のヤンキーはいつの間にか手にしていたパイプで私たちに襲いかかる。私にとっては止まって見えるけど、当たれば痛いだろう。だから避ける。

 振り下ろされたパイプが私の居た場所を通り過ぎていき、カーンという地面にパイプをぶつけた音が街中に響き渡る。


「チッ! 避けんじゃねぇよ!」

「当たったら痛いでしょうが!」


 縦に横にジャンプしたりしゃがんだり。いろいろな方法で避ける。同時に私のスキルである《剣の舞》の効果が上がっていく。ちょくちょく《無中のカウンター》も発動しているけど、それは全部無視。当たったら絶対死ぬもん、この人。

 こうしている間にも憲兵たちは集まってくることだろう。なら、素手ならどうだろう。


「アレク、素手!」

「おっけい」


 《剣の舞》により高まった攻撃力は21%。これだけなら当たっても死にはしないでしょう。流れる水のようにパイプを避けきり、パイプを持っていた手を掴む。とっさのことで動けないヤンキーは力を入れようとする。でもその判断は遅いよ。掴んだ腕と力を入れた方向を利用して、ヤンキーの腕を引っ張る。すると顔もこっちにやってくるので、そこを膝蹴りで、吹き飛ばす!


「グアーッ!」


 勢いよく吹き飛んでいったヤンキーはそのまま地面に倒れ伏して、動かなくなった。大丈夫、死んでないよね?


「ひ、ひぃ! 憲兵さーん!」


 アレクの方も片付いたのだろう。2人の死体もどきを目にしたギャルが悲鳴を上げて、憲兵を呼ぶ。やっばい。

 アレクとティアに視線を重ねると、その場をダッシュで走り始める。

 アレクが敏捷力高いのは知ってたけど、ティアもなかなか速い。スピード系アタッカーなんだろうか。今度手合わせ願いたいところ。

 後ろから憲兵の待てー! という声が鳴り響く。これはどうやら本格的に見つかったみたいだ。だけど……。


「待てと言われて待つバカがどこにいるのさー!」

「いけないことやったのは俺達だけどな」

「あらやだ、イケナイコトだなんて」

「やめろやめろ。未成年もいるんだぞ」


 むー。私だってその意味ぐらい分かってますー。むしろレアと……。っとやめておこう。


「このまま老婆の家に突っ込むぞ。殿は俺がやる」

「マジで言ってる?!」

「どのみち追いつかれる。粉はお前が持ってるんだから、それを渡してクエストクリアだ!」

「力技だけど、仕方ないか!」


 キキーッとブレーキのようなものをかけながら、アレクはその場に残る。憲兵って言ってもそれほど強くないだろうし、大丈夫かな。アレクもそう簡単に倒されるわけ無い。

 こうやって1人を犠牲にしながら、私たちは老婆の家に入っていった。


「こ、こここ、粉……。白い粉は持ってきたかの?」

「うわ」


 思わず声が出てしまった。だってそうだよ。普通にこの反応はドン引きするって。

 とはいえこれはクエスト。NPCがどんなことになろうが私の知ったことではない。なので懐から白い粉を取り出して老婆に渡した。


「ありがとう、これでクッキーが作れるよ」

「ん?」


 老婆はそういうと、ボールの中に白い粉をドバっとぶちこむ。すると分量を図っているのか、その白い粉をひとつまみすると、練った生地にふりかけて再度混ぜる。え、どういうこと?


「なるほどねぇ」

「ティア、なんか分かったの?」

「憲兵の言ってたことも気になってたのよ、スクロースって」

「なにそれ」


 なにかそういうお薬の名前かと。


「スクロースは砂糖の主成分となっているものよ。学校で習わなかったかしら?」

「知らないよそんな座学」

「まぁそういうことよ。昔、砂糖は麻薬と同じぐらい中毒性があるからって理由で使用を禁じたこともあってね。これは知ってるでしょ?」

「確かそんなことを学校で聞いた気がする……」


 えー。じゃあ私たちが運んでたのって普通の砂糖なの? なんか、とても心配したのが損した気分だ。

 アレクも戻ってくると、タイミングを見計らったのか、老婆が机の引き出しから地図を取り出す。


「お礼じゃ。これを使いなさい」

《宝の地図を手に入れました》

「おぉ、本物だぁ!」


 マップに照らし合わせると、宝箱の在り処が一通り分かるようになった。

 ニンマリと笑いながら、レアが取りに行きそうな場所を推察する。こっち側に行ったから、多分この宝箱かな。じゃあ私はこっちっと。

 2人に確認を取ると、異論はなかったらしい。さぁ、宝箱を取りに行くぞ!

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