第105話:合わせる私たちはラスト問題を答えたい。
引き続きクイズ大会してます
その後、次々と正解するノイビタ組。その後を追うべく心が通じ合うように正解を重ねていくティアくま組。みんなすごいなぁ、息ピッタシじゃん。
それに比べてた私たちはといえば、輝くポイントは2点のみ。お互いが自分のことしか考えてないから当たってないのだろう。確かに私も自分のことしか考えてなくて、相手のことなんて考えてなかったと思う。
「ツツジ、やっぱりこのままじゃダメだよ」
「まー、そうだよねぇ」
「負けたくないっていうか、無様に終わりたくない」
「後半が本音のように見えますが」
負けたくないっていうのはホントだよ? でもそれ以上にこんな醜態晒しておいて後でノイヤーに煽られるようなことがあれば、正直激昂角つきゴリラのように辺り一帯を焦土で焼き尽くしてしまうかもしれない。
あと普通に体裁を整えておきたかった。負けると思う。だからこそこう、いい感じに接戦していたということだけは見せておきたかった。誰に見せるわけでもないけど。
「さーて、次はラスト問題! この問題では得点がなんと10億点!」
「「10億点?!」」
「10億点?」
「10億……」
バランス調整をもうちょっと頑張ってもらいたかった。今、9点のノイビタ組からは暴動が起きようとしているみたいだ。ノイヤーは詠唱始めたし、ビターはそれとなくアイテムを取り出した。
そ、そりゃあ10億点はやりすぎでしょう。1問答えるだけで逆転されるし、なんで10億なんだよ、桁がおかしすぎる。
「ヴァレスト、これ誰が考えたの?」
「俺だけど」
「バランス調整下手か!」
「いいだろ、数字が大きいの!」
とんでもなく男子小学生理論が飛び出したところ、ティア以外のみんなが頭を抱えた。例外のティアはその意見に共感したのだろう。いいわねぇ、と手を叩いて褒めていた。よかったねヴァレスト、将来はこんな人と付き合うべきだよ。
問題は? いい加減催促しなくちゃいけないと思って言ってみたら、アセアセとフリップを懐から飛び出してきた。えーっとなになに、内容は……。
「問題! 好きなのは?」
「は?!」
「えっ」
「ん?」
「なんですって?!」
「お前っ!」
「まぁ!」
「んなっ!」
7人がそれぞれ自分らしい驚いた声を上げる。そりゃ驚くよ! 何さこれ、問題がアバウトすぎる上に、女子7人に聞く内容が好きについてって、セクハラもいいところだ。決めた。今度特訓中にヴァレストを泣かす。
「さぁ制限時間は」
「ちょっと待て。お前、お前それはないだろ!」
「ビター、何か勘違いしてないか? 好きというのは何も人ではなくてもいい。物や概念、そういった物を含めて好きなのは、というのを聞いている。けっっっっっっっして決して恋愛的意味ではない!」
「くっ!」
恋愛的意味丸出しじゃんか! 何考えてるんだよこの人! 職権乱用もいいところだ!
「制限時間は1分! さ、書け書け!」
急かされるままに目の前にウィンドウが展開される。好きって、いや人じゃなくてもいいって言うけど、この場合多分人を差している気がするんだよなぁ。
でも相手のことを考えなきゃこの問題は正解できないし、優勝もできない。考えろ、ツツジとアザレアが考えていそうな好きを……。
頭を捻らせて、10秒ぐらい考えたら自ずと答えが出てきた。この2人が「好き」と問われて出てくる答えなんて、いくら考えても1つしかない。だから私はその答えをスラスラーっと書いていった。自画自賛って感じがしてとっても嫌だけど、彼女たちのことを考えたらそういう答えになるわけでして……。
「みなさんの回答を今から見ていきましょう!」
ヴァレストの独断と偏見によって、まず抜擢されたのはティア熊野ペアだった。ティアが意外そうな顔で驚いているみたいだ。カメラ映えする反応だなぁ。ここにカメラなんてないけど。
「ではティアの回答を、ドン!」
ウィンドウに表示されられたのは「くまちゃん」という言葉。彼女の普段の言動から、間違いなく熊野に宛てられた答えだろう。
「ティ、ティアさん?!」
「好きよ、くまちゃん!」
「冗談は後でにしてください!」
「そんな事言ってぇ、くまちゃんは何書いたの?」
「それは……」
タイミングがよかったのだろう。ヴァレストが熊野の回答ウィンドウを公開する。そこに書いていた内容は……「アイス」だった。
「アイス? この時期に?」
「……だってアイス美味しいですから」
ティアとヴァレストから声にならない喜びのようなものを感じる。た、確かに可愛い。熊野って普段から真面目キャラで通しているからからかい甲斐があるんだけど、その原因の一つであるこういう隙間から見える少女趣味といいますか。可愛らしい一面が見れるから、弄り倒したくなるんだ。
もちろんそれはティアも分かっているのだろう。両手をワキワキと震わせながら、ティアは力いっぱい熊野を抱きしめた。
「ちょ、何してるんですか!」
「もうほんとかわいい! 後でアイス食べさせてあげるからね?」
「やめてくださいってば! 皆さん見てますし」
「いいですわよ、続けてもらって」
「俺は眼福だから問題ない」
「うらぎりものー!!!」
虚空に叫んだ熊野の声は、森林の木々の中に消えていった。
ティアが熊野のほっぺたをスリスリしているところを目線の端で見ながら、次はビターとノイヤーの回答だろう。
ヴァレストがその回答を確認すると、両肩を揺らして少し吹き出した。
「何がおかしいんだ!」
「そうですわ、何笑ってますの! 街中で引きずり回しますわよ!」
「いや……。はい2人同時にドン」
出てきた回答は「魔法」と「アイテム」。あ、そういう……。
「なんでアイテムなんですの?! ここはわたくしに合わせて魔法一択でしょう!」
「ありえないな。そもそもうちがキミに合わせる理由がない。アイテム以外ない」
「どうするんですの、もしあの3人組が正解でもしたら!」
「それはキミのせいだな。なにせうちに合わせなかったのだから」
「こっちのセリフですわ! なーにが合わせられなかったですか。魔法に劣等感を覚えていたからアイテムなんかと書いたのでしょう?!」
「劣等感?! 言うに事欠いて劣等感と言ったかキミは! ありえない! いいか、アイテムというのは誰でも使える万能の道具であり宝具。魔法なんていう汎用性の欠片もない概念と比べて格が違うんだよ」
「汎用性の欠片もない? 選ばれしものしか使えない高貴なものを魔法といいんですー! アイテムなんて魔法よりも性能が落ちた欠陥品。重要な局面で十全に効果を発揮できるのは魔法以外にはありませんわ!」
あーあ、また始まっちゃった。あぁなったビターとノイヤーはホントに止まらないからなぁ。
戦いの火種を作ったヴァレストは顔の前で手を合わせてお辞儀している。そういう聖地巡礼なんてどこにもないから!
「さて、ツツジ、アザレア、レアネラの3人に行こうか」
「ほっといていいんだ、あれ」
龍と虎みたいにいがみ合っている2人を見ていると、日常だなって思ってしまうわけで。最近見てなかったから、心配になりながらも安心するっていうのは分かるわけで。ああは言ったものの、2人は相変わらずでよかった。
「えーっと回答はー。おっほ」
「何その気持ち悪い声」
「ちょっと怖気が走ります」
「散々な言われようだな!」
だって、普段が普段だし。普段毒を吐かないアザレアでさえ口に出しているレベルだし、そういう悪意もラーニングするんだなって考えると、私の育成方針は間違ってなかったんだと確信する。
「まぁいいや、じゃあ最初はツツジから」
効果音とともに表示されたウィンドウには「レア」と書かれている。
「続いてアザレア、ドン!」
間髪入れずにアザレアのウィンドウも展開すると「レアネラさん」と書かれていた。
あぁ、やっぱり。この2人ならそう来ると思ったよ。
「最後、レアネラは……!」
表示されたウィンドウでツツジとアザレアが顔を真っ赤にする。
それもそのはず。回答の内容は「分からない」。その真っ赤を意味することとは、怒りだ。
「レア、絶対分かってたよねこの答え!」
「酷いです、レアネラさん!」
「いや、だって。ねぇ」
回答に「私」って入れるほうが恥ずかしくない?
2人なら必ず私って言ってくるだろうし、予想もできていた。でも私にはその愛を受け止める事はできないので、ツツジの告白の時に使った「分からない」で通してみた。結果は2人の怒号だけだったけど。
「分かったよ、レア。そんなに特訓厳しくしてほしいんだ」
「え?」
「私も協力します。普段は作りませんがデバフ料理をたくさん作って、どんな環境下に置いても十全に能力を発揮できるようにしましょう」
「お、バッドステータスでこそ本気の力が出せるようにするんだね。アザレア天才じゃん!」
「レアネラさんのためなら心を鬼にしましょう」
2人が結託する中、私の顔は青々としている。ステータスダウン状態であの特訓を? 本気で言っているの? マジで? やめてよ。いや、やめてください。ホントにそれ以上やったら私が私でなくなってしまう!
「以心伝心ドキドキクイズもここまで。次回の開催にご期待ください。それではご機嫌よ~」
そういった瞬間、ヴァレストは《超加速》を使って、脱兎のごとく逃げていった。な、なんで? そう考えてからビターが声を上げる。
「おい、このクイズ配信させられてるぞ!」
「え?!」
「マジで?!」
「これを見ろ!」
差し出されたウィンドウにはまさしく私たちがアーカイブとして残っていて、右端の方にコメントがずらりと並んでいる。
『噂のレアネラと聞いて』
『へー、かわいい』
『キマシか?』
『IPC生き生きしてて草』
などと、勝手に配信されていることを知らぬ私たちが妙な回答ばかりしている。もしかしなくてもヴァレストが逃げた理由と合致する。これは、盗撮だ! てかあいつ配信者スキルの《広域通信》持ってたの?!
「追うぞ! 奴を逃がすな!」
「私の……私の恥が……」
「くまちゃん、己の手で懺悔させるのよ。拳は言葉よりも強し」
「何言ってるか分かりませんが、分かりました。後悔させるほど殴ります」
「索敵にヒットしましたわ! この様子ならこのポイントに」
「よし、アトリエ経由して先回りするぞ!」
ヴァレストにも思惑があったんだろうけど、その程度なら私たちに口添えしてくれれば許したのに。だけど、乙女にとって盗撮は罪! この聖剣使い許すまじ!
乙女たちは先回りするべく、ビターのアトリエを経由することとなった。
その日の夜。教会を何度もループした男は語った。
「これで少しは俺たちの味方も増えるかなって、思ったんだ。あと俺が見たかった……」
男はこの後もう1度教会に転送させられた。




