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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第6章 みんなであの子を守るまで
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第99話:過去のあなたは何も悪くない。

「こちらを」

「ありがとうございます……」


 意気消沈、といったところだろうか。なんとか落ち着いたアザレアはゆっくりとハーブティを飲み始めた。

 気になることは確かにある。でもそれを聞いていいのか、踏み込んでいいのか分からなくて、私たちはそれを聞けずにいた。

 ただ沈黙する時間だけが流れていく。ノイヤーもただ黙って紅茶を飲んでいるだけだし、あのヴァレストでさえ、何も喋らずに俯いたまま。ツツジは、ただ目を瞑って壁によりかかるだけで動かない。


 私、なんだろうか。踏み込むとしたら私しかいないんだろうか。

 怖い。拒絶されたらどうしようとか、落ち込ませたらどうしようとか。そんなことばかりが頭によぎって、不安感が離れない。

 でも踏み込むとしたら、アザレアの過去を聞くとしたら、この機会しかなくて、後にも先にも、多分ここで聞かなかったら後悔する、気がする。


 勇気を出せ私。例え数ヶ月だったとしても、一番彼女と一緒にいたのは私なんだ。他のギルメンだけじゃなく、ノーハーツなんていうまがい物の主人なんかじゃなく、きっと私なんだ。私でありたい。私じゃなきゃダメだ。

 だから一歩、足を踏み出して前に進め。それが未来のためになるんだ。


「あの、さ……」


 あくまで目線は落としたまま話を切り出す。こんなんじゃダメだ。もっと、もっと歩み寄るんだ。私とアザレアが描いた道は今はもう繋がっていて、共に歩む仲間になっているんだ。

 一緒に歩こう。そう思ったら、自然と顔はアザレアの方を向いていた。


「何があったの、あの男と」

「…………」


 カチャリと、ソーサーにカップを置いて、目を閉じた。きっとこの質問は想定の範囲内だろう。だけど、一緒に未来まで歩くには、これは絶対条件であって、何より知っておきたい内容だった。

 私は過去のアザレアを知らない。何があったか。何が起こったのか。どうして逃げてきたのか。それは友達として知りたい。好きだから、あなたの重い過去を受け止めたい。


「他愛ない話です。私だけじゃありません。彼のもとにいるIPCは皆私のような態度を取るでしょう」


 アザレアはその瞳を憂いたまま、過去の話を振り返り始めた。


 ◇


 私は俗に言うメイド型のIPCでした。これは見た目通りですが。

 目的はと言えば、プレイヤーたちのお世話をしたり、戦闘や家事を手伝ったり、やっていたことは様々です。

 そんなIPCを買い集めている、と噂だったご主人さまの元へと私は買われました。

 名前はノーハーツ。私のご主人さまです。


 彼の物腰は表向きはとても優しいものです。仮面、とも言うべきでしょうか。見た目通りの優男と言ったほうが適切でしょうね。私と接しているときも、表向きはそのような態度でした。


 ですが、本当の姿は紳士とは程遠い存在です。

 彼はメイド型IPCを手中に収めると、自分の屋敷に招いてはバレないように暴行を重ねました。彼は現実でうまく行かないことをこうやってVRに持ち込んでは、ストレスをIPCへの暴力という形で発散していました。


 もちろん、私もされたことがあります。IPCにはもちろん痛覚がありますし、HPだって無限ではありません。ですがリスポーン地点をご主人さまの元、ノーハーツのお城に設定していたが故に、死んでもなお暴行を受けます。

 永遠とも思える時間でした。彼が満足行くまで痛いと叫んで、やめてと懇願して、それで1日が終わっていきました。


 私たちは肩を寄せ合って、彼のご機嫌を伺うことにしました。感情がない私たちにとって、初めて生まれた感情は恐怖というものでした。

 衣服も与えられませんし、食事なんて「道具には必要ない」との一点張りでした。私たちの安息の時間は、彼がログインしていない時間だけです。


 やがて不満は高まっていき、一度は暴動が起こりました。数十人の編隊を組んで、ノーハーツの支配を脱しようとしましたが、それは無駄に終わりました。彼のスキルはその上を行く。例えIPCが束になっても勝つことはありませんでした。

 支配構造はより確固たるものとなり、私たちを締め付けました。


 私たちは考えました。どうすればここから脱することができるかと。全員は無理でも、1人だけなら、と。


「それでアザレアが選ばれたの?」


 はい。入ってから比較的日が浅かったため、合理的に判断されたのでしょう。古くから彼のIPCだった者たちはもう精神が摩耗しきっていて、外に出てもすぐ捕まるだけだと嘆いていました。


 作戦は決行されました。残りの子たちが暴動を起こし、私だけが逃げ出す。個のために全が犠牲になったのです。その時点で合理性もなにもありませんが。

 ノーハーツの城を脱した私は、走り続けました。そうでないとまた捕まって、より最悪な状態へと変わっていくと思ったから。

 私は他のIPCたちの期待を一心に背負っていたんです。でも途中でモンスターに襲われて、命からがらサベージタウンの廃墟エリアでリスポーンしようとしたときでした。レアネラさんに出会ったのは。


 ◇


「そんな、過去がありましたのね」

「本当に主人が別にいて、レアネラが主人じゃなかったなんて」


 4人が4人、それぞれアザレアの過去を深く受け止めていた。そうして私に出会って、明るい感情を手に入れていったんだ。他のIPCたちに負い目を感じながら。


「だから見つかった時はもうダメだと思いました。だってみんなの犠牲が無駄になってしまうって思ったから」

「アザレア……」

「私は、こんなところで遊んでいて良かったんでしょうか。私は、もっとより良いことができたのに、それなのに…………」


 後悔は後に立たず。前で待っていて、私たちの道を妨害しようとする。

 私には重くて、消化しきれない内容だし、きっと彼女も重くのしかかっている内容なんだと思う。まだ子供だから解決策が浮かばないけど、それでも私にできることがあるとすれば、それは……。

 私はそっと肩を寄せて、アザレアの頭を胸に乗せるようにして抱き寄せた。


「私は一緒にいる。何があっても」

「でも…………」

「何もできないけど、そばにいることだけは絶対やめない。やめたくない。だって友達だから。一緒にいるのが普通でしょ?」


 私にできるのはそばにいることだけ。何があってもどんな手段を講じても、私は彼女のそばにいたいんだ。それは義務感とか守りたいとかそういう感情じゃなくて、友達として当然だってことだと思う。ツツジなりに言うなら、好きってことだ。


「ごめんなさい。ごめんなさい…………ッ!」

「大丈夫。アザレアは、あなたは何も悪くないよ」


 彼女の声がギルド内に響く。ごめんなさい、なんて謝罪の言葉はいらない。ただ一言、一緒にいたいって思ってくれれば、私は満足だから。

 細長い髪の毛を指で撫でながら、私は決意した。何があっても、アザレアのそばにいようと。例え私が勝負で負けたとしても、地面に額をこすりつけて懇願してやる。


 ――アザレアにふさわしいのは私だってことを。

性暴力は流石にしていませんでしたが、

センシティブ機能がなければ、あるいは……。

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