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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第4章 私とあの子で宝物を見つけるまで
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第71話:恋する私たちは宝の地図がほしい。

 教会でレアたちと別れた私たち。燦々と照りつける太陽の下、暑いという感覚をその身に受ける。VRなんだからその辺の再現はしなくてもいいと思うんだけどな。汗は出ないけど、暑いという情報だけが脳にインプットされるので、汗が出た気分になる。


「暑いわねぇ」

「だねぇ」

「だなぁ」


 私はともかく肌を出しているとはいえ、全身真っ黒なティアや、鎧装備のアレクなんかはかなり暑そうだ。


「宝箱、どこにあるかしらねぇ」

「攻略情報的にはどこかで地図を見つけるのが一番なんだと。その地図もランダムみたいだけどな」

「とりあえずショップ行かない? そこなら売ってるかも。あとアイスも食べたい」


 2人とも激しく同意を示したようだ。

 ただただ日差しが照って暑いだけの街路をコツコツ音を立てながら歩く。活気があるのか、通りすがる人は多く、やはり海岸の街だけあって貿易とか商業とかが盛んなんだろうかとか、漠然と思ってみる。

 正直このゲームがどれだけこだわって作られているものかは分かりかねる。でもこういう細かい所の調整が行き届いているのは、面白いと思う。


 楽しかったなぁ、レアとのデート。アザレアがいたから実質3人でお出かけだったし、途中からティアや熊野も乱入してきたからそれどころじゃなかったけど。

 でも最後はちゃんとデートらしいことできた、と思う。友達の域からは出ないし、なんならそのことでまたレアを悩ませているみたいで、ちょっと嫌だったけど。

 それでもあの時の楽しいって気持ちはきっと間違いなんかじゃないと思う。

 問題は私の気持ちが気づかれていることなんだけども。


「ショップと言ったら古物商かしら?」

「宝の地図だしな」


 大人2人組がマップを片手にあっちこっち指を差している。これがビターだったら方向音痴で即ゲームオーバーだったかも。

 思い出したらちょっと面白かったのでクスクスと、見えないように手で隠して笑う。


 そういえばティアと熊野ってどういう関係なんだろう。女2人で旅するメリットなんて、友達同士の旅行みたいで楽しそうだけど、2人からはそんな感じがしない。

 年の差も考えればリアルで知り合いだった、というわけでもなさそうだし、やっぱりどちらかが相手を好いているってことでいいのかな。そうなると私と同類か。身近にいるんだなー。


「おい、ツツジ。ボーッとしてないで行くぞー」

「あ、ごめん! で、宝の地図は見つかった?」

「それがどこにも。ここが最後のお店だな、すみませーん」


 アレクが店員を呼ぶ。ショップ画面に切り替わって、一通り品に目を通しているみたいだけど、あまり表情が芳しくない。

 そのままクローズボタンを押して、1つため息をこぼすと、答えが出たみたいだ。


「ない。この方法はハズレみたいだ」

「あらまぁ」


 比較的残念そうな顔で、地図が見つからないことを嘆いているティア。

 そういえば前に失敗したとか言ってたけど、前回はどんな感じだったんだろうか。それをヒントにできるってこと、すっかり念頭から外れていた。


「そうねぇ。地図を探すために色々探したんだけど、特になんにも成果はなかったわ」

「そっか」

「それだけ入手難易度が高いんだろうな。宝探しに地図なんてあればチートだしな」


 とは言っても、何もない状態でこの広い街を歩くのは正直やめておきたい。みんなもそう考えるだろうし、私も不毛極まりないなと思ってる。

 それにレアの力になりたい。あれだけ自分のやりたいことを熱心に語られると、好き嫌いに関わらず、協力してあげたくなるのだ。

 このお節介も、きっとレアだけなんだろうな、って思うと、私の中で彼女の特別感が膨れ上がって、少し胸が弾む。


 協力してあげたい。そんな気持ちで胸いっぱいになっても、行動しないと地図は見つからないものなのでひたすら街の中を練り歩いているけど、やっぱり見つからない。


「どーしよ」


 考えが口から出てしまったようだ。内容は大したことないけど、困っていることには変わりない。ショップを回ってもダメ。となるとクエストかなにかかな。うーむ。


「そこの若者」

「ん?」


 考え事をして歩いていると、不意に小さく暗い路地からしゃがれた老人の声が聞こえる。ちょっとヒヤッとホラーめいたものを感じながらも、恐る恐る覗いてみる。

 そこには何者かから見つからないように身を隠すおじいさんがそこにいた。骨身がむき出しになっていて、痩せこけている。小刻みに震える身体を杖で必死に立たせていると、なんだかもうすぐぽっくり逝ってしまいそうだななんて失礼なことを考えてしまう。


「あら、おじいさんどうしたの?」


 ティアが率先して声をかけると、おじいさんは震える手で懐から何かを弄っているようだ。

 しばらくして、見つかったのか懐から白い粉が入った袋を取り出した。


「これをのぉ、ある人に届けてもらいたいんじゃ……」

《クエスト:キマる物を受注しました》

「「キマる物?!」」


 その白い粉が入った袋は直径数センチ程度。密封チャックのようなもので口が閉じられており、その上からまたさらに大きな袋で覆われている。中身は真っ白。まるで、何かこう、粉を彷彿とさせるやばい代物のように見える。


《白い粉を手に入れました》

「い、嫌よ! アタシまだ前科人になりたくはないわ!」

「この地図のところに行くんじゃ。くれぐれも憲兵には気づかれぬようにな……」


 ホッホッホッ、と無責任な笑い声を上げながら、老人は路地の奥へと姿を消していった。


「なぁ、これ本当に大丈夫なやつか?」

「……開けちゃう?」

「アイテムの詳細には開けるなって書かれているわよ」


 白い粉。憲兵。そして開けるな。これが意味するものとは。

 そしてこのクエスト名。彷彿とさせるのはちょっとドラッグストアにも売ってなさそうなお薬なわけでして。嫌な予感しかしない。


「ま、まぁ、見つからなければいいのよ」

「なんか私ワクワクしてきたかも」


 嫌な予感とは別に、心は少しワクワクしている。

 こんなスリリングなクエスト、今までやったことがない。

 ゴエモンとして一時期名を馳せていたことだって、元を辿ればストレス発散のためにスリリングなことをしようって思ったからだ。元々私はそういうのが好きな傾向にあるみたい。なんとも危ない人間だこと。あ、でも本当に危ないことはしないよ。


 私たちは白い粉をアイテムストレージにしまい込む。

 さぁ始めようか、私たちの過激なおつかいミッションを。

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