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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第6章 みんなであの子を守るまで
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第116話:決戦前夜の私たちは特訓を続けたい。

 私、ツツジは昔からいろいろなことが『よくできていた子』だった。

 勉強と料理はちょっとあれだったけど、それ以外のことなら大抵のことは器用にこなせた。

 体育の成績はトップクラスだったし、美術もなんとなくで描いたらかなりいい出来になったと思う。家庭科は、まぁ手先が器用で料理以外の事柄なら何でもできる。音楽だって歌が上手いって評判だ。。リーダーシップだってあると思っている。


 器用に物事を回せて、ちょっとした欠点がある。そういう人間の方が人はついていくのかなって、幼いながらに思った。

 私の周りには人がいたし、私の友達みたいな人はいくらでもいた。

 でもふとした瞬間に気付いた。それが当たり前だと思って、嫌だと思ったのは。


 何でもできて周囲に恵まれている。そんな物語みたいな私はもういらないと。そう願って、私を見てくれる幸歩を好きになっていった。


 やっぱ、私ってかなり身勝手だと思う。ワガママだと思う。

 今だってそうだ。目の前のサムライに勝ちたくて剣を振るっている。

 私の身勝手な理由で、そうしていると確信を持って言える。


「はぁ……はぁ……」

「まだやる気?」

「当たり前、でしょ!」


 刀と短刀が火花を散らす。これで幾度目の切り合いだろう。始めっから数えるつもりなかったから分からない。そんな事どうでもいいんだけどさ。


 私は咲良が加入してからずっとこんな訓練を続けていた。理由はただ一つ。私のレアが、曲がりなりにも親友のアザレアが黙って奪われるのが気に入らないからだ。

 この剣で黙らせるしかない。私にはそれしか選択肢はない。そのために色んな手回しはした。チーターの疑いがあるのを利用した。だが最後にはやっぱり正面対決は避けられなかった。

 私の短刀がいくら斬り込んでも、咲良に届くことはない。その手前で彼女の刃に止められる。そんな事を繰り返してもなんの特訓にもならないのに。


「もうやめにしない。明日試合だよ?」

「やめない! 私は絶対ッ!」

「そ。なら……」


 斬り込んだ瞬間に、咲良の目に殺意が灯る。やばい。そう思っても止まる気配がない身体に斬撃が走る。


「《四の型 隼風》」


 下から上に斬り上げる一撃に私の身体は両断される。腰から肩にかけて斬り裂かれてもまだやる気なのか、私の身体が勝手に動く。

 負けたくない。そう強く願って私は手を伸ばす。どこへ伸ばしているか分からない。でも伸ばさないと勝てない気がして。


 ――何に?


 何って、そりゃ咲良に。あれ、ノーハーツにだっけ? それとも……。


「《終の型》」


 その思考が一瞬にして赤に包まれた。


 ◇


「えいっ」


 突如かけられたバケツ1杯の水を無抵抗に浴びた私は、闇に閉ざされていた思考を一気に覚醒させる。


「な、なにっ?」

「ごめんね、ちょっとだま……静かになってもらうために奥義使っちゃった」

「え? え?」


 周りを見る。さっきと風景は変わらない。恐らくこの場で気絶して、意識を失っていたらしい。こんな事している場合じゃないのに。身体を動かそうにも、疲れからか、それとも奥義を受けたからか。ふらついて立てる気配がない。


「ほら落ち着いて。私が相談に乗ってあげるから」


 相談? 何の? はてなが続く私だったが、さっきまでの事を思い出して、少し後悔した。私、無意識に何してたんだろう。手を伸ばして、それで……。


「正直。あなたの今のコンディションじゃレアネラちゃんについていけないよ?」

「そんなのあるわけ!」

「あります。心が乱れている、随分とね」


 咲良は私の胸に拳とちょこんと突き立てる。優しいけど、私にとっては多分致命の一撃。見透かされてたんだ、出会った日から。


「ほら言っちゃえ。私は口硬いほうだから」

「……って言っても」

「まぁそうなんだよね。だからいくらでも待ってあげるよ。だから順番に話していこう?」


 それは昔どこかで聞いたことのあるようなセリフだった。

 ような、じゃない。私の大切なあの日のセリフ。さっちーに洗いざらいぶちまけてしまったあの日。

 咲良は、どこかそんな聖母を感じさせる瞳をしていた。なんでも受け止めてくれそうな、そんな卑怯で、慈愛に満ちていて、私が弱い瞳。


「私、何でもできるって思ってたの」


 気づけば話していた。自分自身のことを。

 それは今思えば驕りだったと思う。だって私にも弱点はあっても、それを補う万能さでいい気になっていたから。それに見ないふりをしてきて、ずっと何でもできるって誤魔化してきた。


 その自信を、私は目の前の人物にバッサリと斬られた。ゴエモンだった時だ。とある人の大切なものを奪おうとした時、それは現れた。

 あの時は自分が最強だと信じて疑わなかったし、私が負けるはずないと思っていた。

 小さいくせに殺意だけはいっちょ前で、その茶色い髪は正義感に溢れたただの素人だと思ったから。


 でも違った。彼女は本物だった。

 すべての攻撃を躱してきた私ですら予想打にしない攻撃を受け、私の攻撃はすべて剣戟で受け止める。そんな予想外の本物。

 結果は惨敗。才能の差というものを見せつけられてしまった。

 執着する理由もないからって言い訳して、私はその人を相手取ることはしないように立ち回った。


 でも今度は私の前に堂々と現れて、協力するって言ってきた。

 もしかしたら、あなただけでよくて、私はいらないんじゃないだろうか。私の居場所がなくなってしまうんじゃないかと思ってしまって、私はあなたに剣を向けた。結果はやっぱり負けだったけどね。


「だから私に突っかかってきたと」

「うん。だから、その。ごめんなさい……」


 ペコリと申し訳なさそうにお辞儀をした。すぐに向き直って、彼女の顔を見るけど、すごく笑いをこらえているように見えた。おい、失礼だぞ。


「ごめんごめん。ツツジちゃんもちゃんと謝れるんだなーって」

「それ酷くない?」

「なんというか、ツツジちゃんは面倒くさいなって」


 そうだろうか。自分のことだし、思い返してみよう。

 恋愛を拗らせてアザレアのことを狙ったり、それが原因でレアの前から消えようとか思ったこともあった。あとは咲良のことを一方的に嫌ってて、私の居場所がなくなるって思って斬りかかったり……。


「確かに……」

「認めちゃうんだそこ」

「なんか、急にレアやアザレアに申し訳なくなって」


 いや、私だって常にそう思ってたわけだけど、今回見直してみて、見事に面倒くさいなって思ってしまいまして、はい。


「少なくとも、ツツジちゃんが不要だなんて誰も思ってないよ」

「……そう、かな。咲良の方が強いし。私の100倍は強いじゃん」

「嬉しいけど、そうじゃないよ」


 じゃあどういうことだろうか。私はちょっと顔を傾けてその意味を聞いてみる。彼女の顔はやっぱり笑いをこらえているように見える。ふざけるな。私の思考時間を返せ。


「あのね、私の代えがいないように、ツツジちゃんの代わりなんて誰も務まらないよ」

「それ、よく聞く言葉だけど、どういう意味なの?」

「あくまで私の解釈だけど、いい?」


 私はコクリと首を縦に振った。


「ツツジちゃんの感じているそれは、あなたが過去どうだったかとか、今をどう感じているかとか、そういうものの集合体なの。それを共有できるとは思うけど、自分から生み出せるのはあなたしかいないってこと」

「んー。ん?」

「平たく言ったら心だよ。あなたの心は誰にも代替えできない、あなただけのもの」


 つまり、どう感じるかは私にしか分からない。心は誰にも代わりが務まらない大切な物、ってことかな。

 どうにも私にはピンとこない。まるで道徳の勉強をしているようでちょっと嫌だったりする。


「例えば、あなたはレアネラちゃんのことが好きじゃない?」

「はえ?!」

「でもアザレアちゃんもレアネラちゃんのことが好き。この想いには違いがあるって言いたいの」


 どうしてそういう説明になったか分からないけど、それならなんとなく分かる気がする。

 私が好きになった経緯と、アザレアが好きになった理由はきっと違う。そこに代わりはなくて、あるのは私たちがどう感じたかっていう心があるだけ。ん。やっぱり難しい。


「あはは、やっぱそうなっちゃうよね」

「でもなんかスッキリした。私、やっぱりあなたが苦手」

「苦手にランクアップした!」

「そこ、喜ぶところなんだ」

「嫌いと苦手は似てるようで違うんだよっと」


 そう言い終わると、咲良は地面から立ち上がる。私もそれに習って立ち上がり、お尻の砂を払う。不思議なことに、妙にスッキリとした思考が今日はもう休めと言っている気がしていた。

 どうしてだろう。ちょっと考えて、なんとなく理解した。

 レアといい、咲良といい、こういう人種は私の最も苦手としてくることをしているのかもしれない。


 本音なんて、恥ずかしいものだと思ってた。だってそうじゃん。誰だって自分の心を見せたくないって思う生き物だ。

 でもレアは教えてくれた。背負い込むことの辛さを。

 咲良は教えてくれた。心というものを。

 後者はまだよく分かってないけど、前者はよく感じている。


 だからちょっとだけ感じてしまった。レアは、どんな本音を抱いているのだろうか。私のことを、どう思っているんだろうか。

 時間ギリギリになっちゃうけど、明日レアに聞いてみよう。電話でも直接会ってでも、ここでも。レア、なんて言ってくれるかな。


 私はそんな事を思いながら、ログアウトした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 全てが終わったら改めてリベンジしてほしいですね
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