第20話:リアルの私はPVPの対策を考えたい。
「はぁー」
結局1日考えたけど、対策案が何も出てこなかった。
それもそのはず。私、対戦ゲーム自体あまりしないのに、いきなり対人線の、それも対策を考えろって、ちょっと無理があるというか。
はぁ、と2度目のため息をつき、私はいつものように自分の席につく。そして彼女もいつものようにこっちに寄ってくる。
「おはよ、さっちー!」
「ん、おはよ」
ツツジがどうしたの、とポケットからスティックキャンディを取り出すけど、今はとても食べるなんて気分にはなれない。というか、なんで持ってるんだそんなもの。校則違反だ校則違反!
「『エクシード・AIランド』のこと?」
「100ぱー正解」
「やりぃ!」
取り出したキャンディはそのまま彼女の口の中に吸い込まれていった。棒がぴょんぴょんしながら、私の話を聞いてくれているようだ。
私の話をあらかた聞き終えると、口の中でキャンディをカラカラと音を鳴らしながら、要点をまとめてくれた。
「つまりノイヤーとの決闘をするのに、何を準備していいか分からない、と」
「そー」
「あの人ホント面倒だし、速攻で決めないと《高等儀式魔術》が飛んでくるから厄介なんだよなー」
なんだか相手したことあるようなセリフだ。対面で戦った人の意見は参考になるだろうし、ちょっと聞いてみたい。
「ツツジって、ノイヤーと決闘したことあるの?」
「ん? まー、決闘っていうほどでもないけどね。ちなみに私のあっしょー!」
「すご」
もしかしてこの目の前にいる少女はそれなりに強い人なのでは? そう思ってると、彼女の言葉が更に続く。
「さっちーがどんな職業なのかは分からないけど、とりあえず物理系なら速攻で近付くしかないね」
「やっぱり。私の知り合いにも聞いてもらって、その結論になったんだ」
「あの人弾幕が分厚いからやってて面倒だし、そうでもしないとね。さっちーはどんな職業?」
私はそのまま自分が騎士であること、実は比較的スピードが速めということを告げると、キャンディの棒をいじりながら、あれでもないこれでもないと考え事を始めた。
しばらくすると、1つの結論が出たのか、私にその結果を告げてくれる。
「守りを固めて、猛突進しかないね」
「守りって盾構えるだけ?」
「うんん。こんなスキルがあってさ。ちょっと待ってて」
ポケットからスマホを取り出すと、それなりの速度で画面をタップして、私のラインにメッセージを届けてくれた。
「《マジックシールド》?」
「そう。それなら魔法攻撃を1度だけ無効にしてくれる。盾持ちなら付けといて損はないね。店売りのスキルだし」
「おー、こんなの知ってるなんてすごい!」
「へへっ、褒めるな褒めるな」
上機嫌になっているツツジがちょっと照れながら、キャンディの棒をいじっている。
よし、これなら防御を固めながら、接近して《反逆の刃》を使えれば……。
「あ、そういえば攻撃面どうするの? ノイヤー、紙耐久だとしても、騎士の攻撃力じゃ」
「フッフッフッ、それは問題ないよ。秘密だけど」
「えー、教えてよ!」
「ダメー!」
「このキャンディあげるから!」
「ツツジが口つけたやつじゃん、汚っ!」
「ひどい……」
「ごめんって」
さすがの私でも、他人が口をつけた飴はあげないよ。ちゃんと食べてと、手を引っ込めさせると、おちょぼ口で飴を舐めている。そんなに拗ねなくてもいいじゃん。
「じゃあ、今度私と買い物付き合って」
「え……?」
「いいじゃんー! 私だってさっちーのスキル構成、気になるんだから!」
まさか買い物に付き合ってもらえるとは思ってもみなかった。というか向こうから誘ってくるなんて。……なんか――。
「友達みたいだね」
「へ?」
……あ、口に出してた。タンマタンマと慌てて口添えするけど、思いの外ツツジのダメージが大きかったようで、口がポッカリと空いたままだ。
「……そっか、友達か」
「その、嫌だった? 前に言ってたもんね、心からの友達はいないって。私なんかじゃ友達には……」
「そんなことない」
うつむく私の肩を起き上がらせて、彼女はまっすぐに私のことを見てくれる。その瞳になんとなく自分の中の邪な心を感じて目線をそらす。
「私も、さっちーと同じだから」
「ツツジ?」
真剣な表情は私が名前を呼ぶと崩れていき、いつもの太陽のような笑顔に変わっていく。数秒経つ頃には、もういつもの彼女だった。
「私もさっちーと友達だったらいいなってこと!」
「……なんだ、なんかびっくりしちゃた」
「びっくりって?」
「だってツツジが真剣な顔してるんだもん。ウケる」
「ウ、ウケるってなにさー!」
掴んでた肩が前後にグワングワンと揺れ始める。あ、暴れるんではないツツジ殿ー! ぐわー!
「そういうところが好きだよ」
「え、なんか言った?」
「さっちーのヘドバンかわいいね」
「お前がさせてるんじゃないかー!」




