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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第1章 ぼっちの私がギルドを作るまで
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第4話:拾った私はNPCを洗いたい。

「よし、着いた!」


 迷うこと1時間。ようやく宿屋に着いた。

 その間、奇妙な視線に晒されたけども、そこはほら、汚れを落とせばいいし。

 当の本人はそんなことつゆ知らずなんだけども。


「えーっと、二人分でいいの?」

「多分そうだと思います」


 NPCに二人分のお金を支払うと、部屋に通された。

 中はベッドと机に椅子だけ。一般的なファンタジーの宿といっても差し支えないほどのシンプルなものだった。


「はー、疲れた」

「なにかお飲みになりますか?」


 さも当然のようにアザレアが飲み物が欲しくないかと聞いてくる。

 それだけ聞けば普通のメイドなのだが、そのボロボロの見た目では正直対応に困ってしまう。

 ――なので。


「それよりアザレア、身体洗うよ!」

「……それは、どういうことでしょう?」

「そのままの意味に決まってるでしょ! ほら、服脱いで!」


 私がアザレアの服に手をかけた瞬間だった。

 脳内にレッドアラームが鳴り響く!


「うぇ?! なにこれ!」


 目の前が赤く明滅して、いかにも危険であることを表すエフェクトだ。

 慌ててアザレアから手を離して、飛び退くと、レッドアラートが小さくなっていく。


「な、なにこれは……」

「おそらくセンシティブ機能に引っかかったのかと」

「せ、せんしてぶ?」


 聞かないワードではないけど、いざ自分がセンシティブ認定されたと言われても、なんだか現実味がないといいますか。


「本人が意図しない形で外部からのセンシティブなことをする、今回で言えば服を脱がす行為が引っかかったのでしょう」

「へ、へー……」


 いや、女の子同士なんだから別に服を脱がして悪いことしようとは思ってないんだけど。

 というか、その言い方だとまるで私がアザレアを無理やり脱がそうとした風にしか聞こえない。実際そのとおりだとは思うけど、なんか釈然としない。


「ち、ちなみに実際に服を脱がしてたら?」

「すぐにアカウントBANされて、ゲームにログインできなくなる、というのが妥当かと」

「ひぇ……」


 ゲーム初日で垢BANはいくらなんでも怖すぎる。

 なんなのさそれ。私、垢BANRTAしているわけじゃないんですけども?!


「でも、なんでアザレアは服を脱がされるの嫌がったの? 一応女の子同士じゃん」

「少し、人には見せたくないものがあるので」

「ふーん……」


 それってご主人さまから受けた傷というやつなのだろうか。

 もう痛くはないけど、痕だけが残ってる的な。それは確かに見せたくないだろうな。


「でもどーしよ。アザレア汚いし、洗った方がいいかなって思ったのに」

「き、汚い……」

「あー、ごめん! ホントだけど嫌ってないから!」

「本当のこと……」

「ち、違うんだってばー!」


 心底落ちこんだように顔をうつむかせる彼女。

 やめてくださいな、そんなつもりで言ったんじゃないんだけど!


「い、いやね? そんなかわいい見た目してるのに、汚れてたらもったいないなって思っただけなんだけど……」

「……私、そんな見た目をしているでしょうか?」


 こ、この子、そこに気づいてないの?

 色白だけども、しっかりと張りがあってきめ細やかな肌。首を隠すように伸びていて、細くてしなやかな青い髪。出るところは主張しすぎないように出ていて、引っ込むところはしっかり引っ込んでいる理想の体型。あと少し女性の平均よりも低いであろう身長は、少女らしさ、というのを完全に把握している見た目だ。

 どこの誰が作ったかは分からないけど、男だったら一目惚れするレベルの美少女だと思う。神に感謝しますね、私が男の子だったら。

 が、そこをお気づきでないと申しますか。


「かわいいよ! 絶世の美少女だよ! 綺麗になったら人前に出ても恥ずかしくないレベルの理想の女子!」

「……そう、なのでしょうか?」

「そうだよ! もっと自信持って!」


 何故、私はIPCをこんなに持ち上げているんだろうか。

 所詮はデータ上の存在。理想の女の子を作れるのは当たり前だというのに。

 まぁでも、悪い気はしないしいいか。


「じゃあ身体を洗おう! ほら服脱いで!」

「あ、私に触ったら……」

「ひぃ~! レッドアラーム~!」


 どうやら私は学習しないらしい。

 いやいいんだそれは。だって私まだ初日プレイヤーなわけだし。

 とりあえず身体を洗ってほしいことを伝えると、シャワールームに彼女を放り投げた。

 その間ヘルプでも読んで待ってますか。


 シャワールームから水の音が聞こえはじめた。

 やっと洗う気になったようだ。今頃汚れた身体をゴシゴシ洗ってることだろう。


「あ、ホントに書いてある。センシティブ機能」


 今度からはちゃんと相手の合意を得た上で服を脱がすことにしよう。そんな機会、きっと二度と起こらないだろうけども。

 ちなみにシャワールームは、今プレイヤー立入禁止状態になっている。

 これは覗きとか、下着泥棒とかの対策なのだろう。そんな無茶をして女性の裸を見ようとする男子は、正直理解に苦しむ。それだけの意欲があれば、彼女を作るなりすればいいのに。


「へー、IPCにもアイテムインベントリがあるんだ」


 ヘルプのIPCの項目を見ていると、さほど一般プレイヤーと変わらないような機能が備わっているということも知った。

 インベントリにレベルの概念。職業に称号と、ほぼ私たちと同じことができるみたいで少し意外だった。

 こういうのってたいてい「NPCだからー」という理由で実装を省かれたり、省略されたりすることが多いし。


 ふと、アザレアの職業ってなんだろうと、考えがよぎる。

 見た目的にはメイドなんだけど、このゲームにメイドという職業は存在しない。

 あるのは六つの職業と、更に細かい分類をするための「称号」のみ。


 「称号」とは、ある程度の実績を重ねると獲得できるものらしい。らしいというのも、私は持ってないからわからないのだ。初日プレイヤーだし。

 ヘルプに書いてあることを熟読すると、第二の職業に近いと考えている。

 コンシューマーゲームで言うところ「職業」がゲーム機のハード。「称号」がゲームソフトという感じだろう。

 なので、いろいろな称号があるらしいのだけど、アザレアはその内のメイドとかなのかもしれない。後で聞いておくことにしよう。


「でも称号かー。私も何か取りたいよねー」


 簡単のものでもいい。要するに二つ名とかそういうことだろう。知らないけど。

 でもかっこいいし、憧れるよねー。それが唯一無二のものだと更にたぎる。

 あれでしょ?「世界の守護者」とか「聖杯に導かれし者」とか!


「あー、でも聖剣に選ばれし者とかもかっこいいよね。こう、光の剣とか持ってシュバーっと」

「いかがなされましたか?」

「うわっ?!」


 妄想に浸っていると、いつの間にかシャワーを終えたアザレアがそこに立っていた。

 宿屋備え付けの部屋着だけど、先ほどよりもとてつもなく美しく見える。

 サラサラの髪の毛に、光る肌。映えるなー。写真撮りたい。


「えー。あー。こほん」

「お風邪を引かれましたか? ベッドで横になることをおすすめします」

「やめて、惨めになるから」


 これはそろそろ話の腰を折らないと。恥ずかしすぎて、恥ずか死してしまう。

 対面のベッドにアザレアが腰掛けて、先ほどの疑問をぶつける。


「そういえば、アザレアってどんな職業なの?」

「職業は芸人です」

「げいにん? お笑いの?」

「違います。一般的には何かの芸能や技芸に特化した人のことを指しますが、このゲームでは手先が器用な人という意味です」


 アザレアの言葉に耳を傾けながら、芸人のヘルプを開く。

 このゲームでは、敏捷力を上げれば上げるほど戦闘中速くなるのはもちろんのこと、手先が器用になる特典があるのだとか。

 芸人はその敏捷力に特化した職業であり、生産職といえばだいたいはこれらしい。


 見た目がメイドだし、料理とか給仕をする関係上、手先が器用なことで困ることはない。だから職業は芸人なんだとか。


「へー、いろんな職業があるんだねー。称号とかってどうなの?」

「人工メイドです。頭の人工はIPCにのみ付与される称号です」

「へー」


 私、多分だけど、今ものすごくアホな顔してるんだろうな。否定はしないけども。


「レアネラ様は」

「呼び捨てでいいよ」

「いえ、仮にも匿っていただいている方。不敬であっては困ります」

「私は困らないけど」

「そういうシステムなので」


 むぅ。それを出されてしまうと、それ以上何も言えない。

 というか言葉の端々が固いんだよ。なんというか扱いに困ってしまう。


「改めて。レアネラ様はどういったご職業なのですか?」

「私? 私はねーって! もう日またいでるじゃん?!」


 メニュー画面を引き出すと右下に現実時刻が目に入る。時間は0時超え。幸い、明日は学校じゃないけど、それでも0時までには寝ておきたかった。こ、これがVRMMO……!


「夜遅いから、私寝るね! 答えは明日! それじゃ!」

「え。あ、はい。おやすみなさい」


 ログアウトボタンを押すと、そのまま現実世界へと意識が引き戻されていった。


 ◇


「はー、楽しかったなー。明日は日曜日だし、起きたらまたログインしよっかなー」


 アザレアというIPCに出会って、会話できる人がいる幸せを噛みしめる。まぁ、相手は人工知能なんだけども。

 それでも楽しかったという感情が強い。なんだかんだ言って、私も一人で寂しかったんだろうな。


「……ちょっとお母さんに連絡しようかな」


 一人暮らし、落ち着いてきたよ。これから頑張るね、っと。送信!


「ふあ……。歯を磨いて寝ちゃお!」


 こうして私の休日一日目であり、エクシード・AIランド初日は終わっていった。

 翌朝。起きるとこんな感じのメッセージが届いて、ちょっとだけ嬉しくなった。


◆お母さん:AM0:46

安心したわ。今度、あなたの好きなりんごを送るわね。

これでも食べて、元気でいてね。

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