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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第7章:私とあの子の想いが繋がる時まで
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第137話:恋する花はあなたと契約したい。

「そういや、アザレアって誰と契約するんだ?」


 そう、ヴァレスト様が唐突に爆弾発言を口に出してから、ポテトチップスを口の中に放り込む。

 さして、誰かが言っていたことだろうと、薄っぺらな紙よりも軽い口調でそういうものですから、最初は当事者の私も「あー、そういえばそうでしたねー」なんて、こちらも重力を感じさせない言葉を口にするところでした。


「え。あーそうだっけ」


 レアネラさんもコーンスープを飲みながら、そのセリフを右から左へと受け流そうとしていた。

 そして、手が止まる。あれ、いつそんな契約なんて話したっけ。そもそも、そんな話を一切していなかった気がする、そう考えている顔だ。


 そして一言。


「そういえば!!!!」


 ギルド内に響き渡るのはギルドマスター兼私の大好きな人であるレアネラさんの驚愕だった。


 ◇


「私、契約の流れ一切知らないんだけど」

「やべ、俺もだわ」


 2人で一生懸命ヘルプの欄を探しているみたいですが、その内容は恐らくどこにも記載されていないことでしょう。


 どうして。何故。そんなの知っています。

 何故ならこの前開発の人が言っていました。IPCはそのあまりにも高すぎる値段から、プレイヤーたちの手が届かないことで有名です。

 IPCの人工知能はちょっとやそっとのプレイヤーでは購入することもままならない。ならばヘルプの内容も別に消してもいいか、と。

 そんなわけで随分前にIPCのヘルプは消してしまったというわけです。


「アザレア、どうやって再契約ってするの?」


 少しだけ猫なで声の甘えた音で私に質問する姿はあまりにも胸に来るものがありますが、それで悶えるのは一旦置いておきましょう。今さっきこのメモリーに録画したので、いつでも見れます。

 何故だか少しだけこの人を困らせたい、という気持ちでいっぱいになったりもしましたが、なんとかこらえました。私は偉いIPCなので。


「契約も解約も、どちらもお互いの同意1つで解決します。ノーハーツ様の件は、あの方が絶対にNOという可能性があったので、無理やりアイテムを使っただけですので」

「え。じゃあ私が言葉巧みにノーハーツを騙せてたら」

「俺がいい感じの耳障りいいことを言っていれば」

「もしかしたらすぐに解決したかもしれませんね」


 ただ、少なくとも2人があの方を誘導する、なんていう想像があまりにもできない。これだけは口には出さず、静かに言わないでおこう、と思ったのは内緒だ。


「そっかー、俺の文才魔術の出番だったかー」

「ヴァレストにそんな事できるの?」

「できるさ。ちょっと待ってろ」


 そう言うと、ヴァレスト様はキーボードをコマンドから呼び出して、カタカタと音を鳴らして執筆をはじめました。いったい何が始まるのか分かりませんが、きっとろくでもないことに違いありません。


「何分待てばいい?」

「10分ぐらい待ってろ」

「だってさ、アザレア。なんかする?」


 なにかすると言われても……。

 そうだ、人間の世界にはしりとりという言葉を操るゲームがあると聞く。それを2人でやっていれば10分なんてすぐだろう。

 丁寧に提案すると、レアネラさんは二つ返事でOKをもらった。最初の単語はしりとり、の「り」からだ。

 無難にりんご、から始めよう。


「じゃあゴリラ」

「ライス」

「スイカ」

「カラス」

「水槽」

「ウグイス」


 検索によれば同じ末尾を連続で答え続けていれば、いずれは相手のデパートリーがなくなっていき、勝者となりうる、らしい。

 よくは分かっていないけど、人工知能の知恵をフル稼働させて「す」で終わる単語ばかりを口にしている。


「酢飯」

「シラス」

「またす?! すー、すい……あっぶな」


 きっと水面、とでも言おうとしてギリギリ「ん」が付くことに気付いたのだろう。額の汗を拭う仕草をして、さらにしりとりを続ける。


「すー。すい……。あ! 水酸化ナトリウム!」

「ムース」

「すー。すあま」

「なんですかそれ?」

「分かんない。なんか頭の中に出てきた」


 すあま。すあま。聞いたことあるようなないような。

 試しに調べてみると、餅菓子の一種らしく縁起物として有名な地方もあるらしい。北海道を中心に展開しているコンビニエンスストアだと、たまにレジの前に置いてあるのだとか。

 何故レアネラさんがこれを知っていたのかは分からないが、しりとりを続けることにします。


「ま、ですね。鱒」

「くぅ! また「す」かぁ……」


 おでこに指を強く押し付けながら、何かないか。何かないか。とウンウン唸っている。

 もしかしたらこれはIPC有利のゲームなのかもしれない。などとぼんやりと思う。検索エンジンはないにしろ、それに準ずる知識を常にインターネット上からアップデートされていくのだ。それは何千、何万もの単語の羅列をです。


 今、レアネラさんが戦っているのは私1人ではなく、幾千、幾万もの知識たち。インターネットという広大な電子の海と相手をしているのだ。大変大人気なく、卑怯な手だと思いますが、下手に手を抜くとレアネラさん、怒りそうですし。


「す。す、かぁ……」


 もうかれこれ5分ぐらい考えている気がする。すももや住処。スターバーストストリーム、などたくさんあると思うのだけど。

 最後の必殺技は、多分ノーカンだとは思いますが。


「すーあ。すーいー、すーうー」


 結構あるのでは? そう思うのは私だけだろうか。


「すーかー……。すーき……そうだ!」

「決まりましたか?」

「うん! すき」

「え?!」


 今、好きって……。


「焼き!」


 ……。そんな予感はしていた。妙に「すき」と「焼き」の間が空いていたような気がしないでもないけど、それはきっと私の回路の1つが焼かれたのが原因なのだろう。多分違うと思いますが。


「何赤くしてるの?」

「そ、それより。契約しましょう。そうです契約しましょう!」

「え? あー、そんな話だったっけ」


 しりとりは私の勝ちです。異論は認めません。

 ということで、レアネラさんと契約をすることにした。

 正直ロマンチックも何もありませんが、ツツジさんに何か邪魔されるのも癪です。私は私たちだけの特別な絆を妨害されたくありませんし。


「えっと、どうするの?」

「今申請しますので、しばらくを待ちを」

「はーい」


 申請は簡単だ。おおよそプレイヤー間のフレンド申請と同じような形を取っているため、プレイヤーにとっては馴染み深いウィンドウが表示されていることだろう。


「なにこれ。フレ申請?」

「それに承諾していただければ、晴れて主従関係です」

「ふーん。えい」


 レアネラさんは何のためらいもなく、ポチリとウィンドウの承諾ボタンにOKを押す。

 2人とも少しだけ光の粒を放つと、胸の方から2人の間に赤い糸のような者が表示される。

 ピンと張られた糸は次第に色を失って、空気中に透明なものとして飛散していった。

 これで契約は完了。これで私たちは主従の関係、なのだが。


「で、どうしよっかこれから」

「……どうしましょうか」


 契約しても、特に変わることはないと思う。

 確かに変化があってほしいのは確かだ。でも、あの時私がしっかりあの場で好きだと口にしたのだから、それで十分だ。


 でもレアネラさんのお返事は少し薄くて意志の感じない声をしていたのが少し気になった。まるでなにかに気を取られたように、ただ一言、うん。とだけ。

 曖昧に返された返事に、私は何を言うこともできず、ただそこに立っていたと思う。


 告白って、こんなにも曖昧なものなんだろうか。

 そっと胸をなでて、たしかに結ばれた絆を確かめる。

 大丈夫。根拠はないけど、多分大丈夫なはずだ。


 12月の冬の日。私はあやふやで今にも夢に消えてしまいそうな想いを胸に抱く。

 大丈夫。私の想いは、ちゃんとここにある。

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