第138話:もうすぐクリスマスな私は祝いたい。
12月といえばなんだろう、という思考はすぐに1つの着地点へと落ち着く。
それは忙しい、というのではなく、クリスマス。
キリストの生誕日でもありながら、リア充たちのお祭りでもあるこのイベントを忘れるほど、私は忙しくはない。要するに暇人なのである。
期末テストが終わっって、ようやく短い冬休みが近づいてきたのを実感しながら、私はギルドホームでお茶を嗜んでいた。
「なるほど、レアネラさんとツツジさんはリアルのお友達だったんですね」
「そゆこと。だから学校も同じ」
「期末しんどかった……」
「奇遇ですね。私も期末だったんですよ」
ぐでーっと固まりきってないプリンのように溶けていく私の様子をツツジと熊野は雑談しながら笑っていた。
12月も中旬。ハーツキングダムの後、燃え尽きた私は毎日ギルドでお茶を飲みながらゆっくり過ごしていた。特にレベル上げもスキル集めも、さらに言えばお買い物すらしないまま、ゆっくりと堕落していく。
「そいえば熊野って何歳なの」
「面と向かって言うのは失礼というものでは?」
「いーじゃん。知らない間柄じゃないわけだし」
「まぁいいですけど。17歳です」
「え」
「マジ?」
大真面目です。と真顔で熊野は返事をした。
ツツジは知らないけど、私まだ15歳なんだけど。熊野が1個上だったとは。普通に先輩に当たる人に私、さん付けしてなかったんだけど、大丈夫だったのだろうか。
……いや、ビターが大学生だったし、今更か。
「ツツジさんは何歳なんですか?」
「私? 16」
「え、マジで」
もう誕生日迎えてたのか。いつの間に。
「ツツジ、いつ歳とったの?」
「なんか嫌な言い方だなぁ。4月頭にはもう16歳だし。レアだったら普通に祝ってって言ってたし」
言われてみればそうか。この愛に飢えていると言うか。
私からのプレゼントであるクロスヘアピンを今でも大事そうに身に着けている辺り、誕生日だったら「レア祝って!」って言ってくるよね。
てか、意外と私より年上だったんだ、ツツジ。
「レアは?」
「なんか言いたくなくなってきた」
「どうしてですか?!」
だって言いたくないじゃん。実は早生まれの1月生まれだなんて。この中で一番の年下であることを!
「なるほど。早生まれか」
「なんでバレたの?!」
「だってそんな顔してたし」
私は自白した。そうだよ。早生まれだよ。1月13日だよ、私の誕生日。
「ふーん、年下かー」
「そうですか、年下ですか」
「パ、パワハラだ!」
「ソンナコトナイヨー。レアネラハラスメント、だよー」
なにその単語?! 私初めて聞くんだけど!
思わず声に出るぐらいには大げさに突っ込んだ。
「レアが可愛いからついいじめたくなるんだよねぇ」
「もしかして、ツツジがいつもいじってくるのって」
「むっふっふ」
笑って誤魔化さないでよ。確実にそういうことって分かるじゃんか。
まぁいいか。ツツジにならいじられるのも悪くないし。
「ところで、お二人とも、イベントはどうするんですか?」
「あー、あれね。もち参加する!」
「イベントって?」
熊野ははてなマークを頭の上に浮かべている。ツツジもその反応を見て、またかって言ってるし、もしかしてまた私の知らないイベントがあるんじゃ……。
急遽メニュー画面からお知らせ画面を開く。えーっと、多分こういうのならNEWって付いてるはずなんだけど……。
……あった。
「レアさぁ、本当にこのゲームしてるんだよね?」
「いや、説明書は読まないタイプだし」
「もしかして、今知ったんですか?」
すすす、と誰もいない方向へと目をそらしてみる。追撃するように目の前に座っていた熊野が顔を伺うように覗き込んでくる。もっとずらしてみる。今度はツツジが回り込んでいた。
「その反応、またなんだね」
「い、いやだってさぁ! 期末で忙しかったし!」
「一人暮らしの苦労もわかるけど、ログインは毎日してたんでしょ?」
「ロ、ログイン『は』だし」
期末テストの勉強中でも私は一応ログインは欠かさなかった。そりゃログボ欲しいし、ちょっとはアザレアの顔を見ておかないとなんか怪しまれるかなって思ったし。
でも現実はたいていうまく行かない。ログイン時に必ずお知らせページは表示されるのだ。私はそれを速攻で閉じて、アザレアの顔を見てログアウトする。
この一連の過程に置いて、もちろんお知らせページは見るのである。要するに確認するのが面倒くさかったのだ。
「熊野、教えてあげて。どうやら本当に何も知らないみたい」
「本当にそういう人っているんですね……」
ふひゅーと何度か口笛らしきものを吹こうとはしたけど、ダメだった。隙間風が吹く音しかしなかった。
おとなしく熊野の説明を受けることにしよう。そうすべきだと私も判断しました。
「クリスマスレイドボスイベント。猛る絶対暗黒冬将軍」
「絶対暗黒冬将軍?!」
レイドボスイベント、というのも少し気になったけど、どっちかというとその絶対暗黒冬将軍の方が私としては衝撃度高い。
「ボスの名前ね。レイドボスの説明とかいる?」
「噛み砕いてもらえたら」
ボスってところは何となく分かるから、それを倒せばいいというイベントだとは思うけど、レイドってなんだろう。英語力弱小人間にとっては、意味を理解することはできない。
「レイドはゲームにおける複数人のプレイヤーが共通のクエスト、敵と戦うっていう意味。合わせて共通のボスを倒せってイベント」
「今回はこの絶対暗黒冬将軍を倒すイベントですね」
この後調べてみたけど、レイドの意味を事細かに説明してくれたWikiも存在するぐらいには広く知られているものみたいだ。
要するにみんなで絶対暗黒冬将軍を倒すらしい。
ということはギルド外のパルさんやマリクさん。カツヤさんとも一緒に戦えるということだろう。昨日の敵は今日の友、というのはゲームならではだなぁ。
「てか絶対暗黒冬将軍ってなに」
「絶対暗黒冬将軍」
「絶対暗黒冬将軍ですね」
「何さそれ」
冬将軍は分かるけど、絶対暗黒ってなに。暗闇を支配する的な。
「クリスマスに雪を降らすまいと、冬将軍の力で雪をなかったことにしたから、みんなで倒してホワイトクリスマスにしよう、という概要です」
「冬将軍って雪を降らすのでは?」
「細かいことはいいの! とにかくダメージ報酬も美味しいし、何よりたくさん戦える!」
ツツジは後者のほうが本音のように思えたけど、多分本音だ。この戦いに燃えるギラギラとしたオーラはそれに間違いない。
そういえばGVGのときは、特にそんなオーラは出してなかったな。あれはどっちかと言うとアザレアを守るための考えを優先にしたのかもしれない。
ツツジの心情は分からないけど、名誉のためにそういうことにしておこう。
「それと、近日実装予定の項目に結婚システムも」
「結婚?!」
結婚ってあの結婚?!
アップデート情報の項目を見てみると、ホントにそういった項目が追加されている。詳細はまだ伏せられているけど、IPCとの結婚も許可されている、ということだ。
「レーア」
「まだ付き合ってないから」
「まだ~?」
テンションが上っているのか、ツツジが夏のギラついた太陽みたいに鬱陶しいニヤつき方をしながら、私の腕を抱きしめてくる。正直うざい。
ともすれば、満足したのだろう。私が怒る前に引き上げて一言言った。
「ま、重婚もできるっぽいし、ステータスの底上げという名目で結婚するってこともありそうなんだよねぇ」
「まだそんな事書いてないけど?」
「結婚システムは他のネトゲの傾向からそういうものだって決まってるフシあるから」
「みたいですね。私もヴァレストさんに聞いただけなのですが」
そうなのか。ステータス上昇だけなら、まぁ……。
いや、でも名ばかりの結婚だったとしても、そういう好きとか、一緒にいたいとか言う気持ちは大事にしたいし。うーん。
「ま、今はレイドボスの方かな。後1週間だし」
「え?!」
「クリスマスイベントなんだから、クリスマスにやるに決まってるでしょ」
「マジかー……」
なんだかんだ忙しいし、もしかしたら1週間なんてあっという間かも。
そんな事を考えたら、少しだけ気が重くなった。1週間の内にちょっとはなまった腕を磨くことにしよう。
実は本編は全て書き終えました。
あと14話ぐらいで終わります。
毎日更新で約2週間ほどですが、その間もよろしくお願いいたします。




