第32話:掃除した私は家具を作りたい。
お金を稼ごう。そう思いたったが吉日。だが、その前に彼女に聞いておかなきゃいけないことがある。それは、素材の件だ。
「机と椅子を作りたいのか」
「そうなの。お金はなんとかするから、素材お願いできない?」
「キミ、思い立ったらうちだよな」
言われてみれば、物事をお願いしてるのはだいたいビターな気がする。困ったときのビター頼みじゃないけど、錬金術師って何かと便利なんだもん。
「はぁ。今度うちのお願い事を頼んでくれたらなんかしてやらないこともない」
「ホント?!」
「あぁ、もちろんさ。そもそもホームに机と椅子がないのは致命傷だろうからね」
「ありがとう! ホント神様仏様ビター様だよ!」
「そう言って調子に乗らせようとしても、そうはいかないぞ」
えへへ、と笑いながら、メモに必要な素材を書きまとめる。だいたい木材だけど、一応鉄の素材があったりで、意外と量が多くなってしまった。大丈夫かな。
「この程度なら在庫と調合でなんとかなる。キミはさっさとお金を稼ぐことをおすすめするよ」
「うん、そうする!」
にこやかな笑顔をビターに向けると、彼女も微笑み返してくれた。なんかビターが笑ったところ初めて見たような気がするけど、容姿も相まってホントにかわいい。ううん、それはいいんだ。早くお金を稼いで優美なお茶会の準備をしなければ。
「槍、よし。盾、よし。回復ポーション、おっけい……」
ギルドホームに戻ると、アイテムを指差し確認している。流石にクエストだし、死なないとも限らない。準備はできるだけ整えていかなきゃね。
「お、レアネラも討伐か?」
「違うよ。私はクエス、ト……」
あれ、アレクさんっていつもは革装備みたいな感じでこれぞ鍛冶屋! みたいな格好だったと記憶してたんだけど、おかしいな。今日は金ぴかに見える。
「アレクさん、その装備は……?」
「ん? あー、お前がこれを見るのは初めてか」
首をブンブン縦に振る。そりゃそうだ。なんだよその全身金ピカ装備。貴族でももうちょっといい趣味しているだろうし、ノイヤーの普段着よりお金使ってるでしょ、その装備。
「これは金稼ぎにピッタリの装備でな。俺が作った!」
ドヤ顔で言ってのけるけど、その、とてもダサいです。
「えっと、このゲームって重ね着なかったっけ?」
「んあ? あー、あれか。いつもは鍛冶屋装備だからな」
「いやそうじゃなくて……。金ピカ装備の上に鍛冶屋の重ね着すれば……」
「これで上に着てるんだよ! 成金の重ね着一式で効果は倍増だ!」
私は思わず目線をそらしてしまった。だってめっちゃ楽しそうなんだもん。邪魔できないよ。
これは後で聞く話なんだけど、重ね着の中にも一式揃えることで効果を付与できる防具もあるそうな。アレクさんの成金装備一式は、お金を落としやすくなるらしい。見た目を犠牲にして、金欲に目がくらんだ怪物となるわけだ。ちなみに周りのプレイヤーにもたまにいると聞いて、ちょっと目眩がしてしまった。
「っしゃー! 行ってくるぜ!」
「うん、いってらー」
あの成金装備をしていたら、できるだけ距離を取ろうと思った私だった。
っと、それはいいんだった。私も早くクエストの用意しなくちゃ。
◇
「うーん、お金が稼げて、その上で簡単なやつ……」
腕を組みながらクエストボードを確認している私。正直どれがどう効率がいいのかよく分かってない。モンスター退治のクエストは、私一人じゃちょっと難しいし、アイテム納品の依頼はそれこそ錬金術師じゃないと楽じゃないだろう。
ではどんなのがいいか。とりあえず目についたクエストなんかは良さそうだった。
◆クエスト:桜の木の下で
この世の中には伝説の桜の木があって、なんでも年中桜が咲いているんだとか。
私をそこに連れて行ってほしい。あわよくば、私の……。うんん、なんでもないの! さ、一緒に行こう!
これ、どう見てもギャルゲっぽいんだけど、なんなのこのクエスト。一応お金も結構多めに手に入るらしいし、戦闘もないみたいだ。怪しいけど受けてみよう。
クエストを受注すると、テロップには「まず彼女の待ち合わせ場所に行こう!」と書かれている。仕方ないから、行ってみるけど、なんか怖いな。
「あ、レアネラくん!」
「私、女だよ?」
手を振って出迎えてくれたのは、頭に一つお団子を作った茶髪と、どこかにありそうで、どこにもなさそうな制服を着た少女だった。というかここ中世だったよね? 世界観もうちょっと統一しませんか?!
「もー、こういうときは『おまたせ、待った?』でしょー!」
プンスカしている彼女の名前も知らないけど、何故か怒られているのは分かる。
「う、うん。待った?」
「ううん、待ってないよ!」
どっちなんだよ!
「じゃあ、レアネラくんとデートだね!」
私、そっちのけはないと思いたいけど、いつの間にか懐に入って腕を組まれて、ちょっと照れてしまった辺り、どうなんだろう。分からないけど、この子相手にはきっとない。そうだ、ないはずだ。
「じゃあまずは服見に行きたい!」
「あ、うん。行こっか」
腕を組みながら歩くサベージタウンの町中は正直きつかった。主に目線が。初日にアザレアと歩いたときよりも鋭い気がする。
そんな目線を無心でスルーしながら、たどり着いたのは服屋。こんなところもあったんだ。さしずめ重ね着専門店って感じかな。いいな、この服。かわいい。
「どっちがいいかなぁ?」
クエストの少女がどっちの洋服がいいか聞いてくる。片方はフリルが付いたいかにも可愛らしい洋服。ゴスロリとまではいかないけど、意識はしているのかもしれない。もう片方は大人な妖美漂うセクシーな洋服。彼女の容姿と比べると、やや似合わない風貌で、前者のフリルの洋服が似合うのではないだろうか。
そんな事を考えていると、目の前に選択肢が現れる。ん? 選択肢?!
右のフリルと、左のセクシーという選択肢。まぁ、フリルの方がかわいいしこっちかな。目の前に出てきた選択肢をタップすると、彼女の反応が変わる。
「もう! レアネラくんのバカ! 私はこっちが着たかったのに」
《クエストに失敗しました》
「なんで?!」
少女は洋服とともに目の前からデータの破片となり、消えていった。
思わず声を荒げてしまって、周りの視線が痛いけど、落ち着こう。すーはー。
多分このクエストはこういうものだろう。
彼女とデートをして、出てきた選択肢のうち正しいものを選び続け、最終的に桜の木まで誘導する。そういうクエストなんだと思う。
私は思った。どこのギャルゲだよ!




