第126話:1分間のわたくしはデータを獲得したい。
あのアイテムバカから連絡が来たので、すぐさまタイマーと位置情報をセットした。
距離は北西に約数十メートル。サポートありで、魔法のセットは遠距離戦仕様にしているので、この距離はどうということはない。
まったく、ツツジもわたくしに無茶なお願いをいたしますわね。
ノーハーツと遠距離戦で1分以上戦ってほしい。
確かにわたくし以外で遠距離戦ができるとすると、ビターぐらいしかいない。でもビターはこの戦闘の要。情報戦におけるドローンの管理を彼女がしているのだ。
その上で遠距離戦が得意なわたくしなら、なんとかはできるだろう。相手に気づかれなければ、の話だが。
「魔力に風向きはなし。《ロックオン》発動」
スキル《ロックオン》は対象が見えていれば、ある程度自動で的を照準してくれる素敵なスキルだ。
これに加えてドローンでの位置情報スキャンによって、広範囲の視野を確保することができる。
ハッキリ言ってこのコンボ、わたくしは使ってみたかった。常時敵を認識しながら、魔法を撃って蹂躙することができるのだから、これ以上に楽しいコンボはないだろう。
ただ、この位置情報の拡大が基本的にはアイテムの方に軍配が上がっている。普段からアイテムなんてクソくらえですわ~! と言っているわたくしにとって、これ以上にないブーメランが飛んでくることに違いない。
それに何より、ビターに煽られそうなので、このときばかりの1度きりということで我慢しておく。
ロックオン先のノーハーツはまだ気づいていないようだ。なら、さっさと戦闘開始と行こうか。
タイマーを設定して、わたくしの1分間戦闘を始める。
「《レインフォール・スピアー》!」
手のひらから展開される魔法陣から現れるのは無数の青い槍エネルギー。
次々と上に上がっていくと、木々を超えて上空で静止する。矛先にはロックオンしたノーハーツがいる。
「《ガトリング・レイピア》!」
こちらも魔法陣から発射されたのは、光の針。10や20を超えるその光の針はガトリングガンのごとく連射される。狙いはやはりノーハーツ。
森の木々を貫き、ド迫力にも幹をなぎ倒しながらノーハーツへ向かって、光の針が走る。
当然その音に気づいたノーハーツは剣を取り出すと、矛先を無数の光の針に向ける。
確実に着弾したはずだったが、まるで剣先からバリアを張っているように、光の針が周囲に拡散していく。
「なるほど、そういう仕組みですの」
瞬時に理解した。恐らくあれは " そういうスキル " だということを。
近しいものならば《マジックシールド》や《ブロック》に相当するんだろうけど、明らかに1回に防ぎきれる許容量を超えている。
ツツジの言っていたとおり、チートの疑いをされてもおかしくはない、か。
「でしたら、こういう手品はどうでして?」
先程展開した《レインフォール・スピアー》が上空から3発発射する。この《レインフォール・スピアー》は地上で打てば上空に一度待機してから、任意のタイミングで敵へと向かう、少し変わった挙動をするスキルだ。
昔、ロボット同士を戦わせるゲームで、似たような武器を見たことがあるので、恐らくそれを真似したのだろう。
破壊力は大したもので、《ガトリング・レイピア》よりも上。同時に撃つなら、光の針の連打力と、青い槍の対応力が求められる。これであわよくばそのバリアを崩してほしいところだ。
バリアにレインフォール・スピアーの矛先が着弾し、ドリルのように回転しながら、バリアを貫かんとする。
割られると判断したノーハーツは、その場で身を横に翻し、レインフォール・スピアーの1機を破壊する。
もちろんガトリング・レイピアも続行中。だが当たっているにも関わらず、ひるみも痛がる様子もない。
「これ、本格的にやばいですわね」
仮にも木々をへし折る威力だ。まともに受けたら蜂の巣どころの騒ぎじゃないのに、何だその耐久力は。今どきの極振りでもそんなことにはならないと思う。
「高等儀式魔術はまだ使えない。そもそも切り札を切るような場面じゃない」
レインフォールを全機破壊された後、ガトリング・レイピアを被弾する中、上空を見上げる。目標はビターのドローン。やっぱり気付かれていましたわね。
剣を振り下ろし、斬撃波をドローンめがけて射出。見事に真っ二つになったドローンは爆破して、同時にわたくしの位置情報スキャンも真っ白になる。
「マジですの?!」
真正面にいるとはいえ、これほどまで面倒な相手と戦えだなんて、ツツジもどうかしてますわ!
ノーハーツは振り向いて、こちらを見る。げっ、ヤババですわ。
タイマーはあと15秒。くぅ~! せめて逃げながらでも攻撃してやりますわ!
「《キラーズスピアー》×3! 《ファイアエフェクト》×5!」
得意の低燃費魔法を発射。こうなりゃ質じゃなくて数で押すしかない。幸いこの魔法たちにはスピードがある。ある程度は撹乱してくれるはずだ。
切り替えた魔法にも対応したノーハーツは1つ1つ魔法を剣で斬り捨てていく。
処理しながら、こちらに移動してくるだなんてバカも休み休み言ってほしいですわ。
追加で《キラーズスピアー》を5回。《サンダーブラスト》を5回。《アイスフォール》を7回射出する。こうなれば魔法弾の雨あられですわよ。
今度は剣が白く光ったかと思えば、振り下ろされた魔法の斬撃がわたくしの魔法を悉く両断する。飛んでくる先はここ。くっ! 避けるのは得意じゃありませんのに。
ドレスが汚れても構わない。どうせVRだから汚れてもボタン1つで綺麗になるし!
地面に飛び込んで緊急回避。わたくしのいた場所にはえぐられた地面と、痛々しく傷跡が残る木の幹。これ、当たったら最悪即ゲームオーバーまでありますわね……。
まだ仕事が残っているんだ。ここで死ぬわけにはいかない。
「《オールアップ》! 加えて《スピードハイアップ》!」
自身に魔法をかけて、逃げて時間を稼ぐ。残りタイマーはもうない。だけど、このまま離脱しないと、わたくしの最大の見せ場がなくなってしまいかねませんわ。
続く無茶振りの如き5連続の斬撃波攻撃。そのどれもがわたくしのすぐ後ろを通り過ぎ、フィールドに痛ましい傷を刻んでいく。
経験則ならまだしも、ここまで正確な位置を狙えるなんて、大したスナイプセンスしてますわね! 前世はスナイパーでしたの?!
続いて10の攻撃。なんとかかんとか逃げてるけど、徐々にわたくしの位置をかすめている気がする。
「あっ!」
走りなれないせいか、それともドレスが邪魔をしたのか。地面にハイヒールの先がつまずくと、腹ばいになりながら地面にダイブする。その後ろ、1センチ先では斬撃波が。わたくしの頭上にはこれから来るはずの刃のエフェクトが通り過ぎていった。
「あっぶっ?!」
立ち上がろうにもここまでのスキをあいつが見逃すわけがない。
縦の斬撃波が1発。わたくしの身体を切断すべく襲いかかる。
これは、もうダメかもしれない。ごめんなさい、レアネラ。これはわたしが戦犯みたいですわね……。
襲いかかる刃に対し、わたしは無力ながら目をつぶる。来たるべき痛みに耐えるために。
目を瞑って数秒。痛みはまだ来ない。おかしいな、あれだけの速度ならもう当たってもおかしくないんだけど。
加えて5秒。今度は頭に何か強い衝撃がヒットする。痛い。痛いけど、想像していた鋭い痛みではなく、どちらかと言うと手で叩かれた程度の痛みだ。
変だと思って目を開けてみると、そこにあったのは茶色く巨大な土壁と、ジト目がふさわしく感じさせる性格の悪いアイテムバカがそこにいた。
「おい、起きろ。仕事はまだ終わってないぞ」
「……感謝いたしますわ。これでもちょっかいかけたなりには頑張ったほうですわよ」
「こんな体たらくがよく言う」
鼻で笑っていますが、あの状況はビターでも攻略無理だったと思いますわよ。
などと言いながら、伏せていた身体を起き上がらせる。身体についた土を軽く払ってから、戦況を聞いてみる。
「ノーハーツはまたどっか行ったよ。興味が失せたのか、それとも……」
「ここであってるのか?」
「いたぜ。大金星だ」
「兵を呼び寄せたみたいですわね」
周りには4人のハーツキングダムの兵士。
どうやら、わたくしたちを逃してはくれないみたいですわね。
ノーハーツのバリアの正体は後に分かります




