第143話:踊り子のあたしは伝えたい。
手直ししてたら力が入りすぎて、最大文字数行きました
みんながそれぞれ思い思いに剣を振るっている。
例えばクリスマスの日に彼氏彼女がいない悲しみを憎しみに込めて。
あるいは友達と遊ぶためにクリスマスをネトゲで過ごす者たち。
あたしはどうなんだろうと思ったら、多分後者だと思う。
でも遊びたいと思う理由には裏があって。
あたしは好きを乗せている。伝えたい想い。好きだって気持ちをいっぱい、いっぱい胸に抱いて、それを剣に乗せて刃を走らせる。
「《剣舞:猛る炎のテレパシー》!」
あたしはこの絶対暗黒冬将軍を倒したら、伝えたいことがある。
それを為すために、剣を振るう。愛を伝えたい、その一心で!
直剣にさらにエンチャントの炎が伝わる。それはあたしの思いなのか、それともスキルによる付与効果なのか。そんなの後者に決まってるけど、前者の方ならそれはそれでロマンチックだからそっちでいいわね。
スキルに定められた動きはまるでムチでも動かすように乱雑に、それでも威力は増して行く。
猛る炎のテレパシーはメビウスの輪のように無限の文字を何度も何度も描きながら、斬り込む技。
そして剣が文字をループする度にどんどん威力は上がっていき、最終ダメージはその辺の奥義スキルと互角に渡り合えるほどの力を得る。
スキも大きい技ではあるけど、今は絶対暗黒冬将軍はコケている状況。動かないのであれば、話は変わってくる。
「すごいわね、あれ」
「何がだ?」
「あの踊り子よ。ティアさんでしょ」
「あぁ。だいぶハチャメチャに動いてるな」
「でも私たちには無い情熱よ。本当に剣舞そっくりの戦い方ね」
パルちゃんとマリクくんがそんなことを遠くで話している。
あたしだって流石に分かってる。こんな戦い方はめちゃくちゃだ。いくら剣舞とは言っても、攻撃を避けられなければ意味がないし、ヘイト管理も大変だろう。
でも今戦わなきゃ、倒せなきゃ告白できないと思ったら、身体が勝手に動くんだ。仕方ないんだ。
「手伝うよ、ティア!」
「お供します」
「ツツジちゃん、アザレアちゃん!」
「冬将軍が起き上がります。気をつけてください!」
腰から座り込んでいた冬将軍が地面に手をついて、ゆっくりと立ち上がる。
残りHPは約2割。猛る炎のテレパシーによるダメージ量が予想よりも遥かに大きい。
2人がサポートしてくれるなら、最大連携剣舞で体力全部を持っていけるかもしれない。
「ツツジちゃん、アザレアちゃん。あたしは最後の剣舞をするわ。だから守って!」
「うん、分かった!」
アザレアちゃんも首を縦に振って、うなずいてくれた。他のプレイヤーたちもそれを察して、守りに転じるみたいだ。まるであたしの独壇場。ショータイムのステージみたいにスポットライトが当たっている。
だから、こんなところで躓いていられない。止まってはいられない。
――進むんだ。
「行くわ! 《剣舞:太陽の愛》!」
情熱の炎があたしの周りに灯り始める。まるでオーラを身にまとったように炎のエンチャントが行われる。
それまで黒かったあたしの衣装は端からどんどん赤く炎に侵食されていき、この身を愛の化身へと変えていく。
胸元まで染まった赤いドレスはフラメンコを思わせるような美しく、それでいて愛を身にまとった装い。
あたし自体ここまでの連携剣舞をしたことがなかったから驚いたけど、技名の通り太陽みたいに染まり上がった姿に惚れ惚れする。行こう。あたしのダンスはまだまだ終わらない。
タカタカと、何度も何度も足を鳴らして、思いの丈を高ぶらせる。
もっとだ。もっと。もっと熱く。胸の内側からマグマのように迸る思いを、身体で、剣で、炎で燃え上がらせる。
ムの字に斬り裂いた剣先が炎の線を描く。身を焦がす一撃はこれだけじゃ終わらない。
剣を持つ手を上空へと持ち上げて、縦に一振り。
続けて横に薙ぎ払うと、その勢いのまま右に回転して、円形の螺旋を1つ。2つ。3つ。
両手を広げて、静止し、足で地面を打ち鳴らし、情熱の剣は上に持ち上がる。続けて、上から下へ。上から下へと、斜めに身体をひねらせながら、剣撃を繰り広げる。
「すごいですね、あの剣舞」
「だね。まるで、何かを伝えたいみたい」
「はい。本当に、胸の奥が熱くなるような、そんな素敵な踊りです」
皆が手を止めて、あたしのステージを見ていた。
でもこれは決して1人のショータイムじゃない。必ず不届き者は1人いる舞台なのだ。
あまりにもダメージを与えすぎたのだろう。冬将軍のヘイトはあたしに向いている。
横薙ぎの一閃攻撃は避けるすべもなくあたしに襲いかかってきた。スキル発動中、あたしは攻撃を避けることはできない。
「レア!」
「分かってる。《ポジションチェンジ》!」
すぐさまツツジちゃん入れ代わり立ち代わり、レアネラちゃんが刀による横薙ぎを受け止める。インパクト時のパワーを上にずらす。盾の方面を滑りながら、軌道がずれた攻撃は宙をかすめる。
ナイス、と言いたいところだけど、今は剣舞に集中しなくては。
踊りは最終局面へと映る。敵のHPは残り1割。計算通りこれなら勝てる!
斜めの斬撃を何度も何度も回転しながら攻撃を重ねていくと、剣先から炎のようなベールが空中を舞う。
踊りの最終章。繰り返すごとに威力は増していき、流石の冬将軍もダメージを受けすぎて怯む様子。それもそのはず。太陽の愛はDPSと呼ばれる瞬間火力はゲーム中トップクラスの性能をしている。伊達に最大連携剣舞の名前は背負っていない。
何度も斬り裂いた剣舞も残りの一撃で終わる。
太陽を刺すように天に矛先を向ける。その剣はもはや銀色なんかじゃなく、ただただ灼熱の陽の光みたいに真っ赤に染まっている。
夜なのにも関わらず、それは昼間の太陽みたいな明かり。陽は昇り、夕日の水平線へと沈むようにあたしは剣を振り下ろした。
「終わりよッ!」
夜を斬り裂く瞬く光の一撃は、冬将軍の黒い鎧を真っ二つに斬り裂いて、その生命に永遠の夜を告げた。
真っ二つに裂けた冬将軍からはたくさんの白い粒たちが空へと帰っていく。
あたしはと言えば、ラストアタックを終えた衝撃が強すぎて、なんだか夢物語みたいに、ふわふわと思考が現実に追いついていなかった。
「や、やった。やったよ、ティア!」
「やりましたね、ティア様」
「俺たちの勝利だー!」
「クリスマスイベント、完!」
「すげぇ踊りだったぜー!」
「綺麗だったよー!」
一瞬の静寂から、ツツジちゃんを皮切りに声が集まってくる。その中にはくまちゃんもいて。
「お疲れさまです、ティアさん」
「う、うん」
達成感とともに、あたしが本当にやったんだなという実感がちゃんと追いついてきて、思わず息を呑んでしまった。やったのね、あたしは。
歓声沸き立つ広場には、白い粒がふわふわ降りてくる。それを手のひらで受け止めてみると、なんとなく冷たくて溶けて消えていった。
それを雪だと思ったのは、空からいくつもの雪が降りてくるのを見たからだと思う。
「まるでホワイトクリスマスですね」
「そうね、ホント素敵」
あたしとくまちゃんは空を見上げて、冬の到来を感じた。
冬将軍を倒したからだとは思うけど、そんなのは無粋だし、ロマンチックじゃないから、考えるのはやめた。
それよりも、あたしはくまちゃんに伝えたいことがあるんだ。
ゆっくりと8cm低いくまちゃんの横顔を見る。まだ幼くて、でも端正な顔立ちで、見るものをただの真面目な人と思わせるような雰囲気。
だけど、私に見せる反応は時折歳相応に見えるような、不思議と魅力的な女の子。
「くまちゃん」
「なんですか?」
声に反応して、あたしを顔を見上げる愛しい人。
過去にフラれたときのことが少しだけフラッシュバックする。
今だって怖くて仕方がない。振られたらどうしようって。怖くて怖くてたまらない。
でも、あたしはちゃんとくまちゃんと向き合うって決めた。止まらないって決めた。
ちゃんと、対等な友達として。それ以上の関係になりたくて。
私はちゃんと好きと伝えるって決めた。
口を出せば恥ずかしいけれど、それでもあたしのたった1つの想いは。
ずっと胸に秘めていたこの想いは。
自分にしか伝えられない、大切な『好き』だ。
「あのね。あたし、くまちゃんのことが好きよ」
「え……?」
キョトンとした不意を突かれた顔が愛おしくもとても怖い。
そんなつもりはなかった、と言われたのがとても怖い。
でも口にしなければ、伝わらない。
もう口にしてしまって、止まらない。
「あの。もう一度言ってもらっていいですか? ちょっと、うまく聞き取れなく」
「好きよ、くまちゃん。誰よりも愛してる」
「…………ふえぇ?!」
くまちゃんにしては歳相応の照れ方をするものだ。あたし、そんな声聞いたことなかったわ。なんて内心少しビクビクしながらも突っ込んでみた。
「え? いや、え? だって。私たちは女性同士で……」
「そういうこともあるわよ」
「いやいや、そういうのは関係なくて。でも、ティアさんが私を……」
「ダメかしら?」
やっぱり怖いから、免罪符を付けておかないと心が折れそうになる。
今折れちゃいけない。ガムテープでも棒でも付けてぐるぐる巻きにしてなんとか耐える。
「ダメっていうか、その、戸惑っているんですけど、嬉しくて。でも分からなくて。どうして私のことを好きになったんですか?」
「それ聞いちゃうかしら?」
「その、誰が好きとか、思ったことないもので」
ということはあたしは下から眼中になかった感じか。残念。
でも、どうしてくまちゃんを好きになった、か。そんなの決まってるわ。
「くまちゃんが、あたしを想ってくれていることが嬉しいからよ」
「想ってくれている?」
「初めに会った時も、ずっと旅してくれた時も、あたしがノーハーツのことを言えなかった時も。ずっとあなたはあたしを想ってくれていた。それがいつの間にか『好き』に繋がっていったのよ」
「…………素敵ですね。私、初めてティアさんを大人みたいだと思いました」
「酷くないかしら。これでもあたしはちゃんと物事を考えてるのよ!」
「その割にはGVGの時、私に何も言えてませんでしたけど」
「うぐっ。それは、それよ……」
でも、それはあなたが教えてくれたこと。ずっと我慢していたけど、ようやく胸のつっかえが取れたみたいだった。
「もう一度言うわ。あたしと、付き合ってくれませんか?」
あたしは、手を差し伸べる。
あたしが欲しかったものを与えてくれた恩返しに。
迷惑かもしれないけど、この手を取ってくれたら嬉しいと思うから。
「……まだ、ティアさんのことをそういう目で見たことありません」
「知ってるわ」
「私はティアさんみたいな明確な好きが、まだ分からないです」
「うん」
「怖いんです。向けられている感情の正体が分からないのが」
それは、そうだ。だって人は本能的に知らないものに対して恐怖を抱く。
当たり前なことで、あたしも怖がっている。
あたしはくまちゃんがどう思っているかを知らない。どんな感情を抱いているか分からない。
一度差し出した手を引っ込めようとした。
いやダメだ。これじゃ前と一緒だ。あたしが好きなのはくまちゃんであって、自分自身じゃない。
我が身欲しさで告白したわけじゃない。巡り巡ってあたしのためになるとは思うけど、それでもあたしはくまちゃんと一緒にいたい。より深い関係になりたいから、一歩前に進んだ。
だったら進み続けろあたし。こんなところで弱気になるな。
あたしだって変わりたいんだ、この自分に自信のないあたしを2人で変えるために。
「あたしもくまちゃんがどう思ってるか未だに分からないわ」
「…………………」
「でも、あなたとなら一緒に歩けると思うの。これからずっと先まで」
くまちゃんの真剣な眼差しがあたしを見つめる。メデューサの目に射抜かれたみたいにガチガチに固まってるあたし。
その姿を見て、彼女は何故かくすりと笑った。
「な、なによぅ」
「いえ。年下相手に固まっててかわいいなと思いまして」
「なによそれ」
「……私は最初、綺麗なお姉さんに話しかけられたなって思ったんです。初心者かなって」
最初にあたしがナンパした時の話だ。そういえば、あの時くまちゃんがどんな顔をしていたか、あたし見てなかった気がする。
相手は誰でもいい。そう思っていたからかもしれない。
「でも話してて分かったんです。きっとこの人は可愛い人なんだなって。いわゆるギャップってものにちょっと惹かれたんでしょうね」
「……どう、思ったのかしら?」
ちょっとした緊張が走る。でもくまちゃんの回答は気楽なものだった。
「残念な人だなって」
「ぐっ!」
「いい意味でですよ! いい意味で! この人とならお友達になりたいと思ったのです。そうしたら向こうから絡んできますし、もう本当、今では迷惑してますよ」
くまちゃんがあたしに抱いている人物像みたいなのが少し分かった気がした。
要するにあれだ。見た目と中身が合致してないタイプの残念な人だってこと。覚悟はしていたけど、そこまでの評価だったとは。
「でもです。私がここまで一緒にいようと思ったのは。そして、これからも」
「……くまちゃん?」
「…………恋は分かりません。それでも、いいのなら」
遠慮がちに伸ばされた手は、少しだけ冷たい。雪が降っているからかもしれないけど、それならそれで都合がいい。逃げないように両手でくまちゃんの手を包み込む。
「……暖かいですね」
「体温高めなのよ、あたしは」
「そういう意味じゃないですよ、もう」
「分かってるわよ、くまちゃん」
ギュッと握ってくれたくまちゃんの手の感触は、きっと忘れないと思う。
ううん、忘れたくない。表面上は冷たくても、中身はずっと暖かいから。
聖夜のクリスマス。
白色が降り続く広場の真ん中で、1組のカップルが生まれた。
後から聞いたら、周りの人たちはみんなこれを見ていて、掲示板にも書き込まれたとかいう話も聞いたけど、それは聞かなかったことにした。
また街中歩けなくなるじゃない、もう!
ティアと熊野の話はこれで一段落。
実は2人は4章だけのぽっと出にするつもりでしたが、
もったいないのでそれ以降も背景やら盛り上げ役やらで出ていただきました。
告白まで行くとは正直思ってもみませんでしたが。
こども大人なティアとちょっとだけ割り切った子供な熊野の関係は書いてて楽しかったです。




