第101話:いつかの私たちは必ずより良いものにしたい。
「あれはいったいどういうことだ?」
「俺も店で見てたら、あんな放送で驚いたよ」
ツツジが言った通り、ビターとアレクはしばらくすると、ギルドホームにやってきた。
幸いこのゲームはマナーがいい人が多いみたいで、ギルドホーム周りに人が集まる、ということはなかった。それでも街に出る際は警戒したほうがよさそうではあるけれど。
兎にも角にも、こうしてギルド【グロー・フラワーズ】の面々がすべて揃ったことになる。話し合う内容なんてたった一つ。さっき挑戦状を叩きつけられたGVGに関することだ。
「てか、そもそもGVGってなに?」
「レアはまずそこからか……」
「緊張感がねーな、おい」
ツツジとヴァレストがガタッと肩を外したように、少しコケる。
いや、だって私そんなにゲームしたことないから、そんなシステムあるなんて知らなかったし。
「私がご説明いたします」
名乗りあげたアザレアの雰囲気は先程の落ち込んでいた様子とは打って変わって、にこやかで、冬の木漏れ日の光のように暖かくて優しい笑みに変わっていた。よかった、ちょっとは吹っ切れたみたいで。
GVGとは、ギルドVSギルドの略。よくソーシャルスマホゲームなんかでもあるギルド対抗イベントなんかは大抵これに当たる。
ギルド同士のぶつかり合いであり、お互いのリソースを賭けた削り合い。先に条件を達成したギルドが勝ったり、制限時間内にどれだけのポイントを稼いだか、というのもある。どこかのお空の古戦場はその形式だったりするらしい。
今回のギルド対抗デュエルはアザレアというフラッグを守り切った方が勝ち、というルールで、向こうの【ハーツキングダム】はアザレアに少しでも触れれば勝ち。逆に私たち【グロー・フラワーズ】は敵を全滅させたら勝利、といった具合だ。
だが、問題はその人数差なのであって……。
「6対30。明らかに不利だな」
向こうが要求してきたのは30対30のGVG。ギルドを代表して30人先鋭を集めるみたいだけど、こっちはたったの6人。ヴァレストやノイヤー、ツツジという先鋭がいるとしても、この人数さを埋めるには少しホネがいる。
「嘘くさい男だとは思っていたが、ここまでゲスだとはな」
「明らかに勝ちに行く気満々だよね」
「それにノーハーツには何かしらのユニークスキルを持っている。それで俺も負けた」
話によれば、私たちがノーハーツと対面する前にヴァレストが戦ったらしいけど、確実に攻撃を捉えたタイミングで《朧影》と思われるスキルで無力化。そのまま奥義を使って攻撃の回避を試みたが、結果はそれも無効という形に収まった。
「ハッキリ言って、あいつのスキルは異常だ。使っていたスキルも一貫性がなかった。朧影、スキル無効スキル。ついでに超加速なんて、そんなにスキルを使える称号あるのか?」
「どっちかというとスキルチケットとかで補っているのかもしれませんわね。称号はおまけで」
「分からないな。いっそ情報がすべて明かされてたら分かりやすいものを……」
情報。そうか情報か!
私はウィンドウで掲示板を開くと、ノーハーツに関するスレッドを探し始める。
「何してるの?」
「情報なら転がってるじゃん、掲示板に!」
「なるほど。あれだけの有名プレイヤーだ、対策なんていくらでもされているはず。キミにしては賢いな」
「えへへ、それほどで……、ってなんかディスられてない?」
「いや褒めてる」
6人はとりあえず会議を一時中断させて、ノーハーツのスキルに関する情報をかき集めていく。
調べていくと、確かに《朧影》に《超加速》、ヴァレストに使われた《亜空切断》などもヒットするが、それ以上に数が尋常なまでに多い。《そらし》に《ブロック》。《パリィ》や《戦士の一撃》まで。とにかく数が多い。
「おかしい、こんなにスキルをとっかえひっかえできるか?」
「連撃スキルもあるっぽいし、そのくせ一撃必殺の《亜空切断》。バリエーション豊かってレベルじゃねぇぞ!」
「ビター、こんなに称号でスキルって使えたっけ?」
ツツジがビターに質問するけど、解答はNO。
そもそも称号は1つしか設定できない以上、私の《エンチャント【雷電】》みたいな盤外スキルがなくちゃいけない。共通のスキルもあるけど、一貫して、どこかの称号スキル、といったイメージがある。
「1戦1戦ごとに称号を変えてるならまだしも、こんな振れ幅が広いなんて思ってみませんでしたわ……」
その数、約100個以上。上げればまだあるだろうというスキルも出てくる。なんでもありすぎる。私たちはこんな奴を相手にしなくちゃいけないのか。
「……やっぱおかしい」
「ツツジさん?」
並べたスキルを見ながら、ツツジは一つ疑問をつぶやく。確かにおかしな量だけど、こんなに多かったら当日の使用スキルが分からない。故に対策のしようがない。
「統一性がないな。まるでランダムというか、スキルを片っ端からつまみ食いしているような感じだ」
「これは騎士のスキルだし、こっちは戦士。《超加速》は元々芸人のスキルだった気がするから、まるで多種多様だな」
「ランダム、つまみ食い……」
さっきからツツジは何かを考えているようにぶつぶつとつぶやいている。考えが思いついていたりしているのだろうか。
でも確証が持てなさそうに、頭を抱えてるっぽいし、ここはヴァレストになにか手がかりがないか聞いてみようか。
「ヴァレスト、戦ってて何か変だと思ったことはない?」
「変っつーか、スキル無効スキルの噂は本当だったぜ。《折れぬ闘志》も発動しなかった」
「え、パッシブスキルでしょあれ。発動しないなんてことあるの?」
「ありえませんわ。あれで何度煮え湯を飲まされたことか……」
スキル無効スキルもいったいどういう技なのかすら一切不明なのもきついところだ。
話によれば、明確にスキルを宣言したのは《超加速》とトドメの《亜空切断》だけで、残りはボソボソとつぶやいていたらしい。
「スキルなんだから、もっとでかい声出して言えばいいのに」
「ヴァレストじゃないんだから」
「でもスキルって宣言しないと発動しなくないか?」
そういえば音声入力だった気がしないでもないけど。じゃあノーハーツはどうやってスキルを発動させてるの?
「もしかして……」
「ツツジさん、何か思いついたのですか?」
何か確信めいた一言がツツジの口から飛び出す。でもそれを頭を振って否定した。
「確証が持てないから、この件は私に預からせて。絶対勝つためになんとかするから」
「…………分かった。お願いね、ツツジ」
「レアに言われたら頑張っちゃうよ」
「てぇてぇ」
ヴァレストがなんか言ったけど、ビターに肘でこづかれて一つ咳払いをする。
「とりあえずみんな、アザレアは絶対渡さないってことでいい?」
「あぁ。問題ない。アザレアと一緒にいるべきなのはレアネラだけだからな」
「当たり前太郎ですわ! あんな嘘くさい男に渡してたまるもんですか!」
ビターもアレクも同じく頷いてみせた。よかった、みんな決意は一緒みたいで。
「レア。多分このGVGは今までで最も過酷な戦いになるし、負けたら何もかも失うかもしれない。それでもいい?」
その目は覚悟を問われた瞳で、真剣に、まっすぐに私のことを見て答えを促そうとしている。
想像している通り、多分ぬるま湯で戦っていた私にとって、最も強大な敵だ。悪辣な手を使って、アザレアを痛めつける最低な奴。
だからかな。私は今まで以上に勝とうって思うし、失いたくないって思う。それに……。
「ここで逃げ出したら、きっと後悔すると思う。だから私はより良い未来に変えたい。アザレアが安心して暮らせる、未来に」
「…………それでこそレアだね。私も頑張るよ」
夏の日の太陽みたいな笑顔は私をいつも照らしてくれている。負けてたまるか。私の親友の笑顔を守るのは私たちなんだ。
ノーハーツの謎については次回。
シリアスは明日で一旦休止して、その次からは目的を持ったゆるーい話に徐々に戻ります。




