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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第6章 みんなであの子を守るまで
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第127話:逃げるわたくしたちは死にたくない。

 1分間のノーハーツとの戦闘データは手に入れることができた。

 これをどうやって受け渡せばいいかとかは聞いてないけど、開発側がなんとかしてくださることでしょう。なのでここで死ぬこともやぶさかではないのですが……。


「まだ仕事が残ってるだろ、キミには」


 そう。わたくしには重要な仕事がもう一つある。それは《高等儀式魔術》の発動。

 7対20を覆すにはわたくしのとっておきである《高等儀式魔術》の発動が不可避なのである。それもいつも使っているやつではなく、秘蔵っ子の1つを。あんまり運頼りなどしたくはありませんでしたが、それも言ってられない状況なので。


 とはいっても、この4人の兵士に囲まれた状況で《高等儀式魔術》を使うことはできないわけで。

 接近戦要因の剣士と芸人が3:1の割合。遠距離班がいないのは不幸中の幸い。でもこうやって囲まれた状況なので、いてもいなくても変わらないか。


「なんとかなりませんの?!」

「生憎逃走用の煙玉はなくてな」

「つっかえませんわねぇ!」

「なんだと?! そもそもこんな状況を作ったのはキミだろう!」

「うるさいですわ! あの場面ではそれが正解だと思ったんですもの!」


「おいおい、敵の前でケンカかよ」

「こいつらが本当にノーハーツ様のIPCを絆したやつなのか?」

「ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと倒すぞ!」


 敵も困惑している状況だったが、1人の剣士が剣を振りかぶる。えぇい、邪魔ですわ!


「《サンダーブラスト》!」


 剣士に向かって雷の魔法を放つ。直線的だが速度はあるその雷を横ステップで躱し、わたくしに剣を振りおろす。ですが、簡単にはやられませんでしてよ!


「《ブロック》!」


 物理無効の魔法を唱えて、手をかざした先にバリアを発生させる。もちろんその剣はバリアに阻まれて、わたくしに凶刃が届くことはなかった。

 ビターが弓矢で攻撃してきた剣士を射るが、今度もステップを駆使してビターの矢を避けた。


「みんな、一斉にかかれ!」

「ノイヤー、周囲に《サンダーブラスト》を使え!」


 一斉攻撃のタイミングと同時にビターが奇策を生み出す。なるほど、そういうことですの。

 周囲の地面に《サンダーブラスト》をやや激しめに撃ち込む。飛散した雷の魔法は敵の一斉攻撃チャンスを無意味にする。もちろんそれだけでは終わらない。土煙と地面の焦げた煙がわたくしたちを隠すように覆う。ビターの狙いは、最初からこれだったらしい。


 半ば強引に腕を引っ張られて、煙の中を飛び出すわたくしたち。その様子を敵さんたちが見逃すはずもない。煙を斬り裂くようにして、わたくしたちを追ってくる。


「くそ。やっぱり気付かれたか」

「当たり前ですわよ! 数秒ぐらい稼げただけ上等ですわ!」

「とはいっても次の打開策がない。このまま芸人に追いつかれて2人で死ぬぞ」

「嫌ですわそんなの! 何か対策は……」


 追われながらも何か策がないかと、自分が今セットしているスキルを読み漁る。《マジックシールド》はありえないし、魔法各種は狙いが定まらないので使えない。《レインフォール・スピアー》ならワンチャン。いや、《ガトリング・レイピア》でMPを使いすぎて、レインフォールが使えない。

 目ぼしいものがなく、続いてアイテム欄を見てみる。ポーションしかないですわ! 却下!

 あとは……。待って、ここにいるのは何も1人じゃない。もしかしたらこの案で行けるかもしれない……。


「ビター! 何でもいいですから1分用意してくださいまし!」

「はぁ?! 何でもってなんだ?!」

「何でもは何でもですわ! アイテムばら撒きでも、弓矢乱射でも! 1分稼いでください! そしたらあわよくば戦況逆転までありえますわ!」

「戦況逆転って。まぁいい。それしかないならキミの作戦に乗ろうじゃないか!」


 そう言うと、懐から長方形の岩を空中に投げ捨てる。


「《アイテム:岩盤障壁》!」


 カウントは60秒。それだけのチャージタイムがあれば、逆転の一手《高等儀式魔術》が使えますわ!


「邪魔くせぇ! 《ボアタックル》!」

「《魔神剣》!」

「《アーマーブレイク》!」


 あれだけ頼りになっていた岩盤障壁がものの数秒で破壊される。そしてスキルを使用していない芸人がこちらを向いている。


「行け! マリク!」

「《超加速》!」

「させるか! 《アイテム:フローズン・バレット》!」


 放り投げた氷のつららは地面に向かって突き刺さる。つららの先から地面が凍りついていき、完成される想定はスケートリングのような一面氷ばりのフィールド。それならば《超加速》も足がもつれて動けないはず、だった。


「舐めるなぁ!」


 凍りついていない場所をすばやく、隙間を縫うように接近していく。この芸人、《超加速》を使いこなしている。

 氷上地帯を抜けた先にいるわたくしたちに芸人はそのナイフを手に取る。目標は後ろのわたくしみたいだ。なけなしのMP使ってやりますわ!


「《ファイアエフェクト》×3!」

「くっ! 効かねぇ!」


 魔法耐性を上げているのか3つの火球の内2発が当たってもひるまずに突き進む。突き立てた刃はわたくしのすぐ後ろに迫ってくる。くっ、ここまで……。


「世話が焼けるっ!」


 うあっ! 突然世界がひっくり返る。いや違う。これはわたくしの身体が宙を舞っているんですわ。連れ走っていた遠心力を利用して、掴んでいたわたくしの腕を急に放り投げる。投げられた先で見たものは、ビターが芸人の刃に侵食されている様子だった。刺されてる。わたくしを庇って、自分が犠牲に……っ!


「これで貸し1だ。《アイテム爆破》!」

「この至近距離でッ!」


 手に持っていたアイテムをその場で爆発させるスキル。もちろん相手だけではなく、自分にもダメージが行くそのスキルでビターが空中に吹き飛んでいく。芸人は膝を付いてしばらく動けない様子だ。わたくしは急いでビターの落下地点に急行して、その小さな体を受け止める。


「は、早くポーションを!」

「いい。それより1分経過しただろ」

「え? あ……」


 《高等儀式魔術》のチャージタイムはとっくに完了しており、あとはわたくしが認証すれば広範囲、いや。バトルフィールド全領域に《高等儀式魔術》が発動するだろう。

 ビターのHPは後少しで消える。でも赤ゲージで止まっていて、これ以上進む気配はない。なら、迷っている暇はない。


「行きますわ。《高等儀式魔術》……」

「させ、るか!」


 膝を付いていた芸人が最後の力を振り絞って走り始めたが、もう遅い!


「《デッド・オア・ブラッド》ォ!!!」


 わたくしを中心にバトルフィールド全域に魔法陣が展開される。魔法名を宣言したタイミングで魔法陣が激しく光り始め、目の前の4人を含めて、敵全員に50%の判定が行われる。


「な、なんだこれは?! 身体が光り始めて……ッ! うわー!」

「マリク!」

「お、俺も!」「私も?!」

「カツヤ! シズカ?!」


 目の前では3人の運が悪い人たちが光に飲まれて消滅した。

 《高等儀式魔術:デッド・オア・ブラッド》はフィフティ・フィフティの魔法。50%という高い確率での即死攻撃とともに、判定に失敗した者たちを容赦なく死に叩き落とす。そしても50%の確率で生存したものにも、付与効果が与えられる。


「なんだ、HPが徐々に減っていって……ッ! 猛毒状態だと?!」


 最後の生存者には猛毒状態が付与される。ちゃんと毒消しで猛毒状態を解除することができるが、突然周りの3人が光に消えていったのだ。もちろん冷静に毒を消そうだなんて平常心ではいられない。

 慌てふためいても、わたくしたちとの境には《フローズン・バレット》で生成された氷の床がある。距離は詰めれないし、どうやら腰を抜かして動けない様子だから、時期に猛毒で死に至ることだろう。


「嫌だ。嫌だぁあああああ!!!!」


 最後の1人も断末魔を残しながら消滅していった。気を張っていた心が一段落ついた。

 ちなみにわたくしも腰を抜かしていて、両足の真ん中にビターが寄りかかる形になっている。……こうして黙っていれば可愛いのに。

 あ、そうだった。わたくしはアイテムウィンドウから上級ポーションを取り出して、ビターに渡す。


「これ、お飲みになったら?」

「……低品質か。これじゃあ完全回復はできないな」

「あなた、人の好意を無駄にするおつもり?」

「いや、受け取るよ。ありがとう」


 そう言って、今日は素直にポーションを受け取って、飲み干した。HPバーを見るに、HPは7割弱回復している。これなら多少のダメージなら問題はないだろう。


「というかキミは、ティアと熊野を巻き添えにしてないだろうな?」

「あ」


 忘れてた。生きるのに必死でそこまで考えが回っていなかった。

 まぁ半々の確率で生きているわけだし、熊野なら毒消しも持っていることだろう。運が良ければ生きているはずだ。


「ま、そのときはそのときか。心の底からこっちを憎んでるわけでもないだろうし」

「なんで敵対したのでしょうね。ティアなら熊野を止めてもいいと思いますのに」


 わたくしはあまり関わったことはありませんが、ツツジがいたく気に入っているみたいですし、いい人なのでしょう。だからこそ今の状況が不可解なのですが。


「残りはどんな感じだ?」

「半々ってところで、あと9人ですわね」

「ノーハーツには効いてないだろうな」

「ですわね。あの硬さは異常でしたもの」


 でも1分間のデータは稼いだし、わたくしの仕事はもう終わったと見ていいでしょう。


「あとは残党狩りですわね」

「それより、これ飲んでおけ」


 わたくしに寄りかかったまま懐から後ろに瓶が回される。

 どうやら中身はポーションのようだ。色は青色なのでこれはMPポーションだと思われる。試しに品質の欄を見てみたら、最高品質、と書かれていた。もしかして見せびらかしたかっただけですの?


「どうせMPが尽きてるんだろう? それを飲んでまた魔法を使えるようにしておけ」

「……ありがとうございます」

「…………ん」


 微妙な雰囲気のままわたくしはMPポーションの蓋を開けて、中身を口にした。

 味はエナジードリンクみたいな実に身体に悪そうな味でしたが、不思議と不器用な優しさを少し感じた気がした。


 ま、まぁいいですわ。そんなことより残りの残党狩り。がんばりますわ!

これはノイビタ

次回は幕間として掲示板回を予定してます

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