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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第7章:私とあの子の想いが繋がる時まで
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第151話:オフ会をする私たちは再び出会いたい。

 それから2ヶ月が経った。

 別にこれは内容のない2ヶ月を送ったというわけではない。

 実際誕生日とか祝ってもらったしね。


 だが今日もそれはそれで楽しみな日の1つだった。

 駅構内の、謎の白いオブジェクトの前に立つのは私たち2人。吉田幸歩と石原ツツジだ。


「……早く来すぎた」

「なーんでさっちーはそんなに来たがったのさ。遠足の日の小学生か」

「……悪かったね!」


 あれからツツジとの関係はあまり変わってない。いつもどおり一緒にいて、それで賑やかしに私をいじってくる、そんな関係。

 強いて変わったとすれば、「このゲーム重婚できるんだって」とか「東京の渋谷区では同性パートナーシップ証明書っていうのがあってさ」とか、こと付き合うとか結婚という言葉に対して、妙に過敏になったことだ。

 この女、まったく諦めきれてないのである。それがツツジらしいと言えば、らしいのだけど、せめてアザレアのいないところでやってほしい。

 必ずと言っていいほど、アザレアが近くにいる時にやってくるのだ。もちろん一触触発の修羅場ムードが完成。そのうち、私も何かされるんじゃないかとヒヤヒヤしている。


 で、なんで今日こんなところに集まっているのかと言えば。


「だってオフ会だよ? 私初めてなんだ!」


 初グロー・フラワーズでのオフ会だ。もちろん全員来る、みたいだ。

 全員、というのはアザレアも含めてだ。でもバーチャル世界から出れないアザレアも何故か張り切っていたけど、これが何故なのかは誰も理解していない。

 まぁその場のノリということだろう、ということで全て納得した。


「にしても、ティア以外近場だとか思わなかったわ」

「ね。ティアは旅費よかったのかな」

「いいんじゃない、愛しの熊野もいるんだし」


 ノイヤーは知っていたけど、偶然にも同じ県の人間が多かったのは驚きだった。ティアはちょっとだけ外れた都市に住んでいるとか。そういえば1月に熊野に会いに行ってたっけ。


「私は愛しのさっちーに会えてるから幸せだけどー!」

「ちなみにそろそろクラス替えの時期だけど、いかがお過ごしですか?」

「超しんどい」


 そろそろ4月にもなるので、学級が1年上がってクラス替えの時期だ。神様仏様校長様に願掛けをしているらしいけど、それがホントに効力があるかは分からない。

 そんな事を考えていると、私のそばに約身長140cmの子供がやってきた。

 身の丈にあった子供用のリュックサックと、外に慣れてない人がちょっとおしゃれしたようだが、子供っぽい服装ゆえ幼い印象を持つ少女。

 この人、もしかして……。


「ビ、ビター?」

「え?! どこ!」

「ここだよ!」


 ちょうど頭一個分程度小さい彼女をわざとらしく探すようにキョロキョロ周りを見るツツジ。喧嘩売ってるなぁ。


「まぁ、ビターだ。名前は甘加瀬 美里。よろしく」

「恥ずかしがってる~! かわいいねぇ」

「うるさい!」

「……ツツジ、本名言うのって普通なの?」

「私もあれだけど、普通は言わない」

「な、慣れてないんだからしょうがないだろ!」


 どうしよう、普段の小さい体でふんぞり返った態度をそのままに肝を小さくした感じが、とてつもなく可愛い。何この年上幼女、は? かわいいんだが?


「これあれだね。誘拐できちゃいますね、奥さん」

「まぁ! 私のこと奥さんって言ってくださるの、旦那さん」

「そんな事言ってないでしょ! バカじゃないの」

「ひっど」

「あぁ、レアネラとツツジだということが分かったよ」


 何故これでバレてしまうんだろう。そんなに中の人丸出しだっただろうか。

 漠然と考えていたら、今度は巨大な影と、横で手をつないでいる小さな少女が立ちはだかる。

 まぁ、もしかしなくてもそうだろうなぁ。


「アレクさんと、咲良さん?」

「よく分かったねー。そうだよ」

「まぁ、そうなるよな」


 ゲーム内と身長差あまり変わらないし、なんだったら見た目も髪の色以外変わらないんだけど、装備とか取っ払うだけでこんなに犯罪臭が高まるとは。


「キミら、それで夫婦やってるのか」

「ぶっちゃけヤバいねこれ。こう、破壊力というか、インパクトが」

「みなまで言うな。俺だって分かってるんだ」

「ここに来るまで、警察の巡回を見るだけでヒヤヒヤしてたからね」


 難儀な人を夫にしたというか、豪胆な人を妻にしたっていうか、凸凹ここに極まれり、みたいなインパクトがあるね。


「あ、俺は相川大吾。でこっちがさくらだ」

「出たな、ネットリテラシーのない人!」

「ツツジ、あなたもでしょ」


 挨拶もそこそこに今度は同じぐらいの身長で姉妹と思われてもおかしくないような2人がこちらに手を振っている。

 大人っぽい服装と、制服の二人組。……というか、あの制服どっかで見たことあるんだけど。


「早いわね、まだ待ち合わせまで10分あるわよ」

「もしかして、ティア?」

「そうそう」

「もしかしなくても……」

「熊野です」


 やっぱりだー! 熊野の制服、見れば見るほどうちの制服と同じだもん! そうだよね、私たちの地区で一番近い高校って言ったら、そこしかないよね!

 ツツジの腕を引っ張ってコソコソ話モードに突入する。


「熊野の制服」

「分かってるって、多分向こう知らないでしょ。私たちが熊野と同じ……」

「あ、やっぱり。ツツジさんって1年のツツジさんだったんですね」


 モロバレである。

 私たちは黙々と、熊野の前まで来ると、深々とお辞儀をした。


「「先輩、今日もご苦労さまです!」」

「な、何やってるんですか?!」

「くまちゃん、もしかして不……」

「そんなわけないじゃないですかぁ!」


 あ、ビターと咲良さんがツボった。

 冗談だということを口にした後に、まさかそんな事があるとは、と雑談モードに入っていた。


「そっかぁ、ティアがうちの生徒をたぶらかしたんだ」

「人聞きが悪いわね」

「てか、なんで熊野は制服できたの」

「その。オフ会に行く服ってよく分からなくて」

「大丈夫よ、くまちゃん! 今から買い物しましょう!」

「そうだね! ティアちゃんとツツジちゃんとならなんとかなる!」


 小さい大人と大きな(一部分)大人が寄ってかかって外界を知らない少女に言い寄っている。これは女性同士じゃないと犯罪に発展しかねない絵面だ。

 ……というか、私何気にハブられてない? 私だってうら若き高校生だよ?


「あと来てないのはヴァレストとノイヤーか」

「例のバカは来なくてもいいが、ヴァレストはどんな見た目なんだろうな」

「あー。ゲーム内じゃ見た目盛ってたりしてね」

「ハハハ! ありそうだな」

「確かにな!」


 熊野をデコイにしながらビターとアレクさん3人でお話をしていたら、向こうから聞き慣れた声が聞こえる。

 この声、ヴァレストかな。振り返ってみると……、誰だあの美形男子。

 見間違えたかな、と思い一度目をそらして、もう一度声だけを聞く。うんヴァレストだ。振り返る。誰だあの美形男子。


「待たせたな!」

「誰だお前は」

「ヴァレストだよ、間違えるな!」


 いや、マジで? なんかゲーム内よりもスラッとしてるし、あんなクソダサな勇者鎧着てた人がちゃっかりスラックスとベストを着てキメてるし。

 顔も暑苦しくもなく、爽やか系のイケメンと言っても差し支えない。

 確かに初対面ではこの人かっこいいとか思ったけど、それ抜きにしてもリアルのこの人普通にかっこいいな。


「うわ、なんか。うわ」

「ヴァレスト来たの? ……うわ」

「な、なんだよその反応」

「土下座してまでギルドに加入してきた人がこんなにイケメンだと、なんか」

「イメージと違うの分かるわ」

「酷いなオイ!」


 こんな顔でいつも接していて、であの残念っぷりな発言でしょ? 正直ドン引きだよね。残念系イケメンここに極まるって感じ。


 という感じで残りはノイヤーだけとなった。

 ちなみにお互いに自己紹介をする時間もあったので、軽くしておいた。とは言っても、こっちでもほぼほぼユーザーネームの方で呼ぶんだろうけど。


 ティアは竹田恵。

 熊野は熊谷友奈。案の定熊が付いてる。

 ヴァレストは佐藤涼太と、こっちは普通なんだね。

 私たちも自分の本名を告げると、ツツジの方は驚かれた。確かに本名だからね。


「あとは例のバカだけか」

「その割には緊張してるとか?」

「何故そうなる」

「有名よね、ノイビタのカップリング」

「そうだな。ノイヤー×ビターの決して友情ともライバルとも一言では言い表せないような」「やめろ、殴るぞ」


 他愛ない雑談で笑っていると、あっちは東口のほうだろうか。通り過ぎる人々が妙にざわつき始める。

 目を凝らしてみていると、黒塗りの高級車が一台駅前に停まる。その中から黄色いフリフリのゴスロリドレスを着飾った金髪の少女が出てくる。

 ツツジと一緒に目を合わせた。あ、ノイヤーだあれ。


「ごきげんよう、皆さま」

「ひ、久しぶりだね、ノイヤー」

「約半年ぶりですわね」

「……そんなキャラだったっけ」


 もちっとしたほっぺたに怒りマークが付いた気がしたけど、多分気のせいだ。私は少なくとも見てないフリをする。


「ぷっ、何だその格好」


 怒りカウンターが瞬間的に1万ポイント貯まる音が、チャリンチャリンと鳴った気がした。


「なんですの、人がわざわざオシャレしたと思えば! あなたビターでしょう!? そのみすぼらしい格好を見れば分かりますわ!」

「なんだと?! これは機能面を重視した完璧なフォーマルスタイルだと言ってくれ。それよりもわざわざオシャレしたからって、そんなゴテゴテのゴスロリドレスにはならないだろう! キミのセンスを疑うなぁ!」

「そちらこそ、って何するんですのよ!」


 ノイヤーを止めるためべく、黒いスーツを着たジェントルマンに肩をポンポンと叩かれる。そして一言。


「お嬢様、ノイヤー家の品位を疑われます」

「ぅぐ……」

「ふっ」

「くぅうううううううう!!!!!」


 怒り心頭のノイヤーに勝ち誇ったようなビターの顔。うーん、地獄だ。


「今日のところはこれで勘弁して差し上げますわ」

「負けを認めるんだな?」

「そんなわけありませんわ! 今日はノイヤー5番勝負を持ちかけさせていただきますわ!」


 向こうでわーきゃーしてるビターとノイヤーは放っておいて、執事の男が私とツツジにお礼をするように頭を下げた。


「え。ど、どうしたんですか?」

「いえ。お嬢様はあれでも昔は引きこもりだった身。何がきっかけとは分かりませんが、貴女方に会った前後から積極的とは言わずとも、学校に通い始めたのも事実なのです。ですから感謝の言葉を届けたく」


 私たちと会った前後から、か。ノイヤーが自分のことを話すことはなかったし、あんな様子でも人は変わったというのであれば、私たちが何かいいことをしたのであれば、嬉しいかな。


「本日はお帰りの時間までお嬢様は貴女方と一緒。お嬢様の身に何かあったときは、分かりますな?」

「あっはい」


 極力目を離さないようにしよう。首が飛ばないように。

 執事の男はそう言ってから姿を消した。それはもう忍者のごとく。多分停車していた車の中で待機しているのだろう。そのうち駐禁で警察に何か言われるかもしれない。


「さて、みんな揃ったね」

「流石に、アザレアはいないけどな」


 それは、少し残念だった。少し? ううん。めちゃくちゃ残念だ。付き合いだしてからという、大それた進展はしてなかったけど、それでも私のこ、恋人なわけだし。

 あー、こんな事を考えるだけで気恥ずかしくて困ってしまう。いやだって、自分から返事を言いに行ったとは言っても、あれは勢いとかそういう諸々があったわけで。

 今考えたら、すごく恥ずかしい。誰だよあんなこと言ったの。私だよ。


「アザレアのこと考えているんですか?」

「え?」


 不意に後ろから聞き慣れた、聞き間違いなど起きない声が聞こえる。

 声を確かめるために振り返る。そこにいたのは、アザレアのような誰かだった。

いろいろな伏線、というかフラグがあった気がしないでもありませんが、あと1話で終わりです。

イチャイチャとか除いて、どーしても幸歩と彼女を突き合わせたかった所存。

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