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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第6章 みんなであの子を守るまで
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第130話:リベンジする俺は無様な真似は晒さない。

 俺は、特別な何かになりたい、と思っていた時期があった。

 特別という言葉には変な魔力があって、何事においても特別は一番、みたいな考え方があって。俺はその特別になりたかった。


 でもよく分からないよな、特別って。広い世界から見れば、特別なんて1つの個性にしか過ぎないし、狭い世界で浮かれてたって、自分の自尊心が保たれるだけなのに。


 レアネラに出会うまでは、聖剣を手にした俺はずっと特別で一番だと思ってた。ちょっとだけ舐め腐った態度も取ったこともあるし、痛い目を見たこともある。でも聖剣を手にした俺は特別なんだって思い込んだ。


 あいつは何も知らなかった。聖剣使いだということを知らずに平然と話しかけてくる。

 あいつはIPCを連れていて、とても仲がいい。その様子を見ていたら胸が高鳴って、俺の今抱いている感情なんてどうでもいい気がした。


 どうしてだろう。何故だろう。相談して知った。これは尊みというものなんだと。

 俺はレアネラを囲む関係が好きだ。ツツジにアザレア。ちょっと外れてノイヤーとビター。アレクに咲良に。ティアに熊野。そして俺。

 こんな気持ち悪い俺を優しく包み込んでくれる、この空間が俺は好きだ。

 どっちかと言うとレアネラとツツジ、アザレアの三角関係が超気になって仕方ないだけなんだけど、それでもギルドを追放せず留まらせてくれたことには感謝だ。


 だからいつしか特別になりたいという感情は消えていた。

 俺が欲しいのはこの3人の行く末だし、それを取り巻く関係がより良い方向に行けばいいと思うだけ。それ以外にあまり望むものはない。強いて言えば始めた百合小説がもうちょっと伸びればいいかな、なんて思うぐらい。

 俺は3人の関係を壊さないぐらいに茶化してやればいいし、逆にうざったがられてもいい。それが見守るということなんだと思う。


 ――だから……。


 ◇


「行け、ツツジ! この勝負は俺が預かる!」

「……1分間だからね」

「おう!」


 画面の片隅にタイマーを1分にセットする。無事逃げ切れるためじゃない。1分で、ノーハーツを見破る。


「随分と甘く見られましたね。貴方ごときが、私を止められるとでも?」

「止められるさ。もう初見じゃないんだから」


 ノーハーツ解析のための2つ目の項目。それが接近戦でのデータ。本当なツツジ自身がやる予定だったらしいんだが、役割は分担させた方がいいだろう、という名目で俺が引き受けた。

 最初ツツジがすげぇ「お前本当に大丈夫か?」みたいな顔はしてたけど、俺はどうしてもノーハーツの鼻をへし折ってやりたかった。

 守れなかった俺が原因で、このGVGの正面対決が始まってしまった。もしかしたら俺があの場で勝ったとしても、GVGはやったかもしれない。でもこれは俺のけじめの問題でもあり、負けたままでは終われないという意地の問題でもあった。

 あんな酷い負け方をして、怒らないやつはいない。ゲーマーならそうだろう?


 守る守れなかったもそうだが、俺にはこのチート野郎の顔面を歪ませてやりたいという使命があった。

 こんな奴なんかに、1敗してしまった自分が憎いし、それでこいつのちっぽけな心を満足させてしまったと思うと、激しく苛立つ。

 それに、俺はあの3人の行く末が見たいんだ。だから邪魔をするやつは俺がぶった斬る。俺の娯楽を、満足を邪魔させてたまるか。


「俺はもう負けない。そのための秘策も練ってきたしな」

「戯言を。……ド、縮……」


 剣を水平にし腰に落とすと瞬間、俺の目の前に接近する。これは咲良の縮地か。腰から伸びる刃を、自慢の聖剣で受け止める。


「どきなさい。裏切り者を処分しなくては」

「どくのはそっちだ。何ならそのまま死んでくれ」


 力を入れてノーハーツの剣を弾き返そうとするが、なかなか相手が力負けしてくれない。ATKにかなり振っているはずだった俺がこんなにも押されているなんて。なるほど、これはツツジも手こずるわけだ。

 だが、俺にだって考えはある。このまま膠着されて、変なスキルを使われるのは御免だしな。


 わざと力を抜いて、ノーハーツの剣を斜めに受け流す。前に押し出す力で鍔迫り合いを打開しようとしていたんだ。ならばその力の行く先は受け流した方に行く。

 バランスを前のめりにずらされたノーハーツの腹部が俺の足の方へと近づいていく。そのスキを待っていた。左足を蹴り出して、膝蹴りをノーハーツの腹部に打ち込む。前方に力を入れた俺は後方に怯むノーハーツに向かって、斬撃を放つ。2度、3度叩き込んだ斬撃は間違いなくノーハーツのHPを削っていった。


 4度目は流石に防がれて、後ろに後退する。結構コンボが入ったはずだがHPバーの2割も切れていない。こいつ、攻撃だけじゃなくて防御やHPにも振ってるな。


「なかなかやってくれますね」

「そうだろう。お前のためを思ってやったことだからな」

「減らず口を」

「そう言うんなら俺に一発いれてみな」


 お言葉に甘えて。そう男が言うと、ボソボソと何かをつぶやく。

 直後、剣先を上空にかざす。空中には俺のことを刺し殺さんとする無数の剣が召喚される。これは《千剣斬雨》という技だったはずだ。やっぱりこいつのレパートリーは異常すぎる。


 剣先がこちらに向くと、召喚された剣たちが俺に向かって発射される。

 じっとしてるのも癪だ。こっちも攻め手に出ることにしよう。


「《超加速》!」


 俺が移動した先から、後を追うようにして無数の剣たちが地面に突き刺さっていく。あんなのにやられたら蜂の巣になって死んでしまうが、この《超加速》にはついていけないらしく、俺に当たることはない。


「《聖剣斬》!」


 続いて俺は出し惜しみなくスキルを放つ。聖剣で斬り裂いた斬撃波はノーハーツに向かって飛んでいく。《絶影》なんかよりもよっぽど強力なこのスキルは、当たればそこそこのダメージが入る。当たればな。


「《ブロック》」


 剣先を盾にした対物理シールドが俺の斬撃波を防ぐ。1度ならず2度や3度も。

 スキル強化も行っているのか? 《ブロック》は1度だけの攻撃無効化スキルだ。意図的に改変しててもおかしくはない。なら自分で確かめるとしよう。

 《超加速》で乗ったスピードをフルに生かして、ノーハーツの正面に出て《ブロック》を打ち払おうとする。ガギン、とやはりその攻撃そのものが防がれる。止まることなく背後に回って一撃。これも不愉快なまでにスキルに阻まれた。

 さっきから《千剣斬雨》もノーハーツにヒットしてるはずなのに、ダメージは入っていない。なるほど、これがチートスキルの1つってわけか。


 剣の雨が止んだタイミングで、俺の超加速状態も終了する。ノーハーツはバリアを解いて、俺に向かって斬り込む。

 お互いの剣がぶつかりあって火花を散らす。鍔迫り合いになるだろうし、俺の言いたいことも言っておくか。


「まるでチートみたいだな」

「違いますよ。これは導く力です」

「笑わせてくれるな。《ブロック》は1度きりのスキルだぜ」

「導く力に固定概念など不要なのですよ!」


 鍔迫り合いを解いて、ノーハーツはその場から離脱。すぐにスキルを放とうとする。


「こんな事もできます。コード《封印》。加えて《超加速》」


 《封印》のスキルを使用した瞬間、自身の力が弱まった気がした。間違いない。奴のスキル無効化スキルはこれに間違いない。つーことは、超加速状態をスキル無しで挑めってことか。


「死ねッ! 《亜空切断》!」


 翡翠色に光る剣閃が周りを装飾する。続いて剣先を地面にこすらせながら土煙を上げて、自分の居場所を見失わせる。

 当たったら死ぬほど痛い一撃をそういう目くらましで誤魔化すわけだ。だが俺はもう過去の俺じゃない。秘策を見せてやるよ。


 目をつむり、ただひたすらに周囲を察知する。空気の切れ目。音に、匂いに。五感を研ぎ澄ませて、ノーハーツがどこからやってくるか。それを見定めるんだ。

 あいつは悪い意味で大雑把だ。自分のチートに頼っているから、その辺の判断がお粗末になる。だから……。

 身体を横にそらす。俺がそこにいた場所に、ノーハーツは剣撃を放った。


「何っ?!」


 横に振り上げるも、その攻撃にもう《亜空切断》の威力は残されていない。連続の斬撃のことごとくを俺は防ぎ切る。


「その程度か?」

「このっ!」


 縦横無尽に飛んでくる剣撃はどれも単調だ。まっすぐ飛んできて、防ぎきれない方が難しいとすら感じてしまう。


 ツツジが言っていた。よっぽど意表を突かなければ剣撃は殺意に向かって一方通行であると。

 咲良が言っていた。どんな攻撃にも防ぎ方は存在する。スキというものはわずかでもあるということを。


 俺はその化け物たちの攻撃をこの1ヶ月間バシバシ受け止めてきたんだ。

 今なら多少は分かる。ノーハーツは、素人だ。スペシャルなんかじゃない。

 ノーハーツはスキルに頼るばかりで自分で攻撃することをあまりしない。した場合、自身を強化したチートが圧倒してくれるから。それを自分の力だと過信している。


 だから俺には敵わない。俺の策は、スキルに頼らない己自身の剣技で、圧倒することなんだから。


 ノーハーツの剣を捉え、聖剣で切り替えして吹き飛ばす。宙に飛んでいったノーハーツの剣は、遥か後方の地面に突き刺さり、超加速状態が終了する。


「これで、終わりだ」


 そこにいたのは、剣を失い丸腰の男と、聖剣にふさわしい実力となった男が矛先を首に突きつけている姿だった。

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