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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第3章 あの子の好きが分かるまで
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第49話:巻き込まれた私は彼の聖剣グラムがない。

「やば。研磨剤買うの忘れてた。武器の手入れできないじゃん!」


 ある日私は気づいた。武器はある程度自分で調整ができることに。

 もう気づいたときには目から鱗だったよね。たまたま手に入った研磨剤というアイテムを使用すると、攻撃の鋭さが目に見えて違う。これは大発見。神秘の力だよ!

 なお、これを知り合いのツツジやアザレアに言ってみると、これも今更? みたいな顔で私のことを見てくるのだ。分かった、私は普通じゃないって分かったから。


 ともかく、その件の研磨剤だが、武器屋に行けば手に入るとの情報も仕入れた。雀蜂を買ったときに一緒に買っておけばよかったと少し後悔してる。流石に何度もアレクさんのお店に行くのはなんだか気が引けるけど、やっぱり知り合いのお店だからかな。気軽に行けるのはありがたい。


「こんにちはー」

「よぉ、レアネラか! どうした?」

「今日は研磨剤を買いに……って、何あれ」


 指を向けた先には、もはやこの世の絶望とも思える雰囲気の男が、椅子に座っていた。

 訂正。そんな雰囲気を店中に撒き散らして、もしかしたらアレクさんのお店ってそろそろ潰れるんじゃ? なんて思うほどに迷惑極まりないほど、ぶつくさ呪詛のように言葉を唱える知り合いの男、ヴァレストがそこにいた。


「本人に聞いてくれ。正直俺は関わりたくない」

「わかる。私もそう」


 分かってしまう。強く同意してしまう。ただでさえ苦手な人なのに、あんなメンヘラムード漂わせてたら、近づきたくないし、なにか呪いを受けそうで怖い。

 とはいえ、一応知ってる人。浅い付き合いだけど、そんな彼を放っておけるほど私も悪魔でない。できるだけデバフを受けないようにソローりと近づいて、声をかけてみる。


「……ヴァレスト、どうしたの」

「グラムが……あぁ、レアネラか。俺を笑いに来たのか?」

「うわ」


 こんなにメンタル面弱かったっけな。少なくとも私が喋ってたときは、それなりに好青年だと思ってたけど、これはちょっと関わり合いたくない。

 そういえば、背中に背負っていた立派な聖剣が今ではヒノキの棒になっている。なんで? 小学生でもその聖剣の価値は分かると思うんだけど、ホントにどうしたんだろ。


「そうか、やっぱり聖剣のない俺はカス。ゴミ以下。ウジ虫の糞だ……」

「聖剣って、あの使ってた剣だよね。なくしたの?」

「このゲームにそんな仕様はない。だけどなっ!」

「ひぃ!」


 急に距離を詰めてきたと思うと、顔が目と鼻の先。い、いやちょっと。顔はいい方なんだからそんなに近づかないでよ。ときめいちゃう。なんて言ってる場合じゃない。肩痛ったい! そんなに力入れなくたって、私はどこにも行かないってば!


「ちょ、痛いって!」

「あ、すまない。やはり俺はゾウリムシ未満の屁だ……」

「自虐のバリエーション多すぎだってば」

「だって、そうも言いたくなるだろ。俺は聖剣を奪われたんだから」

「え?」


 聖剣を奪う? もしかして今ヒノキの棒装備になってるのって、それが原因?


「どういうこと?」

「お前、巷で噂のゴエモンってプレイヤーを知っているか?」

「う、うん。名前だけは」


 アレクさんから聞かされていた名前だ。確か辻決闘を仕掛けて、大切なものを奪うっていうあの。


「俺はそいつに勝負を挑まれたんだ。勝てばゴエモンの姿形の公表。負ければ大切なもの、聖剣グラムを奪うって」

「それで負けたと?」

「うぅ……。俺も本気で戦ったさ。勝てば名誉なことだからな」


 自分の身を賭けたゴエモンは負ければ周知の目に晒される。ってことはそれ以上悪さができづらくなるってことだ。決闘はお互いの承認を得なければできない項目。それ以外でのPKは経験値もアイテムも手に入らない全く無意味な行為。それが分かっててやっているんだ、そのゴエモンは。


「だがな、あいつと戦っても剣が避けていくんだ」

「ん? そういうチートスキル?」

「いや、あれは自力のプレイヤースキルだ。俺の剣をその目で捉えて、自分の体で回避している」

「それって……」


 まるで対人戦に特化したような恵まれた体質とでも言うべきなのか。それとも努力で。どっちにしろ、あのヴァレストがこんなにへこむまでの相手。


「奥義も使ったが、それでもダメージを一撃入れられる程度だ。完敗だよ」

「ヴァレスト……」

「おかげで俺はヒノキのエクスカリバーに逆戻り、ってわけさ」


 その答えを聞く限り、意外と元気そうなんだけど。

 でも、それがもし私の立場だったら。もしも私の大切なものを盗られたら。

 ふと頭によぎるのは武器でも防具でもなく、ただのIPC。アザレアの笑みだった。そう考えると、胸の奥がキュッと締め付けられて、感情が溢れ出しそうになる。私だけじゃない。みんな、大切なものを奪われたらこんな気持ちになるんだ。


 私は一プレイヤーに過ぎないし、レベルもまだ21だけど、それでもヴァレストにはお世話になったし、何より、ゴエモンが許せない。


「ヴァレスト、そのゴエモンってどこに行ったら会える?」

「……レアネラ、お前」

「乗りかかった船だよ。私も取り返すの協力する」

「あ、ありがとう……」

「ううん、ヴァレストにはお世話になったし、これくらいさせてよ」


 正直不安で仕方がない。今すぐ無かった事にして、ここを一目散に逃げるのも手だった。

 でも、私の信念はそんなんじゃ揺るがなかった。むしろ使命感にさえ駆られている。恩返し、なんて言うつもりはない。自分の自衛のために、ゴエモンを捕まえる!


 ◇


「ってことなんだけど」

「マジですの?! そんな。本当ですか?」

「ノイヤー、キャラキャラ!」

「な、なんのことですの? それより、ゴエモンを探すって」

「うん。誰かが囮になって、注意を惹きつけた後にきっちり倒す。二人がかりで」

「それは、可能なんでしょうか?」


 ヴァレストと別れた後、私はノイヤーとアザレアを呼び出して作戦会議を始めていた。

 私の作戦はシンプルだ。囮となった私とゴエモンが戦って、頃合いを見て、ノイヤーが《高等儀式魔術》によって長時間スタン状態にして、その上で撃破する。決闘とは言っても、それはシステム上のことで、1対1でなければいけないわけではない。

 決闘システムを使わなければ、有り余るレベル差をカバーできれば、1対複数の構図が完成できる。それはヘルプと実際の仕様を確認しての推察だ。


「うん、実際に試すのはこれからだけど、多分大丈夫だと思う」

「それで誰が囮に?」

「……そのことなんだけど」


 青い髪の少女の顔を申し訳無さそうにちらりと覗き込む。それを分かっていたのか、私と彼女の目線がしっかりと交わされる。


「私、ですね?」

「ごめん、アザレア。私の大切なものって言ったら、あなたしかいなくて」

「……嬉しいです」

「へ?」

「以前は少しわだかまりがあったと思ったのですが、今、私を頼っていただいて、嬉しいです」

「今もちょっとあるよ」

「そうなんですか?」


 わだかまり、というか、まだ過保護な一面はあると思っている。でも今回は頼らなきゃいけないと思ってる。それに――。


「私ね、前は言うほどアザレアを心から信頼してなかったんだと思う。心の隣人だーとか言って、ホントに言いたいことから逃げて。でも、今はもっと親しくなれたと思うし、その。友達だから」

「ありがとう、ございます。少し、照れくさいですね」

「言わないでよ。私だって恥ずかしいんだから」


 言いたいことの全てはそこにあった。過保護は裏返せば心配や信頼のなさから来ているんだと思う。確かに彼女本人から匿ってほしいと言われたけど、それは過保護にするっていう意味じゃないと思う。自由になったんだから、もっと羽を伸ばさないとね。


「お恥ずかしい限りですわね。顔面クリムゾンフレアですわ」

「なに、茶化してるの?」

「熱々ってことを言いたいんですわー!」

「ノイヤー!」

「冗談ですわ。ホントによくお似合いだと言いたいんですのよ」


 嬉しいような恥ずかしいような。そんな感情を誤魔化すべく、ちょっとだけはにかんでみる。アザレアも、そんな感情を抱いてくれれば、嬉しいな。

次回、VSゴエモン。

そろそろシリアスムードになっていきます。

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