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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第4章 私とあの子で宝物を見つけるまで
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第63話:下見も兼ねて私はお出かけしたい。

ツツレアアザのデート編始まります

「レアネラ、どこに行くんだ?」


 ギルドホームのリビングで休憩がてら紅茶を飲んでたヴァレストが私たちに話しかけてくる。てか、ヴァレストって紅茶飲むんだ。そんなイメージなかった。


「イベント開催地の下見です。ツツジ様も来る予定なのですが、あの方は現地で待っているそうです」

「へー……。は?」

「そういうこと。それじゃ行って……」

「待て」


 カップを置いた男がとても冷静な声で一言つぶやく。

 ヴァレストのそんな声初めて聞いたんだけど、威圧感があってなんか怖いよ?


「それってつまり、デートってことだよな?」

「いや、アザレアいるし」

「じゃあデートだな!」

「なんでそうなるのさ!」


 ヴァレストはそのカップの中身を一気に飲み干すと私の方へ、ドシンドシンと荒れた息を整えながら近づいてくる。怖い! めっちゃ怖いんだけど?!


「知っているか。この世の定理ではデートとは男女で行うものらしいが、お前たちのはそういうのじゃない。女女だとしても、それはデートと呼ぶんだ」

「そういう問題じゃないと思うんだけど」

「たとえアザレアがいたとしても、それは3人のデート。2人が1人を巡るそれはそれは壮大な……」

「ヴァレスト、キミは何をやっているのかな?」


 突如聞こえたその声はとてつもなく低くて、ドスの利いた声だった。ヴァレストがビクリと肩を強張らせると、恐る恐る後ろを振り返る。カクカクと揺れる表情は恐怖と絶望を体現したような顔をしていた。

 振り返った先、そこには身長140cm前後の小さな女の子が、ヴァレストに対して怒りの感情を抱いているようで。


「ビ、ビター?!」

「キミ、約束したよな?」

「ヒ、ヒィ!」


 メニュー画面からアイテムを取り出したと思うと、中から触手がヴァレストの腕を巻き上げる。え、なにこれ。どういう状況?


「キミにはもうちょっとしつけが必要なようだな」

「待って、やめて! こんなところで、ヒィン!」

「レアネラさん、何故私の目を隠しているのですか?」

「いや、なんとなく」


 これは、刺激が強すぎる。触手が男の体を叩き続けている。これは誰得なんだ? ヴァレスト自体も結構なイケメンではあるけど、それをこうやって痛めつけているのはそういう趣味なの、ビター?


「あぁ、キミたちは早くこの場から立ち去りたまえ。この男はしつけておくから」

「やっぱり恋愛は男と男、女同士でするべいったぁい!」


 私はアザレアの目を隠したまま、ギルドホームを出ていった。

 何かは知らないけど、南無三ヴァレスト……。


 ◇


「この街で合ってるっけ?」

「はい。ヴェネチードと呼ばれる、水と断崖が美しい街です」


 今度の宝探しの舞台であるヴェネチードは、ヴェネチアをモチーフにしている、というわけではない。

 同じイタリアではあるが、アマルフィ海岸と呼ばれる、海と断崖の街に近い構造になっている。というのは私の下調べ。崖に沿って家やお店が並んでいる姿はその手の人から見たら芸術とも等しいだろう。私は実際にその海岸を見たことはないが、写真で見た限り、かなり面白い地形だし、同時に美しいとも感じた。


 そんな街を舞台に宝探しをしようというのだ。観光みたいな感じでとても面白いけど、そんなんでいいのだろうか運営。


「うひゃー、崖がたっかい!」

「現実では世界遺産に登録されているとか。たしかに美しいですね」

「ねー。なんか2人で観光しているみたいだね」

「……そう、ですね。とても気分がいいのは確かです」


 海もきれいだし、なんだかホントに旅行している気分で、とても楽しい。

 どうせだからツツジを置いて、このまま2人で散策しても悪くないかもしれない。冗談だけども。


「あ、いたいた! レアー!」

「その声、ツツジ?」


 後ろから聞き慣れたツツジの声が耳に入ってくる。

 ったく。「レアを驚かせたい」っていうからわざわざギルドホームからここまで来たけど、一体何がしたかったんだか。声の方に振り返ってみると、その理由がわかった。


「そうだよ! どうかな、似合う?」


 振り返ったツツジは、ちょっと恥ずかしそうにはにかむと、私に全身を見せてくれた。

 彼女の格好はいつものスタイルとは違っている。

 何らかの英語が書かれたラフなTシャツに美しい細身のスタイルに似合った黒いレディースパンツ。腰にはパーカーだろうか、柄物の衣服が袖でキュッと巻かれている。

 控えめに言って気合が入りすぎている。え、下見だよね。そんな格好されても、私いつもどおりだったんだけど。

 でもそんな彼女が不安そうにこちらを覗き見ているんだ。流石に野暮なことは言えない。だから私は素直な感想を口にすることにした。


「かっこいい。かっこいいよツツジ!」

「そ、そう?」

「うん! 私、洋服とか疎いから分からないけど、でもツツジの細身の身体がクールっていうか、それに似合ったズボンや立ち振る舞いっていうの? してるからすっごくかっこいい!」

「そ、そっか。……そっかぁ! えへへ」


 私がべた褒めしたせいなのか、多分そうだと思うんだけど、ツツジがこれ以上にないってほど顔の表情筋を緩めてにへらと笑っている。

 さっきまでかっこよかった見た目が台無しだけど、まぁ喜んでもらえたようで何よりだ。


「レア、もっと言って!」

「かっこいい?」

「もっと!」

「かっこいい!」

「えへへ~!」

「ツツジ様、顔が緩みきっていますね」

「だねぇ」


 これはこれでかわいいからいいか。

 好きな人に褒められるって、こんなにも嬉しいことなんだ。確かに私も親に褒められると嬉しいって思うけど、それとこれとは別なのかな。

 そんな考え事をしていると、アザレアが服を引っ張ってくる。何事かと思って振り向くと、アザレアの顔が妙にじっとりとしている。


「どうしたの?」

「……あ、いえ。なんでもありません」

「そう?」

「正確にはなんでもあるのですが、私自体が整理できていないので」

「そうなんだ」


 その割には何か言いたげにじっとりと私を見つめてくるんだけど。今さっきなんでもあるって言われたけど、何かあったのかな?


「レア! ほら行こうよ!」

「うわっと、いきなり腕を絡めないでよ!」

「ごめんごめん!」

「……本当に何なのでしょう、この気持ちは」


 アザレアが気になることを口走っているけど、今は置いておくしかないか。自分から言えるようになったら、またそのときに聞くとしよう。

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