第48話:レベル20になった私は奥義を使いたい。
《レベル20になりました》
「やっとだー!」
「お、20になったか!」
「あっという間でしたわね」
そんな事を言いながら、斬撃でモンスターを両断したり、魔法の炎で丸焼きにしている高レベルプレイヤーには言われたくない気がする。
でもホントにあっという間だった。だってまだ30分も経過してないし。さすがは高レベルプレイヤー御用達のレベル上げ場。そしてこのパワーレベリング。そりゃすぐに上がっちゃうよね。
「奥義って……、あ。チュートリアル出た」
「それに従っていればだいたいなんとかなるはずだ!」
「じゃ、ちょっと離れてるね」
レベル上げ場から一旦離脱するとチュートリアルを開始する。
とは言っても、スキルを奥義にセッティングするだけなので、あんまり複雑なことはしない。ただスキルによって効力も違うので、その辺選ぶのは大変そうだ。
「《マジックシールド》もお世話になってるし、《連槍》もそれはそれで面白そうな動き方しそうだし、悩む……」
「やはり《反逆の刃》かと」
「やっぱり? 私もだいたいそれ一択かなって。後からスキル変えれるよね?」
「クエストやバトル中でなければ可能です。まずは奥義の所感を馴染ませたほうがいいですね」
「だね。《反逆の刃》セット!」
所持中のスキルから私の十八番《反逆の刃》を奥義にセットすると、奥義名が変わる。えーっとなになに? 《アンブレイカブル・リベリオン》ってかっこいいなー!
あ。でもこれを口にしなくちゃいけないのはちょっと恥ずかしい気分。ま、まぁ誰も気にしないでしょ。
「早速使ってみましょう」
「そうだね。どこにいるかなーっと」
奥義目当てに槍を持ってうろつく騎士が一人。もう使ってみたくて、ウズウズしてるんだけど! 早く来い! 来い! 来いっ!
その時だ。がさりと、草をわけて移動する敵を見つけたのは。
相手は一体。それもレベルはそこそこに低め。これなら私一人だけでも戦えるはずだ。すぐに槍を構えて臨戦態勢を取る。狙うは一つ。不意打ちによる奥義キルだ。
ソローりソロりとモンスターに近づいて、奥義の射程範囲内に。相手も流石に気づいたみたいだけど、もう遅いわ!
「奥義!」
槍を天上に構えると、赤と黒の光が私の槍、雀蜂に宿る。螺旋状で交互に繰り返される殺意の波動に、モンスターが怯えすくむ。先端へと吸収されていくエネルギーを束ねて、いざ貫かん。モンスターに矛先を向け、左足を軸足にして重心を乗せる。止まった動体エネルギーが前方に放り投げられ、槍がモンスターを打ち貫く。
一秒後、貫かれた身体の内部から赤と黒のエネルギーが放出される。モンスターの身体を引き裂かんばかりに放電する光は眩しく光ると、モンスターだったものと一緒に目の前から消えていった。
スキル本来のダメージ強化に加えて、奥義による追加ダメージ。それが《アンブレイカブル・リベリオン》の効果だった。
「うわぁああああああああああ!」
「ひんっ! なに?!」
大きくて妙に通る声での悲鳴。後ろを振り返れば、この世の絶望が目の前で復活したような表情で怯えるノイヤーと、その様子を心配そうに見つめるヴァレストの姿がそこにはあった。
「ノ、ノイヤー。ど、どうしたの?」
「なんでもありません。なんでも。蘇る記憶。わたくしの敗北。《反逆の刃》の一撃に一瞬で溶けるわたくし……はぁ、はぁ……」
あの時はそんなにトラウマには見えなかったんだけど、内心へこんでたのかな。そう考えると結構申し訳ない気持ちが、ないよ! そもそもあの時ふっかけてきたのはあっちだし。私知らない!
「すごいな、レアネラ! モンスターが粉微塵だぜ!?」
「ここまでとは、思ってなかったよ……」
さすが奥義だけにめちゃくちゃダメージが入っているように見えた。その上あんなド派手なエフェクトなんだから、見た人は全員びっくりするんじゃないかな。
「すげーな。あんな奥義見たことなかったぜ」
「だ、だろうねぇ……」
だって、私しか持ってなさそうなレア称号なんだもん。とは言えないので、愛想笑いだけはしておく。あはは。
「なぁ。ちょっと決闘してくれないか?」
「はい?!」
突然何?! どういう経緯でそうなったのさ!
「まぁ驚くなって。理由は言えないが、俺は強いやつになりたいんだ。だから強そうなやつには片っ端から声をかけてる。お前もそうなるんじゃないかって思ってるんだ」
「そんなことないよ。私なんてまだまだ」
「いや、俺の直感が言っている。お前は強くなる相手だと!」
そんな断言しないでください。そもそもレベル上がれば上がるほど死にスキルが増えて弱くなっちゃうし、この称号。私、言うほど強くなりたいとは思わないんだけどなぁ。
「どうせレベル差で負けちゃうよ」
「そんな事ないぞ。決闘中はレベル差のステータスはレベル相応の均等になる。知らなかったのか?」
「え、そうだったの?!」
あ、いや。言われてみればノイヤーの時もレベル差があっただろうに、割りかし対等に戦えていた気がする。あれはそういうことだったのか。
じゃあワンチャンこの聖剣使いにもギャフンと言わせることができる……?
「どうだ、乗らないか?」
特に決闘自体に興味はないけど、そういうことなら話は早い。
「やろう!」
「レアネラさん?!」
「大丈夫。勝ってみせるから!」
アザレアの頭をポンと叩く。これはちょっと、アザレアにもかっこいいところ見せてあげないとね。
「うっ!」
「どうしたの?」
「いや、胸の痛みがつい」
ヴァレストは相変わらずよく分かんないことしてるけど、その内に私が勝っちゃうもんねー。へへーん。
「じゃあルールはレベル差無視、デスペナなしで」
「おっけい」
ウィンドウから決闘を承認すると、私とヴァレストを中心に円形のフィールドが森の中で展開される。槍も盾も持った。最初は様子見しよう。
槍を構えて、自動防御のスキル待機状態に移行する。先手必勝と言わんばかりに突っ込んできたのはヴァレストだった。
振り下ろされる剣を《オートガード》で防ぐ。だが完全に勢いを殺したとは言えずに、少し後ろに押し出される。スキルの使っていない攻撃だが、その攻撃力は凄まじいもので、すぐにフィールドの端まで追い込まれてしまった。
「フィールドを出たら負けだ。まさか、ここで終わるなんてことはないよな!」
「そんなのありえない、よっ!」
下から上への切り上げに合わせて、盾を受ける方向ではなく、受け流すように斜めに傾ける。結果として空振りに近い形に終わったヴァレストの斬撃はスキを生む。そこを私は打ち貫く!
「《連槍》!」
スキル名を叫び、スキル実行フェイズに移る。軽いが威力は鋭い槍の連撃はヴァレストの身体を確実に貫く。HPバーの減少を確認し、更に追撃の槍スキルを放とうとするが、スキルの衝撃を利用して、ヴァレストも後ろに下がる。これじゃ追加攻撃できない。
「危ないな。だが油断はここまでだ」
ただならぬ気配に盾を相手に構える。だがそれはフェイクで、ヴァレストは今度も突撃してくる。いや、間違ってないはず。また攻撃を受け流せば……。
その考えは次のスキルによって封殺されてしまう。
「《ソードブレイカー》!」
《オートガードが発動しました》
思わず防いだ一撃は、私の動きを止める。否、止めさせられる。
一瞬だけスタン状態になった私の盾を素手で引き剥がされ、身体が敵の眼前に晒される。
スタン状態が解けても、その真正面すぎる突破方法のせいで判断が鈍る。両手に持ち替えた聖剣グラムは上から私を両断せんと振り下ろされる。
「これでおしまいだ! 《聖剣の一撃》!」
刃の閃光が上から下へと三日月の形のように振り下ろされる。その身で受け止めた聖剣グラムの一撃が私のHPを容赦なく刈り取る。あまりの衝撃に一瞬思考が追いつかなくなってしまうが、まだだ。私はまだ終わってない!
「なっ! HPが1残ってるだと?!」
《折れぬ闘志が発動しました》
騎士の専用スキル。どんな攻撃でもHPが1残るスキルだ。さっきのレベル上げのときに一緒に覚えた。だから、これで終わりだなんて言わせない。
雀蜂を構えて、反撃の構えを取る。叫べ、その必殺技を!
「《アンブレイカブル・リベリオン》!」
赤と黒の螺旋が槍を纏い、貫く。これが当たればそっちが終わりだ!
「奥義《唯我独尊》」
ヴァレストがつぶやいた奥義。その言葉を告げ終わると、私の奥義によって纏っていたエネルギーが一気に拡散される。なんで? どういうことなの。こんなんじゃ……!
「見せるつもりはなかったんだがな」
下から上へのブイの字斬りが私の最後のHPを削りきった。
勝敗が決定した効果音とともに、ウィンドウには私の負けであることが表示されていた。
「どういう、こと?」
「あはは、まさか俺がここまで圧されるとは思ってなかったな」
「ヴァレスト、あなた初級者相手に《唯我独尊》を使いましたの?」
「へへ、バレてたか」
あの奥義、そんな名前だった気がするけど、なんだろう。
「奥義《唯我独尊》。一時的にスキル、奥義を無効にする聖剣使いにのみ許されたスキルで発動する奥義さ」
「レアネラも気になさらないで。あれは禁じ手ですから」
「禁じ手って、そんなの使ったの?!」
これは怒りたくもなる。そんなん使われたら勝てるわけないじゃんか!
「これ使った奴らみんなに言ってるが、これを出させるレベルだからな。今回は俺のミスもあったけど」
「自分のミスを相手の強さに変えないでよ!」
「たはは、すまんすまん」
怒る私を嗜めるようにヴァレストは、けど、と言葉を繋げる。
「それ抜きで、あの奥義を受けたら死ぬって覚悟はしたよな。ゾクッとしちまったぜ」
「それ表現なんか変じゃない?」
「ちょっと変態みたいだったな。すまん」
「いいよ、もう」
申し訳無さそうに頭を下げるもんだから、つい許してしまった。
なんか、グイグイ来ると思ってたけど、その言葉だけで十分だ。少し変なところはあるけど、悪い人ではなさそう、かな。
「さー! サクッとわたくしたちのレベルも上げますわよー!」
「よし、付き合うぜ!」
「仕方ない。私も付き合うよ。いいよね、アザレア?」
「はい、もちろんです。紅茶をご用意して、帰りをお待ちしています」
この後、めちゃくちゃレベル上げした。




