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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第6章 みんなであの子を守るまで
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第128話:友達の私はあなたの本音が聞きたい。

「やーっと見つけたよ。ティア、熊野」

「……ツツジちゃん」


 黒い髪の毛を揺らして、剣を片手で持って私に向けるティア。

 その様子はまさしく戦う踊り子であり、熊野の前に出る姿は本当に聞いていたとおり、率先して愛する人を守ろうとする献身的な態度に見える。


 熊野も盾とナタにも似た片手剣を手に構える。

 そして本来の騎士特有の自身への防御バフ効果。そして《視線集中》のスキルを使う。なるほど、確かにこれはやる気満々みたいだ。


 だから聞いておきたい。なんでそっち側についたのか。何があなた達を寝返らせるに足りたのか。


「なんで構えないのかしら?」

「んー、敵対意識がないからかな」

「そんなに甘く見られてるのかしらね」


 今回の勝利条件は2人を倒すことじゃない。倒してもきっと遺恨が残るだけだし、私たちとの亀裂が入って、もしかしたらこれっきりの関係になってしまうかも知れない。

 私は、それが嫌だ。私にしてはせっかく仲良くなった同志であり、友達だったり、応援する相手だったり。

 私を色眼鏡なしで見てくれる大切な友人を、みすみす逃してたまるものか。


「何かあったの? 何かあったなら私が相談に乗るよ」

「相談も何も、私はただ……」

「お断りよ。これ以上交わす言葉もないわ」

「ティア……?」


 おかしい。何かが噛み合ってない気がする。なんだろう。その違和感がわからない。喉に魚の骨が引っかかってるのを取れないようなもどかしさ。それをティアが醸し出してる気がする。


「《剣舞:始まりの舞い》!」


 私の考え事を斬り伏せて、ティアがスキルを発動した。

 《剣舞》シリーズのスキルは舞いのコンボを連ねていき、威力を上昇させていくスキルだ。なので、最初は必ず始まりの舞いになる。それからは私自身の対応力に任せるしかないか。

 それに短刀を取り出そうにも《視線集中》下にある以上、ティアの独壇場。攻撃しても、当たらなかったり、ダメージが入らないのだ。

 なら避けるのに専念して、説得を続けるしかない。


 始めは上からの振り下ろし。剣を持った腕を舞いに合わせて円形を描く。

 もちろんそんな攻撃は私には届かない。横に身を翻してこれを躱す。

 2回ほど円を描いていると、行動が変化する。振り下ろした剣とともに前に踏み込むと、左から右へのスライド攻撃。これをしゃがんで回避すれば、今度は私を追うように剣を下に降ろす。しゃがんだときのバネを生かして、空中を回転しながら後方へバク宙回避。そこで踊りは止まった。


「流石に当たらないわね」

「もちろん。そんな攻撃はちょちょいのちょいだよ」

「ならアップテンポで行くわ! 《剣舞:情熱の舞い》!」


 タカタカっと足をタップダンスのように鳴らすと、踏み込みを見せてから私の前に一瞬で距離を詰める。

 これは咲良の《縮地》と同じ原理だ。一瞬で距離を詰めて、攻撃を仕掛ける。今回は剣先を私に向けている。つまりは突き攻撃。何連続かわからないけど、避けてみせましょうよ!


 一発一発は遅いものの、確実に相手を突き刺しにかかる動きはフェンシングに近いだろう。直剣じゃないから、威力は望めないだろうけど、それでも剣だ。当たれば痛い。

 だけどそんな攻撃に当たるわけもない。遅いならタイミングを見極めながら、テンポを崩さずに避けきる。左に右に。下に左に。

 徐々に剣の突きも速度を上げていく。アップテンポっていうのはそういう事。確かにタイミングが逸れればそれだけ致命傷になる確率は高い。


 ――だけど!


「甘い!」


 ダメージは入らなくても相手に触れることはできる。しゃがんだスキに腹部を蹴りで押し返して、ティアとの距離を作る。もちろんスキル発動中だ、対象を失った攻撃は空を切る。


「どうしてそっち側についたの? ティアと熊野なら分かるよね、レアとアザレアの関係!」

「だからこそ話し合って……」

「分からないわ。あたしたちは何も知らない」

「ティアさん!?」


 2度目で分かった。もしかしなくても、ティアが熊野の言葉を遮っているように見える。おかしいと思った違和感はそこか。なら、話はティアを説得することしかありえない。


「なら教えてあげるよ。その話を聞いた上で判断すればいい」

「必要ないわ。あたしたちはあたしたちで考える」

「ふーん。情報もなにもないのに考えられるんだ」

「どういうことですか?」


 ノーハーツには隠していることがあると話すと、熊野は怪訝そうな顔で私のことを見た。うん、そっちは何もないみたいだ。

 問題はティアの方だ。その顔は一切変わらずに、剣気だけが強まっていく。


「聞かせてください。私たちにはそれを知る権利が」

「ないわ。話すことなんてなにもない」


 確信した。暴走しているのはティアの方で、恐らく何かを熊野から守っている、気がする。ここからは正直分からない。分からないから、もっと煽るしかない。


「《剣舞:灼熱の嵐》!」


 接近したティアの剣には炎が灯る。エンチャント系のスキルか。でもそれだけじゃ私には届かない。左右に剣を振りながら、私を狙ってくるけど、その全ては見切っている。たまの突き攻撃も私の前では意味をなさない。

 そして《視線集中》の効果時間ももうそろそろ切れるはずだ。突き攻撃に対応して、私は剣を握っている手を掴んで、引き寄せる。バランスを崩したティアは頭から地面に向かって飛び込む。そのスキを狙って、私は頭突きを繰り出す。


 ゴーンと、頭に鳴り響くみたいな鋭い痛みとともにHPが少し削れる。でもティアの目を覚ますにはこれしかない。ティアにも届いたみたいで、頭を抑えて地面にうずくまっている。


「な、何するのよ!」

「仕方ないじゃん、ティアが全然話聞いてくれないんだから!」

「何よ。そっちだって重要な情報を教えてくれなかったじゃない!」


 あ、そこ気にしてたんだ。


「忘れてたんだもん! ティアたちなら私たちについてくれるって信じてたのに!」

「大人は総合的な判断をして結論を下すものよ」

「ならノーハーツのことだって分かってたよね?!」

「……ティアさん?」


 不安そうな目で見る熊野の視線がいたたまれなくて、勢いで立ち上がっていたティアが地面に顔を背ける。


「ティアさ。何庇ってたの?」

「どういうことですか、ツツジさん」

「よく分からないけど、多分熊野を何かから守ろうとしてたのかなって」

「……そんなんじゃないわ」


 ティアはその場でしゃがんで身を丸める。それは殻に引きこもるダンゴムシのようで、少し惨めで寂しそうな態度だった。


「私が言うべき言葉は『それは違う』だったのよ」

「ティアさん。どういうことか説明してください」

「……嫌よ。あたしは大人として正すべきところを正せなかった」

「…………私は、あなたを大人だなんて思ってません」


 ピクリとティアは体を震わせて、もっと丸まってふさぎ込む。


「私はあなたがしていることの意味がわからなくて、その態度もどうしようもなく子供っぽくて、とても大人にだなんて見えません」

「それは、情けない人だって言ってるのかしら」


 熊野はその言葉に対して、明確に「違います」と口にして、続きを語る。


「私はあなたといる時間が好きです。大人としてのあなたじゃなくて、友達としてのティアさんとして」

「くまちゃん……。でもあたしは情けなくて」

「あなたが自分を情けないと思うのは勝手です。でも信じてる私のことまで否定しないでください。私は、私の考えで行動しているんですから」


 縮こまる身体を震わせて、その言葉をしっかりと受け止めているように見えた。じっくりと、自分の中で噛み締めているように。


「羨ましいわ。自分の考えを口にすることができて」

「じゃあティアさんの本音を聞かせてください」


 きっと、ティアも何かを抱えてたまらなくなった気持ちが暴走したんだ。

 好きで、好きで。本音を言って、嫌われたくなくて。私にも分かる。それを口にするのがどんなに躊躇われるか。本音を口にして、受け止めてくれるような人か、怖くて。


「あたしはくまちゃんを止めたかった。でも『それは違う』って言えなかった。くまちゃんに嫌われたくなかったから」


 その言葉に対する返答は心底から呆れたような深いため息だった。


「酷いため息ね。あたしに失望したかしら?」

「失望なんてとっくにしてますよ。私には目上の人間には見えませんから」

「熊野、さっきからかなり酷いこと言ってるよね……」

「綺麗だとは思っても、中身がこれですし」


 多分ティアの心の中はグッサグサだろうなぁ、かわいそうに。


「それに。その程度で私が嫌うとでも? 私はティアさんが違うなら違うって言ってほしかったです。……その、私も考えが足りなかったと思いますし」

「くまちゃん……」


 顔は見れないけど、恐らく泣いてるんだろうな。鼻をすする音が聞こえるし、声の端々が少しヒクヒクしてるし。

 もうちょっと甘えられればいいのに。子供ながら思ったけど、大人になったら甘える場所が減って、本音を言える場所が減って。


「あたしはレアネラちゃんたちに手を貸すべきだわ。そう思ってた」

「事情がありそうですしね。私も賛成です」

「何よ……。こんなにもあっさりって…………。悩んでたのがバカみたいじゃない」


 それから大きな子供を慰めるように熊野が背中を擦って、気持ちを落ち着かせていた。

 私は幸運な方なんだと思う。好きな人が見つかって、好きな人に本音をぶつけられるような関係でいられて。ティアもその居場所をようやく見つけることができたのかな、なんて思ったら、私も少し鼻の奥がツーンとした。

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