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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第7章:私とあの子の想いが繋がる時まで
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第147話:想いを灯す私はやり直したい。

ツツジVS咲良リベンジマッチ後編

そして……。

「テンポ上げるよ。《四の型 隼風》」


 またもや縮地で距離を詰めて、斬り上げの一閃。

 いい加減、その攻撃も見飽きた。確かに素早い攻撃ではあるけど、スキル故の都合だろう。一直線の斬り上げ技にしか見えない。だから避けるのも簡単なんだけど……。


 続け様にやってくるのは一の型。カウンターの燕返し。燕を落としたという異名から名付けられたその剣技はとにかく素早い。飛ぶ鳥を落とすんだから、そのぐらいの驚異がなくてはいけない。だから、今回はシステムアシストに頼る。


『《そらし》が発動しました』


 バックステップして避けた四の型から更に派生して、システムが避けるだろうと思しき位置を事前に予測、もちろんそのとおりに避けるので、続きの剣撃も防ぐことができる。

 またもや刀同士がぶつかりあう。バチバチと火花散るのは鉄の音とその目線。


「そらしを使いこなすなんて、やるね」

「伊達に回避ウーマンしてないし。日々の積み重ねだよ!」


 これでもノーハーツ戦の後も私は個人的に特訓を重ねていた。

 100人組み手ならぬ、1000人組み手で集中力を限界まで鍛えたり、そらしの練習のためにヴァレストに手伝ってもらったり、それはもう様々やった。

 それは全て、咲良に負けたままじゃいられないって意地だけで動いてる。まさかこんなにも早く再戦の機会があったとは思わなったけど。


「じゃあ、こんなのはどう?」


 咲良は刀を後方にずらすと、力のバランスを直線へと傾ける。するとどうなるかと言えば、私がバランスを崩して、前に倒れる形になる。滑らせた刃は止まらない。咲良の目的はバランスを崩した私の腹部を斬り裂くため。

 こうなったら、こっちもやることやってやる!


「《神速》!」


 奥義の神速を放つ。先にも説明したと思うけど、神速は点と点のワープ。つまるところ、一時的に瞬間移動を果たすわけで。

 その場からいなくなった咲良の刃が空中を切る。こうでもしないと私が腸をぶちまけていたところだった。

 そしてこれは最大のスキ。虚を突いた私のワープは流石の咲良もすぐには対応できない。

 さらに、これは相手の攻撃タイミング。相手の攻撃に対する『カウンター』が成立する瞬間だ。


「《無中のカウンター》!」

「っ!」


 私がワープしたのは咲良の背中。突き刺すのは左肺の心臓部分。

 完全に不意をついた一撃は、咲良の五の太刀を発動させる間もなく、咲良の急所を突いた。


「……やるね、ツツジちゃん」

「でも、これじゃ倒れない」


 なんとなく予想はしていた。ブスリと刺した一撃は確実に背中を貫いていた。心臓を貫いたはずだった。

 警戒はしていた。だから、すぐさま背中を蹴り飛ばして、咲良の続く二の太刀から退いた。


 咲良は、生きている。《折れぬ闘志》を使って。


「決闘でここまで追い詰められたの、初めてかも」

「こっちもやるカードはほぼ全部切ったつもりなんだけど」


 超加速は対応される。だから神速でちゃんと避けて、一撃必殺の無中のカウンターを使って心臓を撃ち抜いたのに、それでも勝てないって化け物か何かかよ。


「今私のこと化け物って思ったでしょ」

「違うの?」

「周りはそういうの好きみたいだけどね」


 観戦席にいるノイヤーとヴァレストをちらりと見ると、2人が口笛を吹いている。ノイヤーは吹けてないから、風の音がヒューヒュー聞こえるだけだけども。


「元々負けてあげよっかなって思ってたんだよね」

「え?」

「だってそうでしょ。勝負の勝ち負けで人の恋を終わらせるなんて言われたら、勝つ気分じゃなくなるって」


 ま、まぁそうだけど。

 それは対戦相手である私にぶっちゃけるのはどうかと思うが。


「でもさ、ツツジちゃんが全力で来るんだもん。今までの相手で最強の相手。私を初めて追い詰めた素敵な弟子」

「弟子になったつもりはないけど」

「私にとっては弟子なんだよ」


 ――だから。


 咲良の決意に応じて、妖刀炎帝の赤き亀裂から炎が滲み出して、刀身を燃やし始める。その揺らめく炎は数多の敵を焼き滅ぼしてきた天獄の業火。

 斬り裂かれたものは文字通り灰と為す、この世全てを焼き尽くす炎こそが、彼女の《終の型》。


「《天獄炎舞》」


 刀を横に振り、炎の一閃がカチャリと鳴る。


「この一閃は、あなたに手向ける本気の一撃。夢想の太刀による最後の一振り。恐れぬなら、受け止めなさい」

「正直避けたい」

「避けさせない。《体の型 瞬菊合唱》。続けて《体の型 跳躍》、《体の型 縮地》」


 1人だった咲良の姿が2つ、3つと分身を重ねていって、10の分身が目の前に現れる。

 駆ける3人。急接近する2人。空中から襲いかかる4人。懐に入った2人が刃を斬り上げる。これは違う! ギリギリのところでバク転をして躱し、2人は消滅。

 続け様に来るのは空中を飛び交う咲良たち。左手を回転させて、《月影》で影を斬り裂いて撃破。

 更に襲いかかるのは、4人の咲良。え、4人?!

 左手のバネと月影の衝撃を使って飛んだ先には4人の咲良。さっきよりも1人多い。着地地点を見定めていたかのように、2人が炎の炎熱刃を空中に飛ばす。朧影はその場で切れた。


 残りは2人。左右から挟み込むように終焉の太刀を振りかざす。どちらかが本物で、どちらかがスキルによる分身。

 上から振り下ろす咲良と、横から水面蹴りのようにスライドしてくる咲良。判断時間は少ない。

 《天獄炎舞》の必殺技が終了すれば、強制的なデバフ効果によって咲良は失速。そのままゲームセットまで持っていける。ならば……。


「《超加速》!」


 超加速状態になった私はすぐさまこの場からの離脱を図る。逃げ続けていれば、必ず勝てる状況なのだから。


 ――そのはずだったんだけど。


「逃さない!」


 横からのスライドするように空中を切るはずだった咲良の刀が、分身体である咲良を斬り裂く。

 その瞬間紅蓮の炎となり、分身体が咲良の刀に吸い込まれていった。


 何が起こっているの? そんな考えがスキを生む。間抜けな様子を察知したのか、してないのか。咲良はニヤリと笑って、矛先を地面に突き刺す。


「《終の型改 天獄焦土》!」


 燃え盛る天獄の業火は地面へと直接注がれる。

 咲良を中心として、それまで緑と茶色だった地面を不毛の大地であるように黒い灰へと塗りつぶしていく。

 天獄焦土。この技はおそらく、私の最も不得意とする全体への範囲攻撃。地面から熱する黒い灰が私に伝播すれば、死に至る。

 まるで病。人の歩く速度と同等の速度で炎が大地を焼き尽くし、焦土の世界へと叩き落とす。


 これは、逃げ切れない。例え逃げ切ったとしても、この大地がある限り近づくことすら叶わず、必殺技後のデバフ効果という最後のチャンスを逃すことだろう。



 ――負けたくない。


 前に進まなきゃいけないんだ。




 ――負けたくない。


 私のリベンジマッチをこんなところで終わらせたくない。




 ――負けたくない……。


 私の思い出をこんなところで終わらせたくない。





 ――……負けたくないッ!!


 私の恋心を、こんなところで、絶対終わらせたくない!!!!



 気づけば咲良の方向へと走り始めていた。

 刀は地面に突き刺したまま。つまりあの場からは動くことは出来ないということ。

 この最大にして最高にして、最悪のチャンスを無駄にするわけにはいかない。


 突破方法としては前に1度だけやったことがある無謀な行為。シビアなタイミングと、重力バランスが物を言う解決策。でも、これしかない。


「《月影》×5!」


 未だ超加速状態の私の刃から放たれるのは5つの斬撃波。

 全てが咲良の方へと向かう私の希望への架け橋。


「無駄だよ、全部《天獄焦土》で焼き尽くされる」

「……それはどうかな?」


 私は生み出した《月影》の上へと、飛び乗る。

 1つ目の斬撃で足場を確認する。大丈夫。これならいける!


「斬撃に乗った?!」

「まさかっ!」


 踏み込んで2つ目の斬撃へと飛び移る。踏み台にした斬撃波はその場で消え去った。

 バランスを気をつけないと真っ逆さまに落ちて、天獄焦土に焼き尽くされる。

 だから急ぐ。2つ目を飛び越え、3つ目、4つ目と突き進む。


 異変は起こった。4つ目の刃が焦土の影響を受けて、脆くも崩さろうとしている。

 まだだ。まだ終わらせたくない。

 思考をフル回転させて、その場の最適解を考える。手に持っているのは刃。刀。斬撃を生み出せる、遠心力を生み出せる。それだけで十分だった。


「《スラッシュ》!」


 自分の体を強引に回転させて、スラッシュのスキルを放つ。

 スキルの勢いと、回転エネルギーを合わせて、一時的に空中に身体を投げうつ。


 しばらくの静寂。空中に打ち上がった私はゆっくりと相手を見下ろす。

 天を仰ぎ、私を見上げる咲良の瞳は、口元は、顔はこれから巣立つ弟子を見送るものだった。

 親みたいな顔しちゃってさ。でもされている側としてはそう悪いものではない。


 願いに呼応する刃は反撃の一撃。数多の攻撃を避けてきた私の攻撃力は《剣の舞》の上限まで届いている。

 だからこれで終わらせる。これで終わらせて……。


 ――私は、レアに告白する!



「《無中のカウンター》!!!!!」



 瞬間。光が爆発する。何故だか分からない。そういう演出だって言われたらそうかも知れない。だって『威力6倍のカウンターを決めたのは初めて』なんだから。


 私の足元には死の灰だった大地はなく、緑と大地の広場が横たわっている。

 あとに残った景色は、刀が突き刺さったまま、胸を斬り裂かれた咲良のアバターと、短刀を振り下ろした私の姿だけだった。


 WIN ツツジ


 ◇


 勝った。ツツジが、勝った。


「すごい。すごいよ、ツツジ!」


 一番に声を上げたのは、他の誰でもない。彼女が好きな私だった。

 ツツジは息を切らして、手に持っていた小刀を落とす。

 1つ、咲良にお辞儀をすると、私の元にやってきて、手首を掴み私をどこかへ連れ出した。


「ツ、ツツジ?!」


 後ろから聞こえるちょっと待ってとか、おーいとか言う声を置いて、ひたすらツツジは私を連れて走り去る。

 木々を抜けて、よく通る道を通って、私たちがたどり着いたのはギルドホームの前だった。

 その間一言も話すことなく、でもなんとなく。ううん、とても嬉しそうな様子で走るツツジの姿を、私は何故だか羨ましく思った。


 何故なんて言葉で誤魔化すのはやめよう。理由はわかってるんだから。


「……どうしようもなくって、走っちゃった。えへへ」

「うん。よかったね、勝てて」

「……分かってるんでしょ、私が言いたいこと」


 ピクリと反応する。誤魔化そうとしても、きっとツツジはそれを見抜く。よく分からないレアセンサーだとか言って、絶対見抜く。


「…………いいよね、ツツジは。自分の好きがあって」

「うん」

「もう私には分かんないよ。好きとか恋とか、そういうの含めて全部!」


 好きを知ってるツツジが羨ましい。

 恋を知ってるアザレアが羨ましい。


 分かってるよ、そのぐらい。そういうの一切合切含めて、私にはないものだから。

 でも、そのどちらかを私は踏みにじらなきゃいけない。

 道端に咲いた花を歩いて踏み荒らすように、当たり前のように選ばなくちゃいけない。2人のことを。ツツジと、アザレアのことを。


「ねぇ、教えてよ。なんでそんなに必死になれるの? 私なんかの、どこがそんなにいいの?!」


 気づけば瞳にいっぱいの涙を抱えていた。

 ずっと我慢してきたのに。ずっと気付かないふりをしてきたの。2人のせいで台無しだよ。私の想いは、もうぐちゃぐちゃでよく分かんないくらい黒に満ちている。


 そんな私を見る目はきっと軽蔑に満ちているはずだ。こんな私をどうか嫌いになってほしい。だって、私は……。


「好きだよ」

「……嘘」

「大好き」

「嘘だよ……」

「ずっと好き。今までも、これからも。私はレアのことを愛してる」


 どうか気軽に言わないで。他人のことで手一杯で、自分のことを考えたこともなくて、そんな私を好きでいれるなんてどうかしてる。

 違う。私を好きな人をどうかしてるなんて言いたくない。でもそう思ってしまう。


 私は一人ぼっちが嫌で、辛くて。やっと見つけた親友たちは私を好きだっていう。

 でもその好きが分からない。私が向けている好きと、彼女たちの好きは違う。

 結局私はまだ一人ぼっちなんだ。恋がわからない私の好きは一方通行で、独りよがりで。


 今は、あなた達の好きが、怖い。


「……ごめん。答えられない」


 プライベートルームに駆け出して、ドアを閉め、鍵をかけた。


「ごめん。ホントに、ごめん……」


 私は恋がわからない。理由はわかってる。

 でも、それを解決できるほど、私の心は強くない。


 ただ、私は怖いんだ。未知の感情を受け止めることが。

 2人のどちらかが、私に裏切られて泣いてしまう未来が。

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