第64話:海沿いの街で私たちは遊びたい。
デートは続くし、新キャラがちらりと登場します
「えーっと、ここが港の区域で……」
「レアー! こっち来てみて!」
「なにー?」
「貝殻ブーメラン!」
何してるんだこの子は。貝殻をフリスビーのように空中に飛ばすと、幾度か水面でバウンドして、沈んでいった。まるで石切りみたいだなぁ。
「ツツジ様、遊ばないでください。私たちはイベントの下見に来たんですよ?」
「大丈夫だって。そんなことしなくても、どうせ宝探しイベなら期間内に終わるって」
「ですが」
「ですがもだってもないよー。アザレアは委員長気質だなぁ」
そんなことを言いながら、ツツジはというと、砂浜で何かを探している様子。何やってるんだろ?
「見て、星の砂ってやつ」
「うわ、不思議ー」
「ですから!」
「まぁまぁ」
怒れるIPCをドウドウと、なだめていく。ツツジもわざわざアザレアを煽るようなことしなきゃいいのに。
「持って帰ろっかなー」
「ツツジ様、あちらを……」
「なに? ってあらら」
アザレアが怒りで震える手で指差した先には密漁禁止の看板が1枚。
流石に断念せざるを得ないのか、拾った星の砂を砂浜に落としていく。これも密漁になるのかな。分かんないけど、触らぬ神に祟りなし、ってやつだ。知らないままカルマ値を上げてしまうのは危険だろう。
「レアネラさんからも何か言ってあげてください」
「って言われても、ツツジ自由人だし」
「私がなにか?」
「ツツジって自由だよねってこと」
そんなことないよー、と言いながら、またもや私の腕に抱きついて、体重を乗せてくる。いや、好きにしてもいいんだけど、その、周りの視線も痛いし、何よりアザレアのじっとりとした目線が突き刺さる。
もうとっくのとうに気づいていたであろうツツジが、そのジト目アザレアに向かってしてやったり、という笑顔で見る。
「もう、いい加減にしましょう。レアネラさんに迷惑です」
アザレアがついに行動を起こす。私に抱きついているツツジの間に割って入ると、アザレアが力いっぱいツツジを引き剥がそうとする。
もちろんツツジも抵抗して、私に抱きつく力を強める。
よって出来上がるのは、私の右腕を中心に行われる相撲だ。
「はーなーれーてーください!」
「いーやーだー! 私は意地でも離れない!」
「痛い! どっちでもいいけど、痛いから離れて!」
相撲取りたちは私の言葉なんて知らんと言わんばかりに、引き剥がそうとするのをやめない。
ホントにどっちでもいいけど、痛いから! 今HP減ってるから!
「アザレアさん? この際だから言うけど、私はね、前からあなたのことが気に入らなかったりするんだよねー」
「存じております。レアネラさんとの件はとても感謝しておりますが、それはそれとして、私もその自由さが嫌いです」
「私は死ぬ! 死んじゃう!」
バチバチ震える視線エフェクトが発生する。なに、そんなエフェクト実装してるの? そんなことより私をこの2人から開放してください!
「はいはーい、喧嘩はそこまでよ」
「おろ」
「え?」
私の危機に気づいたのか、ツツジとアザレアの脇を掴んで引き剥がしたのは2人の女性だった。
ツツジを抑えてる方の女性はルビーのように赤い瞳と、艷やかな黒髪のハーフアップヘアが美しい女性。見た目はダンサーのように、胸元がパックリと空いて、大きな胸が谷間を作っている。見た目通りなら年上は間違いないと言わんばかりの強調の仕方だ。
かたやアザレアを抑えている女性は見た目からして堅物だろうというのが分かる。灰色の瞳に茶色い髪のセミロング。チャームポイントとして頭部の左右にはオレンジ色の細めのリボンが飾られている。そしてTHE・騎士と言わんばかりの見た目は鋼の鎧に、ミニスカートと腰マントを着こなしている。
不意を突かれた2人は、力の行き場所を失い、手がプラーンと下を向いている。
なんとか助かった私は、即座にアイテム画面からポーションを取り出して、口をつける。みるみるうちにHPが回復していくと、それに気づいたのかツツジとアザレアが申し訳無さそうな顔でこちらを見る。
「助かった……」
「レア、ごめん……」
「レアネラさん、大変申し訳ございません。未知の感情に囚われていて……」
「いいって。こうしてちゃんと生きてるし! 死んでもリスポーンするだけだし」
とにかく助かった。助けてくださった2人に頭を下げてお礼を言う。
「ありがとうございました!」
「いいのよ。くまちゃんが飛び出しただけだから」
「全くです。こんな往来で殺傷事件なんて、私の目の黒いうちは許しません!」
「あはは……。とにかく助かりました!」
「困った時はお互い様というやつよ。それではね」
「喧嘩は程々に、です!」
別に喧嘩ではなかったと思うけど、それは私目線での話。2人はどうだったんだろう。 正直ツツジの事情は大方知ってるつもりだし、それは許してたんだけど、まさかアザレアがこんなことをするとは思ってなかった。何らかの感情が育っていると見て間違いはなさそうだけど、それが何なのか、私には分からない。
「改めて、ごめんねレア。まさかHPが削れているとは」
「はい。そこはツツジ様に同感です」
「正直私もびっくりだよ」
ところどころでこのゲーム、HPの概念が柔らかいと言うか、削れる時はホントに削れる。変なゲームだけど、それが面白いとも言える。
ちなみにこれで死んだらPKペナルティとかになるのかな。前科持ちのツツジ。いや、実際窃盗犯だったっけ。
「それにしてもあのダンサーのお姉さん、綺麗だったね」
「だね。私もあんな女性になれるかな」
大人の女性って憧れるよね。なんというかかっこよくて、私もああなりたいってなるから。
「なれるんじゃない、レア今も成長中でしょ」
「へ?!」
「私の見立通りなら、ちょっと大きくなったんじゃない?」
「そ、そんなことないし!」
「ですが、以前に比べて胸囲が少し増えたかと」
「うぅ……」
正解だよちくしょー! なんでことで辱めを受けなければならないんだ!
「ご飯! お腹減った!」
「レア、必死」
「うるさい! 食べるよ!」
「この辺だとパエリアのお店があるみたいです」
「よしそこ行こう! 食べて食べて、食べまくってやる!」
ゲーム内なら太らないし! 体重も胸囲も増えないし!
はぁ、またブラ買い直さないとなぁ。




