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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第7章:私とあの子の想いが繋がる時まで
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第150話:決意の私は想いを繋げたい

「……泣き止んだ?」

「やだ。離れたくない」


 そんな事言われましても。

 元々ツツジをフッた後に、アザレアに告白しに行くつもりだったんだけど、どうにもツツジは私を抱きしめたまま離したくないようだ。


「あの。この後用事があるんだけど」

「アザレアのとこに行くんでしょ。嫌だ、離さない」


 私を諦めさせるために好きを告白させられた気持ちにもなってほしいんだけど?!

 なーにが「幸歩を諦められるぐらいの好きを言って」だよ。全然、これっぽっちも諦められてない未練タラタラの女じゃん。


「うるさい! それぐらい、さっちーの事好きだったんだもん……」


 しおらしく私の胸にうずくまる彼女の姿にちょっとだけキュンとしてしまった。やっばい、ほんの少しだけ揺らぎそうになってしまった。ダメダメダメ、そんな優柔不断な態度じゃ、ホントダメだから。


「まぁ、その。なんですか。ごめん?」

「なんで疑問符なのさ……」

「言っちゃダメかなと思って」

「鈍感系主人公っぽくてやだ」

「ごめん……」


 私が鈍感系というのかどうなのかはさておき、フッた分際でごめんっていうのはフラれた人に申し訳ないかなって思っちゃったから。

 まぁ言っちゃったもんはしょうがないんだけど。


「ねぇ、さっちー」

「なに?」

「最後に1つだけお願いさせて」

「……過度なものじゃなければ」


 少しだけ胸にすり寄って、額を擦り付ける。ホントくっつきたがるなぁ、なんて思いながら、顔を上げたツツジと目が合う。

 その目は決意に満ちた物で、潤う瞳と真っ直ぐな眼差しが眩しいと思うぐらい。


「目つぶって」

「え、何する気なの」

「いいから! 悪いようにはしないって」


 まぁ、ツツジがそう言うなら。悪ノリも行き過ぎた真似もする彼女だけど、ホントに悪いようにはしないと思う。

 私が目を閉じると、背中に回していた両腕と、胸に収まってた感触がなくなる。少しだけ寒さと名残惜しさを感じた。


 風のように、すっと頭を撫でられたと思えば、額に柔らかくて、少しだけ水っぽい感覚が注がれる。

 ハッと、閉じていた目を見開いて上を見上げる。中腰で屈むツツジと目が合った。


「額のキスは『祝福』って意味があるんだってさ。ほら、さっさと行く!」


 ボケっとしている私の頭をぽんっと叩き、後ろに回ると、思いっきり背中を叩かれた。痛い。

 振り返った彼女は、さっきまでの出来事が無かったかのような笑顔で、私を見送る。ちゃんと頑張ってこいよと、親友を励ますように。


 フッた責任は、ちゃんと取らないとね。


「いってくる」

「うん、いってらっしゃい」


 夏の日のひまわりみたいな、元気で黄色な笑顔を背に私は自宅へと走る。

 アザレアに、この想いを告げるために。


 ◇


「あーあ。何やってるんだかな、私は」


 走る彼女の後ろ姿を見ながら、心の中の敗北感と向き合っていた。

 ねぇさっちー。私、本当にさっちーのことが好きだったんだよ。きっかけは些細なものだったかもしれない。でもさっちーに触れる度にその想いはどんどん膨れ上がっていったんだ。


 すっごく好きだった。好きだったから悔しくてたまらない。

 彼女は私の親友を選んだ。恋のライバルを選んだ。

 何が足りなかったんだろう。何が彼女との差を分けたのだろうと。


 でも、後悔はなかった。

 今まで聞けなかった幸歩の好きが聞けてよかった。

 何もなかったはずの彼女の恋心の先に私がいなかったのはとても悔しいけど、ホッとしたんだ。

 あぁ、本当に好きなんだ、幸歩のことが。


 だから背中を押した。

 本当は唇にキスしたかったけど、それは卑怯な気がしたからやめた。

 励ますためのキス。祝福の額へのキス。

 これが私のファーストキスだと思うと、少し寂しい気持ちがある。

 でもこれが親友を励ますために捧げる愛だと思えば、ちょっとは報われた気持ちになるよ。


「さっちー、大好きだよ」


 振り返ることのない彼女の背中にそう告げる。

 その愛が届くことはなく、ただ1月の冷たい風に消えていった。


 ◇


「アザレアは?!」

「うひゃ?! びっくりした。何事ですの?」


 エクシード・AIランドにログインして、ギルドホームへ行くとノイヤーが紅茶を飲んでいた。

 あまりの声に肩をビクンと揺らした彼女は、紅茶のカップを落としそうになったが、なんとか持ち直すことに成功したみたいだ。


「だからアザレアは?! ホームにいないみたいだけど」

「さぁ。お買い物じゃありませんの?」

「分かった、ありがと!」

「は、はい……」


 驚きにまみれた顔で私を見送るノイヤー。なんか申し訳ないことしたけど、それよりも今はこの胸の気持ちを伝えたい言葉でいっぱいなんだ。

 騒々しいですわねぇ。という声とともに、私はギルドホームを立ち去った。


 その後商業エリアやアイテムショップ、クエストステーションにも寄ったけど、どこにもアザレアの姿はいなかった。

 あ、そういえばアザレアと契約結んだから場所わかるんだった。普段使わないと言うか、最近まで使えない機能だったから忘れていた。

 えっと、ここは……。


 少し息を呑んだ。何も言ってなかったはずなのに。


 偶然という言葉で片付けるには少し変で、そういう運命だった、なんて思ったら、口がちょっとニヤけてしまう。そんな気恥ずかしさ。


 宿屋を超えて、IPCショップを抜けて、ゴーストタウンに入って、その子は最初に出会った場所にいた。

 ここは相変わらず廃墟のままで、瓦礫が危なっかしい場所。

 でも私たちにとってはいつまでも素敵なままで、最初に出会った場所。


「あっ。レアネラさん、どうかしましたか? そんなに息を絶え絶えにして」


 彼女を目にして、ようやく私が置いてきた感情が心臓にすっぽり戻ってきた。

 やば、めっちゃ緊張してる。

 彼女の青い髪、透き通るほど透明な白い肌。琥珀色の瞳は私を見つめて、私だけに冬の木漏れ日みたいな柔らかな笑みを浮かべてくれる。

 そのどれもが、とても愛おしくて、胸でくすぶっていた焚き火が徐々に炎上を始める。


「アザレア、言いたいことがあるの」


 キョトンとした顔は今からどんな言葉を告げるのか分かってない顔だ。

 心の炎はどんどん燃え上がっていく。現実を直視するごとに、緊張という氷は溶けていって、残るのはただの想いの炎。好きという、言葉だけ。


「アザレア。好き」

「……え?」


 しばらくボケっとした彼女の顔はみるみるうちにオーバーヒートする。

 バーチャルリアルを信じることが出来ない、要するにテンパった顔だ。その顔が私の胸を燃やす。もっと、照れさせたい。


「聞こえなかった? 好きだよ」

「いや、あの。そういうことではなくてですね」

「じゃあどういうの?」

「じょ、冗談ですよね。レアネラさんがそんな、私を好きって言うなんて」

「本気だよ。大好き!」


 一歩一歩、愛を確かめつつ近づいて、アザレアの身体をギュッと抱きしめた。

 当の本人は未だに状況の処理ができなくて、頭から煙を吹き出したり、シュルシュルという謎の音を発したりしている。


「あの。私、AIですよ?」

「うん知ってる」

「なのになんで。好きって本気で言ってるんですか?」

「本気だってば。それとも欲しくなかったの?」

「そんなこと、ありません。でも頭のどこかではツツジさんの方に行くって思ってたから」


 そんな事考えてたんだ。でも私が愛したいって思ったのは紛れもなくアザレアなわけで。


「私はアザレアがいいの」

「ホントに、私がいいんですか?」

「うん」

「サービス終了したら会えなくなっちゃいますよ」

「そしたら全力で泣く」

「……それは、嫌ですね」


 背中に両腕が回って、ギュッと締め付けるような感覚を感じる。もう絶対離さない。私のものだと誇示する子供みたいに。


「本当に、本当ですか? 私はただのAIで、もしかしたら壊れてるからって処分されてしまうかもしれなくて」

「それツツジにも言われた」

「……なんて、返したのですか?」

「理屈とか抜きで、好きになっちゃたんだもん、って」


 抱きしめる腕の力がより強くなる。

 頭のどこかできっと考えていたんだろう。バカだなぁ。私がいつも、AIだからとか、IPCだからだとかで一緒に行動してたと思う?

 違うよ。私は『アザレアだから』一緒にいたいって、思ったんだから。


 そっと、頭を撫でる。髪の毛と本物と同じような感触が私の手の中で広がる。

 VRってバーチャルリアリティ、なんでしょ。だったら私のこの想いも、アザレアの想いも、仮想であっても、現実じゃないなんてことはない。


 ――理屈なんて除いて、こんなにも好きになっちゃったんだから。


「レアネラさん、私変なんです。胸の奥がキュッとなって、嬉しくて、息苦しくて、涙が、溢れ出しそうになります。何も悲しくないのに」

「嬉しくて泣くこともあるんだよ。泣いちゃえ泣いちゃえ」

「……っはい!」


 それからアザレアは愛を確かめるみたいにずっと私を抱きしめながら泣いていた。時には私の胸でうずくまったり、強く引き寄せてみたり。それはもう甘えん坊な恋人みたいで、可愛らしかった。

 だから最後は少しだけ名残惜しそうに、私の身体から離れて隣に座った。指を一本一本絡めて、愛をつないで。


「泣き止んだ?」

「はい。その、すみません。みっともないところを見せてしまって」

「そんなのこれからも見るんだし、もっと見せて」

「見せるのはレアネラさんだけです」

「強がっちゃって」


 私の中になかったはずの独占欲が少しだけ顔を見せる。アザレアもツツジも、こんな気持ちだったんだろうなと思うと、申し訳なくも少し嬉しくなってしまった。


「レアネラさん」

「ん?」

「アザレアの花言葉って知ってますか?」


 その顔は私の大好きな、冬の日に窓から差し込む木漏れ日のような、暖かくて、向けられたら心地がいい笑顔だった。


 後で調べたアザレアの花言葉は、よくもまぁこんなことを笑顔で言ったなと、私まで恥ずかしくなってしまった。


 アザレアの花言葉:「あなたに愛されて幸せ」「恋の喜び」

あと2話ですが、この先はオフ会編になります。

レアネラとアザレアのイチャイチャが見たい人、

レアネラとツツジのくっつくIFが見たい人は声を上げていただくと、外伝として書くと思います。

ぶっちゃけツツジと付き合うIF話は私も読みたいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 二人共本当に良かったね…って思ったらまさかのオフ会編、是非レアネラとアザレアのイチャイチャも見たいですね。 [一言] ツツジとくっつくIF編、以前までは欲しいな~と思っていたのですが、前話…
[良い点] 今回の話全部 [一言] 外伝は両方読みたいです
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