第121話:戦闘する私は負けるわけにいかない。
運がいいのか悪いのか。多分悪い方だと思う。GVG開始数分後に早速、敵を3人補足した。
1人は騎士で有名なプレイヤー。残り2人は芸人としてはなかなか腕の立つプレイヤーと噂の人物たち。
対して私たちはアレクと私、咲良だけ。
元々遊撃部隊ということもあり、私たちと残り2人。ツツジちゃんとヴァレストくんが戦線に出ているんだけど、今はそのどちらも出払っている状況だ。
なので相手するのは私とアレクだけ。でもこの程度の敵なら、私一人で十分だ。
「私が出るけどいい?」
「どうせ全滅させることが前提の戦いだ。思う存分やろうか」
「そういうと思った」
《妖刀炎帝》の柄を握り、居合の形を取る。
狙いは騎士。結構至近距離だけど、向こうは気づいてないのか、全面警戒モードぐらいにしかなっていない。警戒状態なら、気づかれる前にまず1人潰す。
ガサリと音がなると、全員一斉にそちらの方を向く。先制攻撃と言わんばかりに、芸人2人が遠距離攻撃として、投げナイフを2本投げる。だけどそれは大きな間違い。何故なら相手は私ではなく……。
「《蛮族の覇気》!」
木々が揺れ、草花がそのオーラで音の鳴らした正体を明かす。
《蛮族の覇気》はスキルを使うことで、1度だけ遠距離攻撃を無力化することができる。代わりにこんな感じで大きな音と衝撃波で周囲に居場所をバラしてしまうんだけど、戦闘力の高い蛮族、アレクならバレても問題ない。
私は目線がアレクに向いている間に、騎士の背後を取る。狙いは首。このゲームにだって、暗殺は存在するんだよ。
炎の刀が空中で赤い線を描きながら、騎士の首めがけて刀を抜刀する。私の描いた通りのキルラインを描いた先には、バターのようにキレイに斬り裂かれた剣筋と、倒れよく騎士の姿があった。
「ア、アーサー?!」
芸人の1人がそのものの名を呼ぶ。アーサーなんて名前、どう考えても名前負けしてると思うけど、それはどうでもいいか。
騎士の異常に気づいた芸人が背後から攻め入った私を切り崩すべく、行動を開始する。だけど、もう遅いよ。
「《体の型 瞬菊》」
1秒間だけ分身を生み出すスキルを使用して、右と左から同時に斬撃行動を開始。芸人はたまらず一度怯んでから、どちらを攻撃するか悩むが、その内に片方の分身が消え、私だけが残る。
「《三の型 水面蹴り》」
水面を蹴り上げるような白い一閃を素早く右に振る。
不意の一撃を避けるすべなどなく、芸人の胴体はその場で1度引き裂かれる。だけど、この水面蹴りはもう一度ある。
手首の回転を活かして、刀身をねじり、もう一度今度は左への斬撃を繰り出す。計2回の急所攻撃に耐えうるものなどいない。膝を付いた芸人の首元に刃を突きつける。
「ジョージ!」
「そっちに行かせるかよ!」
もうひとりの芸人が私の方へ近づくけど、それは愚行だ。後ろに構えている火力バカがそこにいて、後ろからスキ丸出しの芸人に対して巨大なハンマーの一撃が迫っているんだから。
「く、そ……」
「まだ5分ぐらいなのに……」
1人は首を切り落とされゲームエンド。もうひとりはすり潰されてその場でゲームオーバー。もはや死屍累々とはこのことだろう。
「掲示板、荒れてるだろうな」
「私たちの所業に?」
「それしかないだろ。というかお前『の』所業な」
「ならもうちょっと本気出してほしかったなー」
別に刀に血なんてついてないけど、血を払うようにして、地面に刀を振ってから鞘に入れる。これは私がかっこいいと思ってやってるだけで、実際はバフ効果とか研磨で少し楽になる、みたいな効果はないよ。
「これで27対7。大したことないね」
「ラストサムライ目線は言うことが違うな」
「そんなことないよ。これでもちゃんと計算はしてるつもりだから」
最初の暗殺で騎士を倒す方向にしたのには理由がある。それは単純に防御力が高いというのもあるけど、騎士には十中八九《視線集中》というスキルがある。
自分に攻撃を集中させる、という単純明快なスキルだけど、それだけに対人戦は厄介極まりない効果をしている。
恐らく構成的には騎士で《視線集中》。そこから芸人2人でキルする戦法だったのだろうが、その戦法はすでにお見通しだ。だって私たちのギルマスは騎士なんだから。
「うまく行ったし、もっかい行ってみよっか!」
「そんな事言って油断するなよ」
「分かってるって」
少しだけごきげんな私は鼻歌気分で周囲の警戒を始める。狙いはアザレアだろうけど、その前に私たちを倒した方が確実だからね。ま、私は倒されるなんて思ってないけど。
上空を見上げて雲を数えよう、なんて思ったはいいけど、上は晴天だし、特に雲らしい雲はない。強いて言えば黒い点が2つほど、私たちへと降り注いでいるような……。
「危ない!」
男の庇う声とともに身体が巨大なものに覆われる。その数秒後、激しい爆撃は私たちを襲う。これ、敵襲か。それもあれは爆撃攻撃。冷静に分析している場合じゃないけど、癖でそうなってしまう。
見上げるとアレクの苦悶に満ちた声が私の耳元で漏れる。やがて爆撃は止み、力いっぱい支えていた身体が脆くも崩れ、地面に倒れ伏す。
「アレク!」
「この辺か?」
誰かいる。アレクも、幸いまだHPは残っていて息がある。アレクを草葉の陰でもなんでも見えないように隠さなきゃ。
「すまん、俺が出張ったばかりに」
「いいから。ホント、昔からそうだよね」
「悪い」
「そう思ってるならこのポーション飲んで」
震える手でポーション掴んで、なんとか口にしているけど、ポーションの回復には時間がかかる。その間にこの場所がバレたら大変だ。
アレクを守らなきゃ。ならどうする。敵影は3人。装備的には剣士と騎士と、あとは蛮族かな。さっきよりも状況は厳しいけど、注意を引くためにやるしかない。
精神を研ぎ澄ませるために、一度息を吸って、吐く。モードを切り替えろ。全ての甘えを捨てろ。目の前の敵は3体。ならば最初に殺るのは間違いなく、騎士だ。
ツツジちゃんとの戦い以上に集中した私は右足に力を入れて、勢いよく飛び出した。
GVG咲良編。
こんな感じでGVGでは一人ひとりのキャラに注目しながら書いてます。
結構長くなる想定です。具体的に言えば幕間抜きで15話ぐらい




