第14話:アイテムを買う私は旅の錬金術師を探したい。
旅の錬金術師はとあるゲームが元ネタです。
響きがかっこいい
「……ホントに前来たときより品質良くなってる」
「だろう? いやぁ、旅の錬金術師様には感謝しきれねぇぜ」
この世界のアイテムは、基本的に店売りだったり、調合で作ることができるのだが、調合の大成功や、錬金術ではより強いアイテムを作れるらしい。
実際に目の前にある回復ポーションの回復量は通常の1.3倍程度になっている。それで同じ値段ってなんか詐欺してる気分だ。
「錬金術ってすごいんだね」
「そりゃな! アイテム関連だったら右に出る者はいない称号だしな」
「へー。あ、それとこれを5個ずつ」
「まいど!」
錬金術ってすごいんだな。アイテムなら右に出る者はいないなんて、かっこいい。それだったらいろんな事ができるんではなかろうか。
「錬金術ってどんなことでもできるの?」
「流石にアイテムを作るにはレシピが必要らしいが、それがあれば大抵のものは作れるって話だぜ」
流石に万能とはいかないのか。でもレシピがあれば大抵のものは作れる、と。それだったらアザレアに役立つものとかを作ってあげたい。
「おじさん、流石に旅の錬金術師がどこにいるかとかって、知らないよね」
「流石に知らねぇよ! 知ってたら俺ん所にいっぱい在庫出してくれって頼みに行くからな」
そう一筋縄では行かないか。
私はアイテム屋を後にすると、一人考え事をし始める。
アザレアにとって役に立つものってなんだろう。お金、は違うだろうし、アイテムもプレイヤーではないアザレアにとってはあまり意味のないもの。なら設定とかそういうのに干渉するアイテムで……。
「主従関係を断ち切るアイテム、とか?」
そんな物を作れる確証はないけど、作れないという確証もない。だったら頼み込んでみるのもまた悪くはないのではないだろうか。なら頑張って探してみるのも一興か。どうせ暇だったし、役に立つことに時間を割きたい。
そんな感じで旅の錬金術師を探すために聞き込みを始めるんだけど……。
「旅の錬金術師? 俺が会ってみたいよ」
「知らないよ。特徴すら知らないんだからな」
「あれでしょ、うどんの中に入ってる。え、違う?」
どの人も大した情報を持ち合わせていない。
あったとしても、女性らしいということと、アトリエと呼ばれる工房はいつも移動していて、どこにいるか分からない、ということだけだ。
「どうしようかなぁ。それっぽいところ歩いてみるとか?」
それっぽいところってどこだろ。路地裏とか? ひょっこり顔を出してなにもないことを確認すると、そのまま首を引っ込める。こんなこと続けてもあんまり意味がないような気がする。
「と言っても情報全然ないしなー。また日を改めて出直そ。アザレアとも会いたいし!」
今日はアザレアとは一緒にいなかった。元々モンスターを狩る予定だったし、ついて行っても迷惑では、という彼女の粋な計らいからだ。後はアザレアと一緒に話でもして今日という1日を終えるとしましょうか。
◇
「アザレア、ただいまー!」
「おかえりなさいませ」
「……何見てたの?」
私が帰ってくるなり、なんらかのウィンドウを閉じた彼女。一体何を見ていたんだろう。
「……実はこちらを」
もう一度ウィンドウを開き直すと、今度は私の隣に来てウィンドウを見せてきた。内容はと言うと、ギルドシステムのヘルプだった。
「いつまでも宿住まいというのも、お金がかかると思いまして」
「あー、確かにお金は結構かかっちゃうかも。でもアザレアのためだったら」
「と、言うと思っていました」
ありゃ、見透かされてしまっていた。
「私もいつまでも足手まといではいられないので」
「そんなことないよ! あれだよ、私の女神的な?」
「意味が分かりません」
ですよね。私も意味分からなかった。
「ギルドを組めないかと思ったのですが、ギルド自体が5名かららしく……」
「というかなんでギルド?」
「ギルドを結成すると、ギルドホームというのが獲得できるのです。それがあれば宿代も浮きますし。たとえ私がいなくなっても……」
「……大丈夫だよ。多分なんとかする」
少しだけ憂いた表情をする彼女を励ますために、精一杯笑顔を作ってみる。いつかは向き合わなきゃいけない内容だろうし。私はまだ内容を知らないんだけども、それもいつか話してくれるでしょう。
「あの、こんなときどういう顔すればいいのでしょう」
「とりあえず笑っとけばいいんじゃない? 笑顔は人を幸せにするよ」
「……こんな感じでしょうか?」
「うわ」
どう見ても引きつっている笑顔にしか見えないんだけど。
仕方ないから、人差し指を2本出して、口元を上に引っ張り上げる。うん、笑顔はこうでなきゃ。
「なんでしょう……少し喋りづらいです」
「ですよねー」
がっくりとして手を離すと、アザレアが口元に手を当てる。
「でも、何故か胸の奥が暖かいのは何故でしょう? これも嬉しいという感情、でしょうか?」
「嬉しいは幸せってことだよ。だから胸が暖かいの」
「……覚えました」
確かに噛みしめるように口元をなぞる。
「じゃあ私は明日に備えてもうログアウトするよ」
「はい。おやすみなさい、レアネラ様」
「うん、おやすみ!」
こうして今日もゲームを終えるんだけど、翌日、まさか向こうから会いに来るとは、思ってもみなかった。