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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第4章 私とあの子で宝物を見つけるまで
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第70話:草を刈る私は宝箱を見つけたい。

「えぃしょぉ!」

「どっこいしょぉ!」


 それでもカブはまだまだ抜けません。ではなく。

 雑草のある広場に迷い込んでいた私たち。アザレアの提案により、鎌とナタを持ってきたのはいいんだけど……。


「今から草刈りをしましょう!」

「なんで?!」「うちもか?!」


 勇者といえば壺割り、タンスの中を見る。だいたいこの2つが思いつくが、じゃあ世界3大勇者がやる行為は何か。あと1つは一体何なのか。それが草刈りだ。

 緑の帽子をかぶった勇者がひたすら草を刈ってお金を手に入れたように、私たちもそれに習って草を刈ろうということとなったのだが……。


「なんだ、これは……」

「つ、疲れた……」


 ゲームと現実は違うように、VRMMOとビデオゲームは違う。

 この辺の処理を簡略化して、なおかつ自分の体を動かさずに行うビデオゲームと違って、リアルを適度に求めるVRMMO。違うのだ、労力が。

 確かに身体的疲れはない。ボスと戦った後に必ず訪れるであろう筋肉痛はなく、それでいて心地良い疲労感の中眠りにつくことができる。それは何故か。精神的に集中していて疲れているからだと誰かが言っていた。ゲームを数時間連続でやれば、それなりに集中するような場面に直撃するわけで。


 話を戻そう。何故ゲームなのに疲れているのか。その答えは精神面にある。

 元々草刈りという文化自体、単純作業で労働作業。ボランティア活動と言っても差し支えない。そんな雑務を何故ゲームの中でやらなければならないのか。それは報酬があるからだと思う。事実緑色の勇者は草刈りの際に緑のダイヤを手に入れることができる。いわゆるお金だ。労働には対価が必要。それがあのゲームには備わっている。

 けれどどうだ、私たちがやってもこれっっっっぽっちもお金なんかでやしない。出てくるのは《雑草》というアイテムと、精神的疲労。報酬がないから、一向に疲れが取れる気がしない。達成報酬という名の開放感がないのだ。


 肉体的疲労はないものの、ただただ精神的な疲労が蓄積していき、脳はそれを身体の疲労だと誤認する。結果、疲れたのだ。


 こんな感じで長々と考えないとやってられないレベルに、疲れていた。進展がほしい。アザレアは黙々とやっている。偉い。ビターはアイテムを探している。なんか便利なのください。


 心の奥底から深く長いため息が口から吐き出される。

 分かってる。こんなことやってたら制限時間をオーバーしてしまうことに。だからって諦めたくはないけど、この方法はやっぱり間違ってたんじゃなかろうか。

 雑草を刈りつつそう思っていると、ピロンっという効果音が脳内で鳴り響く。

 なんだ? と思って通知欄をタップしてみると、


『称号【勇者ごっこ】を取得しました』

「……マジ?」


 なんかレア称号っぽい称号を手に入れたけど、なんだろう。試しに装備してから変えることのなかった称号【将軍殺し】から【勇者ごっこ】に変更してみた。

 マップ内に新しくアイコンが3つ表示されました。と表示が出た。なんだろう。興味本位でマップを開いて、新しく出たアイコンを探す。

 見覚えのないものだからすぐ見つかった。赤と黄色の箱のようなもの。古墳みたいな鍵穴が中央に付いていて、箱は上を開けられそうな蓋になっている。これってひょっとして……。


「おい、レアネラ。何サボって……」

「アザレア! ビター! 草刈りおしまい! 宝箱の位置分かったかも!」


 どうした突然、と困惑する2人の顔だったが、そんなことはどうでもよかった。私は一刻も早くその宝箱のようなアイコンの正体を暴きたくてウズウズしてるんだ。

 草を刈る2人の腕を強引に引いて、立ち上がらせる。目標は崖の中腹付近。

 マップを出して2人に伝えても、まだ疑いの目は晴れないようだ。だけど2人ともなんとなく察したのか、積極的にではないが、私の後に続いていくこととなった。


「これで外れだったら、もう一度草刈りからかな」

「流石に時間が足りないかと。それに……」

「なんだ?」

「多分ですが、レアネラさんは引き当てたんだと思います。そういう能力を」

「能力ねぇ。だとしたら人間探知機だな」


 そうだったらいいんだけど。歩く街並みは次第に明かりを失っていく。当然だ、郊外に出てきたんだから。街灯がポツリ、ポツリと間隔が空いているのが分かる。まるで飛行機を誘導するための滑走路の光のような気持ち。私たちが飛行機で、目的地に招いているような、そんな錯覚すら覚える。

 マップどおり行けば、次を右に行くと小さな空き家があって、その中に宝箱があるみたいだ。

 実際に言ってみると、ホントに空き家があった。


「ここに入るのか?」

「うん。念の為ノックはしておこうか」


 トントン、と手の甲でドアを叩いてみる。響いてくるのはノックの音だけで、それ以外はシーンと静まり返っている。もう一度叩いても同じだ。中から走ってくる騒音が聞こえることもなければ、居留守を使っている様子はない。そもそも人の気配がないのだ。多分大丈夫なはず。


 「行くよ」と口に出して、そっと扉を開ける。

 ギギィと扉が錆びついたような音を出しながら、空き家の中に入ってみると、その視界の先にマップ上のアイコンと同じような箱が1つ。お、これは……。


「宝箱か?」

「そうだよ! やっぱりあったんだ!」

「すごいです、レアネラさん!」

「へっへーん!」


 信じられない、という顔を浮かべるも、この状況を飲み込むしかないと判断したビターは私のことを置き去りにして、遠慮なく宝箱を開ける。


「ちょっと! 私が見つけたんだから、私に開けさせてよ!」

「……うん、やっぱりイベント産のアイテムだ」

「聞いてよぉ!」


 宝箱の中には紫の布が敷かれていて、真ん中が少しくぼんでいる。そのくぼんでいるところに、何かの鱗と思しきアイテムが置かれていた。手にとってみるとアイテム化して、アイテム画面に名前が表示される。鮫タコの鱗。って、鮫かタコなのかどっちなのさ。


「さて、レアネラ。聞こうじゃないか、新しく手に入れた称号を」

「え、バレてた?」

「何かあるとは思ってたからカマをかけてみた」

「ひっどー。まぁいいけどさ」


 ビター相手なら別にスキルバレも怖くないし、いいかなという判断。

 ちなみにスキルの構成はこんな感じだった。


 ◇


称号【勇者ごっこ】

財宝発掘:パッシブスキル

マップ上に宝箱の位置が表示される


天命:パッシブスキル

時々フレーバーテキストが脳内に流れる

その声は天からの声に聞こえるらしい


勇者の素質:パッシブスキル

魔力の強化。及びSPの増加


ライトニング・ボルテックス:アクティブスキル

雷の魔法。対象は広範囲


エンチャント【雷電】:アクティブスキル

雷の魔法を武器に付与できる

このスキルは当称号でなくても、発動できる


 ◇


 ネタがちょっと混じってるけど、これは魔法剣士みたいなことができるのかもしれない。私は騎士だから魔法騎士、だろうけど。

 宝箱はこの内の1つ、《財宝発掘》というスキルの賜物みたいだ。

 あとは雷系の魔法が気になる。私が初めて使える魔法は雷系だと思うと、なかなか勇者味があるのではないだろうか。やっぱ勇者といえば雷みたいな所あるよね。


 あと《天命》は、これデバフじゃないのかな。


「なるほど。また引き当てたというわけか」

「《天命》はホントによくわかんないけどね」

『大は小を兼ねるのです……』

「あ、天命来た」

「どんなのですか?」

「大は小を兼ねるって」

「しょーもな」


 もしかしたら明日使えるかもしれないことわざ辞典なのかもしれない。分かんないけど。

 それはいいや。とりあえずアイテムが手に入ったことだし、教会に戻ろう。


「みんな上手く言ったかなぁ」

「皆様ならきっと大丈夫です」

「だといいな」


 私たちは街の灯りを見ながら、教会へと足を踏み出したのだった。

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