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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第6章 みんなであの子を守るまで
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第131話:諦めない俺はその顔が見たい。

 剣が目の前で突き刺さる音とともに、戦いの決着をつける剣の音がチャキリと鳴る。

 喉元に突きつけられた聖剣を見て、男は不敵に笑う。


「これで、勝ったつもりですか?」

「そうだ。お得意のスキルもこの距離じゃ意味をなさない」


 剣先を喉に突きあてじわりじわりと追い詰める。先からは血の代わりにHPを削るエフェクトが発生しており、降伏か死の2択しか取れない状況になっている。

 だがなんだこの不敵な笑みは。まだ何かを隠し持っているような、この状況から打開する手立てがあるかのような、不愉快な笑みは。

 さっさと首を斬り落とすべきか? そうでなくても、こいつにこれ以上の価値はない。なら、さっさとケリを付けて他のみんなの手助けに回ったほうがいい。


 そう考えていた途端だ。頭の奥から何かが崩れるような音が聞こえたのは。


「っ! んんッ!!」


 最初は軽い頭の痛みだった。その程度なら頭痛とかそういったものだろうと思ったんだ。

 次は剣が自然と落ちた。自然にだ。俺がそうしたいと思ってそうしたわけじゃない。

 続いて膝をつく。頭を垂らすように、這いつくばるように力が抜けていき、意識しないと立てないぐらい腰が抜けていた。


 自由が効いていない。身体の自由が効かない。何故。どうして?

 これは俺の身体だ。そのはずなのに、思ったとおりに動かない。強く意識しないと、顔を上げたりもできないほど、とてつもなく身体が重たい。


 力の抜けた俺の前では、ノーハーツが平然と立ち上がり、後ろに吹き飛ばされた剣を回収しに行っている。

 おかしい。こいつが。こいつが絶対なにかしはずだ。でなきゃあんな愉悦に満ちた笑みは浮かばないはずだ!


「何をしたッ!」

「VRゲームというのは、ゲームとゴーグル間の脳波の行き来によって成立します。右手を動かしたいなら、右手を動かすという脳波の動きを。歩きたいならそういう指示をね」


 剣を抜き取ると、そう言うとおりに右手を動かしたり、歩いたりしている。

 確かに俺も授業で習ったことがある。いろいろなVR機器がある中で、脳波利用式が採用されたということは。

 でも何故今その話を……。


「この導きの力はゲーム内すべての事象に干渉できる」

「ゲーム内、全て?」

「そう。スキルも、ステータスも、そして相手の行動すらも」


 こいつまさか……ッ!

 震える手でなんとかメニュー画面を開いて、自分の健康状態を調べる機能を確認する。これはプレイヤーだけが持つ機能で、空腹や尿意など生理的現象に置いてを知らせてくれる便利な機能、なのだが……。

 めったに見ないはずの脳波計が異常な数値を見せている。普段なら上がったり下がったりしているのだが、今は素人目で見ても分かるぐらい、下に下がったまま、動こうとしない。


「生みの親が私なのでどう呼ぼうとも変わりませんが、強いてスキル名を作るとするならば《脳波ジャック》と言ったところでしょうか」

「クソッ、お前ぇ!!!!」


 激昂する度に頭の奥から痛みが増幅してくるのを感じる。異常な動作に対して脳に負荷がかかっているんだと思う。分からないが、行き場のない力はどこに行くのか。それは蓄積されていくだけだ。そしていずれ爆発する。


「あまり怒らない方がいいですよっと」


 無防備な身体に向かって、ノーハーツは俺の顎に蹴り上げを行う。脳はジャックのせいか、幸いにも痛みとしてはあまり感じがないが、それでも自分の意識とは関係なく身体が動いていることに酷く違和感を感じてしまう。

 男は倒れた俺に向かって、何度も。何度も蹴り続ける。腹部に顔に腰に。傍から見たのではもはやいじめの領域に近いだろう。身動きが取れない相手に向かって暴行を続けているんだから。


「よくも俺に無様な真似をさせたな。一度負けた! お前が! 俺に! 勝つなんてありえねぇんだよ!」


 ゴミを扱うように蹴り上げた足は俺の腹部に勢いよくめり込む。打ち上げられた俺のHPはレッドゾーンに突入している。ついでのように聖剣も俺のところへ来るように蹴り飛ばす。


「何が聖剣使いだ。バカバカしい。中二病患ってるんじゃねぇよ」


 身動きは取れないわけではない。ただ強く意識しないと難しいということだけ。あいつが俺に興味を失ったタイミングがチャンスだ。今なら《封印》の効果時間も切れているはず。そう信じたい。仮にリキャストが整っていたとしても、あいつに一泡吹かせられるなら。


 だから俺は言葉を失い、気絶した『フリ』をする。何も反応せず。何にもピクリとも動かず。ただじっと、その時を待った。


「……マグロかよ。この様子ならもう邪魔はしねぇか。あ、いや。しませんね」


 男はこほんこほんと軽く咳払いをすると、後ろを振り返り、アザレアを奪うために歩き始めた。

 よし、気付いてない。気付かれていない。意識を集中させるんだ。意識して、腕を動かして。剣に近づき、一本一本の指をちゃんと実感して、剣を握る。


 グラムよ。願うならば、もう1度力を貸してくれ。奴に一撃を与えられなくてもいい。ダメージを与えられなくてもいい。それでも、俺はあいつの驚く顔が見たい。驚愕する顔が見たい。俺の覇気に、怯えたその顔が、見たいッ!


 込めろ、怒りを。


 込めろ、闘志を。


 込めろ、反逆を。


 轟かせろ、俺の全力を。


 解き放て、その全ての力を振り絞って!


「こんなところで、負けるわけには行かねぇんだよぉおおおお!!!!」

「っ?! こいつ、何故動け……」

奥義エクスカリバー・アヴァロン!」


 聖剣が黄金色に光り輝き始める。周囲には魔力にも似た光の粒。それが地面から湧き出して、聖剣へと収束していく。

 最も有名な聖剣の1本の名前を冠するこの奥義は超強力な防御貫通による攻撃。たとえ《ブロック》があったとしても、超えられるはずだ。


 聖剣の加護に導かれ、通常の3倍のスピードで接近する。俺の後に続く閃光は美しく、真っ直ぐにノーハーツへと続いている。標的は相手のどこでもいい。当たればそれでいい。当たらなくても、俺の全力を、叩きつけるまでだ。


「いや、無駄なことを。コード《封印》」


 黄金色に光り輝いていた剣はその魔法の一言によって、パリーンと割られて空中に飛散していく。

 だが、その魂までもを砕けると思うな。一瞬だけ躓きそうになりながらも、俺は走る。一直線、ただまっすぐにお前を斬り伏せるために。


「止まれよ」

「うぉおおおおおおおお!!!!」

「止まれよッ!」

「止まらねぇッ!!!!」

「止まれっつってるだろぉ!! 《ブロック》!」


 失った力でも俺の全力を叩き伏せれば破れる。そういう思いのこもった一撃だ。だから、こんな壁なんて、ぶっ壊してやるぜぇ!


「脳波ジャック中だぞ。奥義キャンセルもした。無敵の《ブロック》中だぞ。なのにお前はなんでッ!」

「お前のその顔が見たいからだ!!」


 自分への不可解な行動。身体も動けないはず。力も封じたはず。自分に届くはずもない刃。なのに破られそうで、必死に防いでいる、その恐怖の顔が俺は見たかった。


 俺はニヤリと笑って、膝から崩れ落ちた。握っていた聖剣も、もう役目を終えて地面に落ちている。

 あぁ、俺のやりたいことは終わった。楽しかったぜ、お前のありえるはずがないと可能性に恐怖するお前の顔が。俺たちを相手にするってことは、そういうことだぞ。


 放心状態で《ブロック》を解除したノーハーツは俺を見下ろす。顔が強張っていて、心底ありえないと恐怖したその顔。俺はそれを満足気に見上げた。


「こんな奴に……」


 約束の1分はとっくに過ぎている。仕事も終わった。こいつを一泡吹かせて満足もした。最高のGVGだったぜ、クソ野郎。


「こんな奴にィ!!」


 ノーハーツは牙を向いて、俺に剣を振り下ろす。ふっ、無様だな。それが自分の敗北を意味するってことが分からないと見える。かわいそうに。だがこの世の中には勝者と敗者が存在する。


 俺が勝者で、お前が敗者な。


 満足気に目をつぶって後は振り下ろされるのを待つばかりだった。だが、いつまで経ってもその気配はない。気づけば身体が軽い。どういうことだと思って、目を開けてみたら、そこにはツツジが立っていた。どういう、ことだ?


「間に合った。約束通り1分戦ってくれたみたいだね」

「次は、お前たちの番だ。行って来い!」

「うん!」


 なるほどな。それがお前のスキルか。お前の《ポジションチェンジ》。


 ◇


「お、お前はッ?!」

「団長勝負といこうじゃん、この変態野郎!」

「ま、こっちは2人なんだけどさ!」

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