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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第6章 みんなであの子を守るまで
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第118話:リアルの私は答えを聞かれたくない。

 決戦当日。GVGは夜の20時からやるみたいで、それまでの間はみんなそれぞれの準備を進めていた。

 私は、というよりも私たちはといえば、夏場ぐらいにやってきた喫茶店で作戦やコンビネーションの最終確認をしていた。


「てか、なんでリアルのなのさ」

「んー、なんとなく?」


 要するに二人っきりになりたかったのでは。私の知るところではないけど、多分そうに違いない。


「おまたせしました。ミルクとカフェオレです」

「で、今日のルックスどう?」


 どう、と言われましても。確かに可愛いと思うんだけど、なんで今聞いたのさ。

 今日のツツジはなんとなくオシャレさんだ。

 冬も近いからか、黒い縦地のセーターは大人らしさを感じさせてくれるし、濃い赤を基調としたコルセット付きのワイドパンツは、セーターと合わせてきたのかこちらも似合っている。

 今は暑くてきてないだろうけど、上から羽織っているコートなんかも秋冬用なのか、マットな色合いで落ち着いて見れるし、なんだったら帽子もつけたりして、気合の入り方がちょっとから空回ってる。


 だからというわけじゃないけど、今日もキレイだよ、とは言っておく。


「なんかツレナイなー」

「別に今日この後解散してゲームでしょ? そんなに気合い入れる必要ないじゃん」

「さっちーって、妙に女子力ないっていうか、変なところで潔いよね」


 それは私に喧嘩を売っているのか。

 確かに私に女子力がないのはなんとなく分かっていた。料理も最近は食べられればいいやと思って、うどんで済ませていることあるし。掃除は最低限するけど、詳しいところは大晦日でいいかとか考えてる。

 ファッションは、まー。見せる人がいないともいうけど。


 そう考えるとツツジはホントに人の目線を気にするタイプで苦労しそうなタイプだななんてことを考えていた。

 その抜群なボディスタイルでYシャツ1枚とか、ダサTされたら残念だけど、それはそれで愛嬌があるといいますか。そんなツツジを受け入れることだって私にはできるだろう。


「ホント、ツツジってなんで私のこと好きになったの?」

「さっちーが可愛いからだよ」

「ホントにー?」

「んー、5割ぐらいホント」

「じゃあ残り5割は?」


 下唇を指でトントンと叩きながら、言おうか言わまいか悩んでいる感じだ。

 人に、ましてや自分が好きな人に「好きになった理由は」って聞くの、確かに非常識な感じがある。でも気になるじゃん。私だってそのぐらい知っておきたいし。


 しばらく考えた後、ツツジから飛び出した言葉は「私のことを見ていてくれるから」という理由だった。なんのこっちゃ。


「色眼鏡なしでとか、そういうこと」

「色眼鏡も何も、ツツジってハイスペックなのに残念だから、変わった目で見るとかムリムリ」

「うわひっどー」


 そっちが振ってきたのに何だその態度は。遺憾の意である。おこだよ。

 いやごめん、元はと言えば私から振ってきた内容だったわ。逆ギレパンダだよねこんなの。


「でもそういうとこだよ。みんなハイスペックなとこしか見てくれないし」

「そんなもん?」

「意外とね。だからさっちーみたいにいい意味でまっすぐに見てくれる人って、貴重なんだよ」


 人間どこかしらは偏見の目で見ることはあると思う。パッと思いつくのは肌の色とか言葉の差だとか。ツツジのことだって、最初はパリピとか思って見てたし。

 今でも内容は違えど偏見の目で見ている。感情の起伏が激しくて、私のことを好き好き言ってくるし、ちょっと鬱陶しいところもある。

 見方の差、なんだろうなきっと。


「私が赤裸々な話をしたんだから、さっちーもなんか秘密言ってよ」

「なんで」

「今っていわゆる女子会だし」

「作戦会議じゃなかったんだ」


 さっきかペンが動いてないし、なんなら今ノートをパタンと閉じたし、この子ホントは最終確認とかを口実にデートに誘ったな。それだったら私だってもうちょっとオシャレしたわい。


「秘密なんてなんも……」

「さっちーさぁ、実はもうアザレアの気持ちに気づいてるよね?」


 それまで飲んでいたミルクを吹き出しそうになったけど、なんとか口に含んだミルクは全部喉の奥に仕舞った。おかげで喉がちょっとだけ痛い。あと咳もする。ゴホンゴホン。


「その反応やっぱりかー」

「な、なんで知ってるの?!」

「長年の幸歩センサーによるところかなー」


 こいつ、ニタニタとしやがって。実は本命はこっちの話だったんじゃないだろうか。卑怯だ。あまりにも卑劣。これが人間のやることかよ!


「で、実際どうなの」

「……言わなきゃダメ?」

「わぁ、すっごい嫌そうな顔」


 彼女はこれまでに見たことがないギラギラと輝く夏の嫌な太陽みたいな笑顔をこちらに向ける。後で覚えてろよ。特に何をするわけでもないけど、肩ぶつけたりしてやる。

 私は目線を合わせずに、首を縦に1つ振るだけに留めて返事した。


「昨日さ、アザレアが今日勝ったら言いたいことがあるって言ったんだよね」

「あー、うん」

「これ絶対告白じゃん! まだツツジの返事だってまともにできてないのに」


 そんな感じはしたんだ。最近のアザレアの感じとか見てたら、なんとなくこの子は私のことが好きなんだろうな、って。

 人工知能がそんな事を感じるとは思わなかったし、ましてや私を好きになるなんて、とか。

 私はまだ恋する気持ちとか分かってないのに、ずるいじゃんそんなの。


「結局まだなの?」

「急かすじゃん」

「だってー、早くさっちーとくっついていちゃつきたいし」

「身の危険を感じるんだけど」

「冗談だって。流石に段階は踏む」


 恋する気持ち、かぁ。私はそういうのまだ分からなくて、どうすればいいんだろうか。


「実際さっちーはさ、私たちのことどう思ってるの?」

「どう、とは?」

「ほら。好きとか嫌いとか。あと鬱陶しいとかうざったいとか」

「ツツジのことはたまに怖いなってときはあるよ」

「怖い?!」


 さっきだってそうだったし。なんかたまにツツジは私が許したらどこまでも行ってしまいそうな感じがして、ちょっと怖いのだ。

 手をつないだり、キスしたり、それより先にだって。だから実はツツジは私に隠れて何かしてるんじゃないかって、心配になるよね。


「冗談は置いておいて、やっぱりまだ好きって気持ちが分からないかな」

「そっか……」

「でもね」


 ここで切るのは簡単だったと思う。でも勇気を出して告白してくれたツツジには自分の心を正直に見せなきゃいけない気がして。

 私が抱いているこの感情を正直に答えるのは一抹の不安と緊張が重なってしまう。

 でも正直に言わなきゃ、伝わらないしツツジにも失礼だと思った。だから口にする。


「2人のことは特別だって思うよ。2人とも大切で、ずっと一緒にいたいって思うくらいに。それが今の、私の答え」

「そ、っか……」


 ツツジの顔がちょっと陰りを見せた気がした。嬉しいやら恥ずかしいやら、それとも悔しいやら苦々しいやら。唇を少し強めに閉じたツツジの顔が少し怖かった。

 やがてこわばっていた身体をほぐすように、体内に溜まっていた悪い気をため息とともに吐き出していく。その後の顔は、少しだけ晴れていた。


「さっちーさぁ、浮気性?」

「なんで?!」

「だって2人とも特別って、私じゃなかったら結構最低発言だよ?」


 そ、そうだったのか。ちょっと反省。

 で、でも実際どっちかを選べって言われても、選べないし……。


「私としてはこっちを選んでほしかったなー」

「ご、ごめん……」

「別に責めてるわけじゃないよ。私は独占欲強くて、ちょっと嫉妬深いだけだし」

「確かにツツジってめんどくさいとこあるけど」

「そこは否定してよ!」


 その通り過ぎて私が口出すスキがなかったと言いますか。

 でもやっぱ、かけがえのない一人を選ぶしかないのかな。

 もし私がツツジを選んで、それでアザレアの顔が曇ったら、やっぱり嫌だ。両方選ぶのってできないのかな……。


「今はそれがさっちーの返答ってことにしとく」

「ごめんね」

「さっきから謝ってばっかだよ? 私がキスしてあげようか!」

「それはツツジがしたいだけでしょ」


 近づいてくるツツジの顔に軽くデコピンをして追い払う。

 今はそれで十分って言ってくれるツツジの気持ちに感謝しなきゃな。勝手にキスしようと近づいてくるのだけはちょっとやめてほしいけど。


「じゃ、アザレアのためにも勝たないとね」

「うん。絶対勝つ」


 ツツジが拳を作って、私たちの間に突き出してきたので、私も習って突き出してみる。

 ピタッという肌と肌がぶつかる優しい音を交わす。


 決意は固まった。あとは、勝つだけだ!

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