第42話:見つけた私たちは遺跡に突貫したい。
「よーーーし! やるぞー!」
朝の支度をしたら早速エクシード・AIランドにログインする。
どうやら最初に来たのは私だったらしく、アザレアだけがお出迎えしてくれた。
「おはようございます」
「おはよ。よく寝れた?」
「はい。レアネラさんは?」
「私も寝れたよ。流石に早く来すぎちゃったかなー」
朝の日差しが木々の隙間から漏れ出して、眩しいような涼しいような。そんな感覚に陥る。森で一晩明かすと言う経験をしたことないから、なんか神秘的で新鮮に見える。
「ねっ! 軽く運動しない? ラジオ体操でも」
「はい、よろこんで」
おいっちにっさんし。寝ぼけた身体を呼び覚ますように、しっかりとラジオ体操を行っていく。ちなみにボイスはアザレアが声を出している。普段の男性の声とは違う妙な感じだけど、これはこれで好きだ。
「ふあぁ……おはよー」
「おはよ、ツツジ!」
「早くない?」
「なんか目が覚めちゃって」
後ろの頭を掻きながら、にへら顔でえへへと笑ってみせる。
なんだろう、遠足の朝みたいな感じだ。楽しみすぎて目が覚めちゃうあれ。
そんな事を考えていると、続々とギルメンがログインしてくる。だいたい10時ぐらいだろうか。最後のビターが現れたことで、全員揃ったので作戦会議だ。
「遺跡には必ず大型のボスモンスターがいる。そいつを倒せば遺跡攻略、と言った具合だ」
「へー、それだけでいいんだ」
「もちろんそう簡単なことじゃない。ソロじゃまず無理だと思った方がいいな」
「ひえー」
相談していく中で注意すべき点は二つだった。
一つは勝手にどこかに行かないこと。団体行動しないと、ソロで複数のモンスターと退治すればだいたい死ぬ、らしい。そのためにリスポーン地点をキャンプサイトに設定しているから、まず問題はないが、合流のために戻らなきゃいけないから、面倒が増える、と。
でも私が気になったのはもう一つの注意点だった。
「トラップ?」
「そうだ。遺跡にはだいたいトラップが仕掛けられている。先住民が遺跡を守るために作り上げた、と言う設定らしい」
「へー。じゃあインディージョーンズも?」
「多分あるぞ。即死だろうな」
こわっ! あれって画面映えするからいつもやってるのだと思ってたけど、当たれば即死って、やっぱり凶悪なトラップなんだろうなぁ。
「さて、説明はこんなところだ。何か質問はあるか?」
みんな首を横に振る。流石にみんなそれなりにゲームをプレイしてるからその辺は大丈夫って感じかな。
「よし、じゃあ行こう!」
ギルマスの一声で、遺跡の突入が始まった。
◇
中に入ってみると、思ったよりも狭く、一列にならないといけないような状況だ。
盾役の私が先頭で、後ろからビターやノイヤーの援護が来る、というポジショニングにしている。
「私、ここ苦手かも」
「そうなのか? 俺はツツジの戦い方を見たことないからなんとも言えないが」
「敏捷タイプの芸人だから、ぶっちゃけ狭いところって窮屈で」
「ここで予めギルドメンバーの戦い方を見ておくのも悪くないだろうな。もうじきイベントの告知も出るだろうし」
「だな。俺の戦い方なんて誰も知らないだろ」
「アレクが戦ってるところなんて見たことありませんわね」
そういえば。ビターはアイテムの投擲と弓矢でのエンチャント攻撃。ノイヤーは完全に魔法特化で、ツツジは多分接近特化タイプなのかな。だとしたらアレクさんの戦い方ってなんだろう。ハンマーを持ってるみたいだけど、アレクさんも近接タイプかな。見てみないと分かんないわ。
「まぁ見てろって。レアネラ、正面四体!」
「はい! 《視線集中》!」
私がいつものようにターゲット集中のスキルを放つと同時に、ツツジとアレクが前に出る。
忍者のように素早い動きで敵に接近すると、急所を一刺し。身動きが取れなくなったところを、逆手に持った短刀で二,三斬りつけると、一体目は消滅。
続く二体目はアレクさん。ここで戦い方を見ておこう。アレクさんがハンマーの射程範囲内まで接近すると、ハンマーを振りかぶり、モンスターを壁に叩きつける。ひしゃげた頭がそのまま地面に落ちると、データとなって消滅。三体目も同じく、地面にハンマーを叩きつけて、中身から爆散。こ、これがアレクさんの戦い方……。
「完全にパワータイプの戦い方ですわね。むごい」
「だ、だね。リアルだったら相当グロ画像だよ。むごい」
「一撃で相手を殲滅するとは、さすがです。ですが、むごい」
「お前ら、ちょっと酷くないか?!」
四体目を始末すると、そのまま隊列に合流する。
アレクさん、性格に似合わず相当暴力的な戦い方するなぁ。一番最初に蛮族だって言われた時はピンとこなかったけど、これがその蛮族の戦い方なんだ。むごい。
しばらくして開けた場所に来ると、ところどころ穴が空いているエリアに出てきた。
下は底なしに暗い。落ちたら間違いなく即死だなぁ。
さて、ジャンプしながら行こうかな。
「待て! ジャンプするな!」
「え?」
ジャンプせず振り返ると、すぐ後ろでグォンと、空気が鈍く裂ける音が聞こえる。その音に嫌な汗が背中に流れる。恐る恐る振り返ってみると、それは黒い鉄の塊が左右に揺れている。下の方は刃のように鋭利で、接触したらこれも間違いなく即死だろう。
「ギロチントラップだ」
「ひぇー!」
ちょっと殺意高くないですか?! 落とし穴とかそういうのを期待してたのに、ギロチンって、ちょっと殺意高くないですか?!(反芻)
「一人ずつ渡るぞ……」
「ちなみに一人でも欠けたら……?」
「大丈夫。みんなで迎えに行くさ」
「泣きたい」
生きて先に進むか、下に落ちて骸骨の仲間入りをするか、その場で切断されるか。こ、こうなったら生きてやりますともー!
そんな感じで一人ずつギロチンの谷を渡っていくと、残りはノイヤーだけになった。
「うぅ……」
「おい、早くこないか!」
「いや、ですけどもー」
あぁ、そういえばこの人、普段のはロールプレイで中身は結構内気だったっけ。
足がすくんで、ギロチンの谷を進めないと言ったところだろう。流石に置いていくわけにはいかないし、手を差し伸ばす。
「大丈夫! 死んでもリスポーンするだけ!」
「不吉なことを言わないでくださいまし!」
「そんな事言われても……」
ギロチン、慣れれば結構遅いし、余裕で避けれると思うんだけどなぁ。それは私目線であって、敏捷の低いノイヤーはそうでもないかもしれないけど。
「おい、ノイヤー」
「……なんですの。お笑い物にするなら今がチャンスですわよ」
あー、顔をうつ伏せにしちゃって、もうその場から動けない様な顔しちゃってる。ここはもうビターに任せるしかないかな。
「キミほどの負けず嫌いが、うちが渡れたギロチンの谷を超えられないなんてこと、ないよな?」
「……っ! 何が言いたいんですの?」
「キミは、うちに負けてるってことだよ!」
「なっ……!」
あれ、なんかドレスを握っている手が震えている。顔も唇が震えて、今にも泣きそうだけど、目はしっかりとギロチン……、じゃない! 見てるのはビターの方だ!
「そんなわけありませんわ! あなたなんかに、負けるわけには行きませんわ!」
「あ、ちょ、おい!」
まずい、ギロチンが飛び出したノイヤーの身体を今にも真っ二つにしそうになってる。
慌てて、手を取って引っ張りあげる。ビターも同じく感じたらしく、結果的には両手を引っ張りあげて、こちら側に引き寄せる。
ギロチンはドレスをかすめるが、ノイヤー自身は無事らしく、その場で消滅するようなことはなかった。
「お前、危ないだろ!」
「あなたが挑発するからでしょう!」
「だからってもうちょっとタイミングを見ろ! うちらが手を引かなきゃ真っ二つだぞ!」
「それは感謝しますが、それはそれとして……っ!」
ふぅ、危なかった。ビターも大胆なことをするけど、ノイヤーもそんなに負けず嫌いだとは思わなかった。
「二人ともお似合いだね」
「まぁそう見えるけど、今のはヒヤッとしたよ」
「でも、ああやってお互いを鼓舞し合える関係って羨ましいなって」
「そういうもん?」
「そういうもの」
鼓舞ってか、煽りあいって感じだけど、それでもお互い楽しそうだしいいか。
「さて、二人とも先に進むよ!」
「そもそも! あそこでなにか言わなくたって、わたくしは渡れていましたわ!」
「嘘つけ! 泣きべそかいて、渡れそうになかった奴がよく言う」
こりゃ喧嘩が収まるまで、しばらくかかりそうかな。




