第22話:新調したい私はオーダーメイドに憧れたい。
「レアネラ様、そのお金はどうしたのですか?」
「ノイヤーからもらったのよ。慰謝料ってやつ」
多分違うと思うけど、まぁ大体合ってると思うからいいでしょう。
このお金で何をするって? 今、私は盾を新調したくて仕方がないのだ。先の戦いではなんとか職務を全うしてくれたけど、正直あんな使い方していればいつか壊れる。何なら今壊れている。
「このお金で盾を買いに行くの。一緒に行こ!」
「はい、喜んで」
とっとことっとこと、歩いてきたのは商業地区。
この辺なら武器屋もあるだろうし、そこなら盾を購入することもできるだろう、と言う算段だった。
でも「盾って防具じゃないの?」って思ったりもする。私の中では叩いたりできるし、スコップみたいに穴掘れるし、武器ってことにしておこう。
しかし、こうやってアザレアと一緒に歩くのがなんだか久々な気がする。最近はビターのお願いばっか聞いてたからなぁ。
「アザレア、ビターのお部屋掃除するの楽しい?」
「……仕事のしがいはとてもあります」
「すぐ散らかしちゃうからね」
「酷いんです。ビター様は片付けた先から散らかしていくので」
乾いた笑いしか出てこない。あの人、世話付き殺しといっても過言ではないのでは。
「ですが、良くしてくださいますし、仕えていてご主人さまよりとても気分がいいです」
「それはよかった。やっぱり楽しいのが一番だからね」
「……楽しい、ですか」
「そう。胸の奥が弾むような気持ちを、楽しいっていうんだよ」
「楽しい、覚えました」
こうやって感情を記憶させていくのもなんだか手慣れてきた感じがする。やっぱりデータの中とは言え、生きているのならこうやって明るい感情で心を埋めていった方が嬉しいだろう。
そうやってアザレアに感情を教えていたところ、目の前に知った顔がポップしていた。あの全長190cm超えで白髪の大男は……。
「アレクさーん!」
「……ん? おう、レアネラとアザレアじゃないか!」
「こんにちは」
「見てたぜ、【悪役魔嬢】との一戦! 盾を捨てるなんて大した度胸だ」
「いやぁ、照れますねぇ」
あの時は咄嗟の判断だったけど、《マジックシールド》を展開できなかったら、多分私はあのまま死んでいたことだろう。正直秘密も大したことがなくて、戦い損もいいところだったが。
「アレクさんは何やってるの?」
「あぁ。俺、武器工房やってるんだけどな。そこの素材がなくなってたから買いに行ってたんだ」
「へー、武器工房……。私、盾探してたから気になる!」
「盾か。まぁ一応俺のところにもあるし、見に来るか?」
「うん!」
まともな人はいい人と最近学んだ。ビターもノイヤーも、とっつきやすいけどツツジも癖があるというか、まともじゃないって感じがプンプンしてるし。アレクさんはなんだか落ち着いてしまう。お父さん気質かな。
本人には言えないようなことを考えながら、私たちはアレクさんの武器工房にやってきた。
中は暗めのイメージだが、アレクさんが注目してほしい武器にはポップライトが点灯しており、店内は思ったよりも明るかった。
「おー、すご」
「ですね。この剣はなかなか切れ味が鋭そうです」
「私、槍使いだから使わないけど、こうやって見ると、剣も気になるなー」
「振ってみるか? 一応騎士でも装備できるし」
「いいの?! えーっと、お試し装備っと」
試着感覚で剣を持つと、予想より遥かに重い。でも槍よりはまだ幾分か持ちやすいと言うか、単純に軽く感じた。
両手で握って縦に振ってみる。ブンッという空気が切れる音がなんだか心地よくて、何度も振ってしまう。
「おいおい、周りをちゃんと見てくれよ」
「分かってるって。よっと」
今度は横薙ぎで振ってみる。今度は空気の音と一緒に悲鳴も聞こえた。え、誰か斬っちゃった?
「ああああ、危ないですわね! このドレスが傷ついたらどうするつもりですの!」
「……なんだノイヤーか」
「なんだ、なんですの! その人を小馬鹿にしたような態度! 侮辱罪で決闘ですわ!」
「うちは決闘禁止だ。やるなら他所でやってくれ」
「そもそも、もうノイヤーとやりたくないし」
「あら、そうなんですの?」
なんでそこでしょんぼりするのさ、悪役魔嬢。もうちょっと高らかに宣言してほしいんだけど、なんか調子狂うな。
「まぁ、いつかね、いつか」
「では明日にでも!」
「それは嫌だ」
この子ホントに表情コロコロ変わるな。顔文字でももうちょっと表情自重するよ?
試着していた剣を飾っていた場所に戻すと、なんだかんだ言いつつも、3人で武器を見て回ることになった。
「ノイヤーと戦ったときに盾ぶっ壊しちゃったから、変えを探してるの」
「それは申し訳ないことを致しましたわ。でも盾は防具の分類なのでは?」
「……やっぱりそう思う?」
「ゲーム内の設定でも、盾は防具の部類です」
「アザレアも?!」
やっぱりそう思っちゃうか。2人ともうんって頷いてるし。アレクさんもちらっと言ってたし、間違いないな。今度買う時は防具屋で探そう。
「じゃあここにはないってこと?!」
「そうなります」
「うっそだー! 骨折り損のくたびれ儲けだ!」
「まぁまぁ、そう泣くなよ。知り合いの伝ってことで作ってやるから」
「それってオーダーメイド?」
「まぁ、そうなるな」
オーダーメイド。それはお金があるときに許された貴族の遊び。興奮して咄嗟に財布を開くかのように、メニュー画面を確認して今所持している金額を確認する。だ、大丈夫だ。ノイヤーの慰謝料と、ビターで溜めた報酬金があるから、いける!
「こ、これだけ出せる、よ?」
「おっけい! それならいい感じのが作れそうだ。しばらく、そうだな10日ぐらい待ってくれれば仕上がると思うぜ」
「ありがとう! アレクさん大好き!」
「おいおい、年頃の娘がおっさんをからかうのはよせ」
あらあらまー。頬赤く染めちゃって。これでも私は女子高生だからね、そう思う気持ちも分からなくもないよ、うん。
それにしてもオーダーメイドかー。どんな盾が出来上がるんだろ。すっごく、楽しみ。
近いうちにキャラ紹介を作るかもしれない




