第52話:リアルの私はあいつにリベンジしたい。
ツツレアデートします
昼間の1時。いつもなら引きこもってゲームをする時間なんだけど、今日は別の目的があってショッピングモールの有名な待ち合わせ場所にいる。
「おまたせ、待った?」
「ううん、全然」
ツツジと待ち合わせ場所に来ると、ご定番のセリフの応酬でお互いに吹き出してしまう。
「さっちーテンプレすぎ!」
「そっちこそ! 彼女気取り?」
「うっさい! そっちこそ彼氏気取りじゃん!」
あははと、お腹を抱えて笑っていると、アザレアのことが少し軽くなった気分になる。涙まで出てきたけど、指で拭って笑いが収まるのを待つ。
そうしてしばらくして、話を始めるべく、ちょっと真面目な顔で一言。
「今日はありがとね」
「なーに、急に改まっちゃって」
「だって昨日、深夜にライン送っちゃったから迷惑じゃないかなって」
「なんだそんなこと? さっちーなら無問題だよ」
なんというか、ツツジは私に優しすぎる。いつも相談に乗ってもらって、私からは何もしてないのに、それでも今日も相談に乗ってもらうつもりだ。なんて図々しい女なんだ私は。
「じゃあちょっと喫茶店にでも行こ。どこがいいかな」
「ここからだったら、外出たほうが早いかも」
「じゃあそっちで」
ツツジの言うとおりの喫茶店に行くべく、とりあえずショッピングモールを出ることに。この夏の暑い日にクーラーのない外に出るのはちょっと億劫だけど、ツツジおすすめのカフェなら行く価値はあるかな。
そういえば今日のツツジの格好、かわいいなぁ。
デニムのワンピースにノースリーブのブラウス。ブラウンのポシェットと、髪の色と相まってかなり清涼感がある。せっかく会えたんだし褒めようかな。
「今日の格好かわいいね」
「そ、そうかな」
「うん、涼しそう!」
「ま、まぁ涼しいけどさー。褒め言葉はもうちょっとなかったの?」
「でも具体的に褒めたらガチっぽくて嫌じゃない?」
「私は嫌じゃないよ!」
「うわー、ガチっぽい」
「そんなこと言って、さっちーもかわいいじゃん」
「そう?」
って言っても、あんまり凝ってないんだけどな。ちょっとブカ目の半袖Tシャツに丈の短いショートパンツ。人と会う前提だけど、それでもツツジ相手ならラフでいいかなって。
「さっちー、なまじ身長だけは大きいから栄えるんだよね」
「だけって何さ。胸だってそれなりにあるでしょ!」
「てか身長何センチ?」
「話そらしたなぁ? 前の身体測定のときは161ぐらいだったっけな」
「でっか」
「言っても、ツツジもそのくらいあるでしょ」
私の一回り小さいぐらいだし、150後半何じゃないかっていう推察。まぁ、胸の方は私の方が大きいんですけどー。
「なんか負けた気分。ほら行くよ!」
「あーはいはい。めんどくさいなぁ、もう」
この暑い夏。路面からの照り返しがひどくて、もうホント汗ダラダラ。はぁ、これだから夏は嫌いなんだよ。もちろん夏休みは好きだけどさ。もうそろそろだったはずだし、そしたらゲーム三昧かな。
そうして蒸し暑い外を歩いた後にたどり着いたのが喫茶店。
カランカランとドアのベルが鳴ると、中からクーラーの冷たさが身体に染み渡る。あー、これだよこれ。冷房症にはなりたくないけど、やっぱり人間20℃前後の気温が心地いいんだよ。椅子もひんやりして気持ちいい。
「私、アイスコーヒーで」
「アイスティーお願いしまーす」
注文を取り終わった店員が店の奥に戻っていく。周りを見ると、時間帯がやや昼寄りだからか、人はそれほど入っていない。これなら相談には丁度いいかな。
「それで、相談って?」
「あのね。ツツジに1週間、特訓に付き合ってもらいたいの」
「特訓?」
「うん、アザレアのことは知ってる?」
「ノイヤーから聞いたよ」
どうやら朝にログインしていたみたいで、ある程度のことは知っているみたいだ。なら話は早い。
「で、なんで私? ノイヤーでもよくない?」
「ツツジじゃなきゃダメなの」
「なんでまた」
「ゴエモンの動き方が、なんとなくツツジに似てる気がするんだ」
「……っ!」
ツツジが驚いたように顔をこわばらせる。別に怖がらせるつもりはなかったんだけど。
――ゴエモンとツツジは似ている。
それは武器が同じ逆手の短刀なのではなく、動きもなんとなくそっくりなんだ。
ゴエモンもツツジも、狙うとしたら盾を避け、懐に入り攻撃。その後距離を取って、もう一度攻撃、といったヒット・アンド・アウェイを基本としている。
もちろんゴエモンの驚異的な回避力がツツジに備わっているかは分からないけど、それほどの動体視力と回避力を持っていると思っている。
以上のことを判断して、特訓するならツツジが一番だと思ったのだ。もちろん彼女が許諾してくれることが前提だが。
「そっか、ゴエモンが私に……」
「どう、かな? 引き受けてくれたら嬉しいんだけど」
消えるような小声で何かをつぶやいている。口元を隠しているけど、なんとなく動いてるのは分かる。いったいなんだろう?
「おまたせしましたー」
「ありがとうございます」
私にアイスコーヒー、ツツジにアイスティーが行き渡る。
ミルクと角砂糖を入れて、コーヒーの変化を楽しんでいると、私をまっすぐ見つめて、真剣な眼差しで私を見る。この表情、前に見た気がする。いつだったっけなぁ。
そう考えていると、ツツジの口が重々しく開いた。
「さっちーはさ、アザレアのこと好き?」
「……っ! げっほげほ。突然何?!」
思わずコーヒーを吹き出しそうになったのを必死でこらえた。私、偉い。むせたけど偉い。
そんな真面目な顔で、好きって、何さそれは!
「答えて。好き?」
そんな真面目な顔されても……。ちょっと気恥ずかしくなってしまうけど、ここは正直に話すべきところだ。私も真面目な顔に直して、真剣に答えるとしよう。
「うん、好きだよ。だって、私の友達だもん」
「……そっか」
「そうだよ。私はアザレアが好き」
「……妬けちゃうなぁ」
「え?」
もしかして、今のツツジの地雷だったんじゃ? いやいや、そんな罠を仕掛けるような子じゃ、ないと思いたいなー。
「ううん。仕方ないから協力してあげるってこと!」
「ホント?!」
「ホントホント。私の戦い方を1週間でマスターさせてあげよう」
「頼もしい!」
でも今はいつもの太陽みたいな笑顔だし、何だったんだろう。そのときの表情はとてもせつなそうで、今にも何かが溢れ出してしまいそうな顔だった。
いや、いいや。今はツツジと一緒にいるんだ! 一回置いておこう。
「じゃあまず基本的な戦い方なんだけど……」
それから3時間ほど経過した。ツツジも最初こそ乗り気ではなかったけど、最後の方はホントに熱が高まってきたのか早口で、とてもじゃないけど聞き取れるかどうか分からないほどだった。ホントに決闘に詳しいんだなぁ。
「って、もう4時!? そろそろ出る?」
「うん、流石に門限がヤバそう」
「私も……」
「ここは私が奢るよ!」
「いいの?」
「むしろ奢らせて! ツツジにもらってばっかだし、これくらいはね」
会計のために席を立つと、後ろから少し小さめの声で「もらってばっか、か」と聞こえた気がした。そうだよ、もらってばっかなんだよ。だからなけなしのお小遣いを割いて奢ってあげてるんだ。およよ、結構痛い。
「あっつ。やっぱ西日が辛いね」
「クーラーが恋しい……」
夕方とは言えどもやっぱり夏は暑い。太陽も傾いてきて、より日差しがきつくなった気さえする。
私は電車だけど、確かツツジはバスだったから、もう一回待ち合わせ場所まで戻って、そこで解散かな。よく考えればツツジと一緒に出かけたの今日が初めてだったりするかな。だとしたらずっと喫茶店で喋ってたから、なんだか申し訳ない気分だ。
「さっちー、私のことも好き?」
そんなことを考えてたら、突然ツツジから大型の爆弾が飛んでくる。なに? 最近のトレンドなのそれ。私は迷いなく、それを伝えることにしよう。
「当然だよ。ツツジも大切な私の友達なんだし」
「まぁ、そうだよね」
「不満?」
「そんなことないってば! 嬉しいけど、足りない、みたいな?」
「めんどくさっ!」
「そのめんどくさい女に特訓してもらってるのはどこの誰ですか?」
「私だー!」
「あはは!」
気がれなく冗談が言い合える仲。っていうのは今までいた事がいなかった。私はずっと1人だったから、そんな思いできるなんて思ってもみなかったけど、ツツジがそれを教えてくれた。
「こんなこと言えるの、ツツジだけだからね」
「っ! そ、そう」
今、私めっちゃ恥ずかしいこと言った気がするけど、それは置いておこう。
誤魔化すために私は彼女の顔を見ようとするけど、ツツジはそっぽ向いた。この子も照れてるのかな?
「ありがとね、ツツジ」
「……うん」
あーあー、耳まで真っ赤になっちゃって。それは夕日に照らされてるだけなのか、それとも照れちゃってるだけなのか。私は不思議と悪い気分じゃなかった。昨日、私は寂しがり屋だって教えてもらって、いつの間にか1人じゃないってことを知った。
だから今日お礼が言えたのかとっても嬉しいんだ。これからもよろしくね、ツツジ。




