第39話:成長する花たちは旅がしたい。
旅の錬金術師が旅の錬金術師らしいことします
さん付けの日から翌日。流石に慣れただろうと思って、ギルドホームに顔を出すと、ビターを久々に見る。そういえば家具の素材の件、お礼言っておかなきゃな。
「ビター、おはよ」
「あぁ、レアネラか。どうした?」
「いや、この前は机と椅子の件でお世話になったなと」
「そのくらい容易いことだ。家具もいいものを揃えたな」
「えへへ、でしょ?」
いいもの、というのは間違いない。でもその全てがアレクさんのオーダーメイドなんだよね、そりゃいいものになるよ。それを含めて言っているのなら、後でアレクさんにも言ってあげよう。きっと喜ぶはずだ。
「そういえばビターがここにいるって珍しいね。いつもはアトリエなのに」
「あぁ、そのことなんだがな」
「何かあったの?」
なんだろう。ノイヤーにアトリエを荒らされたとかそういったことだろうか。多分違うと思うけど。
「そろそろ旅をしようと思ってな。その準備だ」
「へー旅かー、楽しそうだね」
「あぁ。やはり自分の足で歩くのは一番だからな」
「旅……。旅ー?!」
「うるさっ! 何だ急に!」
何だではない、何だでは! その色白の肌で、華奢な体してるのに、旅好きってそれホントに言ってるの?
「何だその目は。私が嘘をついてると?」
「だって、ビターが陽の光の下にいることないから、ヴァンパイアの類かと」
「これでも【旅の錬金術師】を取得するために、色んな所を旅したんだぞ」
「そういえば旅の錬金術師様だったね」
「そういえば、とはなんだそういえばとは」
だっていつも部屋にこもって錬金術しているイメージなんだもん。こればっかりはここにいるギルドメンバーみんなが口を揃えて言うと思うよ。
「一応ギルマスであるレアネラには聞いておくが、旅に出ても問題ないか?」
「大丈夫だよ。だけど」
「何かあるのか?」
いや、特に含みがあるとかそういうことはないんだけど、なんというか。
「私も他のエリア行ってみたいんだけど、一緒に行っていい?」
「そんなことか。旅は道連れとも言うだろう? 問題ないさ」
「やった! アザレアも連れて行くね!」
「あとで聞いておけよ」
「うん!」
強く頷いて、アザレアのいる部屋を探す。旅か。やっぱり水とか食料とかは必須なんだろうか。おやつは何円までかな。そんな事を考えていると、楽しくなっちゃうなー。
アザレアにも許可を取り、私はビターと一緒に旅の準備を進めることになった。
「基本的には長時間ログインできる時間がほしいな。うちはその辺問題ないが、レアネラや他の連中はそうもいかんだろ」
「だね。家の家事もあるし、土日のどっちかかなー」
「ならば……」
「何やってるのー?」
旅の日程を決めていると、ツツジが声をかけてくる。脇にいるノイヤーが大層嫌そうな顔でビターを見ているのは見なかったことにしよう。
「旅の日程決め!」
「旅? どっか行くの?」
「うん。どこかはまだ決まってないけど」
「じゃー、私も行こうかな。暇だし」
「おいおい。まだ日程は決まってないぞ」
「私はいつもフリーなの。いつでもいいよ」
「ならそうだな……」
相談しているのはいいんだけど、ノイヤーがめっちゃこっち睨んでくるんだけど。どうしたの。親でも倒されちゃった?
目線を合わせると、さらに睨まれる。これは、行くなってこと?
まぁいいか、ノイヤーも巻き込んじゃお。
「なんかノイヤーも行きたいって」
「んな?!」
「お前が?」
ノイヤーがアイコンタクトでこっちに話しかけてきてるけど、恐らく私を売るなとか、こんな畜生と一緒に行くなとか、そんなところだろう。でもやーだよ! もう言っちゃったもんねー。
「うん、羨ましいって」
「そ、そんな事一言も言ってませんわ!」
「でもそんな顔してたじゃん。さみCぴえんって」
「喧嘩売ってますの?! 買いますわよ! 倍プッシュで!」
どうどう。抑えて抑えて。どうせビターが拒否すると思うし。
「……来たいのか?」
「へ? 突然どういう風の吹き回しですの?」
ビターが珍しくノイヤーを普通に誘ってる。それだけで意外な光景なんだけど、それにちょっとだけ動揺して顔を赤らめるノイヤーもまた珍しい。
「別に来たいと言うなら拒みはしないが」
「……なんか釈然としないですわ」
「言ってろ。うちは旅がしたいかどうかを聞いているんだ」
ビターが歩み寄ろうとしているのだろうか。それともなんかの作戦で。多分脳内でそんな事を浮かべては消しているんだろう、ノイヤーは。
口をパクパクとさせて、ギュッと紡いで、開く。
「お、お願いしま……。すわ!」
「素直でよろしい」
「なんかムカつきますわ」
「ならやめるか?」
「やめませんがー?」
ちょっと中学生っぽいけど、要するに行きたいって言っているのだろう。やっぱり素直じゃないな、このお嬢様は。
「どうせならアレクも連れて、ギルド遠征ってことにしない?」
「ツツジ、いい案じゃん!」
「いえーい!」
両手を上げてハイタッチする。パチンと言う音がギルドホーム内に響く。
それから遠征の日程と時間、必要な持ち物を決めて、その日は解散となった。
なんか遠足みたいで楽しみかも。あ、おやつは何円までだったんだろ。




