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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第3章 あの子の好きが分かるまで
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第54話:ゴエモンの私は彼女を渡したくない。

ゴエモン目線の独白です。

どんな思いを抱いて、彼女を襲ったのか

「はぁ、つっかれた」


 レア、もといさっちーとの特訓の後、私は1人ログアウトして、意識をリアルに戻す。


「いちいちアカウント切り替えるのめんどいなぁ。でもツツジの方でやるわけには行かないし」


 なんて言いながら、手元を動かしてツツジのアカウントからとあるアカウントに切り替える。誰にも見られてはいけない、知られてはいけない私の、ツツジのもう1つの顔。


「ダイブスタート」


 意識はもう一度電脳世界の中へ。0と1の境界を超えて、データの中から意識を取り戻す。


「おかえりなさいませ」

「ありがてぇ限りだぁなぁ!」


 このゲームは性別も体格も変えられる。身長180センチを超える体格も、女を捨てて男としてログインしているこの身体も、全部自分の悦のための代物だ。

 あとは態度と仕草を変えてやればあら不思議、本物とは行かないけど、れっきとした男性の完成だ。


「しっかし面白い嬢ちゃんだよなぁ。誘拐されたっつぅのに、平然としてよ」

「あなたは他人な感じがしないので」

「へぇ、IPCが感覚に頼るのか」

「おかしいでしょうか?」

「他のIPCならそうだろうがな、お前さんは違うって感じんだよ」


 椅子に座ったアザレアはいつもみたいに人形みたいにちょこんと座っている。さっちーはこの子になんで入れ込んでるんだか。


「ちょいと外の空気を吸ってくる。逃げるんじゃないぜぇ?」

「分かっています。私は人質ですから」

「お、おう。どうにも調子が出ねぇなぁ」


 部屋を出て、屋根の上に登って座る。タバコなんて吸えないけど、口が寂しいからスティックキャンディーをデータの海から取り出して、口の中に放り込む。今日はグレープ味か。


「どーしてさっちーのこと、好きになっちゃったんだろ」


 ――私は孤独だ。


 これでも喋れる知り合いはたくさんいるし、一緒に遊ぶことだって多い。当然一緒に遊んで楽しくないか、って言われたら楽しいとは思う。でも心の中では何か足りなかった。

 ある日、気づいたことがあった。

 それは私が中学生の時、トイレに行った帰りのことだ。みんな、私を除いてワイワイ喋り合ってるんだろうなー、なんて思って帰ってきたときだ。

 みんな、喋っていなかった。黙々とスマホをイジったり、鏡で自分の髪を整えたりするだけ。

 そう、私たちはみんな友達なんじゃなくて、私の友達だと思っている人たち。私が中心のグループで、みんなはその取り巻き。

 みんな上っ面だけで私と会話してて、他の子たちはただの他人だと思ってるだけ。それに気づいたとき、どうしようもなく1人だと思った。彼女たちは、理想の私を見てるだけで、私に触れようとはしないことに。


 息苦しい。そう思った。


 寂しい。そう思った。


 孤独は寒い。寒くて寒くて、凍えそうで。ここから出たいと思ってた。

 1人でもがいていた。ここから出たい。ここから出してくれって。

 だから、親にも姉にも無理を言って誰も知らない、私を知らない高校を選んだ。ここなら私に触れてくれる。寒い場所から出られると思って。


 理想は砕けた。やっぱり私を中心としたグループになった。一歩引いてたはずなのに、それなのにこうなった。


 どうして。私は思った。


 私は勉強も大したことないし、お金持ちでもないし、権力なんてありもしない。

 運動がちょっとできるぐらいで、スタイルも少しいいだけ。それだけなんだ。


 周囲に絶望していた。何もかもうまく行かなくて、何も変わらなくて。


 私は、私に触れてくれる人を探した。私が孤独でなくなる相手を見つけたかった。

 その時だった。私が彼女の視線を感じたのは。


 ルビーのような瞳。ちょっと赤みがかった黒くて細い髪の毛は、とても美しくて。

 その後の足を机にぶつける音で、我に返って思わず笑ってしまった。


 それが、彼女の、吉田幸歩との出会い。


「あの時のことは今でも笑えるなぁ」


 衝撃的、なんてものはない。ただ偶然私を見ていたんだと思う。いつも一人ぼっちの彼女の目は、ちゃんと私を見ていた。

 話してみれば、ちゃんと話せる子で調子に乗って名前まで呼んであだ名もつけたりしてしまった。流石にグイグイ行き過ぎたと反省してるけど、彼女の反応が面白くて、どんどんのめり込んでいった。


 だから、特別、なんて言葉を使ったのかな。今までになかったことだから。

 だから、同類、なんて言ったんだろう。私と同じ孤独を持つものとして。


 彼女はエクシード・AIランドをやっていた。これは偶然というより、運命とさえ思った。

 私は日頃のうっぷんを晴らすために、日夜辻決闘という形でそのゲームにやっていた。でも、流石に男のアカウントを使ってるなんて言えるわけもなく。


 会話した夜、速攻で別のアカウントを作成した。名前は面倒だったし本名ってバレないだろうし、ツツジと名付けた。

 その夜から必死にレベル上げとスキル回収。アイテムや武器も集めたっけ。大変だったな。


 だから一緒に遊ぼうと言われたときはすっごく嬉しかった。友達と遊ぶだけなのにこんなに嬉しいなんてことがあるとは思ってもみなかった。

 デートも楽しかった。途中変なのに捕まったけど、それもまた楽しくて。

 ギルドの誘いも嬉しかった。試すような真似をしちゃったけど、それはご愛嬌ってことで。


 でも、アザレアだけはどうしても好きになれなかった。

 さっちーは常に彼女を見ている。その視線は私を見て、私に触れるためだって思ったら、胸の奥から黒いもやもやが吹き出していった。


 必死に、必死に覆い隠そうとした。心の中のモヤを瓶の中に詰め込んで、それが表に出ないように、ギュウギュウに押し込んで。それでも漏れてしまう。それでも溢れてしまう。


 分かってる、これは嫉妬なのだと。私は予想以上に吉田幸歩という女の子が好きなんだって分かった。


「だからかなぁ。こんな作戦を練ったのは」


 アザレアを誘拐して、さっちーの視線を独り占めしたいと思った。結果は大成功だし、こうやって特訓に付き合ったり、デートしたり、とても充実した毎日だった。


 でも分かってる。この日々には終わりが来るって。

 あと2日。彼女との決闘が終わったら、アザレアをどうするか。

 もちろん負けるはずないって思ってる。アザレアを誘拐したときも私に攻撃が一切当たらなかったんだから。このまま幽閉するのもいいかもしれない。でも私の良心も同時に揺らぐ。

 ずっとこのままがいい。でも私のやったことは許されないことで。その過ちを許してほしくて。

 現状維持と良心の間で、私は揺れ動く。

 今日も夜が訪れた。もう月が何回出てきたら、現状維持の日々は終わってしまうのだろうか。怖くて、たまらない。


「ずっと、このままでいたらいいのに」


 私は吉田幸歩が好きだ。友達としてではなく、1人の女の子として。

ゴエモンは石原ツツジの本垢です。

幸歩と遊ぶためにツツジというサブ垢を作成しています。


エクシード・AIランドは推奨こそはしてないが、ネカマネナベができたり……。

その時声も見た目も変えられるので、文字通り別人になれたりします。

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