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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第3章 あの子の好きが分かるまで
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第51話:奪われた私は失意に呑まれたくない。

「1週間……」


 私とノイヤーはそのままギルドホームに戻ってきた。アザレアが誘拐されたまま。

 私は、無力だった。あのゴエモン相手に手も足も出なかった。あの場では自分を鼓舞してたし、ノイヤーの援護があったからこそ、最後の一撃は命中したけど、それは偽物だった。用心深すぎる性格が相手にはあった。だから最後の最後にあいつの思うがままに……。


「レアネラ、大丈夫ですの?」

「これが平気そうに見える?」

「……すみません」


 謝んないでよ。八つ当たりしていいはずないのに、こうやって他人に当たってる。こんなの私じゃない。


「とりあえず、紅茶を入れますわね」

「うん、ありがと……」


 リビングの椅子に腰掛けて、1人天井を見上げる。

 どうして、あんなことしちゃったんだろう。アザレアが危ないってことは最初から分かってた。ならもっとそばにいて守るべきだったんじゃなかろうか。

 後悔してももう過去は戻らない。時間は戻ってこない。アザレアは、私の友達は奪われたまま、帰ってこない。


「どうぞ」

「……落ち着くね」

「ハイビスカスティーですわ。気持ちを落ち着かせてくれますの」


 カップに口をつけて、ゆっくりと味わう。徐々に落ち込んでいた気持ちが穏やかになっていく。そんな場合じゃないのに。今もアザレアは怖い思いをしてるはずなのに、私はこんなところで落ち着いている場合じゃない。

 カチャリと、カップとソーサーが重なる音だけが聞こえる。それ以外は時計の音だけ。もう時刻は1時になろうとしている。夜ふかしなんてしちゃダメなのに、今日だけはログアウトしようっていう気分にはならなかった。


「レアネラ、申し訳ございません」

「……ノイヤー?」

「わたくしがもっと早く気づけていれば……」


 ノイヤーの口から、そんな後悔の言葉が紡がれる。

 いらないよ、そんな言葉。たらればじゃん。あなたが謝る必要はない。


「そんな事言わないで」

「ですが」

「今だけは! ……それ以上言わないで」


 私だってもっと早く倒せればとか、もっと効率が良ければとか、ちゃんと戦えたらとか、遅れてやってくる後悔だけがどんどん募っていく。でもそれはもう果たせないこと。後悔は遅れてしかやってこない。


「……」

「……」


 沈黙だけがギルドホームを支配している。時計の針の音は1秒毎に刻まれてるのに、私たちの時間は止まったままだ。

 紅茶をもう一度口にする。暖かい。ノイヤーに気遣われたのに、こんな態度じゃ、愛想尽かされてしまうかもしれない。

 そう思ったら急に怖くなった。またいなくなってしまうんじゃないかって。私の前から、また誰か去ってしまうって思ったら、震えが止まらない。


「ノイヤーは、いなくなったりしない?」

「レアネラ……」


 気づけば口にしていた。そんなことありえないのに。いや、ありえないなんて決めつけたらだめだ。人は悪いところを見たら嫌いになる。対人経験が少ない私でも分かることだ。それがノイヤーに分からないはずがないんだ。


「意外なことを、おっしゃいますのね」

「びっくりした? 私の悪いとこ」

「……びっくりしましたわ。レアネラは寂しがり屋ですのね」

「え。……うん、そうかも」


 初めて言われた。親の転勤で友達がいなくなっても、何も思わなかったはずなのに。出会いがあれば、別れも必ずあると思ってたのに。だからその時だけ全力で楽しもうって、思ってたはずだった。


「考えてみれば自然ですわ。こんなに一緒にいる人が多いんですもの。そうなる気持ちも、分かりますわ」

「弱くなったんだよ、人と、アザレアと接して」


 人は強くありはするけど、弱いところだって絶対存在する。私はアザレアと、ツツジと、みんなと出会って、別れが曖昧なものになって、弱くなった。

 ネット上にだって。いや、ネット上だから別れなんて当たり前なのに。それを今更忘れてしまっていた。思えば、こんなに仲が良くて、あんなに長い時間一緒にいる友達って初めてなんだ。


「人はそう簡単に弱くなったりしませんわ」

「そんなことない。実際、ノイヤーは強いよ。くじけてもすぐ立ち直って」

「わたしが、そんな風に見えましたか?」


 ノイヤーは真っ直ぐに私を見ている。いや、ノイヤーというフィルターを通して、むき出しの彼女がただ真っ直ぐに私を見ている。

 思わず顔をそらした。その愚直さが今はとても居心地が悪い。


「でしたら、わたしとしては大成功ですね」

「少なくとも、私からはそう見えたよ」

「だったら人は変われるんです。わたしみたいに」

「私は、リアルのノイヤーのこと知らないから」

「言ってませんからね。でもわたしみたいに、内気なわたしを変えたいと思った。わたしは、わたくしになって付け焼き刃の強気なわたくしになれましたわ」

「それは……っ。ノイヤーが強いから」

「ならレアネラにだって、強いところはありますわ」


 私の、強いところ?


「決して諦めないこと。わたくしはこれに嫌というほど付き合わされましたから、分かりますわ」


 思えば、私は諦めないことが多かった気がする。

 熊鍋のときも、ノイヤーのときも、ギルド結成のときも。

 ビターのときは正直ちょっと例外だけど、それでも私は諦めなかった。


「悔しくないんですか? あんなにボロボロにされて」

「悔しくないんですか? あんなに好き勝手されて」

「悔しくないんですか? わたくしは、悔しいですわ!」

「…………わけ、ないじゃん」


 胸の奥がグツグツと煮えたぎってくる。お前はそれでいいのか? このままで本当に良かったのかって、心の中の私が叫んでる。

 後悔だとか、寂しいだとか、そんなの、今はただの言い訳に過ぎない。

 怖いんだってのはホントだ。だってこの手からすり抜けた彼女が今も怖がってるって思ったら。リスポーンして、怖いご主人さまの元に言ってしまうって思ったら、居ても立っても居られない。


「悔しくない、わけないじゃん! あんな訳の分からない奴に、私の友達を奪われるなんて、まっぴらごめんだよ!」

「では、やりたいことは見据えられましたわね」

「絶対、アザレアを、友達を取り戻す!」


 無作法に紅茶をグイグイ飲み干す。ちょっと気持ちは落ち着いてるけど、今やらなきゃいけないことは、ちゃんと理解した。


「ありがと、ノイヤー」

「この借りは、決闘で返させてもらいますわ」

「今度も勝つから」

「望むところですわ」


 お互いに顔を見合わせて、口元をニヤけさせた。

 さて、私の友達に連絡入れなきゃ。勝つためには、絶対必要なことなんだから。


 ◇


◆さっちー:AM1:32

明日遊べる? 話したいことがあるんだ。

遊べなくても連絡するから。お願い、ツツジ!


◆ツツジ:AM1:51

仕方ないなぁ。話聞いてあげるよ。

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