第18話:力を得た私は錬金術師と相談したい。
「戻ったよー、ってかなり綺麗になってる……」
「おかえりなさいませ」
アザレアが軽くお辞儀をする。アトリエに戻ってみると、散らばっていた本やメモ書きがすっきり整頓されている。ちょっとだけ物が残ってるところもあるけど、あと一時間もすれば片付くだろう。
「助かったよ。うちは掃除がどうも苦手で」
「そうだと思ったよ。アザレア、きっとまた散らかるよ?」
「そうでしょうか?」
「私が断言する。間違いなく散らかる」
こういうタイプは探し物がないという理由で、辺りを散らかしながら探し物を見つけ出すタイプだ。そのくせ掃除が面倒くさそうな物言いから、散らかしっぱだろう。そんな気がしてならない。
「それで【カゲリソウ】は手に入ったの?」
「見よ、この数を!」
メニュー画面からアイテムボックスを開くと、机の上にドバドバと植物を落っことしていく。数にして約二十ぐらいだろう。これだけあれば十分だと思う。
必要な数は聞いてなかったから、割と適当に集めただけだけど。
「キミ、結構やるな」
「そうでしょうそうでしょう!」
「ふむふむ。数にして二十二個といったところか。助かったよ」
やればできる子なのだ私は。鼻を伸ばして、ふんすと音を鳴らす。
あ、そうそう。モンスターのことも話すんだった。気を取り直して、トラ型のモンスターと出会ったことも話すと、今度はビターの顔が青くなっていく。
「あの山の【ビャッコーン】と出会ったのか。よく無事だったな」
「倒したからね」
あ、ビターが頭を抱え始めた。
「ちょっと待て。キミのレベルは今いくつだ?」
「今は確かレベル9ですね」
「嘘だろ……」
それまで行っていた調合の手を止めると、私と机で対面に座ることになった。え、なになに。そんなにやばかったの?
「あのモンスターは初心者殺しと呼ばれるほどに強力だ。防御はそれこそ騎士の《オートガード》だけで防げるとは思うが、攻撃となれば話は別だ」
「ビター詳しいね」
「それはまぁ、お世話になったからな」
「あー」
お世話になったって、そういう……。
「それをソロで倒すだと? ステータス振りは! いや、レベル9ならステータスを振っても無駄だ。どんなスキル構成だ! 称号は!」
「ちょっと待ってよ! いっぺんに言われても分かんなくなる!」
「……すまない。紙とペンある?」
「えーっと、どこだったかな。こっちじゃなくて、あっちでもなくて」
あー、早速散らかり始めてる。アザレアもショックそうにビターのことを見てる。
「あったあった。ほら、書いてくれ」
というかVRMMOゲームのくせに、たまに伝達方法がアナログだったり、チグハグ感が妙にゾワゾワさせる。リアルっぽいのはとても良いことなんだけども。
と、言われたとおり改めて書き出してみると、自分の所持スキルが分かる。ちなみに騎士のスキルはいらないと言われたので、称号【将軍殺し】だけだ。
◇
称号【将軍殺し】
下剋上:パッシブスキル
自分よりもレベルが高い相手に対して、最終ダメージ1.5倍
逆転:パッシブスキル
自分のHPが相手よりも少ない場合、最終ダメージ1.2倍
略奪:パッシブスキル
相手のATKの差だけ、自身のATKが上昇する
反逆の刃:アクティブスキル
自分のHPが相手よりも少ない場合、威力アップ
◇
「……キミがまさかレア称号持ちだったとはな」
「レア称号?」
「そうだ。うちの【旅の錬金術師】もそうだが、たまに普通じゃない方法で手に入れた称号がある。そういうのを総称してレア称号と呼ぶんだ」
「……もしかして私の称号って」
「キミが思ってる通り、レア称号だ」
なんと! 私の称号がまさかレアものだったとは! まさしくオンリーワンというべきものだろう。うはー、なんか言いふらしたくなる気分だ!
「これはここだけの話にした方がいいだろうな」
「え、どうして?」
呆れ混じりのため息をビターが放つ。なんですか。私そんな呆れたこと言ったつもりはないよ。
「こんな称号、厄介なのに絡まれるに決まってるだろ」
「あー、あはは」
「それもこんな自分より強いやつ限定で強化されるスキルなんて、いつ実装されたか分からないものだ。引き込みたくなる奴はいるだろうな」
それは、なんというか嫌だな。陰謀とか、策略とかに巻き込まれるのはまっぴらごめんだ。私はただ友達が作れればいいだけなのに。
「ともかく、この話はこれで終わり。次はお使いを頼む」
「え、また?」
「まだ時間に余裕があるだろ。今はだいたい0時過ぎた辺り」
0時って、明日また学校なんだけど……。
「……私そろそろ落ちなくちゃいけない」
「あー、すまない。うちの生活はあまり褒められたものじゃないから」
「じゃあ、ビターもアザレアも、おつかれ」
「あぁ、また明日」
「またお待ちしています」
意識が現実に戻ってくると、周りは真っ暗だった。確か今日は夕方からやってたから、電気消しっぱなしだったっけ。
モソモソと起き上がって、電気をつけると眩しさにちょっとだけ目をつぶる。
「……ビターって、やっぱりいい人だよね」
口は悪いけど、気持ちを切り替えて次の依頼をしてくる辺り、なんだか大人って感じがする。見た目はちんちくりんなのに。
寝る支度をすると、そのままベッドに舞い戻る。明日も早いし、さっさと寝なきゃね。
私の意識は徐々に睡魔に溶けて、消えていった。