表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第2章 私とあの子が友達と言えるまで
36/161

第33話:いいから私はお金を稼ぎたい。

「どっちがいいかなぁ?」


 目の前には件の女性。名前は知らないけど、便宜上クエ子と名付けておこう。

 そのクエ子が手に持つもの。それはシンプルな白いワンピースと、ゴシックでちょっとハード目の衣服。確かに彼女なら白いワンピースの方が似合うだろう。というか間違いなく似合う。でも、ここの選択肢は左のゴシックでハードな衣装で……。


「こっち」

「やっぱり? レアネラくんありがとう!」


 深いため息を一つついた。これで四度目の挑戦だ。分かっている。どうやら彼女のお好みは大人っぽい服装で、少女のような可愛らしいものではないと。

 でもね。お姉さんから一つ言わせてほしいの。


「絶対ワンピの方が似合うでしょ!」


 更衣室で着替える彼女にも、同じ店内で買い物する女性たちにも申し訳ないけど、それを叫ばずにはいられなかった。


「頑張ったね」

「はい、ありがとうございます……」


 店員さんが肩をポンと叩いて慰めてくれた。ありがとう。その言葉だけで私は救われた気分です。


「おまたせ、綺麗?」

「あー、綺麗綺麗」


 ホントに綺麗なんだけど、まだ少女らしさが残る顔故に、あまり似合ってない。

 やっぱりワンピースの方が私は好みだなぁ。


「次に行こ!」


 そのままの衣装で、彼女はまた腕を組み、町中を歩き始める。

 もう四度目なのだ。周りの視線などあまり痛くはない。むしろ憐れみの視線が増えた気がする。

 そうして歩いていると、次にたどり着いたのはレストランだった。何故だろうか。首の後ろがピリピリとしたのを感じるのは。


「素敵なレストランだね、レアネラくんが選んでくれたの?」


 確かに洋風で中世とはいかないけど、静かで落ち着いた場所だ。樽とか天井の回るプロペラとかあったりして。

 でも違う。あなたが選んでくれたんだよ、クエ子。


「レアネラくんは何がいい? 私はねぇ」


 目の前に彼女の動きが止まり、現れたのは2つの選択肢。

 一つはパフェ。こういうところに来たら真っ先に食べたくなるような、そんな甘味の暴力。

 そしてもう一つはしっかりとした主食。ナポリタンだ。確かにこっちも食べて美味しいものだ。特に味が濃いと、なんとなく嬉しくなってしまうのはなんでだろうね。


 でも問題はそこじゃない。この選択肢はレストランに来たときから、ある程度予想していた。いたんだけどー、彼女の好みが分からないのだ。さっきまで服屋で躓いていた私にとって、これは死活問題。今、彼女がどっちを食べたいのか。この場合どっちが正解なのか、要するに分からないのである。


 パフェにしたい。私だってパフェ食べたい。ちょうど糖分が欲しいところだし。

 でももしナポリタンだったりしたら……。ガッツリ食べたい系女子だったりしたら、これ以上にないほど恐ろしい。


 考える。考え出すと思考のるつぼにハマってしまう。甘いものか、それとも主食か。さっきの選択肢から考えるんだ。彼女は大人っぽいものが好きだ。どっちが大人っぽいかって? 分かんないよ……。うわー、頭痛い。もういいや、脳死パフェで。


「もう! 私はナポリタンが食べたかったのに! レアネラくんのバカ!」

《クエストに失敗しました》


 クエ子はそのままデータの破片となり、目の前から姿を消した。

 そっかー、ガッツリ食べたい系女子だったかー。


「お客様、ご注文は?」

「あー、ミルクお願いします……」


 こんなところでお金は使いたくなかったけど、心が折れた私には、ミルクを飲んで気持ちを整えることしかできなかった。


 ◇


「女子と付き合うってこんな感じなんだね」

「あのクエストでしょ? 町中で話題になってたよ?」


 精神が摩耗しきったので一旦ギルドホームに戻ってくると、たまたまツツジが座っていたので、彼女と会話して体力をリチャージすることにした。


「世の中の男子諸君はデートであんなに体力使ってたのか」

「男子に優しくする気になった?」

「うち、女子校でしょ? 男子って言っても先生しかいないじゃん」


 床にぐったりと座り込みながら会話する姿は、割と死霊の類と言われても間違いはないかもしれない。


「じゃあ女子と付き合っちゃう?」

「クエ子みたいな子は勘弁」

「あはは。じゃあさ、NPCの相手をIPCにさせるのはどう?」

「どうって、どういうこと?」


 要するにNPC同士で会話させるってこと? そんな事をしてもあまり意味はないのでは。


「IPCって人の顔色を伺うらしいから、そのクエ子との対策にアザレアを持っていくのはありかなって」

「なるほど。ちょっと試してみる!」

「うん、いってらー」


 アザレアに事情を説明すると、二つ返事でOKが出てきた。アザレアの手をつないで、クエストステーションに侵攻する。これが5度目の正直であることを願おう。慣れた手付きでクエストを依頼すると、クエ子がいる場所へと向かう。ここまではいつもどおりだ。


「アザレア、頼んだよ!」

「できる限りで良ければですが……」


 彼女はあまり自信がないみたいだけど、そんな事ないと願いたい。

 なんせあのIPCなんだから! なんでこんなこと言ったか分からないけど、多分頼りになるから問題ないはず!


「どっちがいい?」


 今度は最初に戻ってフリルの可愛い服と大人っぽいセクシーな服。一応正解は分かっているけど、アザレアに聞いてみた。


「アザレアはどっちだと思う?」

「そうですね……」


 アザレアは相手を値踏みするようにクエ子を見ると、迷わずセクシーな服を選んだ。


「目線がわずかにこちらへ向いていました。間違いありません、気があるのはこちらの服です」

「すごい、正解してる……」


 そこで判別するとは、さすがとしか言いようがない。実際に正解を引き当てると、次のステージレストランエリアに移動する。

 今度はエクレアとカレーライス。多分カレーライスだと思うけど、アザレアの采配は……?


「カレーライスですね。先ほどまでの言葉から、彼女はお腹が空いていると判断できます」


 ここまでの会話は伏線だったのか! 実際にカレーを選択すると、正解していたようだ。


「ここまで全問正解だよ! いける、いけるよアザレア!」

「いえ、ここまではレアネラ様が通った道。次が問題です」


 そうだろう。恐らくこのクエスト最大の難関は3問目だ。何故かって? 私も知らないからだよ。無知は罪というように、これまで一度間違ってから再度挑戦してクリアしてきた。でも、3問目は私ですら足を踏み入れることができなかった領域。ここからはホントにアザレアが頼りなのだ。


 町中を通り過ぎると、辺りは緑生い茂る風景が開けていく。そして目の前には丘があり、桜の木がそこに立っていた。すごいなぁ。ホントに年中咲いてる桜だなんて。いや、ゲームなんだし当然なのかな?


 それはともかく、桜の木の下にたどり着くと、クエ子がもじもじと、手で緊張を紛らわすようにいじり始めた。

 あ、これもう告白イベントだ。


「レアネラくん、クイズ、しよっか」

「へ?」


 クイズ? なんのクイズ? パンはパンでも食べられないパンは? みたいなイジワルクイズだったりしないよね。


「右と左、どっちがいいかな?」


 クエ子が止まった。目の前に出てくる選択肢は右と左。ど、どうしろと。こんなところで意味もわからないクイズを仕掛けられるとは。

 どうしよう、ホントにノーヒントだ。私にも分からない。アザレアの方をちらりと見ると、真剣にクエ子の様子を見ている。私も習って様子を見ているけど、目をつぶっているから目線も分からない。会話も聞いていたけど、突拍子もないクイズだったため、会話が意味のないものと分かってしまった。

 どっちだ。どっちなんだ!


「レアネラ様、左を選択してください」

「左? その根拠は?」

「予想です」

「予想って、そんな」

「根拠はありません。ですが今までのパターンから推察すると、そうなのかもしれない、と言う程度です」


 アザレアがそんなに曖昧なことを言うとは思ってなかった。でも、アザレアの厚意を無駄にはできない。だから私は左を選択する!


「ど、どう……?」


 緊張の瞬間が桜の花びらとともに駆け巡る。クエ子が目を開き、ニッコリと笑う。これは……?!


「えへへ、レアネラくんの勝ちだよ! よく分かったね、今まで左しか選択してこなかったの」


 えー?! え、だって左? え?

 確かに1問目も2問目も左の選択肢だったけど、まさか3問全て左が正解だったなんて……。


「好きだよ、レアネラくん!」


 あー、はい。そうですか。私はそこまでではないです。むしろ嫌いかもしれない。散々振り回してきた相手がよもや左しか選択しないガールだったことが。

 それに、アザレアに負けたと思うと、なんか胸の奥がモヤモヤとするというか、人工知能なんだし当たり前なんだけど、私にも推察できたんじゃないかなって思ったら、悔しいんだ。


「よかったですね、お金をたくさん入手しました」

「う、うん」


 確かに苦労に似合った金額だ。でも、やっぱ釈然としないや。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ