第125話:後方支援のうちは頭を使いたくない。
ノイビタ編です
『てことで、私たちは一回休憩させてもらうね』
「分かった。爆撃してきた奴はこっちで始末する」
『ありがと。じゃあ通信切るね』
さて、どうしたものか。
アレク、咲良ペアを襲った爆撃。それを突き止めるのが今のうちの役目とも言えるだろう。
再攻撃をしてこなかったところを見ると、あまり精度は高くないか、それともチャージまでに時間がかかるのか。どちらにせよ早めに見つけて始末しないと、こちらの戦況を崩されかねない。
襲撃を受けてから20分が経過している。ならもうリキャストは溜まっていると思うのだが、攻撃の気配を感じない。こちらから打って出るか。
「《アイテム:ドローン》4機発進」
それぞれ四方に飛んでいくドローンを見つめて、とりあえずの作戦を頭の中で立てる。
いわばドローンは囮だ。これを撃墜すれば、おおよその位置がわかる。その上で2つ目の特殊ドローンを発射してどうなるか。相手の頭があまり良くないといいのだが。
岩陰に隠れながら、ドローンの撃墜を待つ。正直、この作戦は貴重なアイテムを消費するからあまりしたくはなかった。
ただこれ以上相手に好き勝手されるのは、あまりにも癪なので、この作戦を選んだだけ。
うちの頭がもう少しよかったら、別の作戦を思いついてたかもしれないけどな。
発進してから数分。音沙汰はないけど、着実とマップのスキャニングも進めている。
《ドローン》には本来マッピングの能力もある。ついでということもありマッピングも進めているので、一石二鳥ってことで1つ。
なんてどうでもいいことを考えていたら、突如ドローンの1機が消息を絶つ。どこのドローンだと見てみると、北東方面のドローンだ。ビンゴだ。敵は北東方面にいる。
続いて特殊ドローン1機を発進させた。目標は北東方面のドローン消失地点。
このドローンは少し特殊で、単体では軽いマッピングしかできないような、性能の低いアイテムだ。でも、その真価を発揮するのは、ドローン撃破時の反応にある。
ま、とくと味わうがいいさ。うちはうちで、用意するものがあるからアイテムを引っ張り出すとしよう。
◇
「《メテオストーム》の準備はどのぐらいだ?」
「あと4分ってところかしら。話によればまだ生き残りがいたみたいだから、そこに撃つつもり」
「期待してるぜ」
私の名はパル。ハーツキングダムの一員であり、今回ノーハーツ様にその魔法の能力を見抜かれて推薦されたエリートと言ってもいいだろう。
魔法の能力は《メテオストーム》。メテオ系魔法を得意とする私の超長距離魔法だ。
数分間のチャージタイムと身動きが取れなくなる代わりに、任意の箇所にメテオを降り注がせる最高クラスの魔法だ。
他にも局地戦用の《メテオストーム・パニッシャー》とか、防御貫通スキルの《メテオストライク》とかあるけど、それを使う機会は多分ないだろう。
あと4分。仕留め残った男女2人組みを倒すにはこれだけあれば十分だ。
でも相手の行動が嫌に静かな気がする。開始数分で戦闘を始めた2人組みは置いておくとして、それ以外の5人の行動が静まり返っている。何かを狙っているのかな?
チャージタイム中に再度着地点を確認していると、空に何か黒い影が見えた気がする。あれはもしかしてドローン?
「ドローンみたい。撃墜して」
「あいよ」
旅人の1人が弓を使って攻撃する。矢に当たってボンッといともたやすく破壊されたドローンに、少し不安を覚えながらもこれでスキャンの心配はないと安堵する。
「これなら勝ち確かもな!」
「そういう事言わないでくれる。フラグっていうのよ?」
「ハッハッハ! でも相手は7人。そう簡単に……またドローンだ」
チャージタイムは残り2分。今度は赤いドローンが空中を散歩している。旅人がこれもまた撃墜した。
でもなんだろう、この妙な感覚。そもそも、なんで私たちのところに2機のドローンが近づいてきたんだ。
それに赤いドローンが撃破された時に、半径数メートルに広がる魔力探知が入った気がする。魔法特化の人間だから、そういうのには敏感だけど。
2機のドローン。
撃破したときの魔力探知。
これが意味することとは……。まさかっ!
「みんな! 敵襲よ!」
「て、敵襲? いったいどこから……」
「どこでもいいでしょ! 周囲を警戒して!」
私は《メテオストーム》のチャージタイムがあるから、探知はできないけど、それでも周りを目で見ることができる。
私を含め、計6人のプレイヤーがここに固まっている。まさかとは思うけど、ここでまとめてキルでもされたら、溜まったもんじゃない。
目を凝らして、周囲を確認する。周りには木々と、空と、切り立った崖と……。
「見ろ! 崖の上!」
「なっ?!」
それは巨大な弓矢だった。ここからかなりの距離離れているはずなのに視界にくっきり映るほどの大きさ。推定4メートルほどのバリスタがこちらに矢を向けている。
「やばいぞ、あんなん食らったら俺たちひとたまりもねぇ」
「騎士2人で止めるぞ!」
騎士2人が防御強化のスキルを放った瞬間、矢は放たれた。
空気を斬り裂く轟音とともに、一直線にこちらに向かって1本の矢が走る。走る。走る。
その大きさ縦1メートルほど。そう、縦だ。長さじゃない。正面から受け止めるには非常に大きすぎる。
「くそぉ!」
先端が鋭利に尖った矢が騎士2人の大盾に阻まれる。瞬間、空気の振動と焼き尽くすような衝撃波が身体を斬り裂く。
これをまともに受けたら、一瞬でゲームオーバーだ。目の前の騎士2人には申し訳ないけど、ここまでの代物には必ずリキャストが存在する。なら、この攻撃の犠牲になってもらえれば、リキャストタイムも加味して必ずあの2人組みを倒すことができる。
2:2交換なら上等なものでしょう。
「すまねぇ、後は頼んだ」
「任されたわ」
チャージタイムは残り1分。天空に魔力溜まりが溜まっていく。これが降り注げば、必ずキルできるはずだ。
「お、おい! まだ飛んでくるぞ!」
「え?」
ゴォン! と弓が矢を撃つのには大げさなほどの轟音が2回目。
思わずその発射音の先を見ると、そこには先程のバリスタ。まさか、あれはスキルや武器のユニークスキルなんかじゃなくて、アイテムとしての運用なの?!
◇
《ダーヴィンスレイブ》
北欧の伝承に登場する魔剣の名前を捩ったこのアイテムは、弓矢一体型の超長距離アイテムだ。矢はうちの体格の3分の2ほどの大きなもので、容易に装填できるものではない。
ま、それは自分の力で装填するときのみ適応されるルールなんだがな。
アイテムならボタン1つで起動する。たとえ1発目の矢を受け止めたとしても、2発、3発目の矢がキミたちを襲う。場所を知れた時点で、うちの勝ちは確立したようなものなんだよ。
「2人をやったお返しだ。ぜひ受け取ってほしいな」
2発目の矢が放たれる。目標にぐんぐん伸びていき、地面を抉り取るほどの破壊力を持って、残りの4名も始末した。
「さて、目立ちすぎた。場所を変えるか」
仕事人はクールに去ることにしよう。
それにうちが本来見つけなきゃいけない人も見つけることができた。これ以上ここに滞在する理由もないだろう。
後はそうだな。ノイヤーのやつに連絡しなくちゃいけない。メールでいいか。
そう考えて、うちは《ダーヴィンスレイブ》を片付け、メッセージを打ち込んでから崖の上から消えた。
◇
◆アイテムバカ:PM6:25
ノーハーツを見つけた。位置情報はドローンから送信した。
「ったく、遅いですわよ」
ダーヴィンスレイブの元ネタは、まぁ察してください




