第57話:勝っても私は好きが分からない。
初の感想、まことにありがとうございます。
嬉しすぎてリアルで叫びました。
「私も、さっちーが好き」
ツツジが、私に向けている感情に気づいたのはその時だった気がする。
多分、私の好きとツツジの好きは違う。
私は友達として。でもツツジは……。
「ああああうううううううんんんんんん」
ログインした私はビターのアトリエで虚空に向かって唸りを上げる。
その声にびっくりしたのだろう。ビターの小さな肩がピクリと揺れた。
「来てるなら言ってくれ」
「魔法陣光ったじゃん」
「光っただけなら誰だって来るだろ」
今はそれどころじゃないっていうのに。
幸いなことに、今日はツツジがログインしていないみたいだった。
まさか、ゴエモンの正体があのツツジだったことや、私に見てもらいたくて? アザレアを誘拐したこととか。確かに1人で消化するにはちょっと重たい内容だろう。
私だってあの場ではああ言ったけど、今でも動揺が止まらないわけで。
――でも一番動揺したのは。
あの言葉だった。好きっていう言葉は卑怯だと思う。今までそんなこと、考える必要ないと思ってたのに。
いきなり恋愛だなんて、そんなの戸惑ってしまう。
「好き、かぁ……」
「どうした、誰かに告白されたか?」
こういう話にはあんまり乗ってこないと思ってたんだけど、意外とビターが食いついた。まぁ告られたわけじゃないんだけどさ。
「好きなの、そういう話」
「そういうわけじゃない。ただ色恋沙汰なんてまだ早いと思ってた奴がそんな乙女の顔をするとは思わなくてな」
「んなっ! 乙女って!」
そんなこと初めて言われた気がする。多分顔赤いな、私。
「で、誰なんだ?」
「……秘密にしてくれる?」
「これでも口は固い」
「見た目通りだね」
「そうか?」
うん、と首を縦に振る。
見た目ちっちゃいけど、そういう雰囲気は大人っぽいし、なんというかただの子供体型には見えないんだよね。ちゃんと色気はあるし。それを出そうとは思ってないだろうけど。
「その……、まだ告白はされてないけど、ツツジに」
「ごっほごほ」
「だ、大丈夫?!」
「大丈夫なわけないだろ! キミ、ギルド内で恋愛ってキミなぁ」
別にギルド内だからとか、そういうのじゃない。
だいたいツツジとはリア友だし。そういえば伝えてなかったっけ。
「ツツジとはリアルでも友達なの。でも……」
「最近様子がおかしいと?」
「ううん。今日、ちょっと別件で色々暴露大会になって」
「なるほどな」
ビターはそれ以上深くは掘り下げなかった。流石にツツジがゴエモンですとは言えないわけで。これは私たち2人だけの秘密にしておかないと。
「まぁそこで感じたのか。ツツジがレアネラのことを好きだと」
「うん。成り行きで」
「はぁ……」
おっと、お得意の肘をついて、頭を抱えるモーションだ! ごめんなさい、いつもいつも相談に付き合ってもらって。今度なにか奢ろう。
「やっぱり女同士の恋愛って難しい?」
「知らん。そもそもうちは恋愛なんてしたことないからな」
「あー、だと思った」
「いてもロリコンだろ、そいつ」
身長140代なら、まぁ確かに。小学生でも通じるからね、うん。
「そもそも女同士の恋愛なんて、周りがざわつくほどのことでもないと思うけどな」
「そうなの?」
「うちはそう思うだけ。周りがどうかは知らないけどな」
やっぱり風当たりは強そうだよね。私だって男の子と恋愛するもんだって思ってたけど、ツツジがそういう風に見てくれたと思ったら、見方が変わってくる。
「結局相手を好きかどうか。どういう関係になりたいかによると思う」
「どういう関係に……」
「キミはどうなんだ? ツツジが好きか、嫌いか」
そんな事言われても、私の答えは一択なわけで。
「好きだけど、それは友達としてって感じで」
「友達、か」
「うん。それに、どうしても今はアザレアのことで頭がいっぱいだから」
「仮にだ。告白されたらどうする?」
告白。そんなこと言われても、多分今は断ってしまうかもしれない。
でもそれは勇気を出してくれたツツジの意思を無駄にしてしまうような気がする。
それは怖い。大切なツツジが傷ついてしまうのは、私も悲しい。
「断っちゃうかもしれない。でもツツジには傷ついてほしくない」
「ワガママだな」
「だって、ずっと友達でいるって思ってたから!」
「難しいよな」
「難しいよ……」
どうすればいいんだろう。私は、彼女とどういう関係になりたいんだろう。
確かに好き。だけど、その好きはあなたと違う。
その好きを受け入れられるか分からない。だから怖い。だから断ってしまいそうになる。でも断ったら絶対ツツジは悲しむ。
なんだ。私って、こんなに面倒くさい女なんだ。
「私、めんどくさいかも」
「今更気づいたか」
「酷い」
「多分ツツジもそれは知ってるだろうさ。でも彼女はそれでも好きになってくれた。それだけは忘れないでほしい」
「うん、分かってるよ」
私には恋愛が分からない。
初恋の相手なんてこの年になってもいないし、好きだと告白されたこともなかった。
怖いんだ、純粋に。そんな未知の感情を向けられて、強張ってる。
「告白されるまで、気づかないふりするしかないかな」
「キミに演技ができるのなら、な」
「無理だよ……」
「でも彼女の思いを無下にはできないんだろう?」
「うん」
でも怖い。だから気づかないふりをして、友達で居続けたかった。
「なら精一杯考えてみることだ」
「最後は投げやりっぽい」
「そんなことない。選択はきっと後悔の連続だ。だが後悔がないように考えろ。それがキミにできる唯一のことだ」
「やっぱり投げやりだよ」
「他人事だからな」
ずるいや、ビターは。
でも後悔がないように考える、か。
いつか告白された日に、私はどう答えることができるだろう。好きか嫌いかなんてのはとっくに出てきてる。でもその好きが、あなたを満足させられるものとは限らない。
だからいつか恋愛が分かるようになったら、最初の恋人はあなたがいい。
一番最初に好きって言ってくれた、あなたが。
だから今は友達のままがいい。あなたの想いに、気づかないふりをしながら。
これで第3章は終了です。
4章はここまで重くはならないです




