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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第7章:私とあの子の想いが繋がる時まで
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第136話:告白された私はいつもどおりを演じたい。

7章開幕。最終章です

「ということなのですが……。レアネラさん?」

「へ?」


 アザレアが何かを話していたように聞こえたが、私の耳には届いていないようだった。何の話をしてたっけ? とアザレアに聞いてみたら、少しのため息とともに話の内容を明かしてくれた。


 話は少し前に遡る。

 私たちが暇そうにギルドホームでお茶を飲んでいたところ、ドアをノックする音と共にティアと熊野がやってきた。

 最初は申し訳なさそうにしていたけど、歓迎してくれたアザレアの笑顔で、気分は元に戻ったようだった。


 さて、彼女たちはどんな話をしにこのギルドホームにやってきたのか。少し当時の会話内容を再生するとしよう。


「で、何かご用でしょうか?」

「なんていうのかしら。えっとね。こんな迷惑をかけた身で申し訳ないのは重々承知しているのだけど……」


 熊野が1つ呆れた息をこぼすと、肘でティアの脇腹を小突く。ちょうどよく肌が露出しているところだったらしく、雅な声が部屋の中に響いた。男がいなくてよかった……。

 やや熊野は照れる顔をうつむけて、咳払いをした。どうやらハッキリ言えということらしい。だけどティアの誤魔化しっぷりと、妙に艷やかな声で熊野も動揺したんだろう。そうであってください。

 やがて決意を固めたティアはパチンと軽く頬を叩いて、気合を注入した。


「あのね、あたしたちをギルドに入れてほしいのよ!」


 ◇


 というのが大まかな流れ。あとはアザレアが懇切丁寧にギルドの紹介や理念なんかを話していた。

 まぁ、難しい言葉を並べても、やることはたいていイベントに参加したり、お茶飲んだりお菓子食べたりしているだけなんだが。

 それはティアたちも分かっていたようで、ゆっくりやるところということで納得したらしい。


 あとは私の一声で、ってところでボーッとしていたのがバレた。


「どうかしたかしら。もしかして、裏切り者には死をみたいな……」

「怖いこと言わないでください、ティアさん!」

「そんな事ないってば! うちはアットホームで笑顔の絶えないホワイトギルドだよ!」

「どうしよう、胡散臭さが跳ね上がったわ」


 その上で未経験者歓迎とか、初めてでも大丈夫! とかつけても良かったかもしれない。流石にそこまで言ったら信用ガタ落ちなのだが。


「でしたら、何か問題でもありましたか?」


 座っている私の顔を覗き見るべく、アザレアが横に傾いてくる。その瞳はホントに心配そうにしていて、自分のせいなのにも関わらず、ちょっとだけピリッとした気持ちが浮かび上がった。

 いやいや、なんでそんなイラッとしたみたいなことを考えてるんだ私は。アザレアはちゃんと私を心配してくれたというのに。


 全然問題ないよ、と軽く返事をして、ギルドの申請を投げる。

 思えば、私は最近少しだけおかしい気がしている。具体的に言えばアザレア争奪戦の後ぐらいから。


 理由はだいたい察しが付いている。アザレアが私に対して「好き」と言ってくれたあの日。GVGの終わりから、私の中に何かが生まれていた。

 あの「好き」は聞いたことがあった。その言葉に込められた想いを私は昔一度言われたことがある一言だ。

 ツツジがゴエモンであることを教えてくれたあの日の「好き」とまったく一緒なんだ。同じ形をしていて、変わることない普遍の想いがそこにはあった。


 また、好きと言われてしまった。

 私はアザレアが好きだ。でも同時にツツジも好きだし、ビターもノイヤーやアレクさん。ヴァレストに咲良さん、それからティアに熊野も。

 みんな平等に好きで、かけがえのない大切な人たちなのは分かる。そして特別大切だと思っている人は他の誰でもないアザレアとツツジの2人だ。


 2人の向けてくる「好き」は私とは違う。

 私は友達として、親友としての好き。彼女たちは恋愛としての好き。

 私と彼女たちの好きには大きな溝があって、うかつに飛び込もうとすれば、谷底に真っ逆さまに落ちていってしまうそうなほど複雑。


 私は彼女たちの好きを知らない。私は恋愛を知らない。好きを守りたい人だなんて大見得を切ったのに、このザマなんて笑えてくる。

 どうすればいいか分からないのと同時に、人工知能でも理解できることを私が理解できていないとわずかでも思ってしまう。

 小さな黒いシミがドンドン広がっていくみたいに、私の動揺とモヤモヤが徐々に大きくなっていく。


 ――ずるい。私が知らないことを知っている。


 そんな事を際限なく考えても意味はないのに。ぐるぐると回転して、どこにも出口のない壺の中を循環していく。空気は外を求めているのに、出られない場所をあてもなく彷徨って、淀んだ空気が身体を蝕んでいく。

 AIのくせに。そう思ってしまうほどには衝撃的な出来事だったんだ。

 言われて嬉しいはずなのに、それを素直に受け止めきれない私は最低な人間なんだと、重たい頭を悩ませる。


 そうだ。言われて嬉しいはずだったんだ。彼女の告白は想定していたとおりで、ちゃんと心の準備だってしたはずなのに。それなのに私の中で消化しきれずに、ぐちゃぐちゃと黒いヘドロを生成していく。

 不愉快だった。自分の心が。素直に受け止められない天の邪鬼な私が。


 同時に現れた強い強迫観念と恐怖も味方をする。

 これがいったい何なのかも一切理解できてない。これを自覚した時、恐らく私は強く後悔すると思って、考えないようにしていた。

 何故だか分からない。でも、考えちゃいけなかった。


 だから私は、いつもどおりを演じることにした。

 今まで通り、私たちの関係を続ければいい。それだけで私の平穏は、ううん。私たちの平穏は保たれるのだから。


「ありがとう、レアネラちゃん!」

「晴れてお仲間ですね、ティアさん、熊野さん」

「はい。ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いいたします」


 アザレアは微笑む。いつもの冬の日の太陽みたいな、暖かなひだまりを向けて。

 だから私も笑い返す。いつもどおりを演じるために。

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