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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第4章 私とあの子で宝物を見つけるまで
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第60話:リアルの私は友達とうまくいかない。

 私は私に向けられている彼女の感情に気づかないふりをすると決めた。

 私の分からない好きという感情。言葉は知っている。どういうものかは知っている。でもいざ自分に向けられたとき、私はどうしていいか分からなかった。

 だから気づかないふりをする。まだ友達でいたいから。一緒にいたいから。


「とは言ってもなぁ……」


 胸の底に溜まった重い空気をため息とともに吐き出す。

 分かってる。その考え方がものすっごく、難しいことを。


 例えば朝の朝礼までの時間。私とツツジは常に一緒にいるわけではない。だって私そんなに複数人でつるむってことをしないから。ツツジもそれを察して、誘わないでいるけど、さっきからこちらをチラチラ見ては、ちょっとふやけた表情になっては元に戻るの繰り返し。私にゴエモンのことを打ち明けてからいっつもそんな調子だ。

 彼女と目が合うとそれだけで嬉しそうな顔をする。

 まぁ、私だって嬉しいか嬉しくないか、って言われたら嬉しいし、ちょっと照れたりもするけど、それは最初の数回だけ。

 これを4日も繰り返すと、流石に飽きてくるわけでして。向こうは全然飽きる様子はないし、むしろ前より熱がこもってるように見える。


「これが、面倒くさいってことなのかなー」


 某ちっちゃな知り合いの口癖を思い出してクスリと笑う。

 そういえばあの人いつもログインしているけど、ちゃんと学校行ってるのかな? それとも実はニートだったりしないだろうか。大学生ってそんなに時間持て余してるのかと思うと、やや羨ましい。

 私は高校生だからまだまだ受験があるし、進路相談もあったりする。それは2年生になってからだとは思うけど、今から考えると頭が痛い。


「暇だし、掲示板でも見よ」


 最近の日課であるエクシード・AIランドの掲示板を巡回する。なにか面白いこと載ってないかなー。


「騎士必須スキルといえば、マジックシールドとブロックだよなー。ってブロックって何?! 知らないスキルだ。検索しよ」


 えーっと、マジックシールドの物理版って感じかな。帰ったら探そう。


「サベージタウン以外にもたくさん拠点があるんだっけ。今度旅行してみたいなぁ」


 中世のヨーロッパみたいな世界観だし、もしかしたらベネチアみたいな水の都市や山岳地帯の街とかあったりするのかな。こうやって妄想に胸を膨らませてると楽しくていいな。

 アザレアやツツジと一緒に海行ったり、キャンプ……はもうしてるか。でも簡易拠点でのキャンプとかじゃなくて、バーベキューとかカレーを作ったりして楽しみたいなぁ。

 そんな妄想を膨らませていると、気になる掲示板が目に止まった。


「……【てぇてぇ】巷で噂のカップル【百合限定】? なにこれ」


 そのリンクを開いたが最後だった。内容はストーリー内の誰々のカップリングが尊いとか、その妄想に関するスレだった。私はそういう趣向はないけど、こういう趣味の人がいるんだなー、とぼんやりと眺めていると、見た名前がちらりと出てきた。

 いや、ちらり、なんてものじゃない。ガッツリ出てる!


「な、ななななっ!」


 50レス以降から溢れ出すレアネラとツツジ、それにアザレアの名前と妄想の数々。

 なにこれ?! え? 何?! リアルの人で何やってるのこの人たち!


「ツツレア以外ありえない。ツツレアは付き合ってる? 付き合ってないってば!」


 ガチなんて言われても、ホントに付き合ってないんだってば! まぁ向こうは好いてくれてるらしいけど、そんなのはどうだっていいんだ。何だこの人たち、人が見てないところで勝手に妄想してくれちゃって!


「ツツレアシチュ。ジェットコースター得意なツツジが、そんなに得意じゃないし、そもそも怖くもあるレアネラが手をつなぎながら、ワーキャーする? 私、ジェットコースター好きだし!」


 却下! 次!


「お化け屋敷。あー次」


 お化け屋敷なんていう人類悪は滅べ。


「観覧車の中で一緒にいると、急にトラブルがあって止まっちゃって、もう一生降りられないんじゃ、と思うレアネラにそっと手を重ねて、他愛ない話を繰り返すツツジ。あ、元気づけてくれてるんだなって思ったレアネラはツツジの方に体重を乗せてきて、そこから……って、バカー!」


 わ、私をなんて美少女、じゃなかった。か弱い少女か何かと勘違いしてるんだよ! 私そんなんじゃ心配になったりしないよ! ホントだよ?


「な、なんなんだこのスレは……」


 ありえない。本人も見る可能性がある場所でこんな堂々と。この野郎、全員通報してやる。


 そう、このとき、私が独り言をつぶやいていて、急に声を上げるもんだから、ツツジが心配して、こちらに近づいてくるのを私は知らなかった。


「どうしたの?」

「……通報。通報。通報」

「さっちー? さっきから怖いこと言ってない?」


 私は一仕事終えると、やれやれだぜ、と言わんばかりに顔を上に上げて、ツツジと目が合う。


「うわーっ!」

「っ! び、びっくりしたー。何さ急に!」

「そ、そそそ、そっちこそ何?! どうしたの!」

「いや、私はさっきから呼びかけてたし」


 どうしよう。さっきの聞かれてないよね。ガッツリ独り言つぶやいてた気がするけど、多分小声だったと思うし、最前列と最後列。そんなに声は通らないはず……。でなかったら、わ、私が精神的に死んでしまうかもしれない。

 それを知ってか知らずか。不思議そうな顔で私の顔に近づいてくる。

 ちょ、ちょっと! きょ、今日だけはちょっと勘弁していただきたい! なんというか変に意識しちゃうっていうか、友達のフリ。気づかないふりしなきゃいけないのに、掲示板のことも含めて考え始めたら……。


 やば、緊張してきた。


「な、なんか用?」

「さっちー、あんまりにも大声出してたからクラスメイトびっくりしちゃってるよ?」

「へ、へー。ごめんね」


 できるだけ目を合わせないように顔を背ける。

 やっぱり不思議に思ったのか、背けた先に回って、顔を見ようとしてくるけど、やっぱり恥ずかしいので、もう一回そっぽ向く。

 あー、ダメダメ。そんなつもりじゃないのに、ホントなんなの? それもこれも全部ツツジが悪い!


「ツツジー、まだー?」

「待ってて、もうちょっとで終わるからー」

「……知り合いのところに行ったら?」


 私が死にそうなので、早くそっち行ってください。


 ツツジも諦めたのか、それ以上私と顔を必要以上に合わせようとはせず、知り合いのところに戻ろうとしていた。

 が、戻ると油断していた私に向かって一言。


「掲示板はもうちょっと静かに読もうね」

「っ!」


 あまりにも不意打ち。これを狙っていたのかと言わんばかりのクリティカルヒットに、私はノックダウンせざるを得ない!

 おまけにウィンクまでしてみせちゃって。というか、この掲示板のこと知ってたりするの? 知っててそんなことしてるの?!

 分からない。分からないけど、一本取られたという悔しい気持ちと、初めて見たツツジのウィンクがとっても可愛くて、これは私が落とされるのは時間の問題なんじゃないかって、ちょっと不安になったりもした。


 いやいやいや! 私は友達のままがいいんだもん。こんなことでくじけたりしないし!


 でも掲示板のこと、もし知ってたら、ツツジはどんな顔したんだろう。

 うぅ、聞きたいけど、聞いたら負けな気がする。

 胸の奥にもやもやを量産しながら、朝礼を告げる学校の本鈴が鳴り響いた。

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