第7話:食欲旺盛の私はクマ料理を食べたい。
最低限の回復アイテムと食料を手に持つと、私たちは森へと歩き始めた。
道中は整備されていて、とても歩きやすく、道を逸れなければ敵と遭遇することはない。
今の私には熊料理を食べることしか頭になく、他の雑魚敵など眼中になかったのだ。この辺りでレベル上げでもしていけばいいものを。
ということで難なくなど着いた近くの森。この森の奥の方に熊は生息するらしい。
「地図の通りだと、ここから真っすぐ行ったところにキャンプサイトを設置できる場所があるそうです。まずはそこでリスポーン地点を確保しましょう」
「おっけい!」
親指を上に立て、そのまま足は森の中へと進んでいく。
木の枝や葉っぱが邪魔だけども、それさえ取り除けば歩けない道でもない。おそらく多くのプレイヤーが通った道であろうから、その辺は安心だ。
それにしても歩きにくい。さっきまでの整備された場所とは違って、獣道のような歩きにくさがある。
「ここです」
「ありがと。早速キャンプを建てよう」
このゲームでは焚き火があったような場所でキャンプサイトを建てることができる。キャンプサイトとはリスポーン地点。クエストを受注したら、キャンプサイトを建てて、作戦を練ったり、旅の疲れを癒やしたりと、拠点のように使えるらしい。アザレアに聞いた。
「そういえば、ここってモンスターに壊されたりしないの?」
「そういうこともあります」
「え?! その場合、アザレアは?」
「ご主人さまのところに転送されます」
「……つまりアザレアは死んじゃダメだと?」
「そうです」
姫プかー! なんか違う気がするし、どっちかというと護衛任務に近いだろうけど、それはそれとして、1死で終わりってオワタ式に近い……。
本人自体もある程度戦えるらしいけど、それでも戦闘は避けたい。なら私がやるしかないんだね。槍と盾を持って、決意を固めておこう。
「じゃ、じゃあ行ってくるね」
「行ってらっしゃいませ」
彼女が無表情で手を振って見送ってくれる。
よーし、頑張ろう。熊の巣穴を教えてもらっているので、そこを襲えばまぁなんとかなるでしょう。
歩くこと30分。早速熊の巣穴に到着する。中には巨大な図体が1匹すやすや寝ている。先制攻撃チャンスなんだけど、爆弾とか、魔法とか持ってないから、このしょぼい槍で突くしかない。
「背に腹は代えられない。いやーっ!」
せめてもの勢いと言わんばかりに声を荒げながら、突撃する。
その声に気づいたのか、熊がのそっと起き上がる。同時に槍が刺さると、HPが少しだけ削れる。お、案外やれるじゃん! 攻撃してきたら、盾を使って防いで、攻撃が止んだら、槍で刺して。うん、完璧だ!
熊が腕を振り上げた。ここで盾を出して……。あれ。盾、重……。
数秒後。私の身体は赤いデータの破片とともに、その場から消え去った。
「はっ?! ここは?」
「おかえりなさいませ」
シュラフと思しき寝袋から起き上がると、アザレアの顔がそこに。あれ、私戦ってたはずじゃ……。
「リスポーンですね。レアネラ様はお亡くなりになりました」
「……凄まじい戦いだったなー」
せめて虚勢だけは張っておこう。でないと、盾で防ぐ前に自分が粉々になったなんて言いたくない。持ち物のロストは特にない。武器も消えてないから、これは何度でも挑戦できるということかな?
「アザレア、このクエストって何回死んだらダメとかってあったっけ?」
「何度でも死亡可能です。アレク様のご配慮に感謝しなくては」
「よーし! もっかい行ってくる!」
「行ってらっしゃいませ」
武器が消えてないってことは何度でも挑戦できるということ。こんな武器でもダメージを与えられたんだ。何度もやっていればきっと倒せる、はず!
そこまでの発想は良かったんだけど、まさか5回連続でダメージを与えられずにリスポーンするとは思わなかった。
30分ごとに「おかえりなさいませ」と言われる気持ちは、正直いたたまれない。
「総計10回目のリスポーンです」
「うぅ……」
流石に私の心も折れかけてきた。
食欲とかその前に、ちゃんと相手のレベルを確認すべきだった。
「こんなんじゃ日が暮れちゃう……」
「諦めるというのは?」
「ここまで来たら諦めきれない! ちゃんと狩って勝ちたい!」
正直もうワガママもいいところなんだけどさ。でも勝ちたい。このまま負けっぱなしってのは納得いかない!
「レアネラ様は、どうしても勝ちたいと?」
「勝ちたい! 勝って熊鍋食べたい!」
「……でしたら、作戦を練りましょう」
作戦? 口に出した言葉は今までやってきたゴリ押しとは全く違う言葉だった。というかそれ5回目ぐらいで気づくべきだったな私!