第44話:敗北しても私たちは諦められない。
「さて、情報を整理するか。あのゴーレムはいったいどういう行動をしてきた?」
戦った時の記憶を思い返す。あまり思い出したくはないんだけど、振り返らないと、結局またさっきの二の舞になってしまう。
「初手の軋みの音でターゲット集中が解除されたね」
「あぁ。あれは厄介だろうな。あれのせいでレアネラの役割が崩壊する」
「まぁ、攻撃受け止められなかったんだけどさ。あはは」
そうなのだ。元々タゲ集中したとしても、あの攻撃を耐えることができずに、壁に叩きつけられてしまう。要は踏ん張りが足りないんだろうけど。もっとレベルと防御力上げるべきだったかな。
「そこはうちのアイテムでなんとかする。あとはゴーレムの装甲は魔法を当てれば、崩れるようになってるみたいだな。念の為ノイヤーは《アイスフォール》で攻撃してくれ」
「全裸にしてみせますわ!」
「それはお嬢様としてどーなの」
ドヤ顔で全裸とか言ってるノイヤーはさておき。物理攻撃はツツジとアレクさんが引き受けてくれる。あとは……。
「50%のパージ攻撃からだね。25%までは見たけど、見た目の割に素早いからスタンでも入ればいいんだけど……」
私とツツジはその領域まで行ったけど、結局あいつの割と速いスピードに翻弄されて撃墜。2人で帰ってきたというわけだ。
「それでしたら、《高等儀式魔術》で跪かせれば良いのですわ! あれは発生すれば強制でスタンも入りますから」
「おぉ、すごいな《高等儀式魔術》」
「えぇえぇ! すごいでしょう! もっと褒めてくださいまし!」
調子のいいノイヤーはさておき、確かに素早い挙動には全体デバフの《高等儀式魔術》が有効だろう。
あとは50%のパージ攻撃は何故か魔法攻撃。《マジックシールド》を張っていれば、なんとかなりそうだ。
「よし、じゃあ作戦としては、ノイヤーが魔法で装甲を剥がしながらHPを削る。トリガーを引いたら、レアネラの後ろに隠れてやりすごし」
「最後は《高等儀式魔術》で一網打尽ですわね!」
「それは攻撃魔法じゃないんだがな」
「なんですの! 喧嘩売ってますの?!」
「事実を言っただけだが?」
「ステイステイ! ここで喧嘩してどうするのさ!」
喧嘩しているビターとノイヤーを止めるツツジ。唇を尖らせて、口をつむぐノイヤーだったが、その様子はめちゃくちゃ不機嫌そう。
「お前らはいつもいつも……」
「こいつが悪い」
「これが悪いですわ」
「仲がいいんだか悪いんだか」
ツツジが頭抱えてるけど、私だって抱えたいよ。
「行かないんですか?」
「え? あー! ほら、アザレアの言う通り、そろそろ行くよ!」
4人が気合を入れて返事をする。
よし、私たちの戦いはこれからだ! って打ち切りっぽくて嫌だな。
絶対勝つ!
◇
石碑に近づくと、昨日と同じようにゴーレムが装甲をまとって、軋みを上げる。それは咆哮にも似た声にも聞こえるが、そんなんじゃ今の私たちは止められない。止まってなるものか。
「ノイヤー! レアネラ! バフをかけろ!」
「分かっていますわ! 《オールアップ》!」
「《視線集中》!」
軋みの音が終わると同時に私とノイヤーが全体バフ及びタゲ集中を向ける。全身にバフが染み渡っていくように手のひらに力が入る。よし、これなら耐えられそうな気がする。
「こっち見ろ、バケモン!」
鈍い音を立てながらゴーレムの拳が私に向けられる。体長は私たちの三倍はあるであろう轟音ナックルを目の前で受け止めなければならないのだから、恐怖以外の何者でもない。
だけどそうも言ってられない。力と速度の乗ったパンチを私の盾が受け止める。
《オートガードが発動しました》
「くぅ!」
両足に力を入れて、パンチに吹き飛ばされないようにその場で踏ん張る。大丈夫、今はノイヤーのバフがかかってるんだ。吹き飛ばされて、たまるかぁ!
「くぅうううううああああああああああ!」
続けてもう一発のゴーレムのパンチも受け止める。若干後ろに押し出されてしまうが、大丈夫、まだ耐えられる!
「レア、大丈夫?」
「問題、ナッシング!」
「ならよし!」
ツツジが猛ダッシュで接近。アレクさんも所定の位置にいる。頼んだよ、ノイヤー!
「おくたばりあそばせ! 《アイスフォール》!」
氷のつららが腹部に被弾すると、分厚い岩の装甲が剥がされ、中身がむき出しになる。
「オラオラァ! 《パワースマッシュ》!」
「《スラッシュ》!」
猛烈なスキルのラッシュがゴーレムのむき出しになった腹部にヒットすると、HPバーが通常より1.2倍ほど減少する。
「やはりだ。ノイヤー! うちと一緒にあの装甲をむき出しにするぞ!」
「指図なんて無用ですわ! わたくしはわたくしでやらせていただきます! 《アイスフォール》!」
「やれやれ。《エンチャント:フリーズンアロー》!」
後衛二人の氷スキルの連打がゴーレムの装甲をどんどん削ぎ落としていく。これだけの弾幕、避けられるわけもなく装甲値は最低限まで行っていることだろう。
加えて前衛2人の攻撃によって、ゴーレムのHPはどんどん消えていく。ターゲット集中も有効なようで、こちらにしか攻撃をしてこない。
「そろそろ50%だよ! 私の後ろに隠れて!」
私も移動しながら、ゴーレムのHPが50%を切るのを待つ。
ツツジの斬撃が空中で繰り広げられると、HPが半分を切った。ツツジもゴーレムの身体を地面代わりに蹴り飛ばして、私の後ろに隠れる。というかどんな身体能力だよそれ。
「レアネラ、頼んだぞ!」
「分かってます! 《マジックシールド》!」
盾の前にやや透明でまるでシャボン玉のような色をしたマジック障壁を展開すると、おおよそ魔法攻撃とは思えないゴーレムのパージが始まる。180度全てに攻撃するこのパージ攻撃を避けられるのはきっとツツジぐらいのものだろう。
次々と魔法の壁の前にパージした破片が消えていく。マジックシールドが消滅すると、目の前に現れたのは炉心がむき出しになり、岩の隙間からマグマのような熱が吹き出す赤いゴーレム。このフェーズからはとても速くなるが、それもこれでおしまいだ。
「今日のとっておきですわ! 跪きあそばせ! 《高等儀式魔術:カース・オブ・ブレイク》!」
魔法陣がバトルフィールド全体を包み込むと、ガラスが割れたようなパリンッ! という激しい音がフィールド内を響かせる。
その瞬間、赤いゴーレムが膝をつき、青く下方に向かったエフェクトが大きくかかる。続けてしびれるような電気のエフェクトも発生すると、高等儀式魔術は完了する。
「これであなたもジ・エンドですわ!」
「んなわけないだろ、さっさと攻撃しろ!」
「分かってますわ! 《ライトニングブラスト》!」
「分かってるならそんな事口走るな! 《ジャッジメント・アロー》!」
「ったく、あの二人は仲がいいんだか悪いんだか」
「私たちも行くよ、おっさん! 《絶影》!」
「おっさんって言うな。《蛮族の一撃》!」
「私もー! 喰らえ《反逆の刃》!」
防御力が半分にまで下がり、身動きの取れないゴーレムの前に襲いかかるのは計五つの特大スキルと魔法。HPがそのまま0になるのは、時間の問題だった。
最後の一撃が炉心を貫くと、赤いボディが急速に冷え固まっていき、黒い黒曜石のように色が淀むと、バラバラと身体が自壊していく。残ったのは私たちプレイヤー。勝ったのは、私たちだ!
「やったー!」
「やった、やったよ、レア!」
ツツジが私の方に近づいてきて、力の限りダイブされる。分かった。分かったからそんな強く抱きしめなくてもいいじゃんかー!
「当然の結果ですわね」
「最初にやられたやつがよく言う」
「喧嘩売ってますの?!」
「まぁまぁ。今は勝利の喜びに浸ろうぜ」
向こうは向こうでまたやってるみたいだけど、今はそんな事いいか。
「終わったみたいですね」
「アザレアー、助けてー」
「レ、レアネラさん?!」
「あ、ごめん。やりすぎた」
力の限りハグされた結果、HPが底に行きそうなほどだった。危ない危ない。友達にキャンプサイト送りにされるところだった。
「そういえばレア。ドロップどんなんだった?」
「えーっと、【ゴーレムの炉心】ってやつかな。後は【ゴーレムの身体石】とかそんなところ」
「炉心、なんかレアドロっぽいね。やるじゃん、レア!」
「レアドロップ、だけに!」
「……え?」
「今のはレアドロップと、レアをかけた高等なジョークですね」
「ギャグは解説しないでー!」
勝ったけど、今だけはちょっと消えたくなった私でした。




