第68話:成長する花たちはイベントを攻略したい。
イベント始まります
「やってきたーーーーー!」
「イベントだぜーーーーー!」
私とヴァレストがはしゃぐ。
そう、本日はイベントの参加日なのである。なんでも宝探しイベントはいくつもの開催地から場所を選択することができる、らしい。
ヴェネチードを選択したのも、サベージタウンから近かったことが理由だ。ここに来たのは2回目だけど、相変わらず海岸が美しい。
「すまなかったな、俺が用事があるから」
「いいってことよ! おかげで下見もできたしな!」
「やってきたのは私たちなんだけど」
ヴァレストが何をやっていたかは分からない。でもきっとろくなことじゃないだろう。レベル上げたり、防具作ったり、スキルを収集したり、きっとそんなもんだ。
彼は私たち3人を拝むように地面に膝を付いて両手を合わせ崇拝する。ハッハッハ、いい気分だなぁ。
「そういえばレアネラはスキルチケットは何を交換するつもりですの?」
「俺か? 俺はそうだなぁ……」
「ヴァレストには聞いていませんわ」
「フッフッフッ、よくぞ聞いてくれました」
不敵に笑う私を前に、6人が微妙そうな表情を浮かべる。まぁ聞いてほしい。私の画期的なアイディアを!
「私は《超加速》でひき逃げしたいの」
「《超加速》でひき逃げ?!」
「バカも休み休み言いたまえ! そんなこと……いやできるな」
「できるの?!」
ツツジが浮かび上がらせる《超加速》はきっと逃げる用だったり、接近用だっただろう。だが私が思い浮かべているのはたった1つ。槍と盾を持っての超加速。つまり音速の突進だ。これを避けきれるプレイヤーはまずいるはずない。あ、目の前に一人いたわ。
「あぁ、ツツジも知ってのとおり《超加速》中でも武器での攻撃は可能だ。だからやろうと思えば超加速突進もできる」
「レアがどんどん化け物になっていく……」
ツツジも大概だよ? ゴエモンとして戦ってた時、不意打ち以外で攻撃当たった試しがないし。私からすれば、ツツジも十分化け物だから。
「よし、じゃあみんなで頑張って探そー!」
「「おー!」」
ひとまず全員で拠点となる大きな教会へと向かう。確かイベントの受注はあそこからしかできないらしいし。やってきた私たちを出迎えてくれたのはまばらに見えるプレイヤーたちと神官。そして見覚えのある2人がこちらにやってくる。
「あら、レアネラに、アザレア。ツツジじゃない」
「こんにちはー」
「やっほ、そっちも受付?」
ティアが縦に首を振る。2人もイベントに参加するのは今日だったみたいだ。一緒なのは嬉しい。
「イベント開催日に行ったんですが、2人だと街中探すのが難しく、時間切れに」
「あー、確かにここ広いもんね」
「このお姉さんと騎士は知り合いか?」
ヴァレストが2人を指を差すので、紹介してあげた。
「2人で旅か。いいな。うちはビターだ」
「わたくしはノイヤー、見てのとおり術士ですわ」
「俺はアレク。こっちがヴァレストだ」
「ふーーーーーーん」
ヴァレストが意味ありげな声を喉で唸らせる。どうしたどうした。そんな興味深々な声を出して。
「ヴァレスト、どうしたの?」
「え? どうもうしないぞ!」
妙に慌てて右手を左右に振って、なんでもない風に見せてる。めっちゃ動揺してるの分かるからね、それ。
「お取り込み中のところいいですか?」
そうだね、これはほっとくことにしよう。それより、熊野がなにかお願いしてきているから、そっちを優先したほうがよさそうだ。
「私たち2人ではどうしてもクリアできなくて。なのでそちらの方々と一緒にイベントに参加しても」
「いいよ!」
「いいでしょ……いいんですか?!」
食い気味食い気味で返事したら、熊野に驚かれてしまった。流石に最後まで聞くべきだったかな。反省反省。でも知ってる人だし、別に断る理由もないかなって。
「ありがとうね、レアネラちゃん」
「でも、この人数で歩くのか?」
「そんなに多かったっけ?」
「9人です。流石に多いかと」
確かにイベントの申請をしたは良いものの、この人数で街中を歩くのは非常に効率が悪いし、何より迷惑そうだ。制限時間もあるみたいだし、ここは3人で組分けした方がよさそうかな。
「分け方どうする?」
「んーっと。この王様ゲーム用のおもちゃで決めちゃお。連番3人で一組ってことで」
「なんでそんなの持ってるの」
「いや、面白そうかなーって。案の定やる相手いないけど」
いくらゲーム内だからって無駄遣いしてしまったなと、少し反省してしまった代物だ。カップに入った棒を9本用意して、かき混ぜる。組分けは王様と1から2番。それ以降は連番で9番までの数字を分けている。
思えば、教会で組分けのためとは言えども、王様ゲームするのはちょっと気が引ける。いや、そんなことない。そんなことないよ!
みんなが適当に引いていく。それぞれ自分の番号を確認していった。最後の1本になったので引いてみると、棒の先には王冠が付いていた。私が王様か。
「うちは1だ」
「私は2ですね」
「じゃあビターとアザレアと一緒かな」
かちゃん、棒が落ちる音が聞こえた。音がした方向を見ると、そこにはショックそうに膝と手を地面についてへこんでいるツツジの姿があった。あー、そういうこと。
「一緒になれないなら、このイベントに意味がない」
「あら? あらあら……」
「ど、どうした?!」
同じ組だったティアとアレクさんが動揺を隠せないようだ。残りはヴァレストと熊野、そしてノイヤーか。熊野の胃が痛くなってそう。今度胃薬でも買って渡しておこうかな。
とはいえ、ツツジはそんなに私と一緒が良かったんだ。なんか照れるっていうか、そこまで好きって言われるような行動取られたことないから、こっちまで恥ずかしくなっちゃう。
「レアネラ、顔が赤いですわよ?」
「そ、そんなことないよ! ね、アザレア!」
「通常時に比べて1.3倍ほど、顔の赤さを感じます」
「アザレアさん?!」
「ふーーーーーーん」
やめてください、私をからかうのは。ヴァレストは考え事を始めたように腕を組むけど、なんかあったの? ビターにこづかれても続けてるし、もう何なのさ。
「もう、早く行こうよ!」
「そうですね。行きましょうか」
「待ってくれ!」
そんな6人を置いて、私たちはビターとアザレアはさっさと教会を出ていった。この前熊野をイジったツケみたいなのが、まさか私に回ってくるとは。流石に思いも寄らないとはこのことだよ。トホホ……。




