第28話:結成する私たちはギルドを立ち上げたい。
翌日。予定通り指定した場所で待ち合わせしていると、ビターが面倒くさそうな顔でやってきた。
「あ、ビター!」
「……なんでノイヤーがここにいるんだ?」
「どういうつもりですの、なんでこれがここに」
うわー、ホントにすぐさま険悪なムードになるなぁ……。
「ほ、ほら! 私が前衛で、ビターが中衛。ノイヤーが後衛ってことで、ね?」
「レアネラの頼みだ、無下にはしない。しないが……」
「ツーン!」
思ったよりもビターが協力的なのは安心したけど、ノイヤーが逆にあんまり乗り気じゃなさそう。ツツジのやつ、なんて言ったんだろう。
「はぁ、まぁいいですわ。さっさとぶっ◯して、素材でステーキですわね」
「よ、よーし! じゃあ行こー!」
そんな感じで始まったのが、この気まずいパーティ。アザレアが言い出しっぺだけど、私が板挟みになるなんて思わなかった。超胃が痛い。
ドラゴンの生息地は洞窟内らしく、そこまでは歩き。その間一切の会話もしなかったけど、途中で帰られるよりはまだマシだろう、うん。
洞窟に入ると、スライムやらコウモリモンスターなどが襲いかかる。流石に私もゲームに慣れてきたし、盾で防いで槍で貫くという、一般的な動きぐらいはできるようになってきた。とは言え、後ろでは……。
「邪魔ですわ! 《ファイアエフェクト》!」
「邪魔なのはキミの方だ! 《投擲》!」
炎の玉に火属性の爆弾で周りの火の海。しばらくは帰ってこれなさそうだ。
「キミのせいで帰れなくなるじゃないか!」
「そっちこそわたくしのお邪魔ですわよ!」
あー、また始まった。大きな声で、先に行ってるよ、と伝えると、すぐに喧嘩をやめてこっちについてきてくれるのはありがたいけど、そもそも喧嘩しないで。
そんなこんなで洞窟の奥、大きな扉の前に来る。多分相手は私よりもレベルが高いから【将軍殺し】圏内だろうけど、今日は2人が仲良くなるように立ち回らなければ。盾役に徹しよう。
大きな扉がギギギと重たい音を立てて開き始める。私たちは扉の向こう側に歩くと、バタンと扉が大きな音で閉まる。周りの壁のろうそくが自然に点いたと思うと、目の前には緑色の巨体、ドラゴンが私たちを待ち構えていた。
「来るぞ!」
「分かってます! 《視線集中》!」
騎士のスキルとして手に入れたターゲット固定のスキルで、私がタゲを取る。先制攻撃と言わんばかりに、ドラゴンクローが私の盾に襲いかかる。
《オートガードが発動しました》
「《キラーズスピアー》! 《サンダーブラスト》!」
ノイヤーが後方から攻撃魔法を繰り出す。確実にヒットはしているが、その巨体故にHPは多めなのか、あまり効果がないように見受けられる。
「こいつには氷属性だ! 《投擲》!」
散開していたビターが懐から水色の氷爆弾を投擲すると、これもヒット。これは痛そうに悶ている。HPもそれなりに削れているみたいだ。
「知ってますわよ! こいつのHPを見ただけですわ! 《アイスフォール》!」
「嘘つけ! なら一撃で十分だろう!」
氷ダメージでどんどんHPを削っていく。私はと言えばさっきからドラゴンの攻撃を受けているけど、そろそろタゲ集中が切れそうかも。もう一度《視線集中》を上書きする。
「……っ! 来るぞ、咆哮だ!」
「え。なにそれ」
「耳をふさげっ!」
その指示と同時に、ドラゴンの轟く咆哮が周囲の地形すら変える。天井から降り注ぐ岩が私の頭上に落ちてくる。
私は咆哮で身動きが取れない。このままぺしゃんこに……!
そう思っていると、後ろから雷の光が岩を砕く。あれは、ノイヤー!
「あ、ありがと」
「次の攻撃に備えますわよ!」
やっぱり経験じゃ2人には敵わないな。今は私でもやれることをやろう。尻尾や体当たりなど、全て盾で受け止めて、後方からアイテムと魔法の追撃。私が少しでも膝を付けば、この方程式は崩壊する。なんとしてもこの防衛ラインは守らねば。
しばらく物理攻撃を続けていたドラゴンだったが、地面に尻尾を叩きつけると、口から凍てつくような息を周囲に撒き散らし始める。
「これ、なに?」
「……っ! レアネラ、タゲを取れ!」
「え?」
「これはバフを消す効果があるんですの! ですから……ッ!」
その言葉とともにターゲットが私ではなくノイヤーに牙をむく。
凍てつく息が収束していき、徐々に室内は高温になっていくと、ドラゴンはターゲット相手に炎のブレスを放つ。相手はもちろん、無防備のノイヤーだ。
「……っ! 嫌ですわ! 《ファイアエフェクト》!」
必死に魔法で抵抗するも、効果はあまり得られず。面の攻撃で攻め立てるドラゴンの前にノイヤーは避けるすべもなく……。
「《投擲》! 《アイテム:岩盤城壁》!」
ブレスを受け止めたのはノイヤーではなく、私でもなく、地面から迫り上がったように見える岩の壁だった。
高温のブレスにマグマのように溶けつつも、ノイヤーが避ける時間は稼ぐことはできる。ビターがノイヤーを抱えて、その場から脱すると、岩の壁も役目を終えて消滅した。
「ビター、あなた……」
「これは貸しだ。アイテムの優位性を見せつけるための」
ビターが目線をややそらして、そんな憎まれ口を叩く。面倒くさいのが嫌いなくせに、そういうところは自分が一番面倒くさそうな人になるんだね。
「分かっていましたわ、ビターのアイテムが優秀なことぐらい」
「そうか。ならうちの勝利だな」
「そうは行きませんわね」
ノイヤーの負けず嫌いが発動したのか、抱えられた手を解き、彼女はドラゴンに対して手をかざす。足元に巨大な魔法陣が浮かび上がると、広がっていき、このバトルフィールド全体を覆う。
「今度は魔法の真髄を見せて差し上げますわ! 《高等儀式魔術:カース・オブ・ブレイク》!」
鏡のように何かが割れる音とともに、ドラゴンが膝をつく。何が起こったの? あれ、ステータスバーに見たこともないデバフがかかってるんだけど、なにあれ?
「高等儀式魔術はステータス、状態などに著しい変化をもたらす大型魔法。今回は相手の全ステータスを半分にさせ、スタンさせるというものですわ。代償として、リキャストは1日と、大したものですがね」
「すごい、すごいよノイヤー! ビターもそう思うでしょ!」
「いや、まぁ。そうだな」
「……素直じゃありませんこと」
それなら、後は相手をボコボコにするだけで構わないよね!
降り注ぐ氷の牙に氷の爆弾。居場所を失った私の盾の代わりに、反逆の刃がドラゴンを貫く。スタン中にHPがどんどん削れていき、状態異常が切れる頃には、ドラゴンの姿はデータの破片へと消えていった。
「やったー! 大勝利! 3人の勝利だよ!」
「まぁ、そういうことにしておこう」
「今日はまぁ、皆様の勝利ということで、よくってよ!」
◇
「で、どうだったんだ?」
「わっかんない」
「だよなぁ……」
酒場に帰ってくるとツツジ、アレクさん、アザレアの3人が待っていた。ドラゴンの肉ってどんな感じなんだろう、やっぱり硬いのかな。とか思いながら、アレクさんにドラゴンの素材を渡している。ノイヤーとビターはというと、やっぱりまだ喧嘩しているみたいだ。
「あそこでキミが足を引っ張らなければ、うちのアイテムを使うことはなかった!」
「わたくしがいたおかげでドラゴンを完膚までに倒せたことをお忘れなく~」
ノイヤーが手のひらを返しながらビターを煽っている。でもなんか、ちょっと仲良くなった感じがする。お互いを認めあったという感じかは、私には分からないけど。
「2人とも。ギルドはどうする?」
「ここまでしてもらったのだもの。もちろん入りますわ」
「そうだな。うちも入ろう」
「やっったー!」
2人ともいい笑顔で入ってくれることを約束してくれた。なら、善は急げだ!
「じゃあ早速クエストステーションに行って、ギルド申請しよ!」
「ギルド名はどうするんだ?」
「フフフ、ギルド名はねぇ……」
【グロー・フラワーズ】。アザレアをちゃんと育てられるように。そう祈って。
1章終わりです。
明日、幕間を2本投下した後に2章を始めたいと思います。




