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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第6章 みんなであの子を守るまで
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第122話:怒る私はそれでも我は忘れない。

「くそっ! 速い!」


 創作の中のアスリートには自分が行くべき正解の道標、というものが視覚的に見えている人がいるらしい。らしい、というのも、私はそんなに漫画やアニメに詳しいわけじゃないので、知り合いから聞いた話、ってだけなんだけども。

 でも実際にあるとすれば、研ぎ澄まされた精神と集中力。それと勝利への自信が揃えば、私にも見えると思っている。


 現に今だって見えている。もはや未来予知と言ってもいいかもしれない。そんなレベルの道標。

 剣士の刀を足のステップで躱す。続く蛮族による巨大な斧の一撃は、重さと力に頼った無邪気な児戯。ならば避けるのも容易い。上から下への攻撃を潜り抜けると、盾を構えている騎士にたどり着く。

 小型の盾だ。大盾であればやや大立ち回りしながら首を斬り捨てるところだったが、バックラーほどの小さな盾であれば、後ろに回り込むのは容易い。

 ガニ股に構え《視線集中》のスキルを使用する寸前。私は自身の小さな体を駆使して、足の下に滑り込む。そして振り返るスキもなく、首への一閃により急所を射抜かれ騎士は倒れ伏す。


「これで1人」

「この野郎! よくもユウゴを!」

「そいつはラストサムライだ! たやすく近づくな!」


 斧を持った男は「うるせぇ!」と口にすると、仇討ちにと私へと斧を振り下ろした。さっきも言った通り、パワーがあってもそれは子供のお遊戯のようなもの。洗練されていない、無駄な攻撃を私が避けれないはずもない。

 力に身を任せた一撃が、地面に突き刺さる。まるで軽度の地震にも似た衝撃が襲いかかるが、その程度で私を止められると思うな。

 私はそこにはいない。何故なら私は斧男を中心に弧を描いて、すでに後ろに回り込んでいるのだから。


 まずは両足の膝裏を断ち切り、バランスを失ったところで背中に蹴りを入れて縦に一回転。膝を付いた斧男の首の位置は、私に首を差し出すように倒れていた。


「ごめんね」


 更に一閃。1本の線に凝縮された赤い衝撃が赤い破片と液体のエフェクトを吹き出しながら、巨大な身体が地面に伏す。やがて光のポリゴンとなって、このゲームからリタイアした。


「2人」

「流石だな、ラストサムライ。いや、咲良」


 血を払うように地面に刀を振り下ろしてから、両手で刀を握り直す。


 私はこの男を知っている。

 私と同じ当時のラストサムライと呼ばれた7人の内の1人。よく私と関わっていた人物でもあり、忍者をモチーフとした衣装。そして逆手に持った刀が物語る相手は1人しかいなかった。


「…………へぇ。まだやってたんだ、カゲン」

「いや、俺もキミと同じ復帰勢だよ。むしろ、キミに会いにきた」

「私に?」


 不可解なことに、彼は私に会いにきたと言った。誰にも復帰したことを告げてないにも関わらずだ。

 確かにフレンドからログインの情報を見れば、その人がいるかいないか、ということはおおよそ分かる。でもこのGVGに参加するだなんてことは一言も言っていない。明らかにピンポイントな情報がカゲンには伝わっていた。


「あぁ、俺はキミに言いたいことがあったんだ」


 口元を覆っていたマスクを脱ぐと、少しだけ青白い唇が姿を現す。昔はもうちょっと健康的な色をしていた気がするけど、人の口なんてジロジロ見る機会なんてないし。と思いながら返答を待っていた。


「俺は、キミが好きだった。好きで好きでたまらなかった」

「…………」

「キミのために、その強さと肩を並べられるように俺は鍛錬を重ねた」


 男は「なのにだ」とその全てが意味のなかったかのように、言葉を覆す。


「何だあの弱っちぃ奴は! 何故俺を選ばない! ラストサムライの中でもキミの次に強かったはずだ! なのに何故キミは俺に振り向かない!」

「……なんだ、そんなこと」

「何ッ?!」


 先程の精神と集中力を再び蘇らせる。この人は敵だ。それがどんな想いを抱こうが、どんな感情をぶつけてこようが、そんなことは関係ない。

 この人も等しく、アザレアちゃんに、レアネラちゃんに。アレクに害をなそうとしている人だ。


「《体の型 縮地》《四の型 隼風》」


 縮地によって、自分と相手の距離を縮めて、隼風による素早い一撃で斬り込む。不意打ちだったが、カゲンはこれに対応。刀同士をぶつけ合い、被弾という形を免れる。


「その型はすでに見切っている!」

「《二の型 凪突き》」


 隼風による追加スキル入力によって、連続突き攻撃である凪突きを宣言する。

 刀を弾いて、そのスキを狙い5連続の突き。1本目は右胸部に被弾。続く2本目を強引に身体を傾けて避ける。それ以降は刀で弾かれてしまい、その後の攻撃は失敗に終わった。

 カゲンは距離をとって、もう一度体勢を立て直した。今は不意打ちだったからヒットしたのだろう。おそらく次同じようなことはできない。


「それだけのことができるくせに、何故あいつに肩入れする! 噂では結婚したから引退したと聞いた! 何故だ! 何故俺を選ばない!」


 昔はもっと紳士的な相手だと見ていた。確かに妙に私と絡んでくること以外は冷静沈着で、物事をしっかり見ているという少し離れた立ち位置で、私たちラストサムライを支えてきた男だと思っていた。


 なのに、今はなんだ。まるで " 何か " に動かされたみたいに興奮して、私が強いだの、アレクが弱いだの。カゲンがふさわしいだとか。急に出てきて、何を言ってきているんだ。

 私がこと決闘に置いて、誰かに邪魔をされるということ自体を嫌がるのはラストサムライなら誰でも知っていることだ。それを忘れて、私の目の前で神聖なる決闘を邪魔する気なの?


「昔のカゲンはそんな事言わなかった」

「昔はな。今は違う。俺は力を得た!」

「だから強気になって、私を落とせると思ったの?」

「そうだ。だがあのでくの坊のせいで全てが台無しになった! 鍛冶屋風情が、俺の咲良を奪いやがって!」


 言うに事欠いて、俺の咲良、ってどこまで強気になっているんだか。誰も、あなたの咲良になった覚えはない。最初から、ずっとずっと前から私はアレクのものだ。


「よく言うよ。私に一度も勝てなかったくせに」

「今は違う。俺が勝ったら、そのでくの坊と離婚して、俺と結婚してもらう!」

「万が一勝てたら、ね」


 ごめんねアレク。でもこんなにも夫を悪く言われたら、私だって虫の居所が悪くなってしまう。

 普段は穏やかな凪の海みたいな静けさがある私の心が、今は巨大な台風が波風を起こして、今にも船の1つや2つ沈没させかねないような怒りの感情が激しく唸っている。


 今の私を作ったのはアレク。いや、大吾だ。今の私になるためには大吾のその一言がなかったら、きっと今も無気力で、ぼんやりとしている女になっていたことだろう。

 だから鍛冶屋風情などと鳴くな。でくの坊なんて喚くな。


 私の好きを、あなたごときが否定するな。

 私は全力であなたを斬り捨てる。私を何も知らないあなたが、私を語るな。

 刀を握る手が強まる。思い出すのはあの日の思い出。


 私がアレクを、大吾を好きになった、あの日のこと。

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