第59話:錬金術師のうちはとにかく頭が痛い。
【てぇてぇ】巷で噂のカップル【百合限定】
91.名無しの術士
んん~~~~~~ツツレア以外ありえないwwww
92.名無しの剣士
は?! レアネラ×IPCの子だろJK
93.名無しの芸人
ツツレアはガチだぞ。これから付き合う
93.名無しの術士
だよなー! 同志よ!!
94.名無しの芸人
ビター×ノイヤーを尊ぶと聞いて
95.名無しの芸人
分かるぞ。あれはケンカップルだ
96.名無しの剣士
彼女たち、いっつも喧嘩してるけど、ああ見えて仲良さそうには見えないんだけど
97.名無しの術士
バカ野郎! あえてそう見せてるんだよ! 裏ではズブズブだ!
◇
「バカは休み休み言え、この野郎。っと」
記念すべき第98レス目は、このうち、ビターが奪い去ってやった。
名無しの旅の錬金術師投稿したせいで、上がってたテンションが更にヒートアップしたのか、うちに面倒ごとの質問ばかり飛んでくる。
ったく、何がビター×ノイヤーだ。そういうのを本人の前で言うのが一番愚かしいんだからな。この芸人2人と剣士、術士にはデスポーン直送お届け便でも投げつけてやろうか。
まったく頭が痛い。レアネラと出会ってからいっつもこれだ。だが今日のは格段に悩ましい。それもそのはず。今回はその当人が遊ばれているのだ。
うちだってスルーしたいものならスルーしたいんだが、今回はそういうわけには行かない。何しろうちに恋愛相談を持ちかけてきた相手だ。その行為を無下にすることなど出来ない。
「そういうことだ、ヴァレスト。キミには聞きたいことがたくさんあるんだ」
「どういうことだよ! 離せよ何だこの触手!」
「自白剤でも混ぜればもっと効果があったんだがな」
「なにそれこっわ!」
説明しよう、今の状況を。
うちはあれから捜査を続け、ついにヴァレスト本人にたどり着くことが出来た。というより、名前が割れている時点ですぐに特定できたんだがな。
まぁそれはどうでもいいことだ。今、彼をつないでいるのは《幽獄の束縛》というアイテム。これを使っていると、常に筋力対抗ロールが入るような代物で、要するに硬い縄だ。その硬い縄で彼の四肢を縛っているのだ。多少は触手に見えるが、まぁ問題ないだろう。
「キミ、レアネラのなんだ?」
「なんだ? なんだって言ったか?!」
「あぁそうだ。キミがスレの住人にレアネラを売ったのは分かっている」
「待て誤解だ! 俺は俺の性癖を知りたくて」
「縛り上げろ」
「痛い痛い痛い! ギブギブ!」
んー、なかなか口を割らないな。これではここまで歩いてきた意味がなくなってしまう。腕が紫色になってきた辺りでやめるか。
「強情だなキミも」
「何がだよ! 俺はレアネラの知り合いで、それ以上でもそれ以下でもねぇよ!」
「……しまった。ウソ発見器でも持ってくるべきだったか」
「嘘ついてねーよ!」
まぁ嘘を付く理由もないか。ちょっとだけ縄を緩める指示をすると、安堵したのかヴァレストの顔も安らかな顔になる。
「引き合いに出した俺も悪いが、あそこまで広がるとは思ってなかった」
「はぁ……」
「なんでそこまでため息つくんだよ」
「いや、なんでもない」
こんなデリケートな時期に、よくもそんな面倒くさいことができるな、キミはと感心していたところだ。
友達と恋人の間で揺れ動く乙女の感情など知らないと言わんばかりに、外部に言いふらすんだからな。大したもんだよ。ま、こいつには言わないがな。
「俺は心から見守りたいと思ってるだけでだな」
「だったらもっと賢いやり方はあったろうに……。見ろこれを」
先程のスレを見せてやると、元気だった顔がみるみる青くなる。まぁそうだろうな。
「これ、お前までカップリングにされてるぞ」
「うるさい黙ってろ」
「いだだ! 悪かった! 悪かったよ!」
縄を締め上げると、いよいよ腕が紫色になってきたようだ。そろそろやめるか、こいつも反省しているみたいだし。
《幽獄の束縛》を解いてやると、床に倒れて、そのまま動かない。なるほど、そんな効果もあるのか。
「腕疲れた……」
立てないだけらしい。
「後で最初に立てたスレは消しておけよ。その後のは、まぁ、本人が見ないことを祈るしかないな」
「なぁ」
「なんだ」
顔だけうちの方に向けると、なんかアザラシみたいだ。割とそんなことどうでもいいみたいな雰囲気してるからあえて黙っているけど。
「なんでそこまでレアネラに肩入れするんだ?」
「何がだ」
「知ってるぞ。お前、面倒なことは嫌いなんだろ? だったらなんで」
そんなこと、キミに言われるまでもない。なんだったら最初から面倒だと思っていたよ。
だけど、答えなんて最初から出来ていたんだ。それを言わないだけで。
「あいつは面倒くさい奴なんだよ。交渉出来なくて、決して要領がいいとは言えなくて、そのくせ人との接し方が下手くそで、いっつも自分に素直になれない、そんな奴だからだよ」
「どういうことだ?」
「できる限り力になってやりたいってことだ」
「ふーん……」
「なんだ、その目は」
疑り深い目でうちを覗いてくるが、大して変なことは言ってないと思う。まぁ恥ずかしいことを言った覚えはあるがな。
「お前も大概面倒くさい奴だなって、思っただけだ」
「うるさい」
「分かった。これ以上外には漏らさない。ただ俺の性癖は諦めないからな」
「好きにしろ」
本当に、この世の中は面倒なことだらけだ。
だが、それを避けて通れるほど、器用でもない。だからうちは今日も面倒事を引き受ける。ったく、もうちょっとうちに優しい世界だったら良かったのにな。
◇
「ビビビ、ビター! なんですのこのスレは!」
「帰れ」
「この、びたー×のいやーってわたくしたちのことではなくて?!」
面倒事がここにも1つ。今度はなんだよ、今いいところなんだから、後にしてもらいたい。
「エゴサして、ヒットしたと思ったら……、ちょっと聞いてますの?!」
「聞いてない」
「ムキー! 聞きなさいよ!」
あー、身体を揺らすな。ただでさえ慎重な調合が台無しになってしまう。
今集中しようとしてるのに、こいつは本当に毎回毎回……。
「ねぇ、ホントはわたくしのこと、どう思ってますの?」
「……はぁ?」
その、いつもの気迫がまるでないか弱い女性のような声がしたと思えば、ノイヤーが潤んだ瞳をこちらに向けている。こいつ、そんなことで動揺するような奴だったのか?
前から年齢は低そうだとは思ってたが、まさか初恋だとか思い込んでるんじゃないだろうな。
流石に見た目だけは麗しき美少女なんだから、そういうことをされると、集中力が切れてしまう。別に見惚れてるわけじゃないが、この姿に少しだけ可愛いと思ってしまったわけで。バカかうちは。
「どうなんですの?」
「……ライバル以外にありえるか?」
「…………」
うちらの関係といえば、これしかない。
ありえないのだ、こんな少女がうちに惚れるなど。あってはならない。
逆もしかり。惑わされてはいけないのだ。他人は他人。自分は自分なんだから。
「ですわよねー! 安心いたしましたわー!」
また一周回って普段のテンションに戻ったノイヤーがうちの背中をドンドンと平手打ちしてくる。
痛さと、調合が失敗したことへの後悔も込めて、うちはこいつにグーパンすることにした。
「なんですの?! 乙女の顔にダイレクトアタックなんて、言語道断ですわ!」
「うるさい! キミのせいで調合が台無しだ! どう責任をとってくれる!」
「あらあらあら~? わたくしの魅力が伝わったようですわね~?」
「黙ってればいい気になって……っ!」
「ちょ、ちょっと。その手に持ってるいかにも危険そうな爆弾は、なんですの……?」
「《次元爆弾》といってな。大層威力があるんだ。何遠慮するな。キミで試してやろう」
「《瞬間テレポート》!」
スキルを宣言すると、次の瞬間には光とデータのエフェクトだけが表示されて、そこにノイヤーはいなかった。
はぁ、やっといなくなったか。まったく。今度はもうちょっとマシなタイミングで来てほしいものだ。
「これは、レアネラがどうなるか心配だな」
またうちに面倒事が舞い込んでこないことを祈るしかない。
頼むから本人に見つかってくれるなよ、例のスレ。




