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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第3章 あの子の好きが分かるまで
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第55話:仕上がった私は泥棒に絶対負けない。

レアネラVSゴエモン、3章最大の山場です。

 時刻は予定通りの18時。現実世界では夜だと思わせる時間帯も、エクシード・AIランドでは太陽が真上に登る真昼。

 乾いた風と、砂埃が私たちのフィールドを支配する。

 ここは荒野。ゴエモンが決闘の場所に選んだ場所だ。転がる草がコロコロと風に煽られる。


「予定通りの時刻たぁ、大したもんだなぁ」

「そんなことで褒めてくれるんだ。どーも」


 目の前には白い顔に赤いペイントを施した身長が一回り大きい男。その名もゴエモン。その脇には、私の友達であり、守ると誓ったアザレアの姿もあった。


「それにしたってなぁ。見物客がこれだけじゃぁ、盛り上がらねぇ」

「どうせ見られたくないんならこれでいいでしょ」

「そうとも言うなぁ」


 観客はツツジを除いたギルドメンバーとグラムを盗られたヴァレストだけ。他はいない。

 ったく、ツツジの奴。用事があるからって言って来れなかったけど、これで負けたらどうするのさ。いない誰かのことを思っても、ここに来ることはない。しばらくの間忘れるとしよう。


「そんな野郎やっちまえ!」

「そうですわ! ブレイクアンドブレイクですわよ!」

「やれやれ、キミたちは野蛮なことしか言えないのか」


 ヴァレストとノイヤーが罵倒のセリフを叩きつけるが、そんなの風吹く様子で、聞く耳を持っていない。


「ルールを確認するよ。1対1の決闘モードで、勝った方がアザレアと聖剣は私たちの物」

「負けたら、そうだなぁ。彼女は二度と戻ってこないってのも追加だぁ」

「分かってる。アイテムの使用は?」

「ハンデだ、くれてやらぁ。もちろんオレは使わないがな」

「そ。それなら安心した」


 作戦は練った。曰く、決闘モードはレベル差の性能が等しくなる。つまり1戦目のような一撃が致命傷になる展開は避けられる。

 動きは完全に物にした、と思う。ツツジにまだついていけてないところもあったけど、それも戦略でどうにかするしかない。

 そしてビターと2人で考えた作戦もある。作戦というにはお粗末なものだが、決まれば確定で倒せる。そんな代物だ。


 準備は整った。あとは、対決が始まるのを待つばかりだ。

 ゴエモンが設定を終えると、私の手元に決定ウィンドウが表示された。

 決定を押せば、後は戦うだけ。勝っても負けても、アザレアの運命はここで変わる。

 勝ってやる。アザレアは私たちのものだ。あんないけ好かないやつに渡してなるものか。決定ボタンを指で叩く。お互いに決闘の承諾をする。軽く息を吸って、吐いて。よし、私は今から集中する。


 目の前に決闘モード開始のエフェクトが表示され、ゴングの音がなったその瞬間。それを横に斬り裂くよう、ゴエモンが突貫を始めた。


「先手必勝ってなぁ!」


「いきなりですの?!」

「……お願いです、勝ってください」


 逆手に持った短刀が、防御の間に合わなかった私の脇腹をすり抜ける。斬り裂かれた痛みと、減るHP。大丈夫だ。大したことのないダメージ。盾を後ろに振り回して、追撃を防ぐ。

 だが、それを読んでいたのか、身体を後ろに倒してブリッジの状態になるように回避し、起き上がった拍子に更に一撃。ダメージは少ないが、稼がれたら私にとっては致命傷に等しい。1発1発集中しないと。


「なんだなんだぁ? 大したことねぇなぁ!」

「《連槍》!」


 スキルを宣言し、大盾に隠していた槍で攻撃のスキを連撃で射抜こうとするが、それも1発1発の連撃を躱す、もしくは逆手の短刀で勢いをそらし、全弾不発に終わる。スキル硬直を狙って、更に2,3の刃が私を斬り裂く。


「くぅ!」

「おせぇおせぇ! 所詮あんたにゃぁ、そんなもんか!」


 懐に入ったゴエモンは、その場でバク宙をして私の顎を蹴り上げ、後方に移動する。軽く脳の揺れる一撃に、ありもしない脳震盪さえ彷彿とさせる目眩が私を襲う。今はそんな場合じゃない。頭を振って、正気に戻る。だが、既にゴエモンは側面に接近していた。徹底的に盾を避けるつもりか!


「《マジックシールド》!」

「んなのに、なんの意味があらぁ!」


 ゴエモンのいる方向に魔法の壁を張るが、それがすぐ壊れることは知っている。だからわざとそっちに気を回させた。

 シャボン玉模様の壁が短刀によってすぐ壊れても、数秒タイミングをずらせれば問題ない!


「《パリィ》!」

「ぬっ?!」


 数秒の判断が功を奏する。ゴエモンの方に盾を突き出して、インパクト面を敵に向け、押し出すっ!

 スキを突いた一撃は防げない。コンマ数秒の回避など、流石のゴエモンにだってできないはず。確かにゴエモンを押し出した重さと触感が、正面へ吹き飛んでいった。

 転がる男に対して、追撃を入れるべく、地面を蹴り上げ接近する。

 すぐさまゴエモンは体勢を立て直し、そして高く飛び上がった。


「これでも食らってらぁ! 《スラッシュ》!」


 大技の一撃。この手を逃すわけには行かない。自然落下で勢いをつけた斬撃を私は盾を構えて、受け止める。


《オートガードが発動しました》

「厄介この上ねぇなぁ!」

「そっちこそ!」


 槍で追撃を入れるも、スキルを中断して、壁を蹴るように盾を蹴って、後方へ飛ぶ。こんなときにノイヤーみたいな遠距離スキルがあればよかった。だけど、私にはまだ作戦が残ってる。


「そぉら行くぜぇ! 《超加速》!」


 ジグザグに超加速で接近してくると、それこそ分身しているようにしか見えない。どっちに来る。左か、右か。今が作戦の発動時かもしれない。盾で隠すようにアイテム欄から、アイテムを1つ取り出すと、ゴエモンが接近したのを皮切りに地面に叩きつける。


 それは、けむり玉。着弾した周りが白い煙で覆われ、近くにいても見えなくなってしまうという恐ろしい効果付きだ。そしてこの煙の中なら、連撃なんて避けようがない!これでおしまいだ!


「《連槍》!」

「っ!」


 接近してきた方向に5連続の突きを放つ。一撃でもヒットすれば、HPは大きく削れる。3発でも当たれば即ゲームセットのはずだ!

 煙をかき分け、矛先が何かをかすめる。引っ込めて2発目。胴体と思しき場所にヒット。3発目は空振り。4発目には肩を、最後の一撃は腹部にクリーンヒットする。


「やったっ!」

「奥義《空蝉》」


 データの破片に砕かれたはずのゴエモンが、霧のように消滅する。同時に背後から数回斬られ、最後に膝の裏を斬り裂かれると、力が抜け、地面に膝をついてしまった。


「なんで?」

「オレの奥義だ。ま、いわゆる残機ってやつだな」


 してやったと思ったはずだったが、化かされたのはこちらの方だった。

 背後から迫るゴエモンが、首元に短刀が突きつける。


「今度は念入りにやらねぇとなぁ。《不屈の闘志》も意味ない程度には」


 考えろ。考えることをやめるな。私ができるのは、いつだって諦めないこと。こんな状況でも諦めてはいけないこと。

 盾と槍。この2つでできること。スキルのリキャストを見てあると確信した。一か八か。意表をついて、そのまま攻勢に持っていく戦術が。

 盾を握る手を強めると、そのスキルを高らかに宣言する。


「《パリィ》!」


 今度は私の後ろに飛ぶように、中国拳法の鉄山靠のように衝撃を後方に飛ばす。


「またっ!」

「まだだっ!」


 地面を強く踏み、上体を起き上がらせて、ゴエモンが立つスキを与えないべく、痛む足を無理やり前に出す。

 幸いにも不意の一撃が効いたようで、相手はまだ起き上がれない。だったらそのまま寝てて!


「《絶影》!」


 ゴエモンも倒れる身体で無理やりスキルを発動させて、斬撃エネルギーを私に向けて飛ばす。

 このまま盾で受け止めたら、間違いなく速度が遅くなって立ち上がるスキを与えてしまう。だったらそのまま受け止める!


「くぅっ! まだぁ!」

《不屈の闘志が発動しました》


「レアネラさん!」


 斬撃波に斬り裂かれても勢いは落ちない。いや、落ちてたまるもんか!

 あんなに泣きそうな声を上げながら、それでも私の名前を呼んでくれたあの子の、アザレアのために、私は――ッ!


「《スラッシュ》!」


 もはや距離は目と鼻の先。体勢を整えきる前が勝負。立ち上がろうとするゴエモンは最後のカウンターをするけど、今度は受け止める。いや、受け流す。


《オートガードが》

「うわぁああああああああ!」


 発動しそうになるオートガードを食い破るべく腕を力いっぱい動かす。もはやこれはゲームシステムへの反逆だ。でも。だったとしても! 私はアザレアを諦めたくないんだ!

 動け。硬直のスキを狙われたら私は死んでしまうんだ。

 動いてよ。私はアザレアを取り戻さなきゃいけないんだ。


 動けッ! 私は、アザレアと一緒がいいんだッ!!


「動けぇええええええ!」

《オートガードが》

《中断しました》

「なっ?!」


 受け止めるはずだったスラッシュの勢いは無理やり盾で突き動かされ、空中へ放り投げだされる。

 呆けた顔。思考を完全に停止させたゴエモンはスキだらけだった。今なら、一撃入れられる。確実な死を、この一撃に込めて。行っけぇええええええええ!


「《アンブレイカブル・リベリオン》!」


 叫んだ奥義の名は、相手を殺す唯一無二の武器。自分のHPが相手よりも低いなら威力を増す反逆の刃を幾倍にも跳ね上げた奥義は、赤と黒の螺旋を描きながら、私の槍に纏う。狙いはゴエモンの腹部。

 貫け、相手が呆けたまま。

 急げ、相手が気づく前に。

 突き刺せ! この一槍にすべてを込めて、かき分け突き進め!!


「くそっ!」


 打ち貫いた身体の内部から、赤と黒のエネルギーが爆散する。

 ゴエモンを引き裂かんとすべく放たれた光は、周囲を眩しく輝かせると、徐々に現実に戻っていくように消え去っていった。


 後に残ったのは、貫かれたという事実を未だ受け入れられてないゴエモンと、ウィンドウに映ったWINの3文字だった。


「はぁ……はぁ……勝った……?」

「勝った」

「あぁ、勝った!」

「レアネラが勝ったぞ!」


 ノイヤーが私にダイブしてくる。状況も分からないまま勢いの良さに地面に押し倒された私は、ひどく開けた空と、みんなの顔を目にする。みんな、嬉しそうだった。


「やったな、レアネラ。やってくれると信じていたよ」

「まさかゴエモンを倒すとはな!」

「いや、俺のほうがつえーし!」

「ヴァレストはそうでもしないと自分を保てませんのね」

「なんだと?!」

「あ、あはは……」


 体の力が抜けていく。あぁ、ホントに勝っちゃったんだ。なんか、もう立てる気がしないや


「オレの負けだ。約束通りあざれあと聖剣は返そう」

「ホントか?! やったぞ、レアネラ! 俺の聖剣!」

「レアネラさん……」

「アザレア……よかったぁ……!」


 力の抜けた身体で無理やり上体を起こして、アザレアを力いっぱい抱きしめる。あぁ、この暖かさ。間違いなくアザレアだ……。


「大丈夫? どこも痛くない? なにかされてない?」

「いえ、大丈夫です。あの方は粗末に扱いませんでしたから」

「え?」


 それは意外だった。まさかゴエモンが何もしていなかったなんて。

 当の本人は私たちに背を向けて、ログアウトの準備を進めているみたいだ。


「待って!」

「……ごめん」


 ゴエモンは、その言葉だけを残して姿を消した。

もうちょっとだけ続くんじゃよ(後2話ほど)

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