第61話:情弱の私はイベントを確かめたい。
「ツツジ、今日はログインするの?」
「もちのろん! 流石にサボるわけには行かないしねー」
夏の帰り道。今日はちょうど夏休みの登校日だったため、仕方なくこのめちゃんこ暑い中歩いているわけなんだけど、正直倒れそう。
夏か冬か、どっちが好きと言われれば、恐らく冬と答えるだろう。
だって冬は着込めるし、暖房付けたらそれでオールオッケーなわけで。夏は脱げないし、脱いでも限界があるからダメなんだよ。
それにしたってサボる? 毎日のログインボーナス目当てだろうか。この暑い中クーラーガンガン付けながら、アイスを食べるっていう願望は分からないでもないけど、そんなに?
「なに考えてるの?」
「え? いや、暑いからログインサボるのかなーって」
「まぁ暑いけど、そんなんでサボったりしないよ」
ん? じゃあなんでだろう? なんかイベントとかあったっけな。覚えてないっていうか、この目の前の女のゴエモン騒ぎのせいで、ゲーム内の情報を追えてなかったりする。
「あ、そういう」
「また私の顔見て、思考を読んだでしょ」
「分かりやすいからねぇ」
「むー、じゃあ今何考えてる分かる?」
別に不機嫌ではないけど、酷く怒っているように見せる仏頂面をしてみる。なんでこんな事を言い始めたか。簡単だ。最近ツツジに振り回されてばかりなので、私だってもうちょっと友達を振り回したいという気持ちがあるのだ。大抵の場合失敗するけど、今回ぐらいはちゃんとしたい。
ツツジがそんな私をジロジロと見てきて、ちょっと照れてしまう。イカンイカン。そういうのは今日はもうたくさんなんだ。
「んー、そうやって意識されると、読み甲斐がないっていうか。もうちょっと自然にして?」
「じゃあこう?」
ボヘーっとしてみる。
「私を振り回したい、的な?」
「なんで分かったの?! エスパー?! それとも変質者?!」
「おい幸歩。後者はおかしいでしょ」
「ツツジって、重そうだし」
「重っ?!」
ゴエモン戦の後の告白から思ってたけど、なんというかツツジは重たい。アザレアの件で重たく考えてた私が思うのもブーメラン感が否めないけど、どことなくそんなイメージがあるんだ。なんでだろ?
「今、さっちーと付き合ってて、一番傷ついたかも」
「アハハ! ごめんってば! ログインしたら、ジュース奢ってあげるから」
「……それをずっと大切にするって言ったら?」
「ごめん超重い」
「ぐさー!」
「アハハ!」
ゲーム内で会ったら、絶対奢ろう。流石に申し訳なさすぎた。
◇
「さてっと。最初にジュース買ってー……」
「レアネラさん、おはようございます」
「おはよ、アザレア!」
ログインすると、ギルドホームの居間で、ビター、ノイヤー、アザレアの3人が机を囲んで重々しく、その口を閉じているように見える。なに、どうしたの。サービス終了とかじゃないよね?
「3人揃って、どうしたの?」
「イベントのことですわ。このギルドじゃ人数が足りないですから」
「イベント?」
はて、そんなものが近々あったっけか? えーっと、思い出せ思い出せ。
何故なら私は今、3人の信じられない、という表情を向けられて焦っているんだ。どうしよう。何か言い出さないと、ギルマスとしての尊厳皆無なんじゃないかな。なんだったかなー、確かにイベントがあった気がするけど、その詳細までは覚えてない。適当に言うか。
「お料理対決?」
「んなわけあるか! キミはイベント告知を見てないのか?」
「そ、そんなわけ」
「じゃあさっきのキミの回答は宝探し型イベントとなるはずだ」
「うぐっ!」
なに、宝探し型イベントって。知らないよそんなの。私、そもそもイベント初めてだしー!
「おふたりとも、レアネラさんは私の救出のために特訓をしていたと聞きます。ですからイベントの詳細を知らなくても当然かと」
「それもそうですわね」
うんうん、アザレアの言うとおりなんだよ。私はうちのメイドを救うために、血のにじむような特訓を……。
「イベント詳細が来たのは、うちらと旅に出たときだから、相当前だがな」
「そ、そうなの?」
「間抜けが釣れたようだな」
「あ!」
そうだ思い出した。イベントがあるって聞いたのはその時だ。
それから奥義の習得をしたり、特訓をしたり……。あれ、結構余裕あった気がする。
「仕方ない、うちが教えてやろう」
「よろしくおねがいします、先輩!」
「うむ」
お知らせ画面のモニターを表示させて、イベント詳細の項目を開く。
「イベント名は『魔物の秘宝はいずこへ』。開催時期は……」
と聞いている限りだと、宝探し型イベントとは、読んで字の如く宝箱を探すイベントだ。
開催都市に設置された3つの宝箱を探し当て、集めた宝が最後のボスへの鍵となる、という簡単なイベントだ。とは言っても、どこに宝箱があるかは当日にならないと分からない。当然だよね、事前の下準備なんてないわけだし。
「まぁ割りと簡単なイベントなんだが、これには1つ問題があってな」
「問題?」
「うちらのギルドはアザレアも含めて6人だ。探すに当たって少数過ぎて、かかる時間が多くなると思ってな」
「でも、私夏休み期間だし」
イベント自体は8月末まで開催されるらしく、中高生の夏休み期間ともろかぶりする。
ビターも大学生なんだから、夏休みをフルに使えると思うんだけどなぁ。
「アレクがどうかは分からないだろ?」
「あ、そうだった」
「それに、クリア報酬にスキルチケットというのがあってな。何でも好きなスキル1つと交換できるんだが」
「流石に可愛そうだね」
スキルチケット。なんていいものなんだろう。確かにそんないいものをみすみす逃すような真似をしたら、アレクさんしばらく拗ねてしまうかもしれない。
「わたくしも夏休み期間とはいえ、忙しいときは忙しいですから。お盆などは特に」
「うちも流石に里帰りするし、お盆はな」
「私も親の顔見たいし、地元に帰るかも。ってあれ?」
意外と、時間がなかったりする?
「そんなわけだ。キミたちも宿題があるだろうしな」
「うぐっ」
「ぱぱっと終わらせましたわ」
「嘘でしょ」
ノイヤー、私と同類だと思ったのに……。この裏切り者!
「淑女たるもの、宿題なんて枷はとっとと終わらせるに限りますわ~!」
「くっ! 何も言い返せない……」
悔しいことに、私は何一つ手を付けていない。こ、今度ツツジにみせてもらおう。そうしよう。あ、でもツツジは私と同じ同類の匂いがする。ダメだ。
「まぁ、1週間後が楽しみだな」
「え、1週間後?!」
「あぁ。キミらが騒がしくしている間に準備期間はその程度になった。とはいえ、ボス対策になにかスキルを習得するぐらいだろうがな」
「1週間で、終わるかな……」
できれば、読書感想文とかなければいいな。あれ、苦手なんだよ。感想なんて尊い! とかすごい! とか面白い! とかでいいじゃんさー。
とはいえ、終わらせないと意味がないので、ゲーム三昧とは言えないかなぁ。
そんな事を考えていると、ツツジもログインしてきたのか、光のエフェクトとデータの破片とともに彼女が現れた。
「ありゃ、イベントの説明してたとこ?」
「はい。そろそろ解散しようと思ってたところです」
「なるほどねー」
「ツツジ!」
前から両肩をガッツリ掴んで、ツツジの目を見る。信じているよ、ツツジ!
その本人はちょっと頬を赤らめて、目線から逃れるべく、顔を背けているように見える。なに、宿題やってないの?
「そんな急に……。みんな見てる――」
「宿題やった?!」
「し……は?」
一瞬の沈黙。ど、どうしたの?
「……そこのレアネラは宿題を写してほしいそうだぞ」
「なんで分かったの?!」
「期待した私がバカだったよ。宿題やってない」
「私も、期待した自分が愚かしい」
「な、なんでそうなるのさ!」
「ジュース買ってくるね。さっきのお詫び」
「うん。ん?」
イマイチ噛み合わない会話を繰り広げると、私はジュースを買うためにサベージタウンの街へ繰り出すのだった。
「ちょっと! どういうことなのさ!」
ちょっとうるさいツツジを置いて。




