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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第4章 私とあの子で宝物を見つけるまで
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第67話:夏だし私は花火が見たい。

やっぱり夏といえばこれですね

「終わったー!」


 私とツツジでパシンと手のひらを合わせてハイタッチする。少しだけ手がジンジンするけど、それはハイタッチ特有の達成感だということにしておこう。


 私と熊野でロウソクを届けに教会を訪れた数分後、ティアとツツジ、それにアザレアは海水を届けに戻ってきた。

 ティアとアザレアは平気な顔で、バケツいっぱいの海水を持ってきたんだけど、ツツジはかなりバテている。曰く「力仕事はマジ勘弁」ということらしい。よく分からないけど、多分筋力の差なのだろう。そういえば前にステータスは素早さ重視って言ったっけ。

 そんなわけでおつかいを果たした私たちの手元にはちょっとした資金とお礼のアイテムとして装備品を頂いた。名前は【信仰の指輪】というもので、装備しているとスキルのリキャストがちょっとずつ回復するとのことだ。

 装備すれば攻め手がちょっと増えるわけで。嬉しい誤算だった。


「これからどうする?」

「あたしたちはこのまま街を探索するつもりよ」

「アザレア、私たちも一緒についてく?」

「そうですね、その方が都合が良さそうです」


 そうと決まれば、街へ繰り出すことにしよう。【信仰の指輪】は装備しておいておく。忘れたら困るもんね。


「そろそろ夜になりますね。このヴェネチードは夜景も綺麗だとか」

「そうなの? なら、お姉さんと一緒にお茶でもいかがかしら?」

「あまり度が過ぎたことを言っていると、PKしますよ」

「あら残念」


 ホントに残念そうな顔をするティア。なんか可愛そうになってしまう、しょんぼりとした顔はちょっとだけ可愛いけど。

 熊野もかなりきついことを言っているけど、昼間聞いた限りだと、更正するとか言ってたっけ。それにしては発言が過激だけども。


「レア、私にいい考えがあります」

「ん? どんなん?」

「ちょっとコンビニ寄っていこ?」


 コンビニって、そんなのあるわけないでしょ。あるとすれば商店ぐらいだろう。周りを見てみると、ちょうどよくアイテム屋があったので指を差してツツジに紹介してみた。


「おっと。どれどれ~。確かこの時期限定でー……。あった!」

「あったって、何が?」

「親父さん、この花火ください!」


 ◇


 やってきたのはヴェネチードの海岸。この時期なら時間帯問わず入ることができる。ただ密漁は禁止だから、夜中に人の目を忍んで魚を獲ったりするのは禁止だ。

 私たちがここに来た理由はもちろんそんなことはなく。コンビニによく売っているおもちゃ花火とバケツを持って、砂場を陣取った。やることはもちろん、花火遊びだ。


「やっぱ夏だしねー」

「そうね! 夏だものね!」

「2人ともなんでそんなに楽しそうなの」


 実は私はコンビニ花火を買ったことがない。もちろん遊んだことはあるけど、それは数えるほどだ。友達のいない&両親が共に忙しいという理由で、あまり遊んだことはない。もちろん興味はある。友達と一緒にやれたらどんなに楽しいだろうなと夢想することが。でも想像は想像。現実ではないから、次第に意識の外に追いやっていたんだ。


「アザレアは花火初めて?」

「はい。知識では理解していますが、火薬で遊ぶのは危険では」

「ちゃんと遊んでいれば大丈夫だよ。それに委員長がいるし」

「委員長?」


 ツツジが炎の魔法で早速すすき花火に火を付けると、先端から火花や火の粉が吹き出す。そして危ないことに下に向けていた花火を魔法のステッキのように、ブンブン振り回してみせる。


「やっぱこういうことしないとねー!」

「ツツジさん! 危ないです!」

「熊野もやればいいよ、楽しいよー!」


 側にいたティアの手に持つのはスパーク花火。ツツジに火種を分けてもらうと、先端から雪の結晶のような火花が散る。バチバチと光るその花火を天空に掲げて、えいっと熊野に向かって振り下ろす。


「テクマクマヤコン!」

「ティア! あぶっ! ……あっつ! ティアー!」

「アバダ・ケダブラ!」

「殺す気ですか!」


 爆笑するツツジは、花火を持ったまま私たちのもとに近づいてきた。その間に花火が勢いを消して、消えてしまった。寿命が短いのは仕方ないけど、やっぱ名残惜しいな。


「ほら、レアもやろ?」

「じゃあどれにしようかなー」

「こちらの花火は?」

「手筒だね。どれ、お姉さんが火をつけてあげよう」

「ツツジ、妙に乗り気だけどどうしたの」

「まぁ見てなって」


 自分の花火を水を張ったバケツの中に投函すると、火の魔法を手筒花火の先端に灯す。チリチリと導火線に火が点いたのを確認し、一目散に逃げるツツジ。一体何が……。


「うわっ!」


 勢いよく噴射された火花が空中に散布される。勢いが強かったのか、アザレアの腕が上方向に上がると、それにびっくりしたのか、それとも火花にびっくりしたのか尻餅をついてしまう。それでも花火を離さなかったのが偉い。あとで褒めてあげることにする。

 火花が空中で散布される姿を見て、アザレアはしばらくその花火に夢中だった。派手で鮮やかな演出はまるで枝垂れ桜みたいに美しい。夜に輝く炎はそれはそれは綺麗で、私もつい見惚れてしまった。

 やがて勢いが落ちてきて、火花が消えていくと、元あった静寂が辺りに広がった。


「どうだった、アザレア?」

「はい、綺麗でした……」

「腰抜かしたのは面白かったから、スクショ撮っといたよ!」

「ツツジ様!」

「あはは!」


 笑っていると、今度は私のこめかみ辺りに何かの先端がぶつかる。なんだと思って振り返ると、銃のようなものが、私に向けられているではないか。誰かと思ったら、ティアだった。


「驚いた?」

「うん、とても……」


 クスクスとティアが手元で口元を隠しながら笑うと、銃の先端に火を点ける。今度は銃型の花火だったらしく、実際に銃を発射しているような火花が灯る。


「名付けてデスガン!」


 沈下した銃の花火でクイッとテンガロンハットを上にあげる動きをすると、それらしく見えるから困る。私もやってみたいなぁ。


「あ、これ一個しかなかったわ」


 がっかりである。


 それにしても、こんなに花火が楽しいだなんて思うことはなかったな。だって私は一人ぼっちだったし。でもみんなが一緒に遊んでくれるから、楽しいのかな。よく分かんないや。


「楽しい?」

「うん。ありがとね、ツツジ」

「だがそれでは終わらせない! ほらレアも花火花火! ファイア!」


 無理やり手に持たされたすすき花火の先に炎の魔法を繰り出す。勢いよく吹き出す火花と火の粉にようやく実感が湧いてくる。あぁ、よく分かんないとか思ったけど嘘だ。こうやって一緒にいるから楽しい。1人じゃ絶対味わえなかった感覚だ。


「私、花火初めてだったんだ」

「え、そうなの?」

「うん。でもすっごく楽しい。みんなのおかげだよ」

「それはよかったよかった」


 すすき花火の先端がパチパチと勢いを減らしていく。こうやって夏が終わっていくんだと思うと、名残惜しいって気持ちでいっぱいになる。これが夏の風物詩ってやつか。


「やっぱレアと一緒にいると、私まで嬉しくなっちゃうや」

「そういうもんだからじゃない、友達って」

「……友達、か」


 花火が照らす友達の顔はちょっとだけ沈んでいて、憂いているように見えた。

 分かってる、何を思っているのか。私はそれに答えられない。答えたくても、分からない感情を理解するのは難しいんだ。

 だから最後の一欠片が続くようにすすき花火の先端を火花で灯す。


「レア?」

「ちょっとだけ、もうちょっとだけ待ってて。私が分かるようになるまで」


 それは期待を持たせたかったからなのか、それともキープしたかっただけなのか。嫌な女だな、私。その言葉を待ってたみたいにツツジもニヤけちゃってさ。でも初恋はきっとツツジのものになるかもだから、それでもいいのかな。

 脳裏にアザレアの優しい笑みがフラッシュバックする。なんで、なんで私はアザレアのことを思い出したんだろう。


 ――私が好きなのは、どっちなんだろう。

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